14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ
パートA
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14sure74
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(・・・やっぱなぁ。)
窓から外を眺めていたタクトは、眼下の道にラスの姿を見つけ短い溜め息をついた。
(まったく、分かりやすいというか、なんというか・・・。)
辺りを見回して行き先を考えている彼を脇目に、タクトは荷物置き場へと向かう。
(ネスのことだもんな。どーせ、帰ってきて早々『ハラ減ったぁー・・・っ! メシぃーっ・・・!』って騒ぐんだろーな。)
タクトはネスとラスが帰ってきた時のことを考え、荷物置き場から保存食を取り出しておくことにした。
(んでもって、ラスが『傷の手当ての方が先ですよっ!』とかなんとか言うに違いねぇーな・・・。)
タクトはついでに治療道具も取り出し、其々がすぐに利用できるよう準備しておくことにした。
「・・・って、俺・・・なんか・・・”いらない子”、扱い・・・?」
タクトの呟きは、誰も居ない家の中を虚しく木霊するだけだった。
~~~~
ラスはタクトと別れた後、簡単に身支度を済ませて家の外へと出た。
彼女の行きそうな場所は幾つか考えられるが、少しでも可能性が高い場所へ向かいたい。
ラスはそう考え、辺りを見回して彼女の行く先を知る手掛かりを探してみることにした。
(多分、無駄かとは思いますが・・・。)
彼女は態々追ってきて欲しくない意思を示している時に、行方が知られるような手掛かりを残すような人物ではない。
そのことについてラスはよく知っているが、それでも手掛かりを探さずにはいられなかった。
(くっ・・・やはり、無理・・・ですか・・・っ!)
ラスは自身の予想通り、手掛かりになりそうな物を見つけることができなかった。
ラスは逸る気持ちから思わず舌打ちをしてしまう。
(・・・って、僕としたことが、思わず舌打ちを・・・し・・・て・・・っ!?)
無意識の内に行ってしまった自らの行為をラスが恥じた時、視界の隅、遠くの方に見知った人物の影を見た気がした。
ラスは影の正体を確かめるべく、すぐに視界を移動させる。
(あ、あれ・・・は・・・!?)
自分が見かけた影の正体を知り、ラスは我が眼を疑った。
(そん・・・な・・・どうして・・・彼が・・・此処に・・・?)
ラスが見かけた影の正体、それは彼女が各地を放浪することになった原因を作った人物の後姿だった。
その人物とは、銀色の短髪と鋭く冷たい紅い瞳を持ったアサシン・・・。
(・・・オルグ・・・ガースバック・・・ハント・・・!?)
夜も更け人通りの殆どない道を進む彼の後姿は、曲がり角を国立資料館へ向かう方へと消えていった。
その様子を見た瞬間、ラスは彼女の行く先を直感した。
ラスは一度大きく頷き、彼の後を追うように国立資料館へ向かう道を歩き出した。
「――っ!?」
(爆発・・・!?)
その時であった。
爆発音が遠くで聞え、ラスは立ち止まって咄嗟にその方向へと視線を向けた。
すると火の手と思しき赤い光が見えた。
(・・・あれは、国立資料館の方向ですね。・・・間違い、ないでしょう。彼女は・・・!)
ラスは国立資料館に急ぐことにした。
~~~~
「――もはや、疑う余地もないですわね。」
(彼女は、国立資料館の近くに居ますわ。)
爆発音に反応して一旦立ち止まったアスは、爆発音のした方角に視線を向けて呟いた。
そして、一息ついて再び走り出す。
(しかし、依然として彼女を感じられないと言うことは・・・彼女、まだ本気を出してはいませんわね。)
流石の彼女でも、本気で戦っている時にまで気配を全く悟らせないことは無理である。
それがまだ感じられないと言うことは、彼女は本気を出していないということに他ならない。
つまり、まだ大事には至っていないということである。
アスは走りながら、心の中で安堵の溜め息を漏らした。
ラスは恐らく彼女の傍にいるはずだから、彼女が本気を出していない現状では彼の身に大きな危険は迫っていないと言えるからだ。
しかし、自らの眼で彼の無事を確認するまでは真に安心はできない。
そう考えたアスは少しでも早く現場へ向かうため、更に速く走ることにした。
(・・・もう少し待っていてください、ラスさん! 私、アメリア=L=リリスが大急ぎで貴方を護りに行きますわっ!)
アスが心の中で誓いを立てている時であった。
目の前に治安部隊と思しき人影を見つけ、アスは咄嗟に路地裏に身を隠した。
(こんな時間帯にこの辺を歩いている人なんて、普通いませんもの・・・。)
今、自分がいる辺りは工場や事務所が固まっている場所である。
そのため、すっかり夜も更けた時間帯にこの辺りを歩く者は殆ど居ない。
そんな場所に、女性が一人でいるというだけでも十分に怪しい。
(それに今し方、この近くで爆発騒ぎがあったのですから、余計に見つかりたくありませんわね・・・。)
しかも今し方の爆発騒ぎだ。
こんな場所を一人うろつく女性が外部から来たガンナーだとしたら、益々怪しまれるだろう。
ガンナーならばボムの輝石を所持していてもなんら不思議ではないからだ。
ボムの輝石の中には、一定時間が経過した後に爆発させる機能がついた物を召喚できる物もある。
国立資料館の近くからこの場所までは、ボムを仕掛けてから爆発までに移動してくることも不可能ではない。
よって見つかれば、ほぼ確実に爆発騒ぎとの関係性がはっきりとするまで拘束されるだろう。
無理矢理振り切ることもできるとは思うが、今は治安部隊とはあまり悶着を起こしたくはない。
そう考えたアスは、路地裏から治安部隊の挙動に注意を傾け彼らが離れるのを待つことにした。
(・・・しかし、おかしいですわ。)
アスは治安部隊の一行が遠ざかっていくのを感じ、安堵の溜め息を漏らしつつ首を捻る。
(私の入手した情報によれば、今日はこの辺り、こんな時間帯に治安部隊の巡回予定はなかったはずですわ・・・。)
アスはラス達と別れた後、向こう数日分の治安部隊の巡回予定を調べていた。
それが今回アスが”都”に来た目的であり、その結果を依頼主の使いへ報告するのが彼女の用事【しごと】であったからだ。
アスは此処まで、調べた結果に基づき治安部隊と鉢合わせしないような移動経路を通ってきたつもりであった。
にも拘らず、こうして治安部隊と遭遇してしまっている。
アスは幾つかの可能性を考えてみることにした。
(・・・巡回予定が変更されている?)
アスがまず考えついたのは、治安部隊の巡回予定が変更された可能性だった。
(って、これは考えにくいですわね。)
しかし、アスはこの可能性をすぐに否定した。
本当に治安部隊の巡回予定が変更されたのであれば、今まで通ってきた経路でも1回くらいは遭遇してもいいはずである。
それが全くなく、治安部隊と何度か通りを入れ違えた時の時間帯も、調べた当時の予定時間帯とほぼ同じであった。
そしてなにより、”都”の治安部隊を取りまとめるのは”慈母神”と崇められるほど部下思いの人物であると聞いた。
そんな人物が急遽巡回予定の変更を指示するのは考えにくい。
予め決めていた巡回予定を急遽変更すれば、部下の負担が増えてしまうかもしれないからだ。
(・・・私を探している?)
次に考え付いたのは、”慈母神”が自分を捕らえようと秘密裏に部隊を動かしているという可能性だった。
確かに情報を得るのに想像よりも手間取ってしまったので、足がつくような手掛かりを残してきた可能性はある。
(多分、これも違いますわね。)
しかし、仮にそうだったとしても、流石にこんなにも早く追手がつくほどの重要な手掛かりは残していないはずだ。
それに、追手を追っているにしては、今し方遭遇した治安部隊はその意欲に欠けている感じもした。
(・・・こうなることは予想済み?)
最後に考え付いたのは、”慈母神”は既に今し方の爆発について予測していたという可能性だった。
その上で態と騒動を起こさせ、それを秘密裏に待機させておいた治安部隊で迅速な対応を行ったことにするつもりだろう。
(・・・きっと、コレだと思いますわ。)
その真意までは納得行く答えが思い浮かばないが、今し方遭遇した治安部隊は恐らくそのための待機部隊だったのだろう。
そう考えれば今まで全く遭遇しなかったことや、追手の捜索任務中という感じがしなかったことも合点がいく。
(・・・彼女。どうやら、面倒なことに首を突っ込んだみたいですわね。)
治安部隊を無事やり過ごしたアスは、路地裏から身を乗り出しながら呆れた様子で溜め息をついた。
そして、再び国立資料館の方向へと走り始めた。
~~~~
「ほほぉ・・・。ハデにやっているようだな・・・。」
国立資料館近くの誰も居ない細い通りで、オルグは爆発のした方向を見つめて小さく呟いた。
それから少しして、その彼の傍らに黒ずくめの男が音もなく現れ彼に耳打ちをした。
「・・・そうか。」
少し俯いたオルグの口元には、僅かに笑みが浮かんでいた。
彼は黒ずくめの男の方を振り向いて口を開く。
「これでついでに、例の物の戦闘能力も試せるな。」
オルグの言葉に、黒ずくめの男は小さく頷く。
オルグは一度溜め息をつくと、後ろを振り返った。
「・・・さて、ついでだから利用させてもらおうか。・・・相棒君?」
「――なっ!?」
曲がり角を走り抜けたばかりのラスは、突然の言葉に思わず飛び退いた。
そして、不敵な笑みを浮かべるオルグの姿を見つけ、驚愕の表情を浮かべる。
「ふふふ・・・。『すでに現場についているのではなかったのか』って顔だな。」
「――そっ! そうですっ! なぜ、貴方が・・・」
「君のことを待っていたのさ。」
「っ!?」
ラスは素早くハンドガンの輝石を発動させ、オルグに向けて構えた。
しかし真剣そのものな表情のラスを嘲笑うかのように、オルグは笑みを浮かべる。
「僕を待っていた? ふざけないでくださいっ!」
(そんな・・・悟られないよう注意してきたつもりなのに、気付かれていたなんて・・・!)
「ククク・・・ふざけてなどいないさ。」
オルグのラスの問い掛けに嘲笑混じりに答えた。
ラスは渦巻く激情を歯を食いしばって抑え、オルグを睨みつけ叫びかける。
「今度はなにを企んでいるのですかっ! 答えてくださいっ!」
「ふっ、そんなこと、君には関係のないことだろう? なんであれ、君は彼女を守るだけなんだからな。」
オルグは不敵な笑みを浮かべラスの神経を更に逆撫でする。
ラスは大きく深呼吸をしてから口を開く。
「・・・そう、ですね・・・っ。」
ラスは真っ直ぐオルグを見据えて叫んだ。
「貴方がなにを企んでいようと、僕は彼女を守るため・・・貴方を討つだけですっ!!」
ラスの敵意の滲んだ瞳に見据えられてるにも関わらず、オルグはおどけた様子でラスに問い掛ける。
「ほぉー、私を討つのか。しかし、そんなことをしたら、彼女がなんと言うかな?」
オルグの問い掛けにラスは顔を少し俯かせながら答える。
「・・・確かに、貴方を討つのは彼女の願いです。僕もできることならその願いを成就させてあげたいです。」
ラスは勢いよく顔をあげて叫んだ。
「ですがっ! それ以上に、僕は彼女に生きていて欲しいのですっ! だから僕は、彼女を殺そうとする貴方を討ちますっ!!」
オルグは口元に笑みを浮かべ、態とらしく何度もゆっくり頷きながら応える。
「そうか、そうか。では、やってみたまえ。・・・まぁ、無理だとは思うがな。」
「――試してみなければ、分からないでしょうっ!!」
オルグの人を見下した台詞に、ラスは遂に抑えていた激情を爆発させた。
ラスがオルグに向けたハンドガンの引鉄に力を入れた時である。
「それが、分かるのさ!」
「――わっ!?」
(しまったっ!! 前が見えな・・・っ!!)
突然、オルグの手元から眩い光が放たれラスを襲った。
ラスは思わずハンドガンを手離し両手で光を遮ってしまう。
「ぐぅっ!?」
その直後、ラスの身体を凄まじい鈍痛が襲う。
急激に削り堕とされてゆく意識の中、ラスはオルグの姿を間近に見る。
その瞬間、ラスは彼に懐に飛び込まれ拳を突き入れられたことを悟った。
「ぁっ・・・・・・か・・・・・・ふ・・・・・・・・・っ・・・。」
白くぼやけたままのラスの視界に、オルグの勝ち誇った笑顔が映る。
ラスは悔しさで胸をいっぱいにしながらゆっくり崩れ落ちた。
(すみま・・・せん・・・ネス・・・さん・・・。僕は・・・相棒・・・失格・・・ですね・・・。)
暫し嘲笑していたオルグは、ラスが気を失ったのを確認するとゆっくりと担ぎ上げた。
そして、先ほどまで傍に居た黒ずくめの男に目で合図をした。
合図を受けた男が指を一度鳴らすと、オルグの傍に別の黒ずくめの男が現れる。
オルグはその男にラスを引き渡すと踵を返した。
「ふふふ・・・。さて、そろそろ行くとするか・・・。」
オルグは国立資料館へ向けて物音も立てずに走りだす。
ラスを担いだ黒ずくめの男と、もう一人の黒ずくめの男はなにも言わずに後に続いて走り出した。
窓から外を眺めていたタクトは、眼下の道にラスの姿を見つけ短い溜め息をついた。
(まったく、分かりやすいというか、なんというか・・・。)
辺りを見回して行き先を考えている彼を脇目に、タクトは荷物置き場へと向かう。
(ネスのことだもんな。どーせ、帰ってきて早々『ハラ減ったぁー・・・っ! メシぃーっ・・・!』って騒ぐんだろーな。)
タクトはネスとラスが帰ってきた時のことを考え、荷物置き場から保存食を取り出しておくことにした。
(んでもって、ラスが『傷の手当ての方が先ですよっ!』とかなんとか言うに違いねぇーな・・・。)
タクトはついでに治療道具も取り出し、其々がすぐに利用できるよう準備しておくことにした。
「・・・って、俺・・・なんか・・・”いらない子”、扱い・・・?」
タクトの呟きは、誰も居ない家の中を虚しく木霊するだけだった。
~~~~
ラスはタクトと別れた後、簡単に身支度を済ませて家の外へと出た。
彼女の行きそうな場所は幾つか考えられるが、少しでも可能性が高い場所へ向かいたい。
ラスはそう考え、辺りを見回して彼女の行く先を知る手掛かりを探してみることにした。
(多分、無駄かとは思いますが・・・。)
彼女は態々追ってきて欲しくない意思を示している時に、行方が知られるような手掛かりを残すような人物ではない。
そのことについてラスはよく知っているが、それでも手掛かりを探さずにはいられなかった。
(くっ・・・やはり、無理・・・ですか・・・っ!)
ラスは自身の予想通り、手掛かりになりそうな物を見つけることができなかった。
ラスは逸る気持ちから思わず舌打ちをしてしまう。
(・・・って、僕としたことが、思わず舌打ちを・・・し・・・て・・・っ!?)
無意識の内に行ってしまった自らの行為をラスが恥じた時、視界の隅、遠くの方に見知った人物の影を見た気がした。
ラスは影の正体を確かめるべく、すぐに視界を移動させる。
(あ、あれ・・・は・・・!?)
自分が見かけた影の正体を知り、ラスは我が眼を疑った。
(そん・・・な・・・どうして・・・彼が・・・此処に・・・?)
ラスが見かけた影の正体、それは彼女が各地を放浪することになった原因を作った人物の後姿だった。
その人物とは、銀色の短髪と鋭く冷たい紅い瞳を持ったアサシン・・・。
(・・・オルグ・・・ガースバック・・・ハント・・・!?)
夜も更け人通りの殆どない道を進む彼の後姿は、曲がり角を国立資料館へ向かう方へと消えていった。
その様子を見た瞬間、ラスは彼女の行く先を直感した。
ラスは一度大きく頷き、彼の後を追うように国立資料館へ向かう道を歩き出した。
「――っ!?」
(爆発・・・!?)
その時であった。
爆発音が遠くで聞え、ラスは立ち止まって咄嗟にその方向へと視線を向けた。
すると火の手と思しき赤い光が見えた。
(・・・あれは、国立資料館の方向ですね。・・・間違い、ないでしょう。彼女は・・・!)
ラスは国立資料館に急ぐことにした。
~~~~
「――もはや、疑う余地もないですわね。」
(彼女は、国立資料館の近くに居ますわ。)
爆発音に反応して一旦立ち止まったアスは、爆発音のした方角に視線を向けて呟いた。
そして、一息ついて再び走り出す。
(しかし、依然として彼女を感じられないと言うことは・・・彼女、まだ本気を出してはいませんわね。)
流石の彼女でも、本気で戦っている時にまで気配を全く悟らせないことは無理である。
それがまだ感じられないと言うことは、彼女は本気を出していないということに他ならない。
つまり、まだ大事には至っていないということである。
アスは走りながら、心の中で安堵の溜め息を漏らした。
ラスは恐らく彼女の傍にいるはずだから、彼女が本気を出していない現状では彼の身に大きな危険は迫っていないと言えるからだ。
しかし、自らの眼で彼の無事を確認するまでは真に安心はできない。
そう考えたアスは少しでも早く現場へ向かうため、更に速く走ることにした。
(・・・もう少し待っていてください、ラスさん! 私、アメリア=L=リリスが大急ぎで貴方を護りに行きますわっ!)
アスが心の中で誓いを立てている時であった。
目の前に治安部隊と思しき人影を見つけ、アスは咄嗟に路地裏に身を隠した。
(こんな時間帯にこの辺を歩いている人なんて、普通いませんもの・・・。)
今、自分がいる辺りは工場や事務所が固まっている場所である。
そのため、すっかり夜も更けた時間帯にこの辺りを歩く者は殆ど居ない。
そんな場所に、女性が一人でいるというだけでも十分に怪しい。
(それに今し方、この近くで爆発騒ぎがあったのですから、余計に見つかりたくありませんわね・・・。)
しかも今し方の爆発騒ぎだ。
こんな場所を一人うろつく女性が外部から来たガンナーだとしたら、益々怪しまれるだろう。
ガンナーならばボムの輝石を所持していてもなんら不思議ではないからだ。
ボムの輝石の中には、一定時間が経過した後に爆発させる機能がついた物を召喚できる物もある。
国立資料館の近くからこの場所までは、ボムを仕掛けてから爆発までに移動してくることも不可能ではない。
よって見つかれば、ほぼ確実に爆発騒ぎとの関係性がはっきりとするまで拘束されるだろう。
無理矢理振り切ることもできるとは思うが、今は治安部隊とはあまり悶着を起こしたくはない。
そう考えたアスは、路地裏から治安部隊の挙動に注意を傾け彼らが離れるのを待つことにした。
(・・・しかし、おかしいですわ。)
アスは治安部隊の一行が遠ざかっていくのを感じ、安堵の溜め息を漏らしつつ首を捻る。
(私の入手した情報によれば、今日はこの辺り、こんな時間帯に治安部隊の巡回予定はなかったはずですわ・・・。)
アスはラス達と別れた後、向こう数日分の治安部隊の巡回予定を調べていた。
それが今回アスが”都”に来た目的であり、その結果を依頼主の使いへ報告するのが彼女の用事【しごと】であったからだ。
アスは此処まで、調べた結果に基づき治安部隊と鉢合わせしないような移動経路を通ってきたつもりであった。
にも拘らず、こうして治安部隊と遭遇してしまっている。
アスは幾つかの可能性を考えてみることにした。
(・・・巡回予定が変更されている?)
アスがまず考えついたのは、治安部隊の巡回予定が変更された可能性だった。
(って、これは考えにくいですわね。)
しかし、アスはこの可能性をすぐに否定した。
本当に治安部隊の巡回予定が変更されたのであれば、今まで通ってきた経路でも1回くらいは遭遇してもいいはずである。
それが全くなく、治安部隊と何度か通りを入れ違えた時の時間帯も、調べた当時の予定時間帯とほぼ同じであった。
そしてなにより、”都”の治安部隊を取りまとめるのは”慈母神”と崇められるほど部下思いの人物であると聞いた。
そんな人物が急遽巡回予定の変更を指示するのは考えにくい。
予め決めていた巡回予定を急遽変更すれば、部下の負担が増えてしまうかもしれないからだ。
(・・・私を探している?)
次に考え付いたのは、”慈母神”が自分を捕らえようと秘密裏に部隊を動かしているという可能性だった。
確かに情報を得るのに想像よりも手間取ってしまったので、足がつくような手掛かりを残してきた可能性はある。
(多分、これも違いますわね。)
しかし、仮にそうだったとしても、流石にこんなにも早く追手がつくほどの重要な手掛かりは残していないはずだ。
それに、追手を追っているにしては、今し方遭遇した治安部隊はその意欲に欠けている感じもした。
(・・・こうなることは予想済み?)
最後に考え付いたのは、”慈母神”は既に今し方の爆発について予測していたという可能性だった。
その上で態と騒動を起こさせ、それを秘密裏に待機させておいた治安部隊で迅速な対応を行ったことにするつもりだろう。
(・・・きっと、コレだと思いますわ。)
その真意までは納得行く答えが思い浮かばないが、今し方遭遇した治安部隊は恐らくそのための待機部隊だったのだろう。
そう考えれば今まで全く遭遇しなかったことや、追手の捜索任務中という感じがしなかったことも合点がいく。
(・・・彼女。どうやら、面倒なことに首を突っ込んだみたいですわね。)
治安部隊を無事やり過ごしたアスは、路地裏から身を乗り出しながら呆れた様子で溜め息をついた。
そして、再び国立資料館の方向へと走り始めた。
~~~~
「ほほぉ・・・。ハデにやっているようだな・・・。」
国立資料館近くの誰も居ない細い通りで、オルグは爆発のした方向を見つめて小さく呟いた。
それから少しして、その彼の傍らに黒ずくめの男が音もなく現れ彼に耳打ちをした。
「・・・そうか。」
少し俯いたオルグの口元には、僅かに笑みが浮かんでいた。
彼は黒ずくめの男の方を振り向いて口を開く。
「これでついでに、例の物の戦闘能力も試せるな。」
オルグの言葉に、黒ずくめの男は小さく頷く。
オルグは一度溜め息をつくと、後ろを振り返った。
「・・・さて、ついでだから利用させてもらおうか。・・・相棒君?」
「――なっ!?」
曲がり角を走り抜けたばかりのラスは、突然の言葉に思わず飛び退いた。
そして、不敵な笑みを浮かべるオルグの姿を見つけ、驚愕の表情を浮かべる。
「ふふふ・・・。『すでに現場についているのではなかったのか』って顔だな。」
「――そっ! そうですっ! なぜ、貴方が・・・」
「君のことを待っていたのさ。」
「っ!?」
ラスは素早くハンドガンの輝石を発動させ、オルグに向けて構えた。
しかし真剣そのものな表情のラスを嘲笑うかのように、オルグは笑みを浮かべる。
「僕を待っていた? ふざけないでくださいっ!」
(そんな・・・悟られないよう注意してきたつもりなのに、気付かれていたなんて・・・!)
「ククク・・・ふざけてなどいないさ。」
オルグのラスの問い掛けに嘲笑混じりに答えた。
ラスは渦巻く激情を歯を食いしばって抑え、オルグを睨みつけ叫びかける。
「今度はなにを企んでいるのですかっ! 答えてくださいっ!」
「ふっ、そんなこと、君には関係のないことだろう? なんであれ、君は彼女を守るだけなんだからな。」
オルグは不敵な笑みを浮かべラスの神経を更に逆撫でする。
ラスは大きく深呼吸をしてから口を開く。
「・・・そう、ですね・・・っ。」
ラスは真っ直ぐオルグを見据えて叫んだ。
「貴方がなにを企んでいようと、僕は彼女を守るため・・・貴方を討つだけですっ!!」
ラスの敵意の滲んだ瞳に見据えられてるにも関わらず、オルグはおどけた様子でラスに問い掛ける。
「ほぉー、私を討つのか。しかし、そんなことをしたら、彼女がなんと言うかな?」
オルグの問い掛けにラスは顔を少し俯かせながら答える。
「・・・確かに、貴方を討つのは彼女の願いです。僕もできることならその願いを成就させてあげたいです。」
ラスは勢いよく顔をあげて叫んだ。
「ですがっ! それ以上に、僕は彼女に生きていて欲しいのですっ! だから僕は、彼女を殺そうとする貴方を討ちますっ!!」
オルグは口元に笑みを浮かべ、態とらしく何度もゆっくり頷きながら応える。
「そうか、そうか。では、やってみたまえ。・・・まぁ、無理だとは思うがな。」
「――試してみなければ、分からないでしょうっ!!」
オルグの人を見下した台詞に、ラスは遂に抑えていた激情を爆発させた。
ラスがオルグに向けたハンドガンの引鉄に力を入れた時である。
「それが、分かるのさ!」
「――わっ!?」
(しまったっ!! 前が見えな・・・っ!!)
突然、オルグの手元から眩い光が放たれラスを襲った。
ラスは思わずハンドガンを手離し両手で光を遮ってしまう。
「ぐぅっ!?」
その直後、ラスの身体を凄まじい鈍痛が襲う。
急激に削り堕とされてゆく意識の中、ラスはオルグの姿を間近に見る。
その瞬間、ラスは彼に懐に飛び込まれ拳を突き入れられたことを悟った。
「ぁっ・・・・・・か・・・・・・ふ・・・・・・・・・っ・・・。」
白くぼやけたままのラスの視界に、オルグの勝ち誇った笑顔が映る。
ラスは悔しさで胸をいっぱいにしながらゆっくり崩れ落ちた。
(すみま・・・せん・・・ネス・・・さん・・・。僕は・・・相棒・・・失格・・・ですね・・・。)
暫し嘲笑していたオルグは、ラスが気を失ったのを確認するとゆっくりと担ぎ上げた。
そして、先ほどまで傍に居た黒ずくめの男に目で合図をした。
合図を受けた男が指を一度鳴らすと、オルグの傍に別の黒ずくめの男が現れる。
オルグはその男にラスを引き渡すと踵を返した。
「ふふふ・・・。さて、そろそろ行くとするか・・・。」
オルグは国立資料館へ向けて物音も立てずに走りだす。
ラスを担いだ黒ずくめの男と、もう一人の黒ずくめの男はなにも言わずに後に続いて走り出した。