ハルヒと親父 @ wiki
親父さんと谷口くんエピローグ
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haruhioyaji
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- オヤジ
- 母さん、ちょっと頼みがあるんだが。
- ハル母
- なんですか、お父さん。
- オヤジ
- 今から、谷口ってのが戦勝報告にくるらしい。まえにハルキョンも連れて、初デートを覗きにいった奴がいたろ? もう3ヶ月経つが、うまくいってるんでお礼方々伺いたいんだと。
- ハル母
- 礼儀正しい方ですね。ハルヒと中学から同級の人でしたね。
- オヤジ
- うーん。やっぱりうちのバカ娘は育て方を間違えたか?
- ハル母
- あれでも、外ではちゃんとしてるみたいですよ。
- オヤジ
- 粗暴なのは親父限定か。あ、それでな。男女別々に話を聞こうと思うんだが。
- ハル母
- そうなの? じゃあ、彼女さんにはお茶の用意を手伝ってもらいます。
- オヤジ
- 頼む。親父の道楽に付き合わせてすまんな。
- ハル母
- ふふ、何をいまさら。それに楽しいことじゃないと私も付き合わないわ。
- 谷口
- おじゃまします!
- 彼女
- あの、失礼します。
- ハル母
- まあ、ようこそ。さあ、上がって下さいな。
- 彼女
- (谷口君、いまのが涼宮さんのお母さん? すごい美人)
- 谷口
- (ああ。そうなんだ。あ、親父さんだ)
- オヤジ
- よお、谷口、元気そうでなによりだ。こっちの可愛らしいお嬢さんはお初だな。
- 谷口
- あ、親父さん、ごぶさたしてます。あの、紹介します。彼女が……
- オヤジ
- 『彼女』か。めでたいな。母さん、赤飯を炊いてくれ。
- ハル母
- はいはい。
- 引野
- あの、谷口君とお付き合いさせてもらってます、引野です。はじめまして。
- オヤジ
- マーヴェラス! ナイス・トゥ・ミーチューだ。なんて礼儀正しい子だ。知ってのとおり、谷口はバカだが悪い人間じゃない。よろしく頼む。飽きたり、粗相があったら、俺に連絡くれ。後腐れなく別れさせるから。
- ハル母
- お父さん、初対面の人に飛ばし過ぎです。引野さん、固まってるわ。
- オヤジ
- ああ、すまん。感動したんだ。まあ、ふたりとも座ってくれ。
- ハル母
- アロエ・ジュースなんだけど、苦手じゃないかしら?
- 引野
- あ、大丈夫です。
- 谷口
- 嫌いなものなんてないです。
- ハル母
- お口にあえばいいんだけど。
- 谷口
- (うまい!)
- 引野
- (ほんとだ。すごく、おいしい)
- オヤジ
- 実はここだけの話……
- 谷口&引野
- は、はい
- オヤジ
- おれ、人の名前を覚えるのが苦手なんだ。円周率は日が暮れるまで言えるんだけどな。あとひとつ、名前を覚えると基本的に『呼び捨て』になっちまう。だから谷口が『谷口』なんだ。気を悪くしないでくれると助かる。あ、でも、引野さんは、もう覚えたから。
- 引野
- あ、わたし、『さん付け』でなくても、全然平気です。
- オヤジ
- いや、谷口が『許さねえ』とガン飛ばしてる。だから自重するさ。今日は気分がいい。なんか、いい話を聞けそうだしな。
- 谷口
- あ、はい。その節は、いろいろありがとうございました。
- オヤジ
- なんか、したっけ、おれ?
- 谷口
- いや、その、いろいろアドバイスとか。
- オヤジ
- ぜーんぜん役に立たなかったろ(笑)?
- 谷口
- いや、そんなことは! 親父さんのアドバイスがなかったら、引野さんとも会えてないし、会っても仲良くなれなかったと思います。おれにはできない技とか工夫とか、そりゃありましたけど、肝心なとき、親父さんの言葉を思い出して、前に進めました。
- オヤジ
- そういうのは、前に進んだ奴の手柄なのさ。リスクもリターンも全部、当人が受けるんだ。もひとつ白状しとこうか。引野さんとの初デートの前に、谷口がおれんとこに来た。おれは『待ち合わせには10分遅れて行け』と言ったんだ。こいつ、何時に待ち合わせ場所に来た?
- 引野
- えっと、時間通りだったと思います。
- オヤジ
- ちなみに引野さんは何時に着いた?
- 引野
- あ、あの、あたし、方向音痴なんで、待ち合わせ場所の辺りもあまり来なくてわからないとどうしようと思って……結局、20分前に着きました。
- オヤジ
- なるほど。……あ、引野さん、なんか持ってきてくれてる。親父が喋り過ぎてタイミングがとれなかったろ。今がチャンスだ。
- 引野
- あ、はい。あの、手土産とか、そういうの、どうしたらいいかわからなくて、失礼にならないといいんですけど。
- オヤジ
- 母さん、クッキーだ。彼女が焼いたらしい。
- ハル母
- まあ、素敵。お菓子を焼いて来てくれるお嬢さんなんて! これは腕を振るってお茶を入れないとね!
- 引野
- あの、でも、涼宮さんは、お料理なんかも上手で、万能選手だって、お聞きしてます。
- ハル母
- ハルはねえ……できることはできるのだけれど、勉強も料理も、格闘技の一種だと思ってる節があるわね。親の教育が良くなかったのかしら。
- オヤジ
- 思いついたぞ、母さん。この二人に夕飯食べてって貰おうと思うんだが、どうだろう?
- ハル母
- 大賛成よ、お父さん。
- オヤジ
- ということで、ハルキョンは電話して足止めしとこう。……よう、バカップル、元気か? 今朝会っただろ? それが何の証拠になる、お天気屋め。あのな、晩飯、二人でどっか食って来い。ああ、タダとは言わん。おれと行ったことのある店なら「オヤジにツケといて」でOKだ。何をたくらんでる? 飯を食わせたい客が来たんでな、ただの厄介払いだ。遅く帰ってこいよ。今日中じゃなくてもいい。あ? そんな土産話はいらん。じゃあな。……失礼。みっともないが、これがうちの日常会話なんだ。……と、肝心の二人の賛否を得てなかったぞ。どうだろう、お二人さん? おれんちで飯食っていかないか?
- 引野
- あ、あの、ご迷惑では?
- オヤジ
- 全然。むしろ助かる。ま、あまり遅くなっても、あれだし、明るいうちから早い夕食にしよう。
- 引野
- (いいのかな、谷口君?)
- 谷口
- (いいと思う。せっかくの親父さんの提案だし)
- 谷口&引野
- すみません。じゃ、ごちそうになります。
- ハル母
- 引野さん、お客様にお願いするなんて、ほんと失礼なんだけど、お茶の用意、手伝って下さらない? 気合い入れて本格的なのを、と思ったんだけど、ちょっと大変そうなの。
- 引野
- あ、はい。お手伝いします!
- ハル母
- ごめんなさい。
- 引野
- いえ、お気になさらずに。……うわ、すごい。本格的なティースタンド。
- ハル母
- ポートベローでね、最初に、この子と目があったの。
- 引野
- それってロンドンで一番大きなアンティーク・マーケットの、ですか?
- ハル母
- ええ。でね、マーケットをあちこち回ってるうちに、次々この子の兄弟と遭遇しちゃって、なんと5人分そろっちゃったの。それをお父さんに磨いてもらったんだけどね。だから思い出はあるけど、高いものじゃないのよ。……さて、ひさしぶりにちゃんとしたブリティッシュ・アフタヌーン・ティーね。特別なお客様でも来ないと活躍する機会がないので、今日はこの子達も喜んでるわ。
- 引野
- 「特別なお客様」だなんて、そんな、……あの、恐縮します。
- ハル母
- それはもてなす側の責任ね。Please relax and make yourself at home. くつろいでもらえるとうれしいわ。
- オヤジ
- 谷口。
- 谷口
- はい!
- オヤジ
- いい子だな。
- 谷口
- はい!
- オヤジ
- よかったな。
- 谷口
- はい、親父さんのおかげです。
- オヤジ
- 「おかげ」はよせ。おまえさんの努力の結果だ。
- 谷口
- いえ、あのまま、ナンパを続けてたら『彼女』は、ひょっとするとできたかもしれませんが、彼女には、引野さんみたいな娘には会えなかったと思うし、会えても、うまくいかなかったと思います。だから、思い切って、親父さんのところに相談に来て、本当によかったです。
- オヤジ
- おまえ、女の好み、変わったろ?
- 谷口
- え、あ、はい。そうですね。引野さんみたいな娘、前は全然イメージしてなかったです。
- オヤジ
- ……京都の北西の方に御室寺って寺があるんだけどな、そこは八重桜ってのが、たくさん植わってることでも有名なんだ。八重桜は咲く時期が遅くて、俺たちが花見でイメージする桜、ソメイヨシノとかああいうのな、普通の桜が散って青葉が出た頃に咲く。だから口の悪い京都人の間じゃ「嫁ぐのに行き遅れた女性」を『御室の桜』と呼んだりするんだが……。4月に咲こうと5月に咲こうと、花は花だし、鳥たちも虫たちも来てくれる。だから自分の時期に自分の花を咲かせりゃいい。……という絵本を読んだことがあるんだが、知らないか?
- 谷口
- え、ええ。わからないです。
- オヤジ
- そうか。今度探しとく。見つかなけりゃ自分で作る。絵も話も、頭の中にはあるんだ。いずれにせよ、手に入ったら知らせるから、もらってくれ。
- 谷口
- え? あ、はい。
- オヤジ
- 押し付けがましいが、卒業証書みたいなもんだ。
- 谷口
- は、はい!
- オヤジ
- ……ん、スコーンを焼く匂いだ。なんかお茶まで本格的だな。うちでは、いい客が来ると、いいものが食えるんだ。