時計の針さんご相談。ちょっくら右に回りんさい。
地球の土さんご案内。もうちょい緑に成りんさい。
そんで干支さん悪いけど。みんなとも一度会いたいな。
そんなこんなな過去話。はなまるみたいで、いぬ○みたいな。
とにかく元気なこどもたち。
元気だったよ、こどもたち。
それじゃあ始めといたしましょう・・・
地球の土さんご案内。もうちょい緑に成りんさい。
そんで干支さん悪いけど。みんなとも一度会いたいな。
そんなこんなな過去話。はなまるみたいで、いぬ○みたいな。
とにかく元気なこどもたち。
元気だったよ、こどもたち。
それじゃあ始めといたしましょう・・・
それは六月後半の頃、一昨日までは雨だったけど、すっかり晴れた梅雨の中休みの日の事で。
ここはねとある国立大学、その門近くのひとつの建物。
中にはおとなとたくさんのこどもたち。大体3から6才くらいの。
まあつまり、ここは幼稚園なんです。
みんなみんなの制服水色、胸には黄色いチューリップ形の名札。今は朝の登園時間、来た子は帽子とカバンを身につけ、靴の履き替え頑張ってるよ。
ぞろぞろみんなは自分の組へ、その中この二人は立ち止まったままで。
「ねえねえタカくん、きのうのはなし!」
「ちゃんとみてたってば、みおちゃん」
一人は元気な女の子、一人は活気な男の子。
男の子は天志、だからタカくん。女の子は澪、だから澪ちゃん。
二人はとっても仲良しで、いつも一緒に遊んでる。さてさて今日は、何して遊ぶの?
それとももうさ、始まってるの?
「よかった! ちゃんとみてたのね」
「あったりまえだろ、ちょーかっこよかったぜ」
お部屋に行かずこの二人、どうやら立ってのお話のようで。
「ゴマータやっぱりほーこーおんちね」
「ブルーのかいりきいいよなぁ」
「え……?」
「……え?」
これは一体どうしたことか。話し始めたと思ったら、二人はそこまでお口を閉じる。
「……なんでみていないのよぉ!」
「みおちゃん、またねぼうしたのー」
またもや口を開いた時には、何やら二人はゴキゲンナナメ、ぷんすかぷんすかそんな音も聞こえます。
「なんでさっかーいっちゃうの、みんなのたびをちゃんとみなくちゃ!」
「そっちだって、ちゃんといつもねてられるのは、ギンガリラがうでふってるからなんだよ」
「うそよ、あのこあしになっちゃうじゃない! どうやってふるっているのよ!」
「シルバーひめだって12こもわるいとこあるんだぜ、よっぽどかっこわるいって」
「おうまさんの、ブルーホライズンさんもかわいそうよ! あんなおもいひとのせてはしらされてさ」
「ストンストンとアラエッサだって、ああいうのをきぐろうするっていうんだろうな」
そこまで言ってこの二人、またまたお口にチャックをかける。
おかしいぞ? 何がだろう? 分かるよね。大好きだもの。
「みて、くれてるの」
「……あめふってそとでれなかったの」
「え……うん、そうだね、こんどはいっしょにみようね」
おかしいぞ? 昨日だって? 久々にお日様が顔を見せた日なのに。
空気を読んで澪ちゃんは、タカくんの嘘に付き合ってくれた。嬉しく笑いながらタカくんに言ったのに、タカくん急にそっぽをむいちゃった。
「どうかした?」
「なんでもない」
嘘だよね。なんでもなくなんて絶対ない。
ここまではいつもの照れ屋なタカくん、しかし今日の君はいつもと違うな。
カバンにうまく隠してあるけど、ちょこっと膨らみがかなり不自然だ。
「あ、そろそろいかなくちゃ」
「そうだった、でもその前にね、みおちゃ」
「おおーう、なんだよぉ、おも白いはなしならきかせろよぉ」
タカくんカバンから手を引っ込める。みおちゃんと声のした方を向く。
不機嫌そうなタカくんの顔は、苦々しいったらありゃしない。
「なんだあ、またおまえらふたりでいんのなぁ」
二人より少し大きな男の子、目だけじゃないよ、体全部が。名札の名前は『おがわよしひろ』。
二人より1つ年上だけど、そんなの小川くんは知りません。
「べつにおがわくんにはかんけーないよ」
「おいなんだよそのたいど、おれはとし上だぞ、ちゃんとけーごでしゃべれよな」
大きなおめめをギヌロと回して、小川くん、少しタカくんに近付いた。
わざわざどしん、っと音を立てたものだから、タカくん思わず後ずさる。それでも、まだ、タカくんは怯えていない。だって視界の隅っこに、やはり戸惑う澪ちゃんがいるから。
別にいいのですタカくん自分は、澪ちゃんさえ無事なら、あとは。
あ。え? それはタカくんの吐息のような小声。
しまったと思ったのがしまったと後で思う。
何もないなら無視すればいいのに、大事な大事なものが入ってるから、思わずタカくん、カバンを掴んでいた。
「おい、なんだよそんなのたいせつそうに」
『大切』なんて知ってたんだ、すごいね小川くん君ってやつは、今最高に意地汚く笑っている。
「べつに」
「かせよ」
「なんで」
「わたせ」
「いやだ」
「てめえ」
「やめて」
最後は澪ちゃん思わず叫んで、それでも小川くんタカくんに手を伸ばす。
あっちににげろ、こいつにわたすな、タカくんの想いは年の差には勝てなかった。小川くんとうとう、タカくんのカバンを握る。
この後タカくん澪ちゃん何を思ったか、言ってもきっと笑わないよね。
誰もが思うことだから、特にこのくらいの子達だと、もっと真剣に思う事だから。
ヒーロー、僕たち、私たちを助けて。
「やめるんだ!」
大きな声が、三人の耳に!
三人が振り向いたその先にいたのは――
「あ、2ごう」
「ほんとね、タカくん2ごう」
現れたその先には一人の男の子。名札には『いづつたかゆき』と書いてある。
「2ごうっていうな! おれはそらとぶおさるさんじゃないよ!」
ツッコミがどこか手慣れているのは、彼もよく二人と遊んでいるから、違った、遊んでもらっているから。
果たしてここではそんな彼が、みんなの望んだヒーローなのか。
「なんだぁあいつ」
「ったく、いくらばんがいへんてきノリだからっておれにこんなきゅうせいしゅみたいなやくわりやらせるなんて、ほんとめいわくだぜメンドクセェ」
「きにすんなよ、2ごうはまだまだこどもだから」
「2ごうってよぶな! いや……まてよ、ひょっとしてこれあれじゃねえか、せいさくスタッフがおれにあたえたチャンスだったりこうきだったりすんのか、リアじゅうめざせるぜっこうのきかいだったりしちゃうのかな!」
「タカくん2号、なにいってんのかわかんない」
「じゃないから! そうだ、たとえ、むりょうどうがてきとうにみていて、たまたまおもしろいやつみっけて、あっこれだ、っておもったからなんのかんがえもなくきーぼーどたたいた、というさくしゃのいとをひしひしとかんじようとも、おれはここでおわるおとこじゃないんだ、よしたすけよう、もういちどいう、そのてをはなせ!」
こちらを睨む、タカくん2号「ナレーターだからきこえないとおもったか、きこえてんぞ! そのなでよぶな、おい、むしすんな!」
3人そろって首をかしげる。
どうしよう? どうするの? すきにしろ。
「はなさないというのなら」
タカく……いえいえ井筒くんはそう言うと、自分の右腕の袖を引っ張る。こ、これはなんということでしょう!
一般の肉眼でとらえられない、涼しい顔してこの男の子、右手から真っ黒炎を出している!
炎といえばリーダーの属性、ブラックはなんだかんだ後から合流で、それでもめちゃ強なこどもの憧れ。
認めましょうよ、彼こそヒーロー、ヒーロー万歳! 流石は井筒さんやでぇ。
「あんしんしろ。キミのなくしたキオクはたしかにおれがひきうける、くらえ! インフェル――」
「キオクってなーに?」
しゅうぅ……と音がし黒い炎は消えた。そもそも他の子に見えていなかったようだけど。
言ったのはみおちゃんだったけど、その他二人も同じような顔。違う様子は井筒くんだけで。
目玉をまあるくさせたと思ったら、今度はきょろきょろ辺りをさまよう。
疑問に思うの? そもそもの定義を?
それもそうでしょう、3~6才だもの。
目玉を戻して井筒くん、慣れない状況でも懸命に、みんなの期待に答えようとする。そうでしょうだって、おれはヒーローだから!
「え、ええと。あたまのなかにあって
「うそつけよーそれってのうみそだろ?」
「ああ、そういうんじゃなくて、こう、あたまんなかにじぶんがたいけんんしたことをきろくして」
「みそはきゅうりにつけるもんじゃないの」
「あ……んな、みそはみそでものうみそは」
「みそって、あずきだっけ? だいすだっけ?」
「しーらーなーいーよぉおおお!」
びええええーん、びええええーん。
ダムがとうとうパーンして、2号はぼろぼろ泣いちゃった。
そうだねだって誰より年下。耐える器もまだ出来ていないよ。
「2ごうぅうう、じゃ、ない、って、さっき、か、ら、いって」
びえええええーん、びえええええーん、びえええええーん、びえええええーん。
こどもの泣き声はおとなでも困りもの。
もちろんみんなもおろおろ戸惑う。
「あーなにやってんだよ、おがわくんー」
「もうよしひろくんちっちゃいこなかしちゃいけないんだよぉ」
「うわあああああ、ちっちゃいいいいいいい」
「ほらもうこんなになかせて」
「ぜってぇいまのはおまえらかそくさせたって」
悪態つくも小川くん、変に責任感じてしまい、なんとか落ち着かせようと図る。あまりの泣き様に、体勢は変えないまま。
「ああああああ「おい」あーーーーー「なん、だ、タ」-----さ、さ、「カくん、なんかくう」そんなの、じゃ、な、な、な、なん「……キレて」、も、っと、こう、すか、っと、いくもんで、しょこれってでもぉ、ぐぅう、じゃま」「ああはっきりしろよ!」ブルン、バタリ。
「……あ」
倒れた彼がつぶやいた。倒した彼のと重なったのかも。
怒りに思わず腕降るった小川くん、掴んでいたカバンと持ち主はちょうど、井筒くんに夢中で油断していた。
それでも転んだ、転ぶべきでないのに。それだけは、って今日は決めてきたのに。
タカくんに怪我はない。カバンも無事そう。けれど彼だけ音を聞いた。
ぐしゃりだったか、べちょんだったか、彼に聞いてよ、出来るものなら。
一体何が入っていたのか。タカくんでないともうわからない。
つぶれて、ひしゃげて、こわれて、もうダメ。
それが今のカバンの中身。
タカくんから澪ちゃんへの――
「………………………………………………あ……………………はぁぁああああああああっぅううううあああああああああ!!!!」
それでもタカくん優しい子だね、責めてもどうしようもないんだよね。
そうそう、泣くのは簡単、赤ちゃんも出来るもの。
そんな時は、誰だって、泣くよね。
こんな時は、誰だって、泣いちゃうよ。
「なんで、タカくんまで、ねぇ…………泣かないでよぉ!」
えええええええーん、えええええーん。
涙はみんなを刺激する。困らせたり、声をかけさせたり、伝染したり、とってもこわい。
「……お、おれのせいじゃない、おれのせいじゃない!」
一体誰に言っているんだい? そうか、元々伝える気はないんだ。自分は自分で関係ないから、小川くんは耳を閉じる。世界を閉じる。
とってもとっても耳が痛くて、押えているのに声は聞こえる。
どうしようかと首を振っても、向いた先では誰かを見てしまう。
「そうだって……だれかいえよぉおおおおおおうわぁあああああああああんっ!!!」
びえええーん、うわぁあああーん、えぇんんえぇんんん、ああああああああーん。
四方八方、四種四様の涙の出し方。
誰もが涙を流しだしたら、こどもは止める方法を知らない。
疲れることは覚えていない、そのころにはみんな眠りにつくから。
それはもしもの、みんなこどもだったらの話だけど。
「なんだー。まだここにいたのか。自分の先生困らすんじゃないぞぉ」
こどもの泣き方はとにかく激情、四人分なら、誰かは気にかける。
「え?」「うう」「ん?」「あ」
「「「「マスターだぁぁぁぁ!!!!」」」」
そしてみんなが向いた先には、おとなのおじさんが立っていた。
普段の彼は近所の喫茶店を営業している。そんな彼だが誰の頼みか月に1、2度、幼稚園におやつを持ってくる。
それでも「おやつのおじさん」という愛称はなく、彼の店に来る客のように、こども達にはマスターと呼ばれている。
それはどの年のどの組の子も共通で、条件反射でみんなマスターにすり寄った。
マスターは少し眉間にしわ寄せ、それでも表情に固さはない。
「お、もう泣きやんだのか。現金な奴らだ。顔と手ぇ洗って組に行け。まだ時間には早いが楽しみにしておけ、今日はお前さん達の好きそうなあまーいケーキを」
「「「「にっっっっがぁぁぁぁああああ!!!!」」」」
言うや否や四人のこども達、皆それぞれの組へと走る。
ぽつんと下駄箱近くで棒立ちの、おじさんは顎をさすりそろそろ剃る頃と考える。
「……一本だけでも、まずかったか」
そういってズボンの後ろのポケットをさする。気に入りのボックスタイプの嗜好品、いつもは来る前吸わんと決めていたが、今朝どうしても我慢できなかった。
「べつに、マスターをきらってんじゃないとおもうよ」
ん? と下を見ればそこにいたのは、水色の制服、チューリップの名札。確か小川ってのと同じ組の奴。
「お前もよく耐えるよな」
いつの間にやらそこにいた、名札に『はずみれん』と書かれたこどもは、どこか気分悪そうにマスターを見上げる。
そんな彼に向けてのマスターの行動は、思っていたよりすっと出た。
ポケットに手を、箱から煙草を、こどもに言葉を、「吸うか」マスターは首を横に振られた。
その後マスターがこの幼稚園に来ることは、なくなっちゃったと、さ。
ここはねとある国立大学、その門近くのひとつの建物。
中にはおとなとたくさんのこどもたち。大体3から6才くらいの。
まあつまり、ここは幼稚園なんです。
みんなみんなの制服水色、胸には黄色いチューリップ形の名札。今は朝の登園時間、来た子は帽子とカバンを身につけ、靴の履き替え頑張ってるよ。
ぞろぞろみんなは自分の組へ、その中この二人は立ち止まったままで。
「ねえねえタカくん、きのうのはなし!」
「ちゃんとみてたってば、みおちゃん」
一人は元気な女の子、一人は活気な男の子。
男の子は天志、だからタカくん。女の子は澪、だから澪ちゃん。
二人はとっても仲良しで、いつも一緒に遊んでる。さてさて今日は、何して遊ぶの?
それとももうさ、始まってるの?
「よかった! ちゃんとみてたのね」
「あったりまえだろ、ちょーかっこよかったぜ」
お部屋に行かずこの二人、どうやら立ってのお話のようで。
「ゴマータやっぱりほーこーおんちね」
「ブルーのかいりきいいよなぁ」
「え……?」
「……え?」
これは一体どうしたことか。話し始めたと思ったら、二人はそこまでお口を閉じる。
「……なんでみていないのよぉ!」
「みおちゃん、またねぼうしたのー」
またもや口を開いた時には、何やら二人はゴキゲンナナメ、ぷんすかぷんすかそんな音も聞こえます。
「なんでさっかーいっちゃうの、みんなのたびをちゃんとみなくちゃ!」
「そっちだって、ちゃんといつもねてられるのは、ギンガリラがうでふってるからなんだよ」
「うそよ、あのこあしになっちゃうじゃない! どうやってふるっているのよ!」
「シルバーひめだって12こもわるいとこあるんだぜ、よっぽどかっこわるいって」
「おうまさんの、ブルーホライズンさんもかわいそうよ! あんなおもいひとのせてはしらされてさ」
「ストンストンとアラエッサだって、ああいうのをきぐろうするっていうんだろうな」
そこまで言ってこの二人、またまたお口にチャックをかける。
おかしいぞ? 何がだろう? 分かるよね。大好きだもの。
「みて、くれてるの」
「……あめふってそとでれなかったの」
「え……うん、そうだね、こんどはいっしょにみようね」
おかしいぞ? 昨日だって? 久々にお日様が顔を見せた日なのに。
空気を読んで澪ちゃんは、タカくんの嘘に付き合ってくれた。嬉しく笑いながらタカくんに言ったのに、タカくん急にそっぽをむいちゃった。
「どうかした?」
「なんでもない」
嘘だよね。なんでもなくなんて絶対ない。
ここまではいつもの照れ屋なタカくん、しかし今日の君はいつもと違うな。
カバンにうまく隠してあるけど、ちょこっと膨らみがかなり不自然だ。
「あ、そろそろいかなくちゃ」
「そうだった、でもその前にね、みおちゃ」
「おおーう、なんだよぉ、おも白いはなしならきかせろよぉ」
タカくんカバンから手を引っ込める。みおちゃんと声のした方を向く。
不機嫌そうなタカくんの顔は、苦々しいったらありゃしない。
「なんだあ、またおまえらふたりでいんのなぁ」
二人より少し大きな男の子、目だけじゃないよ、体全部が。名札の名前は『おがわよしひろ』。
二人より1つ年上だけど、そんなの小川くんは知りません。
「べつにおがわくんにはかんけーないよ」
「おいなんだよそのたいど、おれはとし上だぞ、ちゃんとけーごでしゃべれよな」
大きなおめめをギヌロと回して、小川くん、少しタカくんに近付いた。
わざわざどしん、っと音を立てたものだから、タカくん思わず後ずさる。それでも、まだ、タカくんは怯えていない。だって視界の隅っこに、やはり戸惑う澪ちゃんがいるから。
別にいいのですタカくん自分は、澪ちゃんさえ無事なら、あとは。
あ。え? それはタカくんの吐息のような小声。
しまったと思ったのがしまったと後で思う。
何もないなら無視すればいいのに、大事な大事なものが入ってるから、思わずタカくん、カバンを掴んでいた。
「おい、なんだよそんなのたいせつそうに」
『大切』なんて知ってたんだ、すごいね小川くん君ってやつは、今最高に意地汚く笑っている。
「べつに」
「かせよ」
「なんで」
「わたせ」
「いやだ」
「てめえ」
「やめて」
最後は澪ちゃん思わず叫んで、それでも小川くんタカくんに手を伸ばす。
あっちににげろ、こいつにわたすな、タカくんの想いは年の差には勝てなかった。小川くんとうとう、タカくんのカバンを握る。
この後タカくん澪ちゃん何を思ったか、言ってもきっと笑わないよね。
誰もが思うことだから、特にこのくらいの子達だと、もっと真剣に思う事だから。
ヒーロー、僕たち、私たちを助けて。
「やめるんだ!」
大きな声が、三人の耳に!
三人が振り向いたその先にいたのは――
「あ、2ごう」
「ほんとね、タカくん2ごう」
現れたその先には一人の男の子。名札には『いづつたかゆき』と書いてある。
「2ごうっていうな! おれはそらとぶおさるさんじゃないよ!」
ツッコミがどこか手慣れているのは、彼もよく二人と遊んでいるから、違った、遊んでもらっているから。
果たしてここではそんな彼が、みんなの望んだヒーローなのか。
「なんだぁあいつ」
「ったく、いくらばんがいへんてきノリだからっておれにこんなきゅうせいしゅみたいなやくわりやらせるなんて、ほんとめいわくだぜメンドクセェ」
「きにすんなよ、2ごうはまだまだこどもだから」
「2ごうってよぶな! いや……まてよ、ひょっとしてこれあれじゃねえか、せいさくスタッフがおれにあたえたチャンスだったりこうきだったりすんのか、リアじゅうめざせるぜっこうのきかいだったりしちゃうのかな!」
「タカくん2号、なにいってんのかわかんない」
「じゃないから! そうだ、たとえ、むりょうどうがてきとうにみていて、たまたまおもしろいやつみっけて、あっこれだ、っておもったからなんのかんがえもなくきーぼーどたたいた、というさくしゃのいとをひしひしとかんじようとも、おれはここでおわるおとこじゃないんだ、よしたすけよう、もういちどいう、そのてをはなせ!」
こちらを睨む、タカくん2号「ナレーターだからきこえないとおもったか、きこえてんぞ! そのなでよぶな、おい、むしすんな!」
3人そろって首をかしげる。
どうしよう? どうするの? すきにしろ。
「はなさないというのなら」
タカく……いえいえ井筒くんはそう言うと、自分の右腕の袖を引っ張る。こ、これはなんということでしょう!
一般の肉眼でとらえられない、涼しい顔してこの男の子、右手から真っ黒炎を出している!
炎といえばリーダーの属性、ブラックはなんだかんだ後から合流で、それでもめちゃ強なこどもの憧れ。
認めましょうよ、彼こそヒーロー、ヒーロー万歳! 流石は井筒さんやでぇ。
「あんしんしろ。キミのなくしたキオクはたしかにおれがひきうける、くらえ! インフェル――」
「キオクってなーに?」
しゅうぅ……と音がし黒い炎は消えた。そもそも他の子に見えていなかったようだけど。
言ったのはみおちゃんだったけど、その他二人も同じような顔。違う様子は井筒くんだけで。
目玉をまあるくさせたと思ったら、今度はきょろきょろ辺りをさまよう。
疑問に思うの? そもそもの定義を?
それもそうでしょう、3~6才だもの。
目玉を戻して井筒くん、慣れない状況でも懸命に、みんなの期待に答えようとする。そうでしょうだって、おれはヒーローだから!
「え、ええと。あたまのなかにあって
「うそつけよーそれってのうみそだろ?」
「ああ、そういうんじゃなくて、こう、あたまんなかにじぶんがたいけんんしたことをきろくして」
「みそはきゅうりにつけるもんじゃないの」
「あ……んな、みそはみそでものうみそは」
「みそって、あずきだっけ? だいすだっけ?」
「しーらーなーいーよぉおおお!」
びええええーん、びええええーん。
ダムがとうとうパーンして、2号はぼろぼろ泣いちゃった。
そうだねだって誰より年下。耐える器もまだ出来ていないよ。
「2ごうぅうう、じゃ、ない、って、さっき、か、ら、いって」
びえええええーん、びえええええーん、びえええええーん、びえええええーん。
こどもの泣き声はおとなでも困りもの。
もちろんみんなもおろおろ戸惑う。
「あーなにやってんだよ、おがわくんー」
「もうよしひろくんちっちゃいこなかしちゃいけないんだよぉ」
「うわあああああ、ちっちゃいいいいいいい」
「ほらもうこんなになかせて」
「ぜってぇいまのはおまえらかそくさせたって」
悪態つくも小川くん、変に責任感じてしまい、なんとか落ち着かせようと図る。あまりの泣き様に、体勢は変えないまま。
「ああああああ「おい」あーーーーー「なん、だ、タ」-----さ、さ、「カくん、なんかくう」そんなの、じゃ、な、な、な、なん「……キレて」、も、っと、こう、すか、っと、いくもんで、しょこれってでもぉ、ぐぅう、じゃま」「ああはっきりしろよ!」ブルン、バタリ。
「……あ」
倒れた彼がつぶやいた。倒した彼のと重なったのかも。
怒りに思わず腕降るった小川くん、掴んでいたカバンと持ち主はちょうど、井筒くんに夢中で油断していた。
それでも転んだ、転ぶべきでないのに。それだけは、って今日は決めてきたのに。
タカくんに怪我はない。カバンも無事そう。けれど彼だけ音を聞いた。
ぐしゃりだったか、べちょんだったか、彼に聞いてよ、出来るものなら。
一体何が入っていたのか。タカくんでないともうわからない。
つぶれて、ひしゃげて、こわれて、もうダメ。
それが今のカバンの中身。
タカくんから澪ちゃんへの――
「………………………………………………あ……………………はぁぁああああああああっぅううううあああああああああ!!!!」
それでもタカくん優しい子だね、責めてもどうしようもないんだよね。
そうそう、泣くのは簡単、赤ちゃんも出来るもの。
そんな時は、誰だって、泣くよね。
こんな時は、誰だって、泣いちゃうよ。
「なんで、タカくんまで、ねぇ…………泣かないでよぉ!」
えええええええーん、えええええーん。
涙はみんなを刺激する。困らせたり、声をかけさせたり、伝染したり、とってもこわい。
「……お、おれのせいじゃない、おれのせいじゃない!」
一体誰に言っているんだい? そうか、元々伝える気はないんだ。自分は自分で関係ないから、小川くんは耳を閉じる。世界を閉じる。
とってもとっても耳が痛くて、押えているのに声は聞こえる。
どうしようかと首を振っても、向いた先では誰かを見てしまう。
「そうだって……だれかいえよぉおおおおおおうわぁあああああああああんっ!!!」
びえええーん、うわぁあああーん、えぇんんえぇんんん、ああああああああーん。
四方八方、四種四様の涙の出し方。
誰もが涙を流しだしたら、こどもは止める方法を知らない。
疲れることは覚えていない、そのころにはみんな眠りにつくから。
それはもしもの、みんなこどもだったらの話だけど。
「なんだー。まだここにいたのか。自分の先生困らすんじゃないぞぉ」
こどもの泣き方はとにかく激情、四人分なら、誰かは気にかける。
「え?」「うう」「ん?」「あ」
「「「「マスターだぁぁぁぁ!!!!」」」」
そしてみんなが向いた先には、おとなのおじさんが立っていた。
普段の彼は近所の喫茶店を営業している。そんな彼だが誰の頼みか月に1、2度、幼稚園におやつを持ってくる。
それでも「おやつのおじさん」という愛称はなく、彼の店に来る客のように、こども達にはマスターと呼ばれている。
それはどの年のどの組の子も共通で、条件反射でみんなマスターにすり寄った。
マスターは少し眉間にしわ寄せ、それでも表情に固さはない。
「お、もう泣きやんだのか。現金な奴らだ。顔と手ぇ洗って組に行け。まだ時間には早いが楽しみにしておけ、今日はお前さん達の好きそうなあまーいケーキを」
「「「「にっっっっがぁぁぁぁああああ!!!!」」」」
言うや否や四人のこども達、皆それぞれの組へと走る。
ぽつんと下駄箱近くで棒立ちの、おじさんは顎をさすりそろそろ剃る頃と考える。
「……一本だけでも、まずかったか」
そういってズボンの後ろのポケットをさする。気に入りのボックスタイプの嗜好品、いつもは来る前吸わんと決めていたが、今朝どうしても我慢できなかった。
「べつに、マスターをきらってんじゃないとおもうよ」
ん? と下を見ればそこにいたのは、水色の制服、チューリップの名札。確か小川ってのと同じ組の奴。
「お前もよく耐えるよな」
いつの間にやらそこにいた、名札に『はずみれん』と書かれたこどもは、どこか気分悪そうにマスターを見上げる。
そんな彼に向けてのマスターの行動は、思っていたよりすっと出た。
ポケットに手を、箱から煙草を、こどもに言葉を、「吸うか」マスターは首を横に振られた。
その後マスターがこの幼稚園に来ることは、なくなっちゃったと、さ。
時計の針さんありがとう、またまた逆走忙しそう。
地球さんごめんこれからさ、灰や銀色増えるけど。
干支さん干支さん次に会ったら、あのこどもたちはどうなっているだろう。
それはいつかのこどもたち。
今より前のこどもたち。
おやおやどうやら終わりの前に。
まだまだどうやらこどもたち……
地球さんごめんこれからさ、灰や銀色増えるけど。
干支さん干支さん次に会ったら、あのこどもたちはどうなっているだろう。
それはいつかのこどもたち。
今より前のこどもたち。
おやおやどうやら終わりの前に。
まだまだどうやらこどもたち……
「みおちゃん、あのさ、おなかすいている?」
「うん? うん! ないたらおなかペコペコになっちゃった」
「じゃあさ、その、よかったら、おやつ、だってきょう」
ある六月の後半の、あじさいよりも真っ赤な男の子は――
「うん? うん! ないたらおなかペコペコになっちゃった」
「じゃあさ、その、よかったら、おやつ、だってきょう」
ある六月の後半の、あじさいよりも真っ赤な男の子は――
あとがき
計画停電中に関わらず全読感謝します。期待外れでもただ自分はトラ柄宇宙人でないので抱きつけ……いえ電気を出せませんのでご了承ください。
そして、みなさんが思ったことを代弁しましょう。
……こんな過去話ねぇよ!
計画停電中に関わらず全読感謝します。期待外れでもただ自分はトラ柄宇宙人でないので抱きつけ……いえ電気を出せませんのでご了承ください。
そして、みなさんが思ったことを代弁しましょう。
……こんな過去話ねぇよ!
……想像とはげに恐ろしや。