ハルヒと親父 @ wiki
親父さんと谷口くん5
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haruhioyaji
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- 谷口
- 親父師匠!
- 親父
- 誰かと思えば谷口か。今日は何だか悩んでなさそうだな。
- 谷口
- はい。あれからいろいろ紆余曲折ありましたが、なんとかデートの約束までこぎつけるところまで行きました。
- 親父
- そうか、100人斬りナンパ・エクスポージャまでやったのか。
- 谷口
- はい、断られるのが前提で声をかけるのは、なかなかきついものがありましたが、確かにたかだか断られるだけ、誰も声をかけるなりゲロを吐いたり殴ったりする人はなかったです。
- 自分が内気だとは思ってませんでしたが、それに気付いて克服することができました。今では鼻からスパゲッティ食べて逆立ちでグランド1周くらいできそうです。
- 親父
- そうか。しかし鼻からパスタはやめておけ。で、今日は?
- 谷口
- はい。ご報告と、最後のアドバイスをいただきに参上つかまつりました。
- 親父
- うむ。まあ、ドタキャンされても泣かないようにな。
- 谷口
- 今度は大丈夫であります。
- 親父
- そうか、何度もそういう目にあったのか。では、最後に3つのアドバイスを授けよう。
- 谷口
- ははっ。
- 親父
- その1。待ち合わせには、10分ほど遅れろ。
- 谷口
- えっ?
- 親父
- 最低10分は遅刻しろ。
- 谷口
- それはなんで?
- 親父
- 意味は何重にもあるんだが、最も大きいのは、待ち合わせする集団では最後に着たものが一番偉い、という法則があるからだ。なんとなれば、もし最後に着たやつが偉くもなんともなければ、みんなはそいつを待たずさっさと行ってしまうだろう。
- 谷口
- な、なるほど。
- 親父
- ついでにいうと、初デートのときは、女性が遅れてくることが多い。というより、むしろ男は何分も先に着て待っていることが多い。自分が女日照りで女性経験が少ないと告白しているようなものだ。足元見られる、というか、その手合いは食いモノにされることが多い。女性から見ると、どれだけ自分の言いなりになるか、それで計れるからな。
- しかし、男の方は、10分の遅刻が無限大のリスクのように思えて耐え難い。これまでの苦労が水の泡になるんじゃないか、とハラハラしてしまって、ついつい時間より早く着いてしまう。ここは自分との戦いだ。イニシアティブを握るためには、遅刻せよ。
- 10分程度で怒って帰ってしまう女なら、どうせ長続きはしない。そして自分を待っている男と、自分が待ってなきゃいけない男とでは、希少性が違う。後者の方が希少性が高く、より価値が高いように感じる。脳がそういう風にできてるんだ。
- 無論、誰もがケータイを持ってる時代だ、電車が遅れてて時間に間に合いそうにないと、まともな理由を先に電話しとけ。もしケータイの番号をまだ知らないなら、今度こそ教えてくれるだろう。
- 谷口
- ははあ。いきなり目からうろこです。そういうものですか?
- 親父
- その2。デート中は、自分の話をするな、相手の話を聞け。まあ、これは基本中の基本だが、勘違いする奴もいるので注釈する。聞けといっても、相手のことを聞き出そうとするな、相手の話を聞き流せ。
- 谷口
- 流すんですか?
- 親父
- そう、食いつくな。相手の情報に飢えているところをあからさまにするのは、待ち合わせの何十分も前から待っているのと同じ事だ。だから、こちらからは質問するな。中でもイエス/ノーで答えられる、いわゆる「閉じた質問」はするな。逆に相手が質問してきたら、なるべく短く答えて、向こうに同じ質問を返せ。「女:兄弟はいるの? 男:兄が一人。君んとこは? 女:うちは姉と妹」って流れだな。
- 谷口
- 聞き流してしまうと、相手に怒られませんか?
- 親父
- 「聞き流し」は、相手を無視することじゃない。ちゃんと相手のほうに自分の体を向けて、顔を見て、あいづちを打つ。全身で聞いてます、というシグナルを出せ。そして相手の細かい表情、しぐさ語ってることを見逃すな。声の大きい奴ほど、話すことで何かを隠してる。無口な人の方が、表情とかしぐさでいろんなことを教えてくれてる。
- 谷口
- は、はい!
- 親父
- 「流す」というのは、こちらから話題を掘り下げたり、詳しく聞きだしたりはしない、という意味だ。相手がつくる流れにそのまま乗っかって、自分の方で流れを作ったりしない、ということだ。初デートの会話の失敗パターンは、一番多いのが自分のことばかり話す、次が無神経にプライベートなことを聞き出そうとする、だ。相手の事が知りたいのは無論当たり前だが、そんなのはつながりが切れなければいくらでも機会がある。また、好きなものをわざわざ質問して答えさせるのは、「それをプレゼントします」と言ってるようなもんだ。
- 谷口
- な、なるほど。
- 親父
- いいか、谷口、恋の駆け引きはケチが勝つ。なるべく与えず、自分の愛情の希少性を高めたものが主導権を握る。ご褒美ってのはな、毎回与えた方が勝負は早いが、相手が「腹いっぱい」になって飽きたり食傷したりするのも早い。与えるものは、言葉でもモノでも、機会の度にではなく、何回に一回,にした方が、ご褒美がなくなったときでも同じ行動が続く。最初は頻度高く、段段低くしていくんだけどもな。
- 最も良いやり方は、何回に一度の確率でランダムに与えたり与えなかったりすることだ。こうなると、ご褒美で強化された行動は、ご褒美がなくなったとしても、最も長く維持される。これはギャンブルのパターンそのものだ。だからギャンブルから人はなかなか抜け出せん。同じく、気まぐれ女に、男がはまる理由でもある。この辺は、女性向けだが『THE RULES-理想の男性と結婚するための35の法則』って本が分かりやすいだろ。
- 谷口
- ははあ、この谷口、不明でありました。
- 親父
- このシリーズ、おまえ、キャラ変わってないか? その3。デートのスケジュールはタイトに、移動時間は最低限に、だ。あるいは移動自体をイベントにしろ。出来事をつぎつぎ起こせ。迷うな、相手に聞くな、考えさせるな。予定変更は折り込んでおいて、オプションを用意しとけ。あっという間に一日が終わるように、出来事で埋め尽くせ。コース料理だから、ひとつひとつは軽いものでいい。バリエーションは欲しいけどな。
- 谷口
- あの、別れ際に、次のデートの約束をするのは?
- 親父
- 希少性といったろ? それは向こうから言わせろ。言ってくるまで待て。別れ際は、相手が見えなくなるまで見送れ。そして、しばらくはその場で、その日の一人反省会でもして、ぼーっとしてろ。ごく稀だが、相手が戻ってくることがある。あるいは、もう少しだけましな確率だが、お礼のメールが帰ってくることがある。
- 谷口
- そ、そのときは、また会っていいんですか?
- 親父
- いいとも。戻ってきた場合は言うまでもないな。お礼メールには「こっちこそありがとう。今、さっき別れた場所で今日のことを思いだしてた」と本当のことを返答しろ。向こうにも、共有してるはずの記憶を思いだして思いたいからだ。「きみのことを思いだしてた」だと、おまえのすけべ心だけがつたわる。ここでも確率は高くないが、相手が戻ってくることがある。本当におまえがいたら、ちょっと感動モノだろ?
- 谷口
- は、はい。
- 親父
- まあ、普通はそのメールに「また、会おうね」程度のメールが帰ってくるくらいだが、ここがポイントだ、谷口。ほんとのナンパはな、こっちがして欲しいこと、言って欲しいことを、相手から《自発的》にやってもらうところに成立する。そのためのしこみがすべてだ。人にむりやり言わされた言葉は消えてなくなるが、「自発的」に口にした言葉や行動は、そいつの中に残って、その後の言葉や行動を方向づける。魔法はかかった、ということだな。ロバート・B・チャルディーニの『影響力の武器』でいう「コミットメントの原理」の応用だ。……まあ、がんばれ。グッドラック。災いが汝を見失うように。
- キョン
- あの、親父さん。
- 親父
- キョンか。友人のこととは言え、立ち聞きはマナー違反だぞ。
- キョン
- すみません。
- ハルヒ
- あんたがまた、トンデモ発言をしないか見張ってただけよ。
- 親父
- おまえもか。ハルキョンに聞かれるとは、運のない奴だな。
- ハルヒ
- どういう意味よ。
- 親父
- なんか、おまえら幸せのブラックホールだろ。
- ハルヒ
- 失礼な。人様の幸せなんて入らないわ、配って歩きたいくらいよ!
- キョン
- 谷口の奴、あれでうまくいくんでしょうか?
- 親父
- どうだろうなあ。相手の娘が、どういうのか分からんしな。そういや成果については、今まで考えたことがなかったな。
- ハルヒ
- 無責任な!
- 親父
- 責任を感じて、こっそり覗いてやろう。
- ハルヒ
- やめなさい! それでなくても、あんたは前科があるんだからね!
- 親父
- まだ、根に持ってるのか。あれで、キョンは涼宮家公認になったというのに
- ハルヒ
- そんなのありがたくも何ともないわ。
- 親父
- しかしバカ娘、今のは名案だ。……もしもし、おれだ、親父だ。明日、どこで何時に待ち合わせだ? ああ、方位と時刻で運勢を占ってやろうと思ってな。なるほど10時に@@駅の西口か。待ってろ、結果はメールしてやる。それじゃ頑張れ。無理はするなよ。……ざっと、こんなもんだな。
- ハルヒ
- 詐欺師。
- 親父
- 占いなんて、半分は暗示、残り半分は詐欺みたいなもんだ……よっと。
- キョン
- なんですか、それ。
- 親父
- 自作の占いソフトだ。
- キョン
- さすが、親父さん。なんでもありですね。
- 親父
- 寿司占いにするか。
- ハルヒ
- 日時と場所に、何の関係もないわね。
- 親父
- そうでもないぞ。寿司ネタに惑星を対応させてるから、一応ホロスコープができる。
- ハルヒ
- だったら、普通の占星術でいいじゃないの!
- 親父
- 日本向けにローカライズしたんだ。
- ハルヒ
- 日本を勘違いしているガイジンみたい。
- 親父
- ちなみにハラキリはヨッドの意味だ。
- ハルヒ
- 無理にややこしくするんじゃない!
(デート当日)
- ハルヒ
- ふーん、なかなかかわいらしい娘じゃないの。ほら、キョン、口を開けなさい。あーん。
- 親父
- おまえら、なんで付いて来てるんだ?
- ハルヒ
- 親父の暴走を止めるために決まってるでしょ。もう、キョン、口元汚れてる。
- 親父
- おれの財布でデートってわけか。
- ハルヒ
- そうよ。たまには親父らしいことしなさい!
- 親父
- 娘のデートに同伴して、金を出してる親父なんてどこにもいないぞ、多分。
- ハルヒ
- なんか、二人ともあんまり喋んないわね。
- 親父
- 普通はあんなもんだ。おまえらが、というか、おまえが喋りすぎなんだ。
- キョン
- それにしても、あの谷口が聞き役に徹してる。親父さんマジックだ。
- ハルヒ
- あんまり喋んない娘相手にそれやると、空気が重苦しくならない?
- 親父
- 悲しくなるほど、見る目がねえな。喋らない奴だって、言いたいことや話したいことを持っている。いや、考えずに喋りつづける連中よりも、頭の中にそういうのをたくさん抱えてたりする。声にならなくても、表情や目の動きや細かいしぐさで、あの娘は、いろんなものを谷口に知らせようとしてる。自分が静かにしてないとな、そういうものを見落としがちなんだ。
- ああ見えて、谷口もこの間いろいろあったんだろう。一生懸命、聞こえない声に耳をすましてる。それが彼女の方にもわかるから、だんたんとしぐさや表情がはっきりして来た。ここらへんがフッサール・ポイントだな。もうすぐチョムスキー臨界を超えるぞ。
- ハルヒ
- なによ、それ。
- 親父
- 彼女が何か言うってこった。ほら。
- 彼女
- あの……ごめんなさい。……谷口さん……楽しくて、いっぱい喋る人って、……聞いてたんです。
- 谷口
- え、あ、ああ。ごめん、退屈だったかなあ。普段はべらべら、あることないこと、確かに喋るけど。
- 彼女
- あの、……あたしじゃ話づらいですか?
- 谷口
- いや、全然そうじゃなくて! おれ、あんまり頭良くないから、ちゃんと説明できるかわかんねえけど、ある人にこんなこと言われたんだ。『声の大きい奴ほど、話すことで何かを隠してる。無口な人の方が、表情とかしぐさでいろんなことを教えてくれてる』って。今日やっと、なんか、それが分かった気がする。
- 彼女
- ごめんなさい、あの、あたし、すぐに赤くなったりして、言いたいことの半分も言えなくて、それで……。
- 谷口
- いや、おれも、その、女の子が大好きで、よくナンパとかしたりするんだけど、全然うまくいかないんだ。で、その人に相談したら、今みたいに言われてさ。おれ、多分、自分のことばかり喋って、相手のこと全然見てなかったんだな。@@さんは、話してるおれのこと、ちゃんと見てるな、って思った。おれが何か言ったら、絶妙のタイミングでうなずいてくれるし、今の話はびっくりしたんだな、とか、あ、いまのは面白かったんだな、って、よく分かる。あれ、おれ、何言ってんだろ?
- 彼女
- 始めてです。
- 谷口
- え?
- 彼女
- そんな風にあたしのこと言ってくれた人。そんな風にあたしをちゃんと見てくれた人。
- ハルヒ
- あれ、ちょっと、キョン、親父、どこいくの? これからってとこじゃないの?
- 親父
- バカ娘、これ以上は有料チャンネルだ。
- ハルヒ
- 何バカなこと言ってんのよ!こら、親父!
- 親父
- バカはおまえだ。
- キョン
- ……ハルヒ。
- ハルヒ
- 何、キョン、この手?
- キョン
- 親父さんには悪いが、二人でこれからどっか行かないか?
- ハルヒ
- え?え?
- キョン
- 駄目か?
- ハルヒ
- 全然駄目じゃないけど、放っておいていいの、あの二人?
- 親父
- 放っておいた方がいいんだよ。
- ハルヒ
- あのアホの谷口よ、これからどんなヘマやらかすか、わかりゃしないわよ。
- 親父
- だとしても、あとは神のみぞ知る、ってことだ、バカ娘。あの後、谷口がバカやって振られるなら、それもまたよし。マトモにコミュニケーションが取れた相手から、やっとマトモに振られることになるんだからな。経験値ってのは、こういうところで稼ぐんだ。
- とりあえず友達から、っていうなら、なおよし、だ。そんなとこだろ、なあ、キョン?
- キョン
- そうですね。しばらくは、彼女の話ばかり、聞かされそうだな。
- ハルヒ
- あんたたち、甘い甘い大甘よ! そんなうまい話、あるわけないでしょ!
- 親父
- やれやれ。自分たちのこと棚に上げて、どの口で言うんだ?