ハルヒと親父 @ wiki

オヤジ野球8

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haruhioyaji

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 5回裏、親父チームの攻撃。

 1球目、おれはハルヒにナックルのサインを出した。

 親父さんはどんなズルを使ったかわからんが、ナックルは本来、ボールの握り方、放し方も特殊なら、投げるフォームも(普通は)異なる。
 つまり、投球フォームを見ていれば、打者は投げ込まれる球種がナックルであることを事前に察知できる。
 それでも、どう変化するか(投げた者にも)わからず、打ちづらいのが特徴だ。

 ハルヒはこの試合、今まで力押しのストレートしか投げてない。

 だからこそ、親父チームの面々には、驚いてもらわないとな。
 性格からは、実の親父さんにすら予想できないハルヒの変わりっぷりにだ、

「ボール!」

 ナックルはボール1個分、ストライク・ゾーンの下を通った。
 しかし、ハルヒの投げた球は、揺れに揺れ、打者の手前で驚くほど沈んだ。
 おれは覆いかぶさるようにして、なんとか気まぐれなボールを押さえ込む。

 「!!」
 さすがは怪しい親父チームというべきか、今の一球で、何が起こったのか、すぐに理解したらしい。
 しかし、理解するのと、対応するのとは、話が別のはずだ。

 ざわめきを制しておいて、親父さんが叫ぶ。
「変化球とは汚ねえぞ、バカ娘! そんな根性のひん曲がった娘に育てた覚えはないぞ!!」
「黙ってホゾでもかんで見てなさい! 娘の成長ぶりをね!!」

 振りかぶって、ハルヒの二球目。
「ストライーク!」
胸元を通り過ぎる、飛燕のようなストレート。

 「悪い男にでもひっかかったのか? どこの馬の骨だ?」
 親父さんは、あからさまにウソ泣きするが、その程度では、今のハルヒの集中力を切ることはできない。
 まるで意に介さず、3球目を外角低めから落ちる高速スライダーで、打者を追い込んだ。
「ストライク。ツー、エンド、ワン」

 ボールを投げ返すと、ハルヒはあごを引いて、サインを要求する。
「みんな、打たせて取るぞ!」
7人の声が返って来る。
「おおー!!」
 ハルヒは黙ってうなずき、サイン通り、へそから膝の高さに落ちるフォーク・ボールを内角に投げ込んだ。

「ストライーク。バッター、アウト!」


 5回の親父チームの攻撃を3者三振の出来過ぎの結果で終え、三塁側のベンチにチームメイトが戻る途中、おれは二人に声をかけた。
「長門、投球練習しといてくれ。鶴屋さんもお願いします」
「わかった」「まかせるにょろ〜」
「古泉はもう一人のキャッチャーを頼めるか?」
「わかりました」
「ち、ちょっと、キョン! あたしはまだ全然投げられるわよ!」
「当たり前だ。だが、敵にまで教えてやることはない。そうだろ?」
「つまり、相手を混乱させる作戦ってこと?」
「そうだ」


「おい、バカ娘! 張り切ったはいいが、もうスタミナ切れか?」
案の定、親父さんは、長門と鶴屋さんの投球練習に食いついてくれる。

「バカ親父がなんか言ってるけど、どう答えたら良いの?」
「いつも通りでかまわん。『そんな訳ないでしょ』くらいでどうだ? 相手にどっちが本当か、考えさせようぜ」
「そうね……。バカ親父!! 誰に向かって言ってんの!? 腕が折れたって、軽く完投してあげるわ!!」

























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