14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

パートA

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14sure74

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「は・・・はぁっ・・・あはは・・・・・・。」
(・・・あー、何かもう、どーにでもしてくれー!)

タクトは半ば自暴自棄に陥って【おちいって】いた。
彼女はとてもノリの軽い女性なのだろう、今までの言動から何となく予想は付いていた。
断っても良いのだが、断った所でこの状況を何とかしなくてはいけないことに変わりはない。
此処が自分の見知らぬ世界であると分かった以上、一人で迂闊【うかつ】に歩き回るのは流石に危険だろう。
それに今までの様子から彼女達は何かに追われている。
この先一人で行動している時に、彼女達の仲間と思われて襲われる可能性は否定できない。
確かにそれなりの剣術こそ身につけているが、流石に実戦経験はないし第一手元に得物がない。
結局、タクトは彼女の気紛れにしか思えないような申し出に同意するしか道がなかった。

「しかし、元の世界に帰す方法を探すと言いますが、何か当てがあるんですか?」

ラスは得意満面の笑顔でタクトの肩を叩いているネスに問いかけた。

「無いっ!」
「あはは・・・って!?」

彼の不安はすぐに的中し、実に堂々と胸を張って無策を打ち明けたネスであった。

「無いんかよ!?おぃ!」
「私にはな。」
「・・・どういうことだ?」

ネスの意味深な発言にタクトは怪訝【けげん】な表情で聞き返す。
しかし、ネスはそのタクトの様子も気にせずラスの双肩【そうけん】に手を置く。

「・・・アンタにはある。そだろ?ラス。」
「うっ・・・やっぱり、そう、なりますか?」
「いいじゃんか、近いんだしっ♪」
「ま・・・まぁ・・・そうなんですけど・・・僕は・・・その・・・。」

ネスの言葉に、明らかに何かを拒絶するような態度のラスであった。
ラスのあまりの歯切れの悪さに、ネスは態と大きく溜め息をつく。

「おいおい、タクトの一大事なんだぞ?それなのにアンタは私情を挟むのか?」
「・・・分かり、ましたよ。はぁっ・・・。」
(そうさせたのは・・・貴女なんですが・・・。)

タクトには二人の会話内容の殆どが理解できなかったが、一つだけ理解できたことがあった。
ネスは始めからラスの何かを当てにしていて、ラスはできればそれを使いたくないのだ。
まだ殆ど会話もしていないが、少なくとも彼は彼女よりはずっと誠実な人間だ。
その彼があそこまで拒絶しようとしていたのだから、よほど使いたくないのだろう。

(なんか、俺が彼に悪いことした気がするぜ・・・。)

気が付けば、タクトはネスの強引さに振り回されるラスに同情していた。
タクトの同情の眼差しに気付かないラスは肩を落として溜め息を付いていた。
一人爛々【らんらん】としているネスが軽く拳を掌に打ってから口を開く。

「うっし!そうと決まったら仕度しに行くぞ!」
「えっ?仕度しに行くって・・・?」「何処へですか?」

タクトは結局二人が何処に自分を連れて行くのか分からなかったが、少なくともそう遠くない場所だろうと先の会話から予想していた。
一方のラスは彼女の性格上すぐにでも出発する物だと思っていた。
ネスの言葉に意表を突かれた形となり二人は殆ど同時に反応を返す。

「先立つ物が無いだろ?ラスの店、焼けちまったし。」
「確かにそうですが・・・でも、それなら何処に仕度しに行くと言うのですか?」
(店が焼けた。か、つまり、彼も俺と同じ被害者なんだな・・・。)
「そりゃぁアンタ。決まってるだろ。」
「・・・まさか、ネスさん。」
「そっ、アイツらのアジト。相棒の店を見事な消し炭にしてくれたお礼がてらなっ♪」
「店が焼けたのは貴女の・・・いえ、何でもありません。」
「それに治安部隊も動けないんだ。アイツら今頃、この機会にここら一帯のパワーバランスを変えようと考えてるはずだぜ。」
「もしかして、貴女は最初からこうするつもりで・・・。」
「何言ってんだ、偶然だ、ぐーぜん。兎に角、さっさと行くぞ。物資が集まってるのは今しかないんだぜ。」

ネスが戦利品のキャリアーを親指で指して出発を促す。
ラスは観念の溜め息をつき、会話について行けず一人呆然と聞いていたタクトの手を引いて助手席に乗せた。
そして、ネスが運転席の後ろに飛び乗ったのを確認しつつ運転席側へ回る。
運転席に乗り込みシートベルトを締めたラスはイグニッションキーを回してエンジンを始動させた。
重く力強いエキゾーストノイズが明るさの割りに静かな町並みに響く。

「・・・マジで、車だ。しかも、コレ、何か雰囲気的に本物の機関銃っぽいぞ。」

この、どう考えても現代科学の恩恵を受けられるとは思えない外観の町並みで、現代科学の申し子とも言うべき鉄の馬が嘶いて【いなないて】いる。
しかも自分の目の前には、玩具ではないと言わんばかりの存在感を放つ、これまた現代科学の申し子とも言うべき凶器の姿がある。
そんな神妙な光景にタクトは驚嘆【きょうたん】の言葉を漏らさざるを得なかった。

「『くるま』?『きかんじゅう』?何のことですか?」

ラスは滑らかにキャリアーの速度を上げながら、タクトの言った聞きなれない単語を聞き返す。

「何言ってんだ。車は今運転してるじゃねーか。」
「えぇっ!?タクトさんが居た世界にコレはあるんですか!?」
「うわっ!?」

タクトの回答に驚いたラスはハンドルをつい大きく切ってしまう。
キャリアーが大きく横に振られ壁にぶつかりそうになる。
ラスは慌ててハンドルを切り返して体制を立て直した。

「ど、どーしたってんだよ!?俺の居た世界にあっちゃ不味いのか!?」
「いえ、そういうワケでは。ただ・・・」
「ただ、何だよ?」
「タクトさんの居た世界にコレは存在して、タクトさんはコレを『くるま』と呼んだと言うことは・・・」
「タクトの居た世界と、私達が輝石で呼び出してる物が’在る’世界は関係があるかもしれない。だろ?・・・あ、次右な。」

二人の会話に後ろに居たネスが割り込んできた。ラスは一度軽く頷いてから話を続ける。

「タクトさんも輝石によって呼び出されたと言うことは、もしかしたら僕達はタクトさんの居た世界から呼び出しているのかもしれませんね。」
「もしかしたらって、アンタらはどの世界から呼び出してるのかってのは把握してないのか?」
「ええ。今の所、『何処か別の世界から呼び出している』という程度しかまだ分かっていないのです。」
「ふーん・・・そうなのか・・・。」
(なんだ。こーいう召喚術系の場合、ゲームとかだと『xx界から』とか場所がハッキリしてるもんだが・・・。)

フィクションみたいなことに巻き込まれてる時ぐらい、フィクションにありがちなことが起きてもいいじゃないか。
密かにそう思っていたタクトは、一人心の中で舌打ちをしていた。
そんなことをしても起きない物は起きないので、本来ならばすぐに言うつもりだった疑問をぶつけてみる。

「で、何処に向かってるんだ?・・・」
「ラスでいいですよ、タクトさん。」
「ラス。彼女は仕度をするとか言ってたが何処に向かってるんだ?」
「ダイア・スロン。まぁ、今僕達を血眼になって追いかけている方々のアジトですよ。」
「・・・やっぱり、追われてたんだな?」

やはり、あの時見えた黒い塊は追手だった。
だとすれば、彼らと別れたとしても自分が襲われないとは限らないだろう。
一緒に居ることを選択したのは正解だったかもしれない。タクトはそう感じた。

「ええ。・・・本当にすみません。こんなことにまで巻き込んでしまって・・・。」
「いや、いいんだ。もう諦めた。で、そんなヤツらのアジトに仕度って・・・。」
「色々と提供してもらうのさ。力尽くでな。」

タクトの質問にネスが答えた。
そして、ラスにキャリアーを停めさせると二人に降りるように指示を出す。
二人は言う通りにキャリアーを降りた。

「じゃ、10分ぐらい何処かで時間を潰して来てくれ。」
「無茶はしないでくださいよ?」
「何だよラス。私を誰だと思ってやがるんだ?」
「僕はただ・・・いえ、何でもないです。そうですね、貴女が彼ら程度に遅れを取るワケがないですね。」
「そういうことだ。この程度、10分もありゃ大丈夫だからよ。任せとけって♪」

ラスは何かを口篭りつつも笑顔で彼女を見送る。
ネスは運転席に飛び乗ってエンジンを乱暴に吹かせつつ、笑顔でピースサインを作って答えた。
彼女を乗せたキャリアーが荒々しい動きで遠ざかっていき、曲がり角の先に消えていった。

「・・・ふ~ん。」
「な、何ですかタクトさん。そんなににやけて、僕の顔に何かついてますか?」
「ラスってさ、彼女のこと好きなんだな。」
「なっ!?」

タクトの指摘にラスは全身をびくつかせた。

「なななな、何言ってるんですか!ぼ、僕はただ、その、心配なだけで!」

ラスの慌てて否定しようとする。
タクトはその尋常ではない慌てぶりが面白くてにやついていた。

「ホ、ホントですってば!」
「でも、良く見ると結構可愛くね?」
「そ、そりゃあ確かに綺麗な女性【ひと】ですけど・・・って何言わせるんですかぁ!?」

ラスは耳まで真っ赤にしてばたばたと一人てんてこ舞いになっていた。
タクトはその様子がおかしくて声を出して笑っていた。
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