14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

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14sure74

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ゲル・ドランを発ってから2日余りが過ぎた頃、一行は”都”近くにまで到達していた。
この辺りは協会の勢力が強力であるため、追手達は迂闊【うかつ】に手を出すことができないだろう。
ラスはそう考え、時折遭遇する治安部隊に一応の警戒をしつつ、大きな街道を直進していた。

「・・・しかし、ホント。アンタの回復力には驚かされるぜ。」
「まぁな♪ あんぐらい、少し寝てりゃぁ治るぜ♪」

最後部座席に座っていたタクトは、右隣のネスに話しかけた。
ラス曰く『息があるのが奇跡』の痛手を、ネスは殆ど自力で回復していた。
そして今や、道中に入手した包帯をアスと引き分けた時の傷跡に巻いている程度であった。
ネスは笑顔を見せて答える。

「寝てれば治るなんて、羨ましいくらいに単純なつくりですわね。」

タクトの左隣に居たアスが、相変わらずの棘のある言葉で割り込んだ。

「ふふふっ、羨ましいだろー? マネすんじゃねーぞ?」
「ご安心なさい、貴女のマネなんて、死んだっていたしませんわっ。」
「そっ、そーいやだなっ!」

タクトは態と声を張り上げ、二人のやり取りに割って入った。
そして、アスの方に視線を向けて言葉を続ける。

「アス、・・・アメリアさんの回復力も凄かったぜ。俺、驚いたよ。」

アスも受けた痛手の殆どを自力で回復しており、今やネスと引き分けた時の傷跡に包帯を巻いている程度であった。
タクトは、ネスに匹敵する回復力を持ったアスに心底驚いていた。

「・・・タクトさん。」
「はっ、はいっ!?」
(えっ!? おっ、俺、今なんか地雷踏んだかっ!?)
「私【わたくし】、伊達に二つ名【ゲイル・トリガーハッピー】を背負っているワケではありませんわ。」
「・・・そ・・・そう、だよなぁ! あはっ、あはははっ・・・。」
(今ので多分、寿命の半分ぐらい削られた気がするぜ・・・。はぁっ・・・。)

アスはタクトに笑顔を見せて答えた。
タクトはそれに合わせようと笑顔を見せるが、ウマく作ることができず引き攣った笑顔になっていた。

「まっ、私が本調子じゃなかったからこそだろーけどなっ♪」
「あら、貴女こそ、あの時私が態と狙いを外さなければ今頃は・・・。」
「・・・おーい、約束。約束。」
「・・・分かっていますわよ。」「・・・分かってるよ。」

あの戦いに関しては引き分けと言うことにしておくこと。
これが二人とラスの間に交わされた約束であり、二人の仲を取り持つほぼ唯一の手段である。
タクトが二人の間に居るのは、二人が約束を破らないよう謂わば手綱を握るためであった。
二人は渋々口を閉ざし、タクトは心の中で大きく溜め息をついた。

(なんつーか・・・。ホント、コレさえなきゃ、なぁ・・・。)

全身の傷跡にさえ目を瞑れば、ネスはタクトの居た世界の美的感覚でも、この世界の美的感覚でも’絶世の’がつくほどの美人である。
また、アスは可愛らしさという点では、間違いなく優勝候補の筆頭に挙げられるほどの物を持っている。
そんな二人と肩が擦れ合うような距離で旅をしているのだ。
傍目から見れば『今すぐそこを代われ。』と、脅されても仕方がない状況だろう。
その点に関してだけは、タクトは素直に幸運であることを認めている。
しかし、その代償にしては”仲裁役”という立ち位置は、些か割に合わない気もしていた。

(アスはラスしか見えてねーし・・・。ネスは師匠のことを吹っ切れてねーようだしなぁ・・・。)

いつ首と胴が離れてもおかしくない状況であることもだが、それ以上にタクトが腑に落ちなかったのは彼女達の恋愛事情だった。
二人とも、タクトのことなど歯牙にもかけていなかった。

(なんつーか・・・、俺ってそんなに魅力ねーのか? 自分で言うのもなんだが、少なくとも絶望的に酷い容姿じゃねーはずなんだが・・・。)

タクトは此処までの旅路を思い返してみる。
ラスは若い女性から時折声を掛けられていたが、タクトが声を掛けられたのは本当に数える程度であった。

(確かにラスは『母性本能がくすぐられちゃう系男子』っぽい顔立ちだし、話してみるとホントにイイヤツだけどさ・・・。)

確かに、どんな贔屓目に見ても容姿も性格もラスの方が上であることは認める。
しかし、少なくとも容姿はそこまで絶望的な差はないだろう。
タクトはそう思っていた。

(くっそぉー・・・いい加減、俺も一人ぐらいこの世界の女性とお付き合いを持ちてーなぁ・・・。)

タクトがそれがもし実現した場合のことを妄想していた時である。

「・・・クト・・・ん。・・・クトさん。・・・タクトさんっ!」
「――おわぁっ!?」
「・・・? ・・・そろそろ、”都”の門が見えますわよ。」

そう言ってアスは窓の外に視線を移す。
タクトもそれに倣って窓の外へと視線を移した。
早朝からずっと続いている小雨の影響で視界はあまり良好ではないが、それらしき物体が建物や木々の合間を縫って見えた。
まだそれなりの距離があるのに、それは十分な存在感を誇示していた。

「・・・すげぇ。なんだよ、あの壁・・・。」
「”都”を囲む城壁ってヤツだ。近くで見るともっとスゲーぞ♪」
「そ、そうなのか・・・。」

タクトは城壁の存在感に呑まれ、視線を逸らすことができなくなっていた。

「しかし、”都”に行ったことがない若い男性【ひと】なんて、珍しいですわね・・・。」
「あっ? ・・・ああっ、まぁ、その・・・あんま興味なかったからな・・・。」
「そうなんですの? ・・・何処か変わってる方だとは思ってましたが、予想以上ですわ。」
「ははは・・・地元でもよく言われたぜ。」

アスはタクトが別の世界の住人であることを知らない。
また、タクトもその事実を彼女に教えるつもりはない。
そんな事情から、タクトはジ・パンドの端っこの方の、とても小さな集落で生まれた変わり者ということにした。

「・・・まぁ、そーいう変わり者だからこうして彼らと旅をしてたワケだが。」
「なるほど・・・その点に関しては納得ですわ。・・・しかし、世界にまだ私の知らない場所があったなんて驚きましたわ。」
「へぇー。・・・アメリアさんは、世界中を旅してるんだ。」
「ええ。それで、タクトさんの住んでた集落って具体的にはどの辺りに・・・」
「あっ、アスさん!」

タクトの出身地なんて、本当はこの世界の何処にも存在するワケがない。
ヘタにどの辺りかを限定してしまえば、嘘がバレてしまう可能性がある。
そうなれば、何かと面倒なことになってしまうのは容易に想像がつく。
運転席で二人の会話を固唾を呑んで聞いていたラスは、すかさず助け舟を出した。

「はっ、はいっ! なんですの? ラスさん。」
「そろそろ”都”の門ですので、席の裏から僕の手荷物を持って前の座席に来てくれませんか?」
「お、お安い御用ですわっ♪」
(きゃぁぁー♪ これで、ラスさんの素敵な運転姿を見られますわぁー!!)

アスは身体を捩って、座席裏の荷物置き場にあったラスの荷物を取り上げる。
そして、上機嫌で運転席の対角線上にある前の座席へと移っていった。

一行はそれから程なくして、”都”へと辿り着いた。
”都”はダイア・スロンと勢力を二分する組織、リンカー協会の発足地である。
大きな集落一つと同程度という国土を高い壁で囲っていて入出国管理がしやすいこと。
高い壁により外敵の侵攻を防ぐことができることから、”都”はそのまま協会の活動拠点として選ばれた。
一行は”都”の北側にある門で入国審査を受けることした。

~~~~

「入国審査って言うから厳しいもんと思ってたんだが、ラスが署名した紙切れ一枚渡しただけで全員通れるって・・・。アンタ、実はかなり偉いとか?」

北側の門から真っ直ぐ伸びた大きな街道を、一行を乗せたカーゴは走る。
タクトは窓から外の様子を眺めながら、呆気なく終わった入国審査を振り返る。

「僕はタクトさんが思うほど偉くないですって・・・。リンカーなら新人でもない限り皆あんなもんですよ。」
「いいえ、同伴者まで審査無しで通せるリンカーなんて初めて見ましたわ。・・・・・・流石、私が見込んだお方ですわ。」
「なにか言いました・・・?」
「いっ! いえっ! なな、何でもありませんわっ!!」

アスは独り言のつもりだった物が聞かれ、恥ずかしさで顔を真っ赤にして俯く。
タクトはその様子を一瞥して、とりあえず話題を変えることにした。

「でさ、ラス。この先、俺達はどうするんだ?」
「・・・そうですね。このまま一旦、国立資料館に向かいますよ。」
「・・・えぇっ!?」

顔を真っ赤にして俯いていたアスが突然驚愕の声をあげた。
タクトとラスは驚いてアスの様子を確認する。
二人の視線に気付いたアスは態とらしい咳払いをして、口を開いた。

「ざ、残念ですわ・・・。私、中央の方に用事がありますの。」
「そ・・・そうなのか。それは、残念だな・・・。」
「中央の方ですか・・・。では、此処で一旦停めた方が良さそうですね。」

ラスは街道の脇にカーゴを寄せ停車させた。
アスは後ろ髪を引かれるような思いで降車準備を済ませる。

「・・・では、ラスさん。・・・それと皆さん。短い間でしたけれど・・・」
「あっ! アスさん。」
「はっ、はいっ。なんですの? ラスさん。」

ラスが突然なにかを閃いたような素振りで、アスの別れの言葉に割って入った。

「アスさんの用事って、どれぐらいで済みます?」
「そう、ですわね・・・。遅くても、明朝までには済むと思いますわ。・・・それがどうかしましたの?」
「そうですか。・・・では、明日の夜なら大丈夫そうですね。」

ラスの言葉と笑顔の意味が分からないアスは問い返す。

「明日の・・・夜・・・?」
「はい。実は僕達の用事は中央資料室でないと済ませられないので、明日の夜までは”都”に居るつもりなんです。」
「中央資料室・・・。確かに、今からでは入れても半日も居られませんわね・・・。で、明日の夜?」
「それで、明日の夜、用事を済ませてから此処までの旅の無事を祝ってささやかですが宴を・・・」
「――是非行かせて頂きますわっ!!」

ラスの誘いにアスは目の色を変えて即答した。
その勢いに思わずラスはたじろぐ。

「そ、そうですか。それは良かった。・・・では、明日の夜、中央輝石研究所の前に迎えに行きますね。」
「はっ、はいっ!! 楽しみにしておりますわっ!!」
(まさかラスさんからお誘いを受けられるなんて、こんなに嬉しいことはありませんわぁっ!!)

アスの尋常ではない喜びようにラスは対応に困り、タクトへと視線を送る。
タクトは態と視線を逸らし、気付いてないフリをして誤魔化した。

(それから、宴の途中でこっそり二人抜け出して、それからあんなことやこんなことを・・・きゃぁーっ!!)
「・・・アス。」
「――ぶっ!?」

一人舞い上がっていたアスに、今まで珍しく静観していたネスはなにかを投げつけた。
アスの顔面に当たったそれは、撥水性の高い生地で作られたフード付きのマントであった。

「なにするんですのっ!! 折角、人が楽しんでいましたのに貴女って・・・」
「餞別だ。短い間だったが、色々と楽しませて貰ったぜ相方。」
「・・・余計なお世話ですわ。・・・まぁ、特別に貰って差し上げますが。」

アスは大きく溜め息をつきながら、投げつけられたマントを羽織る。
ネスはその様子を見て軽く含み笑いをした。

「・・・ネスさん。約束しなさい。」
「なんだよ、藪から棒に。」
「いいですこと? 貴女を負かすのはこの私ですわ。それまで、負けることは絶対に許しませんわ。」
「・・・人の心配よか、自分の心配をしろよ。疾風銃狂。」
「あら? 私はこれから先、死んでも負けませんわ。」
「おーおー、そりゃ頼りになるお言葉だぜ、おじょうサマ。」

二人は暫く見つめあい、同時に口元に笑みを浮かべた。
それからアスは少しだけタクト達と雑談をしてから、ゆっくりと降車した。

「では、そろそろ行きますわ。」
「はい。では、アスさん。お気をつけて・・・。」

アスの別れの言葉にラスは運転席から笑顔で軽く手を振り、カーゴを発車させた。
アスはその場から、ラス達の乗ったカーゴを見送る。
ラス達の乗ったカーゴが曲がり角を曲がり、見えなくなってから、アスは”都”の中心に向かって歩き出した。

(・・・と、勢いで参加を承諾してしまいましたけれど。明日・・・ですか。)

道中、アスはふと立ち止まる。

(明日の”都”が、今日の”都”と同じならばよろしいのですけれど・・・。)

アスはこれからこなす、自分の用事のことを思いため息をつく。
用事をこなさないという選択肢も脳裏を掠めたが、そういうワケにもいかない。

(・・・癪ですが、貴女に頼るしかなさそうですわね。)

アスはゆっくりと灰色の空を見上げる。

(私が行くまで、ラスさんを頼みましたわ。・・・化物人間。)

少し雨脚の強くなった天候に、アスは一度大きく身を震わせてから再び歩き出した。

~~~~

「・・・しかし、流石はジ・パンドの中心的国家ってだけはあるな。雨だってのに人通りが多い。」

タクトは”都”の北東部にある国立資料館の窓から、外の様子を見ながら呟いた。
帰宅時間が近いこともあってか、窓の外では雨だというのに人やカーゴの往来が途切れない。

「ふぅ、お待たせしました。タクトさん。」
「おう、お疲れ。」
「『じゃんけん』で負けたから仕方ありませんが、流石にあの量の本を一人で片付けるのは疲れましたよ・・・。」

ラスは大きく溜め息をつきながら、肩を軽く回した。
タクトはその様子に笑顔で労いの言葉をかけつつ、周りを見回す。

「・・・ネスの姿が見当たらないんだが? さっきまで、この辺で寝てたはずなんだが・・・。」
「ネスさんですか? 先ほど、料理本の辺りに居るのを見かけましたよ。」
「へー、料理本・・・。・・・・・・なんだってぇーっ!?」

タクトはネスの居場所につい驚愕の声をあげてしまった。
しかし、周りの人間の白い視線に気付き、慌てて口を塞ぐ。
そして強引にラスを引き寄せ、小声で問い詰めた。

「彼女、料理できるのか!?」
「し、知りませんよ! 僕も彼女が料理をしている所なんて見たことないです!」
「偶然通り過ぎただけだったとかじゃねーのか!?」
「いえ、どうもそんな感じではなさそうでしたよ・・・。」
「彼女が・・・料理・・・。」

タクトは試しにネスが料理をしている姿を想像してみることにした。
エプロン姿に身を包み、剣を包丁に変え台所に立つ彼女。
確かに姿だけならば様になっている、しかし・・・。

(ダメだ・・・実際に作ってる所まで想像・・・できねぇ・・・。)

タクトはラスを離しながら、大きく溜め息をついた。
ラスはその溜め息の意味を解し、静かに苦笑するだけだった。
タクトは再度大きく溜め息をつき、話題を変える。

「・・・ところでさ、ラス。」
「なんですか?」
「なんでラスは、彼女と一緒に旅をしてるんだ?」
「うーん・・・成り行き、ですかね。」
「成り行きって・・・正直、彼女に振り回されっぱなしで疲れねぇ?」
「まぁ、否定はしませんけど・・・。」
「じゃあ、なんで?」
「彼女に振り回されるのは、僕だけにしたかったから・・・ですかね。・・・実際の所、全くできてませんが。」
「ふーん・・・。」

それっきり、タクトは口を閉ざして窓の外をぼんやりと眺める。
ラスは何も言わず、傍にあったイスに腰掛けて周囲の様子を眺めていた。
暫し【しばし】の静寂を切り裂き、タクトが再び口を開く。

「・・・そーいやさ、彼女と出会ったのっていつだったんだ?」
「・・・3年ほど前のちょうど今頃、今日みたいな雨が降っていた日ですね。場所は、タクトさんを呼び出したあの町でした・・・。」
「へー・・・。で、どんな感じだったんだ? ついでだから聞いてみたいんだが、いいか?」
「ええ、構いませんよ。では・・・。」
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