14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

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「・・・助けて。」

アイツらの下品な吐息に混じり、助けを呼ぶ微かな声が聞え、私は思わず手をとめた。
それは本当にか細く、かなり鋭い感覚器官を持っていると自負している私ですら、どの方角から声がしたのかまでは検討がつかないぐらいだった。

(コイツら、人攫いというヤツか?)

もしそうならば、私の身体をなめずり回すこの視線の意味は、差し詰め品定めをしているといった所だろう。
アイツらは私を通りがけの駄賃代わりにするつもりだ。

(付き合ってられん、さっさとぶった斬ってしまえ。)

そう思った時だった。

「・・・助けてください。 ・・・イスラ、さん。」
「――っ!?」

先の声に自らの名前を呼ばれ、私は驚愕のあまりに小さく身体を撥ねさせてしまった。

(私の名を知っているだとっ!? 何故だっ!?)

私は自ら名乗ることは滅多にない。
と言うよりも、そもそも『人間』と話すこと自体が滅多にない。
従って、私の名前を知っている『人間』はかなり限られてくる。
だがしかし、私が記憶している限り、あの声は私の名前を知っている『人間』の声ではない。
後は私の名前を知っていそうな『人間』といえば、あの『人間』ぐらいしかいないだろう。

(・・・あの『人間』のことを、なにか知っているかもしれない。)

声の主があの『人間』である可能性は否定はできない。
だが、私にはあの『人間』があんな人攫い風情にあっさり捕まるようには思えなかった。
だとすれば、なんらかの方法で私の名前を知り、私に助けを求めたと言うことになる。
声の主はあの『人間』と接触したことがあるのかもしれないと思い、私は声の主を探すことにした。
その時だった。

「おやぁ、ネーチャン。 このご時世に一人旅かいー?」

私を取り囲み、襲いかかる準備が整ったのか、アイツらの一人が歩み寄りながら話しかけてきた。
陽気な感じの声色から、どうやら気さくで親切な人物を装って私の警戒を解くつもりでいるらしい。
だがそうしている間も、その『人間』から感じる視線は私の胸元や下腹部、更には太腿の辺りをもなめ回していて、本心を物語っていた。

(声の主を探す方が先だ。 雑魚に構うことはない。)

その気になればこの場にいる『人間』達など、ほんの一瞬で始末することができる。
私はアイツらを暫く泳がせることにし、声の主を探すことに意識を集中させた。

「一人じゃぁ、なにかと危険だぜぃ? 俺達が町までご一緒してやろうかぁ?」

その『人間』の足音が私の前でとまった。
その『人間』は、この事態に私が全く動じないことに若干の焦りと苛立ちを感じているのか、声が僅かに上ずっていた。

「な、なぁーに、怖がらなくてもいいんだぜぇ? オレ達、こー見えてもイ、イイヤツなんだぜ? なっ?」

その『人間』はなんとしても私に警戒を解かせたいらしい。
甘えるような声色で、私に同意を求めてきた。
その声色が途轍もなく気色悪く、私は思わず眉を動かしてしまった。

(・・・ええいっ! 気色悪いっ! くそっ! あの声の主は何処だっ!)

全ての意識を感覚器官に集中すると、確かにアイツらの下品な呼吸音に混じり僅かに毛色の違う呼吸音が聞こえる。
だが、周りの騒々しさのせいで詳しい場所が中々特定できず、私は苛立ちを募らせていた。

「まっ、と、ともかくさぁっ。 オレ達が町まで連れてってやるよっ。 ネーチャンみたいな奇麗なコがこんなトコで一人じゃあ、悪い人達に襲われちゃうぜ?」
「貴様らみたいなヤツにだろっ。 下衆がっ。」

と、苛立ちに任せて心の中で吐き棄てたつもりだった。
だがうっかり、口を滑らせてしまったらしい。
自らの失言に呆れ舌打ちをした直後、予想通りこの場の空気が急激に重みを増した。
アイツらの下品な呼吸音が静まり、緊張に顔を強張らせて行くのを感じた。

(・・・まぁいい、これで探しやすくなった。)

私は小さく溜め息をつくと、再び声の主の居場所を探ろうとした。

「ハッ、ハハハッ、なんだよ、お見通しだったのかよっ! じゃっ、もういいなっ!」

目の前の『人間』が自らの腰に右手を落としたかと思うと、私に向かって一歩踏み込みながら右手を突き出してきた。
しかし、私はその場から一歩も動こかなかった。
あの『人間』の歩行音に混じって聞えていた金属音と、右手を突き出した時の空気を切る音から、得物がナイフであることは分かっていた。
歩行音がとまった所からでは一歩踏み込んだぐらいでは届くはずはないし、アイツらの目的が私自身であることも併せれば、間違っても当たることはないと考えたからだ。
その予想は的中し、全く動じない私に対し目の前の『人間』の舌打ちが聞えた。

「ちっ、ビビらねぇのかよっ。 ・・・まぁいいやっ。 んじゃ、分かってると思うけど、動くんじゃねーぞっ?」

その『人間』は私の眼前にナイフを突き出したまま、仲間の一人に声をかける。
すると、呼ばれた仲間が鼻息を荒くしながら、私の後ろから近づいてくるのを感じた。

(くっ、だがあと少し・・・。)

後ろの『人間』が発する下劣な雑音に私は悪態をつきつつも、あの声の主の居場所を探ることにした。
周囲の騒音が少なくなったおかげで、あの声の主と思われる小さな吐息の出所をほぼ特定することができていたからだ。
後はその周囲にのみ意識を集中させれば一瞬で居場所は分かるはずだ。
そう思い、意識を集約しようとした矢先のことだった。

「――っ!?」

後ろの『人間』が私に飛びついてきた。
私は突然のことに僅かに体勢を崩すがすぐに持ち直す。

(ちぃっ! この、離れ・・・っ!?)

私はあまりに予想外な感触に、思わず身体を硬直させてしまった。
飛びついてきた『人間』の身体と私の身体が密着した直後、尾てい骨の辺りに服越しにも分かるぐらいに硬く熱い物が押し付けられたのを感じたからだ。

(な、なんだっ・・・!? この、吐き気がするほどのどす黒いなにかを感じさせる、アツさ・・・わっ!?)

私が今まで感じたことのないおぞましい感触に思わずたじろいだ時だった。
後ろの『人間』の生臭く熱い息が私の首筋に吹き付けられ、同時にその『人間』の両手が私の胸元を弄りだした。

(こ、この、き、貴様っ・・・なにをしてっ!!)

より一層の下劣な笑い声を上げながら、好き勝手に私の胸元を弄り、薄気味悪い熱く硬い物を尾てい骨に押し付けてくる『人間』に、私は苛立ちを募らせていく。
その募り方は私自身でも異常だと感じられるほどに早く激しいものだった。

(いい加減に、しっ――っ!?)

いよいよ持って苛立ちが頂点を迎えようと迎えた瞬間だった。
胸元を弄っていた手の1つが、私の下腹部の方へとずらされ、強引に服の中へ挿入されいれられそうになった。
刹那、私の中でなにかが大きな音を立てて千切れとぶ。

「――――私に、触るなっ!!」

私は背中の『人間』を肘で突き飛ばし、すかさず目の前の『人間』に蹴りを見舞った。
突然の事態に対応できなかった二人は声を出す間もなく吹き飛ぶ。
数メートルほど激しく地面を転げた所で短い呻き声を上げて動かなくなった。

(もういいっ! 全てまとめてぶった斬ってやるっ!!)

まるで身体の芯から込み上げてくるような激しい怒りに任せ、私は身を屈めながら太腿の辺りに左手を翳す。
すると、それに応えるように握り手が伸び、私の左手に触れた。
私はそれを握り締めると、力任せに振り抜き怒鳴った。

「貴様らの未来っ!! 絶ってやるっ!!」

黒曜石オブシビアン

私は振り抜いたこの物体をそう呼んでいた。
黒曜石は普段は小さな四角い塊だが、私の意志で自在にその形や硬度を変化させることができる、便利な道具だ。
私は黒曜石を頭上に掲げ、この辺り一帯に無数の鉄杭が降り注ぐ光景を意識した。
するとすぐに黒曜石が天高くまで伸び、放射線状に枝分かれしていく感じがした。
後は驚愕の表情を浮かべているであろうアイツらの頭上に鉄杭が降り注ぎ、『荷馬車』ごと全てを粉砕するだけ。
これで全て終わらせることができる、そう思った時だった。

「――や、やめて、殺さないで、くださいっ。」
「っ!?」

小さく、しかしはっきりとあの『人間』の声が聞こえ、私は思わず落下軌道を修正してしまった。
無数に枝分かれした黒曜石が作り出した鉄杭は、アイツらや『荷馬車』を引く生き物の身体をギリギリすり抜け、周囲の地面を滅多刺しにした。
『荷馬車』を引いていた生き物は高く嘶くと、壊れた部品をひきずったまま全速力で走り去っていく。

(ちぃぃっ! どうしてっ!? 私は狙いを外したんだっ!?)

私は自身が咄嗟に行った行動が理解できず、怒りに全身を戦慄かせた。

「ひぃぃっ!? なな、なんだよいまのぉぉっ!!」
「うわぁぁっ! た、助けてぇぇっ!!」
「バッ、バケモノだぁぁっ!!」

あの一撃で度肝を抜かれたアイツらは恐れ戦き、先に逃げた生き物を追うように、得物を投げ棄てて逃げ出していった。
驚きのあまりに腰を抜かしたのか、地面を這いずる音もいくつも混じっていた。

「煩いっ! さっさと、失せろぉっ!!」

アイツらの泣き喚く声が無性にやかましく感じられ、私は黒曜石を巨大な扇に変え周囲に突風を巻き起こした。
すっかり抵抗する気力もなくしていたのだろう、アイツらは『荷馬車』の破片と共にあまりに呆気なく突風に吹き飛ばされていった。
私は何度か大きく深呼吸をして気持ちを切り替えると、黒曜石を細身の片手剣に変化させ握り直した。

「いつまで隠れているつもりだ! ぶった斬るぞ!」

私はあの声の主がいる方、唯一原型を留めていた『荷馬車』の荷台の方へ振り向きながら怒鳴った。
すると、声の主が小さな悲鳴を漏らすのが聞え、身体を震わせている様子が感じられた。
動こうとしない声の主に私は苛立ちを覚え、荷台に向かってゆっくりと歩みを進めることにした。

「まっ、待ってくださいっ! い、今出ますからっ!」

私の歩み寄る音が相当恐ろしい物に感じられたのだろう。
今にも泣き出しそうな、悲鳴にも似た声色で応えた声の主が、荷台の中でゆっくり立ち上がる音が聞えた。
そして、何故かその場で振り返りながらゆっくりと片手を差し伸べている様子が感じられた。
なにに手を差し伸べているのか疑問に思った直後、その疑問は解決された。

(なっ、もう一人居ただと?)

声の主の吐息とはまた別の小さな息遣いが聞えだした。
声の主の吐息もか細く頼りない物であったが、それに輪をかけてか細く、生きていることが不思議なくらいに小さな吐息だ。
あの状況では、流石の私でも今まで気付かなかったのは無理もないだろう。
私は新たに現れた『人間』を一応警戒するため、その場で立ち止まってアイツらの出方を窺うことにした。

(・・・二人ともまだ幼いようだな。 『子供』というヤツか。)

ゆっくりと荷台から降りてくる二人から感じられた気配は酷く頼りなく幼い物で、とても警戒をする必要があるとは思えなかった。
私は大きく溜め息をついて気を取り直すと、黒曜石を納めながら問い掛けた。

「何者だ? どうして、私の名を知っている?」