14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

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14sure74

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「・・・まだ、生きていたなんて相変わらずのしぶとさね、化物人間。」
「まぁなっ。」

薄暗い車庫で向かい合った二人は笑顔を見せる。
しかし、その笑顔はとても冷たく、殺気だっていた。

「コシヤの輝石密輸中継地の捜索及び撃滅と、ゲル・ドランの無許可傭兵施設の捜索及び撃滅だけでは足りなかったみたいね。」
「そーいうことになるな。」
「ついでに道中にあるダイア・スロンのアジトを潰して来てくれるなんて、助かったわ。」

ネスは車庫の壁に寄りかかって腕を組む。
そして、一度溜め息をついてから口を開いた。

「・・・それを見越しての報酬だったクセによく言うぜ。」
「あら、気付いてたのね。」
「たりめーだ。流石のマッチでも、ライトカーゴと旅支度一式を一夜で都合できるワケねーよ。」
「それだけで気付いたなんて凄いわねぇ、感心するわ。」

ハルの上辺【うわべ】だけの賞賛に、ネスは苛立ちを込めた視線を浴びせる。
そして、態と深く溜め息をついた。

「・・・それよか、情報はどーなってやがるんだ。アンタのくれた情報はハズレばっかじゃねーか。治安部隊の頭張ってるアンタの情報網はその程度ってことか?」
「あら、情報が貰えるだけでも感謝して欲しいわ。貴女の力じゃ、情報を得ることすらできないでしょう?」

ハルの嘲笑混じりの問い掛けを、ネスは鼻で笑い飛ばしてから答えた。

「そうでもないさ。あの片田舎であの男を見つけたのは私自身で集めた情報だ。」
「そう・・・。」

ハルは少し間をおいて言葉を続ける。

「その時に『輝石で死んだ者を蘇らせることができる』などという、子供でもウソだと分かるくだらない情報を掴んだのね・・・?」

ハルの言葉にネスは僅かに眉をひそませてから応える。

「・・・ああ、そうだ。」

ハルはその様子を白い目で見ながら口を開く。

「そんな三流以下の無能な物書きが考えたような作り話を真に受け、ラスちゃんに禁忌を犯させたと・・・。」
「やれと言ったらやってくれたからな・・・。」

ネスは淡々と応え、口元に薄く笑みを浮かべた。

「・・・あのコは優しいコだから、頼まれたらイヤとは言えないもの。」
「だな・・・。」

ハルは失笑交じりの台詞に、ネスは当然といった調子で応える。
その直後、なにかがネスの頬を掠め背後の壁に突き刺さった。
一つだけ火の灯された室内灯の放つ淡い光に照らされ、銀色に光るそれはハルの投げたナイフだった。
ネスの頬に赤い筋が一筋できる。

「死になさい、今すぐ・・・っ! 貴女みたいな最低の人間、生きてる価値なんてないわ・・・っ!」

ハルの声は怒りに震えていた。
ネスは呆れた様子で両手を広げてみせる。

「そう思うなら殺ればいい。『治安部隊統括部部長の自宅を襲撃した対抗組織の刺客』とでもすりゃ問題なく殺れるだろ?」
「できたら当の昔に、あのコが悪名高い化物人間【あなた】と一緒に居るのが分かったあの瞬間にやってるわよ・・・っ!」

薄ら笑いを浮かべるネスに、ハルは少し手を伸ばせば届く距離まで詰め寄る。
今すぐにでも八つ裂きにしてやりたい衝動を、握り拳を作って必死に抑えながらハルはネスを睨みつけた。
ネスは涼しい顔で溜め息をつき、口を開く。

「ラスの手前、それはできねーってか。」

嘲笑するネスを、ハルは激しい怒りと憎しみを湛えた瞳で見据える。

「・・・あのコ、貴女と一緒に旅をしてるのを私に打ち明けた時、なんて言ったと思う? 『彼女が好きにやれるよう、傍に居て手伝いたい。』って言ったのよ。」

ハルの言葉にネスは僅かに目を見開くが、すぐに目を細める。
そして、一息ついてから切り返した。

「そいつは、ありがたい話だな・・・。それなら、私は心置きなくあの男を討てるワケだ。」
「仇討ちそっちのけで殺された人蘇らせようとした人間の言う台詞ではないわっ!」
「遅かれ早かれどっちもやるつもりだったんだ。順番をどうしようと私の勝手だろ?」

ネスの台詞にハルは呆れ果て、この件について言葉を返す気力を失った。
ハルは削れるような音がするぐらいに奥歯を食いしばって黙り込む。
そして、握り拳を戦慄【わなな】かせてネスを睨みつけ、別の疑問をぶつけた。

「・・・タクト君はどうするの? 本当に返せると思ってるの?」
「マッチめ、喋ったのか・・・。」

ネスは軽く舌打ちをした。
それから、腕を組み替え首を傾げて考え込む素振りを見せる。
数秒後、一度大きく頷いてからネスは口を開いた。

「・・・まっ、どういうワケか呼び出せたんだから、どうにかすれば返せると思うぜ。」
「・・・最・・・低・・・っ! 本当に・・・最低よ、貴女・・・っ!」

ネスの回答を無責任過ぎると感じたハルは、吐き棄てるように切り返して黙り込む。

「・・・なんとでも、言ってくれて構わねーよ。」

ネスはぽつりと呟くように応えると、ハルと同様に黙り込んだ。
それから暫し続いた重く息苦しい静寂を、ネスは大きく伸びをして吹き飛ばした。
そしてネスは、突き刺さったナイフを引き抜き、その柄をハルへと突き出す。
ハルは一度大きく溜め息をついて、ひったくるように受け取った。
ネスは含み笑いを見せてから口を開く。

「・・・さてと、そろそろ仕事の話をしよーぜ。アンタが私を殺れる、唯一の方法だろ?」

ネスの提案に、ハルは暫く無言のままネスを睨みつけてから、溜め息混じりに答える。

「・・・そうね。最低の貴女が生きていられる、唯一の方法ですものね・・・。」

ハルは2階へ上がる階段の傍に置いた自分の荷物袋へと向かう。
そして荷物袋から、巻物のように丸められた紙を1本取り出してネスの元へと戻った。
ハルはネスにその紙を投げ渡し、ネスはそれを受け取るとランプの灯りを背にして紙を広げた。

「・・・巡回予定図?」
「本日分の、”都”の治安部隊が巡回する経路と時刻が載ってるわ。」
「ほー。で、こんな重要な物を私に見せてどーしたいんだ?」
「もう一枚の紙・・・。」

ネスはハルに言われるがまま、もう一枚の紙を見る。

「危険分子の行動予想図? よく調べたもんだな。」

ネスは小さく口笛を吹いた。
ハルはネスの反応を鼻で軽く笑い、切り返す。

「最低限の人員で”都”の”平和”を守るためですもの。」

”都”は協会の中枢施設があるため、入国審査を実施している。
しかし、”平和”であることを強調するためその審査は厳格な物ではなかった。
結果、”都”には協会に対して批判的な思想を持つ者が彼方此方に蔓延【はびこ】ってしまった。
批判的思想を持つ者の中には、行動でそれを表そうとする者も居る。
そういった者の凶行から協会の中枢施設を守るには、治安部隊の数が幾つあっても足りない。
故に、ハルは”都”中に独自の情報網を張って批判的思想を持つ者の行動を監視し、得られた情報を元に最適な巡回経路を設定していた。

「あってないような入国審査だもんな。”都”の”平和”ってのを守るのも大変だな。」

ネスは2枚の紙を暫く見比べてから、顔をあげて言葉を続ける。

「どーやら、国立資料館周辺の警備が手薄になる時を狙って集まるようだな。・・・夜襲でもかけるつもりか?」
「でしょうね。・・・でも、ヘンだと思わない?」
「『何故バレたのか』ってことか?」

ハルはネスの嘲笑混じりの問い掛けには答えず再び問い掛ける。

「・・・ヘンだと思わない? ・・・それとも、分からない?」

ハルの再度の問い掛けが終わると同時に、ネスは再び行動予想図に視線を落とした。
行動予想図の上では、最初の予想移動経路を示した線とは違う色の線で、数名分の危険分子が国立資料館周辺に集結すると予想されていた。

「そーだな・・・。国立資料館なんて、こんな大所帯で夜襲をかけるまでのモンじゃねーだろ。」
「それよ。現状、あの場所を襲撃するだけなら、玉砕覚悟で誰か一人がボムを持ち込めば一発よ。」
「襲撃以外の目的があるんじゃねーの? 例えば・・・中央資料室の資料を奪い去るとか。」
「そうね。目的が襲撃以外ならば、それぐらいしかないでしょうね。」
「・・・まっ、どの道、態々’完璧に管理されている’治安部隊の巡回予定を調べ上げてまでやることじゃねぇけどな。」

ネスの嘲笑混じりの言葉に、ハルは不快感を覚えながらも小さく頷く。
ネスは行動予想図の内容を確認した時に辿りついていた、また別の目的を口にした。

「・・・他の施設を襲うための陽動か?」
「その可能性は高いわ。」

既にその可能性を疑っていたハルは、ネスの言葉にすぐに同調した。

「丁度同じ頃、他にも重要施設が幾つか手薄になるもの。彼らが見逃すワケがないわ。」

ネスは行動予想図の別の線を目で追いながら応える。

「だろうな。丁度、それらしい動きもあるみたいだしな・・・。」

ネスは2枚の紙を丸めて持ち、大きく伸びをした。

「そこまで分かってんなら、巡回予定を変更すりゃいいじゃねーか。アンタの力なら簡単だろ?」
「巡回をする隊員達にも生活があるもの、急な予定変更でそれを乱したくはないわ。それに、私の通り名がそれを許さないしね。」
「・・・”慈母神”だっけか。ご苦労なこった。」

ハルは部下のことを第一に考えるという思想と、それを実現できるだけの実力を持っている。
加えてその容姿と人当たりのよさから、部下の間では”慈母神”という通り名で呼ばれていた。
ハルにとってそれは、自分の思い通りに物事を運び権力を高めていくのに都合がよく、極力守りたいものであった。
ネスは溜め息混じりに尋ねる。

「・・・じゃ、私は先回りしてこの危険分子を全員ぶっ飛ばしてくればいいんだな?」
「連続暴行事件の後始末は面倒だからそれは却下ね。・・・それに、お偉方の目を覚まさせる丁度良い機会だもの。」

ハルは以前から、”都”の全くやる気の感じられない入出国管理体制に対して不満を持っていた。
過去に上申もしたが、上層部には特に大きな事件も起きていないからと、全く取り合ってもらえなかった。
しかし実際に大きな事件が起きれば、彼らの危機感の欠片もない態度も改められるだろう。
ハルはそう考え、この襲撃事件を利用することにした。

「・・・トンだ”慈母神”だな。」

ネスはハルの考えを悟り、鼻で笑った。

「近い内に大幅改装の予定も入ってたし、国立資料館の1つぐらい彼らの火遊びに使わせてあげてもいいわ。」

改装で一度取り壊す予定だった国立資料館ならば、この事件によって破壊されても問題はない。
確かに、事件を未然に防げなかったことに対する責任は追及されるだろう。
しかし、それこそ思う壺である。
水面下で用意しておいた様々な既成事実や多くの協力者の支援を武器に、逆に上層部の危機管理意識の低さを突ける。
ハルは不敵な笑みを浮かべた。

「でもね・・・。」

ハルは一旦、大きく息を吸ってから言葉を続ける。

「遊んだ分の代金はしっかりと、その命で払ってもらうわ。」
「国立資料館の夜襲に来たヤツらを全滅しろってことだな・・・?」
「それもあるけど、資料の持ち出しを阻止することも今回の仕事よ。」

今回のハルの作戦は、最小限度の被害で食い止めなければ意味がない。
建物の損害は近い内に一度取り壊すのだから、寧ろ歓迎すべき部分である。
そのため、一番懸念される被害は資料を奪われることによる情報漏洩であった。

「写しとは言え重要な資料が奪われたとなれば、流石に私の威信に関わるもの。最悪、消し飛ばしたって構わないわ。」

中央資料室にある資料は全て重要な資料であるが、あくまで写しであり、大元は別の施設にて厳重に保管されている。
従って資料室にある資料は例え焼失しようとも、なんら問題がない。
ハルにボムの輝石を1つ投げ渡されたネスは、薄ら笑いを浮かべながら口を開いた。

「へいへい、了解了解。」
「貴女では守るべき施設まで破壊しかねないから、他の施設への襲撃に関しては私が警戒するわ。」
「よく分かってるじゃねーか。・・・で、報酬は?」

ネスの問い掛けにハルは腕を組み、態と少し悩むふりをしてから答える。

「・・・あの男がこの件に関係してるって情報でどう?」
「・・・本当だな?」

ハルの言葉にネスの眼の色が変わった。

「本当かどうか、現場に行ってみれば分かるわよ。」
「・・・・・・だな。」

ネスは丸めた紙をハルに投げ渡して、居間へと戻って行った。
ハルはその様子を確認して、外出の仕度を始めた。

~~~~

「あっ、ネスさん。」
「おう、ラス。」

ラスはネスが居間へ戻ってきたことに気付き声を掛ける。
ネスは笑顔で手をあげて応えた。

「よぉ、ネス。・・・あれ? ハルさんは?」

次いで、ネスの存在に気付いたタクトは、ハルの姿が見えないことを疑問に思い問い掛けた。

「んっ、ハルなら見回りに行ったぜ。」
「こんな雨の中、夜の見回りか・・・大変だな・・・。」
「そーだな。・・・っと。」

ネスは居間の片隅においた荷物袋から携帯用のランプを取り出して踵を返す。
その行動を疑問に思ったラスは問い掛けた。

「何処へ行くつもりですか?」

ラスの問い掛けに、ネスは振り向いて答える。

「何処へって、暇つぶしにちょっくらアソんでくるんだよ。」

ネスは何時の間にか手に持っていた硬貨を数枚、笑顔で真上に軽く放り投げて見せた。
ラスは呆れた表情で口を開く。

「・・・なにも、こんな雨の日に・・・。」
「いーじゃねーか・・・。それに、明日の夜はアスを呼んで騒ぐんだろ?」
「・・・あまり、派手に騒ぎ過ぎないでくださいよ。」
「分かってるさ。・・・じゃなっ♪」

ネスは再びラスに背を向け、軽く手をあげて別れの挨拶をし、すぐに居間から出て行った。
その様子を見ていたタクトがラスに問い掛ける。

「・・・って、一人で行かせてよかったのか?」
「・・・大丈夫だと思います。彼女もたまには、一人でのんびりアソびに行きたいでしょうし。」
「たまには・・・って、基本的に彼女は勝手気ままだった気がするが・・・。」
「・・・ああ見えて、彼女なりに気を使ってた部分もあるんですよ。」

タクトは釈然としない物を感じるが、ラスの笑顔はこれ以上の問答をするつもりはないことを湛えていた。
タクトが観念の溜め息をついたのを確認すると、ラスはゆっくり踵を返す。

「・・・では、僕は上の部屋で明日の準備をしてきますね。」
「あ、ああ・・・。俺はもう少し、外の様子を見てるよ・・・。」

タクトが窓の外へと顔を向けるのを見たラスは、笑顔で会釈をして居間を後にした。
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