14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

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14sure74

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(ったく、あの母熊。全力で殴りやがって・・・。)

ネスは心の中で悪態をついていた。
相手は自分を殺すつもりだし益してや獣なのだ。手加減なんて物はしてこないというのは分かっている。
それでも、ネスは悪態をつきたい気分であった。
態ととは言え殴られて嬉しいはずもないし、それ以上に反撃ができないのがもどかしい。
そして何よりも純粋に殴り合いを楽しんでいた所を邪魔されたのが腹立たしい。

(こっちに15人、向こうに20人。リーダーがバカなのか、それともアジト1つじゃまだ足りないのか・・・。)

ネスの苛立ちを更に加速させたのは、この人数配置であった。
ダイア・スロンほどの組織がアジト1つ壊滅させた人間の情報を共有していないとは思えない。
ただの放浪者ではないことを分からせるため、態々森の入口辺りから尾行【つけ】させて自分がその人間であることを確認できるように仕向けた。
当然、相手のリーダーも気付いたはずだ。
構成的にどう考えてもあの対狩人【クマ】目当ての部隊であるとはいえ、アジト1つ壊滅させた人間への報復は組織のメンツを保つため重要な任務のはずである。
普通ならば、少なくとも自分ならば現状戦力では勝てない相手だから大人しく本来の目的だけを果たすだろう。
腕自慢の数名を囮にするというのも悪くない。しかし、今回の相手の配置にはそういう意図があるとは思えなかった。
どう見積もっても、本来の目的のついでに組織としての命題を果たして手柄を立てようとしているとしか思えない。
100人以上で掛かって全く歯が立たなかった相手にたった15人でどうするつもりなのだろうか。
そもそも、あの対狩人よりも人数が少ないというのは自分がアレよりも弱いとでも言いたいのだろうか。
何かとっておきの策があるのならば是非とも教えて欲しいものだ。

(扇状散開か。ハンティングガンで猛獣を囲む陣形・・・って私も猛獣と変わらないってか!?)

ネスはこの仕打ちに怒りを通り越して笑いが込み上げてきていた。
リーダーがバカなら部下もバカということなのだろう。
こう視界の悪い場所で、図体のでかい猛獣相手ならばまだしも人間一人を相手にこの陣形は自殺行為である。
更に言えば仲間同士の距離が離れているこの状態でアイツらは小回りの利かないハンティングガンを構えている。
各個撃破してくれと言っているような物だ。

(じゃ、お望み通り・・・。)

ネスは扇の左端のガンナーに狙いを定めて姿勢を低くして突撃する。
標的となったガンナーはハンティングガンを構えて茂みを掻き分けている。
その様子はあまりに無防備で、自分が狙われていることに気付いてない。

(各個撃破、してやんよ!)

ネスは茂みの陰から標的目掛けて飛びかかる。
不意を突かれた相手は何が起こったか理解できず立ち止まり、ネスの飛び蹴りをまともに受けてしまった。
ネスは倒れゆくガンナーから手にしていたハンティングガンを奪い取る。
それを右手で水平に構えて一発、次の標的に向かって走りながら右へと発砲した。
真っ直ぐ少しだけ拡散して飛んだ散弾の内、1つが右端にいたガンナーの頭部を貫いた。
ガンナーは短い断末魔を上げて崩れ落ちる。
ネスはその様子を確認することもなく、もう一回本来の連射間隔を無視して発砲する。
そうして右端から順に2名を打ち抜いた辺りで目の前に次のガンナーが映った。
相手はこの異変に戸惑いながらもネスの姿を確認し構え始める。

「あっ!待て!ソイツは私のもんだ!」

しかし、その動作はネスを相手にするにはあまりに緩慢【かんまん】すぎた。
結局、的外れな場所に発砲することすらも叶わず懐に飛び込まれ、顎への一撃で宙に舞っていた。
ネスは計算通りのタイミングで存在可能時間を超え消滅するハンティングガンを尻目に、殴り倒したガンナーの持っていたハンティングガンを奪い取る。

「ふぅ~・・・これだから、シロートは・・・!?」

次の標的に向かって突撃を開始しようとした矢先、嫌な予感を感じてネスはその場を素早く離れる。
その直後、地面に激突し広く浅く抉っていく物体が現れる。ようやく体勢を整えたガンナーが発砲を開始したのだ。

(スコープ覗いてるな・・・。はぁ~・・・ったくよぉ~・・・)
「・・・この程度!!勘で撃てねぇでどーするよっ!?えぇっ?!」

ようやく来た追手がこの程度の数というだけでも物足りなくて仕方ないのに、今までの仕打ちはあまりにも人を嘗めている。
ネスは頂点を超えた怒りを爆発させながら突撃を再開した。

(もういいや、5分いらねぇ。2分で終わらせちまおう。あの熊と戦ってた方が面白れぇし・・・。)

無数にも思える鉛の小雨をいとも簡単に避けながら、一人また一人と殴り倒していく。
その間も得物を奪い取っては使い捨てを繰り返して2分。

「う・・・うそだ・・・もうオレ一人かよ・・・。」
「――夢なら醒めて欲しいか?」
「うっ!?うわぁっ!?」
「まっ、現実ってそんなもんだと思うぜ!・・・っと。」「うげぇっ!!」

ネスは残る一人に飛び掛りながら膝を突き入れていた。
着地と同時に、蹴り飛ばされたガンナーが地面に叩き付けられ鈍い音を出す。
ネスは自らの宣言通りに2分きっかりで15人居たガンナーを殲滅していた。

(何だ、あの母熊。随分と梃子摺って【てこずって】るじゃねーか。)

ネスが気配を探ってみると、対狩人と相対しているガンナーの数はまだ16人居ることが分かった。
ネスにとって、このレベルの相手に2分で4人はいくらなんでも梃子摺り過ぎだとしか思えなかった。

「・・・しゃーねぇ、手伝ってやっか!」

丁度、あまりに相手が不甲斐無さ過ぎて暴れ足りなかった所でもあった。
ネスは真っ直ぐ対狩人の方へと走り出した。

「あっ、ネスさん!どちらへ!?」
「おっ、流石ラス。よく私の居場所分かったな。」

ラスは彼女が予定を繰り上げて既に敵を全滅させていることを想定して移動を開始していた。
その道中で対狩人の方へと向かうネスと合流したのである。

「何処へ行くって、母熊のトコだ。」
「ええっ!?そんな所へ行って何をするつもりですか!?」
「決まってるだろ、手伝ってやるんだよ♪じゃ!」

ネスはラスの返事を待たずに走りだした。
ラスとタクトは慌ててその後を追っていく。

「おーおー、やってるやってる。私も混ぜろ♪なっ?」
「な、何だ!?ぐはぁっ!」

ガンナー達は対狩人を例の扇状散開で囲んでいた。
ネスはその内の一人に後ろから蹴り掛り、持っていたハンティングガンを奪い取った。
そしてネスは間髪入れずに対面の気配に狙いを付けて引き金を引く。
その撃鉄が起きた頃には既に別の標的に対して距離を詰めていた。

「・・・ったく、こんぐらいさっさと倒せよな!」
「ごふぅっ!」

相手のガンナーがネスに反応して構えるよりも早く、ネスは懐に潜り込むと銃床【じゅうしょう】で思い切り腹を突いた。
ネスは蹲る所に容赦なく銃口を突きつけ発砲する。脳天を撃ち抜かれガンナーは声をあげる暇もなく絶命した。
そこで限界を迎えたハンティングガンは音も無く掻き消えてしまった。

(ちっ、思ってたよりも安もん使ってやがったか・・・。じゃあ、コイツの持ってたのを・・・。)

ネスが倒したガンナーから銃器を奪い取るため屈もうとしたその時であった。

「・・・ま、そうするわな。アンタにとっては私も敵だしな。」

同じ標的を狙うつもりでやってきた対狩人が、ネスの後ろから飛び掛った。
振り下ろされた鋭い爪を、ネスは背中に背負った剣を抜いて受け止めていた。
対狩人の一撃を受け止めたネスの足元が少しだけ地面に沈む。
その怪力に、ネスは感心して思わず口笛を吹き不敵な笑みを浮かべていた。

「って、うっさいぞ!引っ込んでろ!」

対狩人の腕を弾き返しながら振り返ってひと薙ぎ。
ネスの剣は音速で飛んできた鉛弾を叩き落としていた。
その隙を突くつもりで再び頭上から迫り来る斬撃を避けつつ、ネスは対狩人の顔面に殴り掛かった。
顎の辺りにネスの拳が食い込み、対狩人の巨体が宙に舞う。
対狩人は後方宙返りを何度か繰り返して着地すると、ネスの脇へ回り込もうと駆け出した。
ネスもそれに合わせて走りだした。

その後、一人と一匹は途中で何度も衝突を繰り返しながら森の中を縦横無尽に駆け回っていた。
銀と蒼の閃光が彼方此方【あちらこちら】で輝く。
その輝きの中に時折響くのは、対狩人とネスを狙っていたガンナー達の悲痛な叫びだった。
少し遅れて現場に到着したラスとタクトはその様子を固唾を飲んで見守るしかなかった。

「・・・さてと、邪魔も居なくなったことだし。続きだ続き♪」

ガンナー達の全滅が確認できたネスは満面の笑みを浮かべて対狩人へと殴り掛かった。
対狩人もそれに応えて反撃を開始する。
その光景は命のやり取りをしているはずなのに、仲の良い姉妹がじゃれあっているかのようにも見える物であった。
その時である。

「!!」

自分を狙っていた者が全滅し、他に自分を狙う者が居ないことを察した幼獣が親を探して物陰から出てきたのである。
そして、それを狙う気配が1つ。恐らくはせめて幼獣だけでも仕留めようという魂胆だろう。
今にも息絶えそうな荒い呼吸でハンティングガン構えているのが感じ取れた。

(ちっ!あの母熊!仕留め損なったな!?)

ネスは幼獣に向かって駆け出す。
その様子に我が子の危険を感じた対狩人も後を追う。
ネスは目前に迫る幼獣を飛び越え、そして・・。

「ぐっ!・・・だぁぁーっ!!――がぁっ!!」

乾いた音が1つと鈍く生々しい打撃音が3つ、同時に光る蒼と銀の閃光。
ガンナーの頭をかち割ったネスの脇腹を凶弾が貫き、背中を三本の兇刃が抉る。
噴水のように噴出す鮮血が対狩人とガンナーに掛かった。
ネスは振り返りながら剣を地面に突き立て、杖代わりにして膝をつきそうな身体を無理矢理支える。
肩で荒く息をしながら、何故か呆然としている対狩人を睨みつけて叫んだ。

「何やってんだ!殺るならしっかり殺っとけってんだっ!!」

ネスの荒い息遣いだけが森中に響く。
一人と一匹は暫く目を合わせたまま動かなかった。
時々、母熊の後ろで幼獣が不安そうな鳴き声をあげる。

「ネスさん!危な・・・」
「大丈夫だ!さっさとタクトを連れてカーゴに戻ってろ!」

ネスは、この様子を目撃して慌ててハンドガンを取り出そうとするラスを一喝する。
そして不敵な笑みを浮かべて対狩人に問いかけた。

「さぁて、どーする?母熊さんよ・・・。私を殺るなら、今のうちだぜ・・・?」

対狩人はよろけるネスにゆっくりと近づき――。

~~~~

「――なぁ?良かったのかよ?ラス。」
「・・・良いも悪いも、あの場では僕は従うしかないですよ。」
「従うしかないって、流石のネスでもありゃヤバイんじゃ・・・。」
「ああなったらもう・・僕にはどうすることもできません。」

タクトはラスの淡々とした答えに少しだけ釈然【しゃくぜん】としない思いを感じ反論しようとした。
しかし、タクトは結局言葉を飲み込み黙り込んでしまう。
ラスは極力表情や声色に出すまいと抑えているが、自身の不甲斐無さを悔やみ彼女の身を案じていた。
タクトはラスの様子からそれを感じ取っていた。

「・・・大丈夫ですよ。彼女はあれぐらいでは死にません。必ず戻ってきます。」
(ええ、死にませんとも・・・。必ず、戻ってきます。)
「・・・だよな。彼女、殺したって死にそうにないもんな。」

ラスは運転席で発車準備をしながら笑顔で答える。
タクトはその力の無い笑顔にとりあえず笑顔を作って答える。
二人はお互いにその笑顔に何処かぎこちなさのを感じながらもどうすることもできず、車内を気まずい空気が支配していた。
そんな時だった。

・・・トン、トン。

「ん?何か、音しなかったか?」
「ええ、確かに・・・。」

突然車内に響いた音に、二人は顔を見合わせ周りを見回し発生源を探してみた。
しかし辺りは代わり映えの無い緑と茶色の光景のまま。
そして、二人が首を捻っていると突然フロントガラスに大きな影が映る。

「うわぁっ!?」「わぁっ!?」

二人はそれを見て、驚愕の声を漏らしてしまった。

「あ、対狩人の子供ですね・・・。」
「そ、そうなのか・・・。こうしてみると、意外と可愛いな・・・。」
「・・・はっ!!」
「何だ!?どうした、ラス!」

突然運転席を飛び出したラスを見て、タクトも慌てて助手席から降りる。
そして聞こえる、傍若無人で大雑把な彼女の声。

「待たせたな!ラス!タクト!」
「ネスさん!・・・ってうわあぁぁ!?」
「ネ、ネス!そいつ・・」

ネスはこともあろうに、あの時まで命懸けで戦っていた対狩人の背中に乗って無邪気に手を振っていたのである。
乗られている対狩人も嫌がる素振りを見せず、本当に初めて出会った時と同じ獣なのか疑わしいぐらいに大人しくなっていた。

「いやぁ、なんか懐かれちまってさぁー♪コイツ、見かけゴツいけど結構いいヤツなんだぜ♪」
「ネスさん・・・貴女って人は・・・。」
「おっ、流石♪発車準備万全じゃねーか、やっぱラスは最高の相棒だぜ!」
「・・・・・・そうですか、それは光栄です。最低の相棒さん。」

彼女は対狩人の上から飛び降りると、愕然【がくぜん】としているラスの肩をバシバシ叩く。
全身傷だらけで服は血で赤く染まっているが、彼女はいつも通りの元気な高笑いをしていた。
そして、海よりも深い溜め息をつくラスの皮肉に構うこともなく後部座席に乗り込み、フロントガラスを興味津々に舐めていた幼獣を手招きする。
幼獣は一度じっと親の方を見ると、ネスの胸へと飛び込んでいった。

「おーおー!可愛いヤツだなー♪・・・それに、焼いて喰ったら美味そう・・・。」
「ネ、ネスさん!」
「冗談!冗談!喰わねぇって!うん、喰わねぇって・・・・・・。」
「ネス!?・・・って、何だ。寝ただけか。」

早速夢の中で美味しい物を食べているのか、ネスは締りのない笑顔で眠っていた。
ネスの寝顔に触発され、幼獣もネスの膝の上で包まって寝る体勢に入った。

「・・・でだ。ラス。俺はさっきから、天井が若干低くなってる気がするんだが。」
「タクトさん。『気がする』のではなくて、低くなっているのですよ・・・。」

タクト達の乗ったライトカーゴの上に、対狩人が乗っかり振り落とされないように掴まっていた。

「なぁ、ラス。彼女、もしかしてこのクマ達をさ・・・。」
「ええ、連れて行くつもりなんでしょうね。とりあえず、人目に付かないよう近くの山へと移動しましょう。」
「だな・・・。」

上に乗っている珍客が暴れないかとおっかなびっくり運転を始めるラスと、それを助手席で心臓が止まりそうな思いで見守るタクト。
そんな二人を尻目に幼獣と呑気に眠り惚ける【ほうける】ネスであった。

~つづく~
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