佐々木の事件の翌日の朝、井筒は電話の応答に追われていた。
「久賀さん。だから勘弁してくださいよ。もう八千代さんの怪我も治ったんですから、ここは穏便に。え!? 探し出して殺す? いやそれは久賀さんがまずいでしょ。ぶっちゃけますとね、指示した人間がいるんですよ。そいつが一番悪いんです。ええ、だからここは抑えてください。はいはい。コーヒーでも何でもおごりますから。はい。本当ですよ。ところで椿屋の電話使って俺に電話すんのやめてくれますか」
「綾瀬先輩。ええ昨日はスイマセンでした。突然便意に襲われて、はい。汚いですね。スイマセン。ええ埋め合わせはしますよ。え? ぽーちゃん? ああそんなこともありましたね。いえいえ忘れているわけないじゃないですか。はい、でもそれはまた今度で。それでは」
「綾坂。悪いね昨日は助かったよ。ああ、久賀さんなだめるのお前も協力してくれない? え? いや? そんなこと言わずにさ」
ふう、と井筒は一息ついた。正直にいって疲れていた。事件に関わった人たちに謝罪を言ってまわることにこんなに苦労するとは、と人知れず呟く。でもしょうがない、これもまた滅殺炎を使った代償なのだから。
ズキリと頭が痛む。あの佐々木の記憶の中で出会った真っ白なスーツ姿の男は、自らを井筒隆幸と名乗っていた。言うまでもなくあれは俺じゃない。俺は色んな意味で有名人だから名前くらいは知っているだろうが、なぜそう名乗ったんだ? まるで、まるで俺が佐々木を助けようとするのを見越した上で、最後の最後に妨害しようとしたみたいじゃないか。
考えすぎか。あの魔術師のことは到底許せそうになかったが、ひとまずその考えを振り払い、最大の功労者である人に井筒は電話を掛けた。
「昨日はナイスでしたね。羽住先輩」
『そうでしょ。まさか俺がその彼と知り合いだったなんて。まあ偶然だけどね』
「いえ助かりましたよ。本当に」
『それであの後彼には、彼女の様子が不安定だからいつもの場所に行った方がいい、とだけ言ったんだけど大丈夫だったかな』
「それについては問題ないと思いますよ。だって」
と、井筒は目の前を通り過ぎていくカップルに目を移した。女性の表情は昨日見たものとはまるで別人だ。色っぽくて、見てるこっちもドキッとしてしまう。恋をしている女性って美しく見えるというけど本当なんだなあ、とぼんやりと考える。
『だって、なんだい?』
「いえスイマセン。なんでもないです」
『そうかい』
「ええ、それでは改めて、本当に助かりました」
『いやいや、こっちも君の助けになれてうれしい限りだよ。これからも気にせず頼ってくれ』
「そういってもらえると助かります。ありがとうございます。それでは」
ピッと無機質な音を立てて通話が終わった。
もはや定位置となった図書館前のベンチから腰を上げ、二限目の講義のある総合校舎へと向かおうとした井筒の前に、そいつは現れた。
でかい。井筒がそいつに対して抱いた第一の感情であった。180cmは超えているだろうか。両腕を組んでいて自身に満ち溢れているのがひしひしと伝わってくる。
「こうして顔を見るのは初めてだな。井筒隆幸」
その声を聴いた井筒はすぐに気が付いた。こいつがあの時、猫の死体騒動の時電話に出た奴だ、と。
「……ずいぶんとキャラが立ってるな、お前。髪は逆立ってるし目は吊り目だし。漫画の世界から飛び出してきたのか」
「ずいぶんなご挨拶だな。おめえ。オレを怒らしたいのか?」
ビキビキと青筋が相手の顔から浮き上がっている。だが井筒は相手の巨躯にこそ恐れてはいたが、喧嘩では勝てると踏んでいた。こういう感情のままに行動するような奴は動きが見えやすいからだ。それになにより、こんな目立つところで喧嘩をするようなヘマはいくらなんでもしないだろうという二重の確信が井筒を平静に保っていた。
「まあいい。オレは寛大だからな」
どこがだ、と思わず井筒は突っ込みそうになったが必死に堪えた。それではいつまで経っても話が進まないからだ。
「では約束通り名乗っておこう。オレの名は判花手だ、よく覚えておくんだな。お前の敵だ」
「ばんはなて? 珍しい名前だな。じゃあ聞こうか判花手。お前どこに猫の死体の人形を捨てた?」
そう井筒が聞くと、ほお、と感嘆の念を判花手が零した。
「なるほど、そこに気付くか。さすがだな。どこで人形だと分かった?」
「臭いが全くしなかったというのと、血が一滴も残ってなかったことだ。お前の証言通りに殺されていれば、血があちこちにこびり付いていて然るべきだ。だがそれが無かった。考えられる可能性は3つ。お前の話が嘘だったか、別の場所で殺されたか、そもそも死体ではなかったか、だ」
「オレは嘘は言っていないぞ」
「そうだ。お前のことは信用できないが、他にも証人がいるからお前の話は嘘ではない。では別の場所で殺されたのか? これも違うだろう。さっきいったように臭いがしなかったからな。だから」
「だから消去法で最後の一つという訳か」
「そうだ。最近は色んな人形が出回ってるし作るのは不可能じゃない。それに気が動転してるやつに見せるんだから本物である必要がないしな。準備も処理にも困らない。もし人に見つかっても悪質な悪戯どまりってわけだ」
「なるほどな。それだけか?」
「最後に、お前は一度も猫の死体とは言わなかったことが引っかかった。死体の様子は語ったが、死体であると一度も言明にはしなかった」
「ははは、こいつは面白い奴がいたもんだ。実を言うとあれを用意したのはオレじゃない。知り合いだったからな。落し物を持ち主に届けただけさ。だけど、まあ合格か」
と、出会った時からずっと組んでいた腕を解いて、さらにこう言い放った。
魔術師(マジシャン)から伝言だ___と。
「久賀さん。だから勘弁してくださいよ。もう八千代さんの怪我も治ったんですから、ここは穏便に。え!? 探し出して殺す? いやそれは久賀さんがまずいでしょ。ぶっちゃけますとね、指示した人間がいるんですよ。そいつが一番悪いんです。ええ、だからここは抑えてください。はいはい。コーヒーでも何でもおごりますから。はい。本当ですよ。ところで椿屋の電話使って俺に電話すんのやめてくれますか」
「綾瀬先輩。ええ昨日はスイマセンでした。突然便意に襲われて、はい。汚いですね。スイマセン。ええ埋め合わせはしますよ。え? ぽーちゃん? ああそんなこともありましたね。いえいえ忘れているわけないじゃないですか。はい、でもそれはまた今度で。それでは」
「綾坂。悪いね昨日は助かったよ。ああ、久賀さんなだめるのお前も協力してくれない? え? いや? そんなこと言わずにさ」
ふう、と井筒は一息ついた。正直にいって疲れていた。事件に関わった人たちに謝罪を言ってまわることにこんなに苦労するとは、と人知れず呟く。でもしょうがない、これもまた滅殺炎を使った代償なのだから。
ズキリと頭が痛む。あの佐々木の記憶の中で出会った真っ白なスーツ姿の男は、自らを井筒隆幸と名乗っていた。言うまでもなくあれは俺じゃない。俺は色んな意味で有名人だから名前くらいは知っているだろうが、なぜそう名乗ったんだ? まるで、まるで俺が佐々木を助けようとするのを見越した上で、最後の最後に妨害しようとしたみたいじゃないか。
考えすぎか。あの魔術師のことは到底許せそうになかったが、ひとまずその考えを振り払い、最大の功労者である人に井筒は電話を掛けた。
「昨日はナイスでしたね。羽住先輩」
『そうでしょ。まさか俺がその彼と知り合いだったなんて。まあ偶然だけどね』
「いえ助かりましたよ。本当に」
『それであの後彼には、彼女の様子が不安定だからいつもの場所に行った方がいい、とだけ言ったんだけど大丈夫だったかな』
「それについては問題ないと思いますよ。だって」
と、井筒は目の前を通り過ぎていくカップルに目を移した。女性の表情は昨日見たものとはまるで別人だ。色っぽくて、見てるこっちもドキッとしてしまう。恋をしている女性って美しく見えるというけど本当なんだなあ、とぼんやりと考える。
『だって、なんだい?』
「いえスイマセン。なんでもないです」
『そうかい』
「ええ、それでは改めて、本当に助かりました」
『いやいや、こっちも君の助けになれてうれしい限りだよ。これからも気にせず頼ってくれ』
「そういってもらえると助かります。ありがとうございます。それでは」
ピッと無機質な音を立てて通話が終わった。
もはや定位置となった図書館前のベンチから腰を上げ、二限目の講義のある総合校舎へと向かおうとした井筒の前に、そいつは現れた。
でかい。井筒がそいつに対して抱いた第一の感情であった。180cmは超えているだろうか。両腕を組んでいて自身に満ち溢れているのがひしひしと伝わってくる。
「こうして顔を見るのは初めてだな。井筒隆幸」
その声を聴いた井筒はすぐに気が付いた。こいつがあの時、猫の死体騒動の時電話に出た奴だ、と。
「……ずいぶんとキャラが立ってるな、お前。髪は逆立ってるし目は吊り目だし。漫画の世界から飛び出してきたのか」
「ずいぶんなご挨拶だな。おめえ。オレを怒らしたいのか?」
ビキビキと青筋が相手の顔から浮き上がっている。だが井筒は相手の巨躯にこそ恐れてはいたが、喧嘩では勝てると踏んでいた。こういう感情のままに行動するような奴は動きが見えやすいからだ。それになにより、こんな目立つところで喧嘩をするようなヘマはいくらなんでもしないだろうという二重の確信が井筒を平静に保っていた。
「まあいい。オレは寛大だからな」
どこがだ、と思わず井筒は突っ込みそうになったが必死に堪えた。それではいつまで経っても話が進まないからだ。
「では約束通り名乗っておこう。オレの名は判花手だ、よく覚えておくんだな。お前の敵だ」
「ばんはなて? 珍しい名前だな。じゃあ聞こうか判花手。お前どこに猫の死体の人形を捨てた?」
そう井筒が聞くと、ほお、と感嘆の念を判花手が零した。
「なるほど、そこに気付くか。さすがだな。どこで人形だと分かった?」
「臭いが全くしなかったというのと、血が一滴も残ってなかったことだ。お前の証言通りに殺されていれば、血があちこちにこびり付いていて然るべきだ。だがそれが無かった。考えられる可能性は3つ。お前の話が嘘だったか、別の場所で殺されたか、そもそも死体ではなかったか、だ」
「オレは嘘は言っていないぞ」
「そうだ。お前のことは信用できないが、他にも証人がいるからお前の話は嘘ではない。では別の場所で殺されたのか? これも違うだろう。さっきいったように臭いがしなかったからな。だから」
「だから消去法で最後の一つという訳か」
「そうだ。最近は色んな人形が出回ってるし作るのは不可能じゃない。それに気が動転してるやつに見せるんだから本物である必要がないしな。準備も処理にも困らない。もし人に見つかっても悪質な悪戯どまりってわけだ」
「なるほどな。それだけか?」
「最後に、お前は一度も猫の死体とは言わなかったことが引っかかった。死体の様子は語ったが、死体であると一度も言明にはしなかった」
「ははは、こいつは面白い奴がいたもんだ。実を言うとあれを用意したのはオレじゃない。知り合いだったからな。落し物を持ち主に届けただけさ。だけど、まあ合格か」
と、出会った時からずっと組んでいた腕を解いて、さらにこう言い放った。
魔術師(マジシャン)から伝言だ___と。
井筒が判花手と出会う数分前、小川吉弘は大学の正門を携帯片手で電話しながらくぐっていた。
「わかっていますよ。次は成功させますって。大体人が来ないって約束だったじゃないですか。なんですかあの化け物みたいな女は!?」
『例外は二人いるといったはずだ。それは事前に説明したはずだろう。それに対応できなかったのは君のミスだ』
「うぐ」
『私は君の手腕に期待しているのだよ。君は素晴らしい人間だ。それを私だけは理解している。違うかな?』
「……そのとおりだ。あんたと俺は同志、だよな?」
『そのとおりだ。だから同志よ。私をこれ以上困らせないでくれ』
相手は暗に次の失敗は許されないぞ、と言っている。だがそれだけ自分に期待してくれているということが、小川にはたまらなく嬉しかった。
「わかってますよ。次はどいつを犯ればいいんですか?」
そう声を潜めて言うと、ふと小川の視界に細身の黒髪美人が映った。あれは確か、と小川が考えを巡らせていると
『今君の横を通り過ぎた女性だ』
と声がかかった。
「なっあんた俺の事見てんのか? まああんたのことだしな。それはいいにしても確かあいつには仲のいい幼馴染が」
『そうだな。だからどうしたんだ?』
電話の相手は小川の言葉を遮るようにいい、さらに続けた。
『安心しろ。それについては私自ら動こうじゃないか。さらに今回は佐々木のようにただ犯すのではない。誘拐しろ』
「なっっ誘拐!? それはまずいだろさすがに警察が動いちまう」
『おや? 私の力を疑うのか?』
「い、いや。そうじゃないけどよ」
『ふふ、冗談だ。お前の心配ももっともだよ。だから今回はお前のバックに暴力団を付けようじゃないか』
「……っっっ!?」
一介の大学生に過ぎない小川にとって今の言葉は衝撃的だった。だが彼は確かに言った。暴力団と____。
『ふふ、驚いたか? まあ彼らには貸があってねそれを返してもらうだけさ』
「そ、そこまでするのか。あんた。あいつに何か恨みでもあるのか?」
『別に恨みなどない。これはゲームだ。ゲームに勝つのに必要なのは優秀なコマだ。圧倒的な力で敵を捻じ伏せ、絶対的な数で全てを蹂躙する。個人の情などその前では塵に等しい』
「あんたやっぱすげええな。絶対成功させてやる」
『ふふ、良い言葉だ。では具体的な指示を出す。全部頭に焼き付けろ。文章などにはするなよ』
「わかってるよ」
「わかっていますよ。次は成功させますって。大体人が来ないって約束だったじゃないですか。なんですかあの化け物みたいな女は!?」
『例外は二人いるといったはずだ。それは事前に説明したはずだろう。それに対応できなかったのは君のミスだ』
「うぐ」
『私は君の手腕に期待しているのだよ。君は素晴らしい人間だ。それを私だけは理解している。違うかな?』
「……そのとおりだ。あんたと俺は同志、だよな?」
『そのとおりだ。だから同志よ。私をこれ以上困らせないでくれ』
相手は暗に次の失敗は許されないぞ、と言っている。だがそれだけ自分に期待してくれているということが、小川にはたまらなく嬉しかった。
「わかってますよ。次はどいつを犯ればいいんですか?」
そう声を潜めて言うと、ふと小川の視界に細身の黒髪美人が映った。あれは確か、と小川が考えを巡らせていると
『今君の横を通り過ぎた女性だ』
と声がかかった。
「なっあんた俺の事見てんのか? まああんたのことだしな。それはいいにしても確かあいつには仲のいい幼馴染が」
『そうだな。だからどうしたんだ?』
電話の相手は小川の言葉を遮るようにいい、さらに続けた。
『安心しろ。それについては私自ら動こうじゃないか。さらに今回は佐々木のようにただ犯すのではない。誘拐しろ』
「なっっ誘拐!? それはまずいだろさすがに警察が動いちまう」
『おや? 私の力を疑うのか?』
「い、いや。そうじゃないけどよ」
『ふふ、冗談だ。お前の心配ももっともだよ。だから今回はお前のバックに暴力団を付けようじゃないか』
「……っっっ!?」
一介の大学生に過ぎない小川にとって今の言葉は衝撃的だった。だが彼は確かに言った。暴力団と____。
『ふふ、驚いたか? まあ彼らには貸があってねそれを返してもらうだけさ』
「そ、そこまでするのか。あんた。あいつに何か恨みでもあるのか?」
『別に恨みなどない。これはゲームだ。ゲームに勝つのに必要なのは優秀なコマだ。圧倒的な力で敵を捻じ伏せ、絶対的な数で全てを蹂躙する。個人の情などその前では塵に等しい』
「あんたやっぱすげええな。絶対成功させてやる」
『ふふ、良い言葉だ。では具体的な指示を出す。全部頭に焼き付けろ。文章などにはするなよ』
「わかってるよ」
その後ぷつりと電話が切れて小川は呟いた。
「佐々木ん時は服の上からしか触れなかったしな~~。楽しみだぜ。どんな声で喘ぐんだろうなああ、花崎澪おおお」
「佐々木ん時は服の上からしか触れなかったしな~~。楽しみだぜ。どんな声で喘ぐんだろうなああ、花崎澪おおお」
「魔術師、だと?」
井筒は目の前の化け物みたいな男、判花手に詰め寄った。佐々木の記憶の中に現れた男も確かそう名乗っていた。いわば真犯人といえる者、黒幕いや相手の特徴を考えると白幕といった方が正しいか。井筒が必死になるのも無理はない。
「ああ、オレも忙しいからな手短に伝えるぞ。こほん。
『余興は楽しんでくれたかな。井筒隆幸。さてここからが本番だ。すでに魔物は野に放たれた。私の敵を名乗りたいならばそれを止めて見せろ。止められなければ、もれなくその者の死が待っている』
だそうだ。っっ」
言い終わった判花手は思わず身震いした。気づかぬうちに鳥肌が立っている。
目の前にいる男の雰囲気が一変したからだ。
「人の命をなんだと思ってやがる。止められるものなら止めてみろだと? いいだろう。受けて立ってやる。判花手。そいつに伝えておけ。この俺、井筒隆幸は逃げも隠れもしないってな!!」
そう宣言すると井筒はくるりと判花手に背を向けて、その場を後にした。
取り残された形になった判花手は、冷や汗を垂らしながら
「おっかねえ奴を敵に回したもんだぜ。あれこそ得体のしれないバケモンだな。だがその方が面白いかもな」
と獰猛に笑った。
井筒は目の前の化け物みたいな男、判花手に詰め寄った。佐々木の記憶の中に現れた男も確かそう名乗っていた。いわば真犯人といえる者、黒幕いや相手の特徴を考えると白幕といった方が正しいか。井筒が必死になるのも無理はない。
「ああ、オレも忙しいからな手短に伝えるぞ。こほん。
『余興は楽しんでくれたかな。井筒隆幸。さてここからが本番だ。すでに魔物は野に放たれた。私の敵を名乗りたいならばそれを止めて見せろ。止められなければ、もれなくその者の死が待っている』
だそうだ。っっ」
言い終わった判花手は思わず身震いした。気づかぬうちに鳥肌が立っている。
目の前にいる男の雰囲気が一変したからだ。
「人の命をなんだと思ってやがる。止められるものなら止めてみろだと? いいだろう。受けて立ってやる。判花手。そいつに伝えておけ。この俺、井筒隆幸は逃げも隠れもしないってな!!」
そう宣言すると井筒はくるりと判花手に背を向けて、その場を後にした。
取り残された形になった判花手は、冷や汗を垂らしながら
「おっかねえ奴を敵に回したもんだぜ。あれこそ得体のしれないバケモンだな。だがその方が面白いかもな」
と獰猛に笑った。
同じ頃、大学南門にて___
ある青年が登校していた。髪は短く、癖っ毛でいかにも運動が好きそうなイメージを固定化しているような男性である。いつも通り登校しているはずの彼はある異変に気が付いた。彼の周りに人っ子一人見当たらないのだ。
そんな周りをキョロキョロと挙動不審にしている彼に声がかかった。声の主は目の前にいる全身真っ白なスーツ姿の男。
「だ、誰だあんた?」
「ふふ、聞きたいか。お前とは一度会っているはずなのだがな。もう一度名乗っておこうか。
私の名は___ 魔術師(マジシャン)だ」
ある青年が登校していた。髪は短く、癖っ毛でいかにも運動が好きそうなイメージを固定化しているような男性である。いつも通り登校しているはずの彼はある異変に気が付いた。彼の周りに人っ子一人見当たらないのだ。
そんな周りをキョロキョロと挙動不審にしている彼に声がかかった。声の主は目の前にいる全身真っ白なスーツ姿の男。
「だ、誰だあんた?」
「ふふ、聞きたいか。お前とは一度会っているはずなのだがな。もう一度名乗っておこうか。
私の名は___ 魔術師(マジシャン)だ」
日常に潜む小さな小さな変化。それに気づいているのはほんの僅かな人間しかいない。
しかし大学の生徒全員を否応なく巻き込む戦争の火蓋が、今、切って落とされようとした。
しかし大学の生徒全員を否応なく巻き込む戦争の火蓋が、今、切って落とされようとした。
「さあ。革命を、始めよう」
≪Continued ……≫