ハルヒと親父 @ wiki

新落語シリーズ「出来心」

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haruhioyaji

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 大盗賊石川五右衛門の辞世の句に「石川や 浜の真砂は 尽きるとも 世に盗人の種は尽きまじ」と申しますが、落語のほうに出てくる泥棒は、あまり後世に名を残すような立派な泥棒はおりません。もっとも立派な泥棒、成功して功成り名を遂げたなんていうのは、ちょっとおだやかじゃあない。これをやりそこなうところが噺のネタになるようで。


「みくる、みくる」
「はあい。なんでしゅか、鶴屋の親分しゃん」
「いやさあ、『仕事』の方はどんな具合だろうと思ってね。みくるのドジっ子ぶりはよく知ってるし、かわいいとは思うんだけどさ、これだけの大所帯だと若い連中がいろいろ言ってくるっさ。『あの娘は見こみがないんじゃないですか? 今のうちに足洗わせて堅気にしてやった方がいい。なんなら俺が……』とかなんとか。いやあ、みくる、モテモテだねっ!」
「そんなあ。ドロボーはまだできないけれど、きっと覚えましゅ。 わたし、わたし...おねがい!一緒に行きたいですぅ!」
「ばかなことを言っちゃあいけない。また、闇の中に戻りたいのかい。っていうか、うちって一応盗賊団なんだけどさ」
「わたし一生懸命がんばりましゅから、どうかいままでどおり置いてください」
「みくるなら、きっとそう言うと思ったにょろ。まあ、いい考えがあるから、にょろ〜んとお姉さんに任せてみるっさ!」
「は、はあい、よろしくお願いしましゅ」
「とりあえず、ちっこいのでいいから泥棒仕事を成功させるっさ。空き巣なんかビギナーにいいと思うにょろ」
「空き巣ってなんでしゅか?」
「あっはっは、ビギナー未満だねえ。空き巣ってのは、留守のお宅に訪問して、金品を頂いちゃうって寸法さ!」
「わ、わるいことはよくないと思いましゅ!」
「よい泥棒というのはどういうんだい?」
「屋根から小判をばらまいたりとか」
「その小判をどっから手に入れるかが問題っさ」
「はうう。難しい事を考えると、あ、あたまがっ」
「……まあ、早い話が、夫婦ふたりっきりなんて家で、亭主が稼ぎに出てる、かみさんは夕飯の支度ってんで、ちょいと買い物に出てりしてる、なんてところをお邪魔するっさ」
「はあ、でも外からじゃお留守かどうかわかりましぇん」
「おじゃましますと言って、内から返事がなけりゃ万事OKっさ!。むしろ心配なのは、みくるはドジっ子だから、中で盗んでるうちに時間がかかり過ぎたりして、家の者や近所の者に見つかるかもしれないにょろ」
「あわわ、どうしゅるですか?」
「神様はどんな人間にもひとつは良いところを与えてくれてるっさ! そういう時こそみくるの武器を使うにょろよ!」
「ぶ、武器!? えと、押し付けたりとか挟んだりとかでしゅか? え、エッチなのはよくないと思いましゅ!」
「それは同人誌の読み過ぎにょろ。みくるの場合は、素直に謝っちゃうのが吉、いわゆる泣き落としってやつだね! 『親一人子一人、母親が三年越しにわずらっておりまして、これを質にでも入れれば、お母さんに薬のひとつ、うまいものの一つでも食べさせてやれると思いまして、ほんの出来心なんですぅ』と、涙のひとつでもこぼしてみるっさ。向こうさんも、かわいいみくるにそこまで言われたら『それはかわいそうに、ほんの出来心じゃしかたがねえ』と勘弁してくれること間違いなしっ!」
「う、うまくいくでしょうか?」
「あとはみくるの演技力次第さ! さあ、段取りをにょろーんと復習してみようかっ!」
「えーと、んーと、まず『ごめんください』と声をかけて、返事がなかったら留守だから内に入ってお仕事をしゅる。それと、返事があったら人がいるということだから、しゅみません、つい出来心で」
「盗みもしないうちから、罪の告白なんてしないでいいにょろ。返事があったら、無言で立ち去るのも怪しいから、しらばっくれて何かものを尋ねるといいねえ」
「えーと、神様や死後の世界を信じましゅか?」
「いや、いきなり価値観を問うような質問はどうかと思うにょろ。『この近所に○○さんという方はいませんか?お宅をさがしてるのですが道に迷ってしまって』くらいがいいと思うねえ。相手が知ってても知らなくても、ぺこりと頭をさげて『ありがとうございました(にっこり)』とやれば相手も悪い気はしないにょろよ」
「そうでしゅかあ。では、さっそく行ってまいりましゅ」
「みくる、みくる。その手から下げたものはなんだい?」
「あ、エコバックでしゅ。たくさん入るし、たたむと小さくなるし、盗んだものを入れようと思って」
「落語では風呂敷がデフォルトにょろ。泥棒は手ぶらで行って、その家にある風呂敷で盗んだものを包んで帰るくらいでないとねっ!」
「そうでしゅか。では行ってきましゅ!」
「がんばるにょろ〜」


「ごめんください〜」
「何か用?」
「あ、お家の方がいらした。こういうときは、えーと……あの、この辺に涼宮ハルヒさんのお宅はありませんか?」
「うちだけど」
「ひょえー。設定では涼宮さんはキョン君と夫婦になってるはずでは?」
「キョンはうちの旦那だけど、それが?」
「で、でも、涼宮さんは、変わらず涼宮さんなんですか?」
「あんたね、夫婦同姓なんてのは明治以降の話よ。ちゃんと日本史の授業聞いてたの?」
「すみません。新作落語だと思ってたので、うっかりしてたですぅ〜」
「っていうか、あんた誰? わかったわ、キョンのやつね。あいつ、今日はあたしの帰りが遅いとおもって女をひっぱりこんだのね! まったく、なんてエロキョンなの!」
「しゅみません、つい出来心で」
「あれからいくらも経ってないのに、また女を引っ張りこんで、どういうつもりよ!」
「また、って前もあったんでしゅか。ひょええ、キョン君、大胆でしゅ。むしろ命知らずですぅ!」
「まったく、女と見れば誰彼なくやさしくするから、こういうことになるのよ!」
「ふぁああ、誰彼なしでしゅか。女の敵でしゅね」

 そこにのんびりキョンが帰って来たから、さあ大変。

「ふー、ただいま。ハルヒ、今日は早かったんだな」
「お、か、え、り」
「ん?どうしたんだ、ハルヒ?」
「それはこっちのセリフよ。あんた、これ、どういうこと?」
「どういうことって、そっちの人は?」
「とぼける気ね。いいわ、今日はとことん話しあいましょう」
「って、指をばきばき鳴らしながら、拳つくって何の話し合いだ? ハルヒ、落ちつけ。とにかく落ちつけって」
「拳を箱に見たてて、箱(box)をつくるから、ボクシング(boxing)っていうのよ!」
「ぐあ!」
「あんた、プロポーズのとき、何て言った? おまえと一緒になれないなら出刃包丁で自分を刺して死ぬって、出刃かイエスか、イエスか出刃か、ってあんまりなさけないから、かわいそうになって一緒になったんじゃないの! それを浮気ってどういうことよ!?」
「ひょええ、キョン君。そんななさけないことを言って、涼宮さんの心を盗んだのですね。とんだ恋どろぼうです!」
「がはっ! ハルヒ、落ち着け。な、とにかく、落ち着けって。あなたからも何か言ってください」
「しゅみません、つい出来心で」
「そうじゃないでしょ! は、ハルヒ、火鉢はやめろ。そんなもの持ち上げるな。痛いじゃすまないぞ! って、うわあああ」


元ネタ:落語「出来心」、ちょっとだけ落語「〆込み」をプラス


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