14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ
パートC
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14sure74
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「――――『もう』、なんだ?」
今までにない森閑【しんかん】に包まれていた会場内に突如、怒声が響き渡る。
「『もう』、無理なのか?『もう』、戦えないのか?『もう』、堕ちるのか?」
声の主は舞台上で倒れている者へ向けて怒鳴る。
「アンタは『もう』!負けるのか!!」
(・・・・・・!?)
「アンタは『もう』!倒れていいと思ってるのか!!負けていいと思ってるのか!!」
(負け・・・・・・る・・・・・・わたくし・・・が・・・?)
「それでも、お前は私の相方か!!」
(ネ・・・ス・・・。)
ネスは一旦言葉を切って大きく息を吸う。
そして、一段と大きな声で叫んだ。
「断言してやる!!お前は『まだ』!!戦える!!応えろっ!!アメリア=L=リリスゥゥッ!!」
ネスは自身に集まる驚愕の視線を気にすることなく力強くアスを見据えた。
(・・・『まだ・・・たたかえる・・・』そうだ・・・わたくしは・・・戦わなくては・・・・・・。)
アスを深淵の眠りへと引きずり込もうとしていた悪魔の手が離れる。
(私は・・・絶対・・・負けない・・・負けては・・・いけない!!)
アスの瞳に光が戻り、闘志に満ちた力強い煌きを放ち始める。
歯をゆっくりと食いしばり、痺れと激痛が支配する身体に喝を入れる。
(私は・・・負けるワケには・・・いきませんのっ!!)
軋み震える身体を無理矢理動かし、四つん這いになる。
(私は・・・誓い・・・ましたの・・・『死んでも、負けない』とっ!!)
歯を割れそうなぐらいに食いしばり、ふらりと立ち上がる。
そして、今自分が倒すべき者をしっかりとその眼に捉える。
(『最強のガンナーになる』と、約束しましたのっ!!)
ふらつきながらも構えを取るアスに、その場に居た全員が唖然として声を発することすらできなくなった。
・・・ただ、一人を除いては。
「ったく、手間の掛かる相方だぜ・・・。」
「・・・ネスさん。私の名前・・・、気安く叫ばないでくださる?」
後ろから呆れ顔で話しかけてくるネスに、アスは振り返ることなく答えた。
「そりゃ、悪かったな。まっ、これで貸し1つだな?」
「借りたつもりはないですわ・・・。貴女が五月蝿く捲くし【まくし】立てなくとも・・・あれぐらい切り抜けられましたもの・・・。」
「はっ、どぉ~だか。」
明らかに人を見縊っているような態度のネスに、アスは苛立ちを覚えて叫んだ。
「よろしいでしょうっ!その証拠に・・・、見事勝って見せますわっ!!」
「バ~カ、勝つのはたりめぇ~だろぉ?まっ、期待しないで観させて貰うぜ、お・じょ・う・サ・マっ♪」
ネスは笑いながら再びどかりと胡坐を組んで座り込んだ。
「・・・さて、行きますわよ?」
アスの不敵な笑みを浮かべ未だに唖然としている二人に向かって突撃する。
彼らにとって、自分達の技をあれほど受けた相手にまだ意識があることは到底考えられない事態であった。
二人は慌てて戦闘態勢を整えたが、その頃には既にアスは攻撃に入っていた。
「遅いですわっ!!」
アスはガルンの懐に飛び込んで左拳を鳩尾へ勢い任せに叩き込む。
相変わらずの硬度に拳が悲鳴を上げるが、アスは捻り【ねじり】込んだ。
衝撃でガルンの身体が浮き上がる。
「はあぁぁぁぁぁーっ!!」
アスは浮き上がったガルンの身体を掌で突き、あの歪みを作り出そうと構えていたバラン目掛けて吹き飛ばした。
ガルンはバランに衝突して止まる。
激しく頭を揺さぶられたせいで意識が白濁し、為すがままバランに撥ね退けられた。
アスはその隙にバランとの距離を詰め、飛び上がり胸元を目掛けて左足で回し蹴りを放つ。
バランは右腕を胸元の辺りまで持ち上げて、アスの回し蹴りを受け止めようとする。
(甘い!私、もうその手は喰らいませんことよっ!!)
アスは蹴り出そうとした足を引っ込めながら身体を回転方向とは逆に捻り、回し蹴りを無理矢理中断して一度着地する。
バランは慌てて左腕を伸ばしてアスを捕まえようとする。
しかしアスはそれよりも早く、無防備になったバランの脇腹へ靴の先端を突き入れるように左足で蹴りを入れた。
左腕が虚しく宙を掻き、バランの身体が前のめりに崩れる。
「これでっ!!」
アスはバランの顎を勢いよく飛び上がりながら蹴り上げた。
バランはその巨体を仰け反らせながら宙へと跳ね上がる。
「終わりですわっ!!」
アスの勢いをつけた飛び蹴りがバランに直撃し、とても体重のある人物とは思えない速度で場外へと吹き飛んだ。
その一部始終に囁き声一つなかったがらんどうの場内が、次第に歓喜と激励の声で埋め尽くされる。
「・・・・・・バ、バラン選手、場外!」
アスは残るガルンを真っ直ぐ見据える。
ガルンはようやく意識がはっきりとしたのか、口元を右手で覆いながらよろりと立ち上がっている所だった。
「もう一度、倒れていなさいっ!!」
アスは相手の体勢が整わない内に止めの一撃を入れるべく、飛び掛り左腕を突き出す。
ガルンは苦し紛れに右腕を突き出して反撃を試みた。
(遅いっ!!私の――っ!?)
「――避けろっ!!アス!!」
ネスが叫ぶのとアスが気付き身を捩るのはほぼ同時だった。
アスの左拳がガルンの顔を突き飛ばしたのと同時に乾いた破裂音が鈴なり状態の場内に響く。
そして、アスの足元に鮮やかに咲く赤黒い薔薇の華。
「ぶっ・・・がはっ・・・ぐっ!!」
アスは撃ち抜かれた右肩口を押さえてよろめく。
そして、起き上がってこないガルンを睨みつけた。
「な・・・何ということでしょう!?ガルン選手、輝石を隠し持っていました!!これは反則です!!」
「ガ、ガルン選手、反則!よって、この試合、ネス、アメリア組の勝利とする!」
「ふふっ・・・か、勝ちました・・・わっ・・・あっ。」
アスは体勢を崩し仰向けに倒れ込む。
しかし、彼女が予想していた衝撃は訪れなかった。
変わりに訪れたのは、暖かくて少し柔らかい衝撃だった。
「・・・っと。ったく、フラフラじゃねーか。」
「余計な・・・お世話ですわ・・・ぁっ!?」
ネスは自力で体勢を立て直そうとするアスを抱きかかえた。
「ちょっと、何するんですの!自分で歩けますわっ!」
「まーまー、恥ずかしがんなって♪」
腕の中で暴れるアスを笑顔で一蹴しながら、ネスは入退場口へと歩き出した。
その道中、アスの様態を心配して駆けつけた医療係が二人の前に立ちはだかる。
「君!早く彼女を此方へ!」
「はぁっ?何言ってんだ?」
「何って、医務室へ連れて行った方が・・・」
自分と医務室まで同行することを促す医療係に、ネスは呆れた表情で答える。
「バーカ、そんなことして戦闘続行不能とでも言われてみろ。私ら棄権扱いになって優勝できねーだろ。」
「し、しかし!」
「そうですわっ!!此処まで来て、棄権で優勝逃すなんて話・・・私は認めませんわっ!!」
医務室の診断でどちらか一方がこれ以上の戦闘続行が不可能と診断された場合、その組は棄権しなくてはならない。
二人にとって戦わずして負けるのは、戦って負ける以上に耐え難いことであった。
二人の突き刺すような鋭い視線に医療係はたじろぐ。
「こんぐらい、少し寝てりゃぁ治る。そーだろ?アス。」
「寝たぐらいで治るのは単純な作りの貴女だけですことよ。・・・でも、この程度は少し休んでいれば問題ありませんわ。」
「・・・と、言うことだそうだ。分かったな?」
「ですが・・・分かりました・・・。でもせめて、傷薬ぐらいは届けさせてください。」
彼のせめてもの申し出をネスは笑顔で承諾する。
そして、不安と心配、感銘と激励の言葉で騒然となったままの場内を後にした。
「・・・屈辱ですわ。よりによって、貴女にこうして抱かれるなんて。」
「悪かったなぁー。じゃ、誰にならよかったんだよ?」
ネスの何気ない切り返しにアスは顔を真っ赤にして俯かせ、指先でネスの身体に小さくのの字を書く。
「そっ!それは・・・そのっ・・・ラ、・・・ラスさん・・・に・・・」
「ラスにだぁ?・・・そいつはぁ、無理だなっ。だって、アンタ。重いもん♪」
「ま゛っ!?」
ネスの心配りの全くない一言に、アスの怒りは一気に爆発した。
「私の何処が重いんですの!?私、全然太ってなどいませんわっ!!」
「そうだな。じゃあ鍛えすぎで筋肉がやたら重いんだなっ♪まっ、どの道ラスじゃ持ち上げるのが精一杯って所だなっ♪」
「この・・・私が少しだけ気にしてることをっ!!もう許しませんわっ!!」
「・・・そんだけぎゃぁぎゃぁ騒げりゃ、心配ねーな。」
悪戯な笑顔を見せていたネスが、急に真剣な声色で答えた。
アスは彼女の真意を悟り、自嘲と呆然の溜め息を漏らす。
「・・・当たり前ですわ。貴女に心配されるまでもないですことよ。」
「そうだな。・・・さ、着いたぜ。」
ネスは控え室の扉を開け、奥の長椅子にアスをゆっくり下ろした。
アスはゆっくりと左手をネスに差し出す。
「約束、しなさい。私の相方として、必ず勝ってくると。」
「ふふっ。アンタ、私を誰だと思ってんだ?」
ネスは差し出された手を力強く握る。
「私は逃げも隠れもするし嘘は平気でつくし約束はよくすっぽかすけど、負けるのが大嫌いなネール=A=ファリスだぜ?」
「なんですの、その信用してよいのかどうか判断に困る物言いは・・・。でも、負けるのが嫌いな所だけは信用して差し上げますわ。」
「おう、信用されてやんよっ♪まっ、寝てる間にちゃちゃっと優勝しといてやっから、安心して寝てなっ♪」
ネスはアスの手を離すと、笑顔で手を振りながら控え室を後にした。
アスはその様子を横目にぼんやりと天井を見つめ、訪れた微睡みにそっと身を任せる。
(・・・約束通り、私は今日も勝ちましたわ。これでもまだ、私の名前、貴方に届きませんか・・・?)
「・・・・・・兄様。」
~つづく~
今までにない森閑【しんかん】に包まれていた会場内に突如、怒声が響き渡る。
「『もう』、無理なのか?『もう』、戦えないのか?『もう』、堕ちるのか?」
声の主は舞台上で倒れている者へ向けて怒鳴る。
「アンタは『もう』!負けるのか!!」
(・・・・・・!?)
「アンタは『もう』!倒れていいと思ってるのか!!負けていいと思ってるのか!!」
(負け・・・・・・る・・・・・・わたくし・・・が・・・?)
「それでも、お前は私の相方か!!」
(ネ・・・ス・・・。)
ネスは一旦言葉を切って大きく息を吸う。
そして、一段と大きな声で叫んだ。
「断言してやる!!お前は『まだ』!!戦える!!応えろっ!!アメリア=L=リリスゥゥッ!!」
ネスは自身に集まる驚愕の視線を気にすることなく力強くアスを見据えた。
(・・・『まだ・・・たたかえる・・・』そうだ・・・わたくしは・・・戦わなくては・・・・・・。)
アスを深淵の眠りへと引きずり込もうとしていた悪魔の手が離れる。
(私は・・・絶対・・・負けない・・・負けては・・・いけない!!)
アスの瞳に光が戻り、闘志に満ちた力強い煌きを放ち始める。
歯をゆっくりと食いしばり、痺れと激痛が支配する身体に喝を入れる。
(私は・・・負けるワケには・・・いきませんのっ!!)
軋み震える身体を無理矢理動かし、四つん這いになる。
(私は・・・誓い・・・ましたの・・・『死んでも、負けない』とっ!!)
歯を割れそうなぐらいに食いしばり、ふらりと立ち上がる。
そして、今自分が倒すべき者をしっかりとその眼に捉える。
(『最強のガンナーになる』と、約束しましたのっ!!)
ふらつきながらも構えを取るアスに、その場に居た全員が唖然として声を発することすらできなくなった。
・・・ただ、一人を除いては。
「ったく、手間の掛かる相方だぜ・・・。」
「・・・ネスさん。私の名前・・・、気安く叫ばないでくださる?」
後ろから呆れ顔で話しかけてくるネスに、アスは振り返ることなく答えた。
「そりゃ、悪かったな。まっ、これで貸し1つだな?」
「借りたつもりはないですわ・・・。貴女が五月蝿く捲くし【まくし】立てなくとも・・・あれぐらい切り抜けられましたもの・・・。」
「はっ、どぉ~だか。」
明らかに人を見縊っているような態度のネスに、アスは苛立ちを覚えて叫んだ。
「よろしいでしょうっ!その証拠に・・・、見事勝って見せますわっ!!」
「バ~カ、勝つのはたりめぇ~だろぉ?まっ、期待しないで観させて貰うぜ、お・じょ・う・サ・マっ♪」
ネスは笑いながら再びどかりと胡坐を組んで座り込んだ。
「・・・さて、行きますわよ?」
アスの不敵な笑みを浮かべ未だに唖然としている二人に向かって突撃する。
彼らにとって、自分達の技をあれほど受けた相手にまだ意識があることは到底考えられない事態であった。
二人は慌てて戦闘態勢を整えたが、その頃には既にアスは攻撃に入っていた。
「遅いですわっ!!」
アスはガルンの懐に飛び込んで左拳を鳩尾へ勢い任せに叩き込む。
相変わらずの硬度に拳が悲鳴を上げるが、アスは捻り【ねじり】込んだ。
衝撃でガルンの身体が浮き上がる。
「はあぁぁぁぁぁーっ!!」
アスは浮き上がったガルンの身体を掌で突き、あの歪みを作り出そうと構えていたバラン目掛けて吹き飛ばした。
ガルンはバランに衝突して止まる。
激しく頭を揺さぶられたせいで意識が白濁し、為すがままバランに撥ね退けられた。
アスはその隙にバランとの距離を詰め、飛び上がり胸元を目掛けて左足で回し蹴りを放つ。
バランは右腕を胸元の辺りまで持ち上げて、アスの回し蹴りを受け止めようとする。
(甘い!私、もうその手は喰らいませんことよっ!!)
アスは蹴り出そうとした足を引っ込めながら身体を回転方向とは逆に捻り、回し蹴りを無理矢理中断して一度着地する。
バランは慌てて左腕を伸ばしてアスを捕まえようとする。
しかしアスはそれよりも早く、無防備になったバランの脇腹へ靴の先端を突き入れるように左足で蹴りを入れた。
左腕が虚しく宙を掻き、バランの身体が前のめりに崩れる。
「これでっ!!」
アスはバランの顎を勢いよく飛び上がりながら蹴り上げた。
バランはその巨体を仰け反らせながら宙へと跳ね上がる。
「終わりですわっ!!」
アスの勢いをつけた飛び蹴りがバランに直撃し、とても体重のある人物とは思えない速度で場外へと吹き飛んだ。
その一部始終に囁き声一つなかったがらんどうの場内が、次第に歓喜と激励の声で埋め尽くされる。
「・・・・・・バ、バラン選手、場外!」
アスは残るガルンを真っ直ぐ見据える。
ガルンはようやく意識がはっきりとしたのか、口元を右手で覆いながらよろりと立ち上がっている所だった。
「もう一度、倒れていなさいっ!!」
アスは相手の体勢が整わない内に止めの一撃を入れるべく、飛び掛り左腕を突き出す。
ガルンは苦し紛れに右腕を突き出して反撃を試みた。
(遅いっ!!私の――っ!?)
「――避けろっ!!アス!!」
ネスが叫ぶのとアスが気付き身を捩るのはほぼ同時だった。
アスの左拳がガルンの顔を突き飛ばしたのと同時に乾いた破裂音が鈴なり状態の場内に響く。
そして、アスの足元に鮮やかに咲く赤黒い薔薇の華。
「ぶっ・・・がはっ・・・ぐっ!!」
アスは撃ち抜かれた右肩口を押さえてよろめく。
そして、起き上がってこないガルンを睨みつけた。
「な・・・何ということでしょう!?ガルン選手、輝石を隠し持っていました!!これは反則です!!」
「ガ、ガルン選手、反則!よって、この試合、ネス、アメリア組の勝利とする!」
「ふふっ・・・か、勝ちました・・・わっ・・・あっ。」
アスは体勢を崩し仰向けに倒れ込む。
しかし、彼女が予想していた衝撃は訪れなかった。
変わりに訪れたのは、暖かくて少し柔らかい衝撃だった。
「・・・っと。ったく、フラフラじゃねーか。」
「余計な・・・お世話ですわ・・・ぁっ!?」
ネスは自力で体勢を立て直そうとするアスを抱きかかえた。
「ちょっと、何するんですの!自分で歩けますわっ!」
「まーまー、恥ずかしがんなって♪」
腕の中で暴れるアスを笑顔で一蹴しながら、ネスは入退場口へと歩き出した。
その道中、アスの様態を心配して駆けつけた医療係が二人の前に立ちはだかる。
「君!早く彼女を此方へ!」
「はぁっ?何言ってんだ?」
「何って、医務室へ連れて行った方が・・・」
自分と医務室まで同行することを促す医療係に、ネスは呆れた表情で答える。
「バーカ、そんなことして戦闘続行不能とでも言われてみろ。私ら棄権扱いになって優勝できねーだろ。」
「し、しかし!」
「そうですわっ!!此処まで来て、棄権で優勝逃すなんて話・・・私は認めませんわっ!!」
医務室の診断でどちらか一方がこれ以上の戦闘続行が不可能と診断された場合、その組は棄権しなくてはならない。
二人にとって戦わずして負けるのは、戦って負ける以上に耐え難いことであった。
二人の突き刺すような鋭い視線に医療係はたじろぐ。
「こんぐらい、少し寝てりゃぁ治る。そーだろ?アス。」
「寝たぐらいで治るのは単純な作りの貴女だけですことよ。・・・でも、この程度は少し休んでいれば問題ありませんわ。」
「・・・と、言うことだそうだ。分かったな?」
「ですが・・・分かりました・・・。でもせめて、傷薬ぐらいは届けさせてください。」
彼のせめてもの申し出をネスは笑顔で承諾する。
そして、不安と心配、感銘と激励の言葉で騒然となったままの場内を後にした。
「・・・屈辱ですわ。よりによって、貴女にこうして抱かれるなんて。」
「悪かったなぁー。じゃ、誰にならよかったんだよ?」
ネスの何気ない切り返しにアスは顔を真っ赤にして俯かせ、指先でネスの身体に小さくのの字を書く。
「そっ!それは・・・そのっ・・・ラ、・・・ラスさん・・・に・・・」
「ラスにだぁ?・・・そいつはぁ、無理だなっ。だって、アンタ。重いもん♪」
「ま゛っ!?」
ネスの心配りの全くない一言に、アスの怒りは一気に爆発した。
「私の何処が重いんですの!?私、全然太ってなどいませんわっ!!」
「そうだな。じゃあ鍛えすぎで筋肉がやたら重いんだなっ♪まっ、どの道ラスじゃ持ち上げるのが精一杯って所だなっ♪」
「この・・・私が少しだけ気にしてることをっ!!もう許しませんわっ!!」
「・・・そんだけぎゃぁぎゃぁ騒げりゃ、心配ねーな。」
悪戯な笑顔を見せていたネスが、急に真剣な声色で答えた。
アスは彼女の真意を悟り、自嘲と呆然の溜め息を漏らす。
「・・・当たり前ですわ。貴女に心配されるまでもないですことよ。」
「そうだな。・・・さ、着いたぜ。」
ネスは控え室の扉を開け、奥の長椅子にアスをゆっくり下ろした。
アスはゆっくりと左手をネスに差し出す。
「約束、しなさい。私の相方として、必ず勝ってくると。」
「ふふっ。アンタ、私を誰だと思ってんだ?」
ネスは差し出された手を力強く握る。
「私は逃げも隠れもするし嘘は平気でつくし約束はよくすっぽかすけど、負けるのが大嫌いなネール=A=ファリスだぜ?」
「なんですの、その信用してよいのかどうか判断に困る物言いは・・・。でも、負けるのが嫌いな所だけは信用して差し上げますわ。」
「おう、信用されてやんよっ♪まっ、寝てる間にちゃちゃっと優勝しといてやっから、安心して寝てなっ♪」
ネスはアスの手を離すと、笑顔で手を振りながら控え室を後にした。
アスはその様子を横目にぼんやりと天井を見つめ、訪れた微睡みにそっと身を任せる。
(・・・約束通り、私は今日も勝ちましたわ。これでもまだ、私の名前、貴方に届きませんか・・・?)
「・・・・・・兄様。」
~つづく~