14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

パートA

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14sure74

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その日、建国来の現象がゲル・ドランを襲っていた。
国一番の祭事、格闘大会が例年にない盛り上がりを見せたのだ。
当初、開催時期が変更されたことにより、興行収入の低下が懸念されていた。
にも拘らず格闘大会は例年以上の盛り上がりを見せ、国全体が嘗て【かつて】ない熱気に包まれていた。

「いやぁ~凄かったなぁ~!」
「ああ、惚れ惚れしちまったよ!」
「そうだな~、強かったし、それに美人だったもんなぁ・・・。」

酒場で机を囲んだ男達は口々に感銘の声を漏らす。
彼らは皆、格闘大会を観戦した帰りだった。

「これでもちょっとは眼に自信あったんだが、結局最後まで何が起きたのか殆ど見えなかったぜ・・・。」
「あの二人は強いなんてもんじゃねえ。化物だぜ。俺達が捉えようってのが土台無理な話なのさ。」

彼らの今宵の肴【さかな】、それは今年の格闘大会に旋風を巻き起こした女性二人組の話題だった。
始めは二人の眼にも留まらぬ早業についての話だった物が、いつしかどちらの女性が好みかという話に変わりつつあった。

「俺はあの赤い髪の女性の方が好みだなぁ。ワイルドな傷痕がたまらんぜ♪」
「ネス・・・って言ったっけ。彼女は去年の大会でも、圧倒的な強さで優勝したって聞いたぜ。流石だよな。」
「彼女もいいが、俺は相方のアメリアって娘【こ】の方が気になってる。」
「名家のお嬢様っぽい見てくれなのに、去年優勝者に負けず劣らずの強さだったもんなぁ。そのギャップがいい♪」
「つーか、お前は単純に幼女好きなだけだろぉー。」

彼らの豪快な笑い声が酒場に響き渡る。しかし、それを疎ましく思う存在はなかった。
なぜなら、今宵は国中が彼女らの話題で賑わいざわめいているからだ。
建国来、初めての熱い夜は更ける。人々の関心は明日の本選を彼女らがどう戦い抜くかに集中していた。

~~~~

翌日の競技場は前日以上の賑わいを見せ、入りきれなかった多くの人々がせめて雰囲気だけでも味わおうと競技場を取り囲んでいた。

「ラスぅ~・・・大丈夫かぁ~・・・?」
「ええ、なんとか・・・。」

何とか競技場に入ることができたタクトとラスは、芋を洗うような混雑を見せる観客席で揉苦茶にされていた。
その途中、二人は昨日の段階では見受けられなかった応援旗を見かける。

「人気だな・・・ネス達。」
(この世界でも所謂”親衛隊”ってのは出てくるもんなんだな・・・。)
「そうですね。出場しなくて良かったですよ・・・。」

タクトは応援旗に書かれている言葉を目で追ってみる。

(『ネス様素敵』とか『アメリア様万歳』とかはまだいいが、『ネス様に叩かれたい』とか『アメリア様に踏まれたい』って・・・。)

実際に彼女らに叩かれたり踏まれたりしたら、恐らく命はないだろう。
タクトは件の旗を力いっぱい振っている狂信者に向けて小さく十字をきった。
そうこうしている内に、会場に設置された丸い本選試合用舞台に実況担当の人間が現れる。
そして、本選試合の開始を宣言し一組ずつ本選出場の選手を紹介していった。

「――――最後に登場しますは、今大会で大旋風を巻き起こしている優勝最有力候補の美女二人組!!」

観客の視線が一斉に選手の入退場口に集中する。
騒がしかった会場内が一瞬にして無音になる。
実況者は大きく息を吸った後、その名を叫んだ。

「ネス、アメリア=L=リリス組です!!」

その直後、大陸全土を震撼させんばかりの歓声と拍手が巻き起こり、彼女らの入場を歓迎した。
しかし、彼らの待望する二人は中々姿を現さなかった。

「・・・はて?どういうことでしょうか?現れませんね・・・。」

次第にどよめきだす観客、運営本部が少しずつ遽しくなっていく。
運営本部の指令で案内係が動き出した頃、入退場口から渦中の二人組が駆け足で登場した。

「まったく!貴女がいつまでも寝ていたせいで遅刻ですわよっ!棄権扱いにされていたら一生怨みますわっ!」
「だったら起こしてくれたって・・・!!」
「何度も起こしましたわっ!『後5分したら起きる』の一点張りだったのは貴女ですことよ!」

二人は激しい口論を交わしながら会場内に入り、立ち止まって睨みあう。

「でもちゃんと5分後に起きたじゃねーか!アンタこそ、何が『髪型がキマらない』だ!」
「人前に出る前に身なりを整えるのは、女性として当然の行為ですわっ!」
「知るかっ!私はそんなことしたことねーぞ!」
「そんな女性、貴女だけですわよっ!」
「第一、んなもんどーせすぐグチャグチャになるだろーがっ!」

鼻息荒く睨みあう二人を放っておくと、いつまで経っても先へと進めないと判断した実況者は間に割って入ることにした。

「あのー・・・。」
「なんだ!?」「なにか!?」
「ひぃぃっ!・・・あっ、あのですね、その・・・時間の方が押してまして・・・。」
「・・・あ゛っ。」

二人は会場に到着していたことに気付いていなかった。
実況者に促されて周りを見てみると、何千何万という人間が唖然とした表情で自分達のことを見ていた。

「あ、アハハハ・・・そっかぁ、時間ねぇのかぁ・・・スマンスマン・・・。」
「ヤ、ヤダわぁ・・・私【わたくし】としたことが、うっかりしてましたわぁ・・・うふふふ・・・。」

二人は気まずい雰囲気を感じ取り、慌てて取り繕った。
それから二人は実況者に先導されて舞台上にあがり、本選試合のルールや組み合わせについての説明を受けた。
時間が無制限になったこと、2名とも1度完全に気を失うか場外に落ちない限りは敗北にならないこと、舞台が大きな円形1つになったこと。
そして、2名同時に舞台に上がることが可能になったことが大きな違いで、他は予選試合のルールと大差が無かった。

「――では、これより本選第1試合を始めます。他の選手は一度控え室にお戻りください。」

実況者の合図で、本選出場者達はネスとアスの組とその対戦相手を残し控え室へと誘導されていった。
ネスは大きく伸びをしたり跳ね回ったりしながら口を開いた。

「私らが最初か♪腕が鳴るぜ♪」
「・・・ネスさん。」
「ん?なんだ?アス。」
「この試合、私一人でやらせて頂きますわ。」
「・・・いいぜ。好きにしな。」

ネスは隣に立っていたアスの申し出をあっさり受け入れると、アスの肩を軽く叩いた。
そして踵を返し、背中合わせに遠ざかって行きながらネスはアスへと問いかけた。

「・・・助けてやんねーぞ?」
「フフッ。この私が、貴女に助けを求めると思って?」
「・・・だな。」

アスの答えにネスは軽く鼻で笑いながら切り返し、自ら場外へと降りてしまった。

「・・・おっと?ネス選手、試合開始前に場外へ下りてしまいましたが何か問題でも起きたのでしょうか?」

ネスの行動を不思議に思った観客の気持ちを実況者が代弁する。
ネスは彼らの疑問を気にすることなくその場に胡坐をかき、笑顔でアスに向かって手を振った。

「・・・キミ、いいのかね?」

審判がアスに近寄り最後の意思確認をする。
先の一部始終を聞いていたとはいえ、このままでは彼女は自ら不利な状況を招くことになるからだ。

「ええ。始めてくださって構いませんわ。彼女も賛成してくれましたもの。」
「・・・そうか。キミ達が構わないと言うのならば、始めよう。」

審判は最初の立ち位置へ戻ると両手を上げ、試合開始直前の合図をした。

「おおっと!?どうやら、彼女は一人で戦うつもりのようです!?」

実況者の一言で会場内が心配と激励の声で埋まる。

「確かに予選試合では圧倒的強さを見せ付けた彼女ですが、この状況では2対1となってしまいます!」

実況者は観客が懸念している不安要素を解説する。

「流石の彼女でも、強者二人を同時に相手をすることは無謀と言えるでしょう!大丈夫なのでしょうか!?」
「――以上でルール確認は終わりとする。では、これよりガルン、バラン組とネス、アメリア組の試合を開始する!」

試合開始の合図と同時に、観客の期待を一心に背負ってアスは大きく前進する。
その口元には不敵な笑みが浮かんでいた。

(『大丈夫なのでしょうか?』ですって?・・・正直、ちょっと自信ありませんわ。)

相手はこの大会の影で阿漕【あこぎ】な真似をしているお偉方が、自分達を何が何でも討ち取るべく送り込んできた刺客だ。
少なくとも2対1でも余裕で勝てるような生ぬるい相手は寄越してこないだろう。
見た目は冴えない小太りの男と自分よりも背丈のない小男だが、それが逆に彼らの真の実力を推し量りにくくしている。
アスはほんの少しだけネスを下ろしたことを後悔する。

(彼女、チームプレイは苦手と見てまず間違いありませんわ。それならば、ヘタに出てこられても邪魔なだけですわよ。)

アスは彼女を下ろした理由を反芻【はんすう】し、自信へと変換する。
そして、最後に自分を奮い立たせるとっておきの一言を心に浮かべる。

(何よりこの程度で他人の手を借りるのは、疾風銃狂【ゲイルトリガーハッピー】の名が許しませんわっ!)

アスは真っ直ぐ突撃してくる小男、ガルンを力強く見据えて距離を詰める。
程なくして二人は連撃の応酬に入った。
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