ハルヒと親父 @ wiki
ロール・プレイング その6
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haruhioyaji
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- 老人
- そう、あわてるな。王宮とまではいかぬが、王都には、懐疑論者のファランジュもある。東の巫女の侍従にも懐疑論者がおる。
- オヤジ
- その女スパイが手引きしてくれるのか?
- 老人
- いや、「外の者」なら、巫女が直接会うと言っておる。この意味がわかるか?
- オヤジ
- 懐疑論者も歳をくうと探偵を始めるのか?
- 老人
- 人探しを請け負ったのは初めてじゃ。これで最期にしたいがの。
- オヤジ
- 世界が終わればそうなるさ。
- 老人
- そうならんために、おまえさんたちが来た。そうじゃないかの?
- オヤジ
- で、巫女がいるところまで、何日かかる?
- 老人
- さよう、人の足なら10日と、かからんじゃろ。
- オヤジ
- 話にならんぞ。「どこでもドア」はないのか?「瞬きの鏡」でもいい。
- 老人
- 半分以上分からんが、竜の翼なら、1昼夜で着く。
- オヤジ
- ああ、いやな展開になってきたぞ。おれまで虎のパンツで武装するのか?それともヒョウのかぶり者か?
- 老人
- 安心せい。おまえが離そうとも、竜の方が離してくれぬ。向こうに着くまではな。
- オヤジ
- そんなものが、うじゃうじゃいるのか? まだ会ったことはないぞ。
- 老人
- こちら側には、友好の印に送られた一体だけじゃ。いつもは王都と東の塔を往復しておる。
- オヤジ
- 豪勢な伝書バトだな。そんな特注品が、ここに寄ってくれるのか?
- 老人
- 竜は得たが、竜使いまでは、よこさんかった。目的は威圧じゃから、当然といえば当然。それで、わしらが飼育と訓練をする依頼を受けたのじゃ。
- オヤジ
- 懐疑論者は便利屋か? パイプ掃除も迷い猫探しもしてくれるのか?
- 老人
- 竜を産するあちらにも、わしらの仲間はおるからな。
- オヤジ
- まさかじいさん、最年長パイロットとか言いだすなよ。
- 老人
- 安心せい。わしより上がおる。
- オヤジ
- いやな予感がしたんだ。
- 老人
- どれ、来たようじゃな。
- オヤジ
- 世の中に二つだけ怖いもんがある。怒った女房と高いところだ。
- 老人
- 気絶でもしておれ。気付いたときには着いておるわ。
- 兵士B
- キョン、おれたちはあの山を超えていく。
- 兵士A
- 悪いが極秘の任務ゆえ、連れて行けぬ。
- キョン
- わかりました。ここで待ちます。
- 兵士A
- まっすぐ引き返してもいいのだぞ?
- 兵士B
- 気にしておるのか、あの親父が言ったことを?
- キョン
- はい。……いや、おれも同じことを心配しています。
- 兵士A
- ……。
- 兵士B
- ……だったら、なおさら連れていく訳にはいかぬ。
- キョン
- おれの考えてることを話します。多分、この山の向こうにお二人の目的地があって……そこは、誰だかわからないけど『敵』に囲まれているか、それに近い状態だと思います。
- 兵士B
- ……何故、そう思う?
- キョン
- お二人は兵士ですよね? しかも勅命だと言われた。それが部隊を率いず、二人っきりで隠密に行動されている。多分、軍隊のなかでも偉い人に信任のあつい人達だと思いました。この世界がどういう世界か、おれにはまだよく分かりませんが、軍隊があるってことは、同じように軍隊を持った別の国なり、勢力があるってことですよね? そして、多分、大軍を動かしては、まずい場所に目的地があるんじゃないかって思ったんです。たとえば、相手の国の中か国境のごく近くか。それで……。
- 兵士B
- 我々が目指す「西の塔」は、隣国との国境にある。そこからは隣国の帝都も遠くない。我々が軍事行動をとれば、両国は開戦に踏みこむ公算が高い。いや、いずれ近いうちに両国は大きな戦する。それが東の巫女の告げた神宣だ。
- 兵士A
- お、おい、それを!
- 兵士B
- それを回避する鍵は、「外の者」らしい。そして、その術は西の巫女から神宣を受けよ、というのが東の巫女が告げたすべてだ。キョン、おまえはこれをみんな理解できるようだな。
- キョン
- すべてかどうかわかりませんが、でも、おれたちが抱えてた疑問なら、少し解けた気がします。
- 兵士B
- キョン、あの親父はともかく、おれたちはお前を信用する。おれたちは確かに兵士として訓練を受けてきたが、戦をしたことがない。だが、おれたちはそれを恥とは思わん。平和が恥だというなら、その国の平和はすでに失われているのだ。おれたちは戦を避けたい。たとえ勅命が覆っても、そしてこの命にかえても、だ。……手を貸してくれるか?
- 兵士A
- いいのか?キョンが「外の者」だとは、おれも認める。しかし、しかし、今、その力を借りていい時なのか、おれにはわからん。もしも、西の塔が、キョンの言うとおり、敵に包囲されていたとして、おれたちだけならいい、しかしキョンに万一のことがあったら? そしてキョンの役目がもっと別のことだとしたら? ……ええい、くそ!どうしたらいい?
- 兵士B
- ……キョン?
- キョン
- ……西の塔というのは、平地に建っているんですか? 周りに身を隠したりできるところは?
- 兵士B
- ない。国を分かつ河が平原の中央を流れている。西の塔は、その河の中州にある。近付くものは、いやでも身をさらすことになる。
- キョン
- 行きましょう。まだ、何を斬ればいいかわからないけど、斬っていいはずのものなら、こいつに、この剣に、いま斬れないものはないはずです。
- 老人
- まったく、うるさい奴だ。一昼夜、叫びつづけよって。
- オヤジ
- あんな高いところで気絶なんぞできるか!
- 老人
- おまえらに、世界の命運を委ねればならぬ身にもなれ。懐疑主義者を返上して虚無主義者になりそうじゃ。
- オヤジ
- 信じろとは、一言も言ってねえぞ。細かいこと、がたがたいうな。どうせ、出来高払いだろ。でかいつり銭がいるぞ、用意しとけ。
- 老人
- 息は整うたか? では入るぞ。
- オヤジ
- ああ。
- 老人
- ……東の巫女よ。人の中に棲む名無しの隠者が、約束を果たしに来ましたぞ。
- 東の巫女
- す、涼宮さんのお父さん!
- オヤジ
- 姿も声も全然違うが、その反応は朝比奈さんか? 巫女の中にいるのか?
- 東の巫女(みくる)
- は、はい。あの、私もうまく説明できないんですけど、この方の意識の隅に間借りしてるというか、そんな感じです。これで分かりますか。
- オヤジ
- ああ、大体はな。……で、東の巫女とやら、これで「認証」済みってことでいいんだな?
- 東の巫女
- 待っておった。「外の者」の意識が入ってから何日もじゃ。あらゆる手を尽し、懐疑論者にまで使者を出した。それがこうを奏したの。至急、王宮へ赴き、皇太子に会え。兄には、わらわが取り次ぐ。準備はすべて整える故、急げ。
- オヤジ
- 話が早くて助かる。だが、時間もないってことか。
- 東の巫女
- このままでは、王ばかりか皇太子まで、「取りこまれる」。
- オヤジ
- そいつを防げばいいのか?よく斬れる包丁は、相棒が持って行ってるんだ。外科手術みたいじゃないと助かる。
- 東の巫女
- やり方は任せる。
- オヤジ
- 悪魔祓いみたいなのでいいのか?やれて、せいぜいウィッチ・ドクターだぞ。精神分析やるほど気は長くない。
- 東の巫女
- そのやり方は、試みた。その手のものは、わらわの領分じゃ。
- オヤジ
- なるほど。で、何がとりついてるって?
- 東の巫女
- ……野心じゃ。
- キョン
- あれですか、西の塔って?
- 兵士A
- あいつら、なんて数だ!しかも河のこちら側に陣を敷いている!
- 兵士B
- しかも竜まで出して来るとは。
- キョン
- ……向こうは、戦がしたくて仕方がない……そういうことですか?
- 兵士B
- 西の国の王も変わったと聞いたが、これほどとは……。
- キョン
- 西の王も?
- 兵士A
- いや、あの、なんだ。
- 兵士B
- しかし、どうする?
- キョン
- ……おれが、やります。
- 兵士A
- キョン!?
- キョン
- できれば人とか、竜も斬りたくないんですが……。お二人は離れててください。こっちの位置を教えるようなものだから、万が一ってこともあるんで。
- 兵士B
- どうする気だ!?
- 兵士A
- お、おい! うかつに出るな、キョン!
- キョン
- ……誰がやったのか、向こうにわかってもらわないといけないんです。うまくいったら……でえい!!……って、やっぱ、無理か?
- 西の国司令官
- な、なにごとじゃ!?
- 西の国兵士
- わかりません。突然、大地にひびが!
- 西の国司令官
- そちらではない。これじゃ!
- 西の国兵士
- 司令官どのの甲冑が、甲冑だけが、割れて……。
- 西の国兵士
- ふ、不吉な!
- 西の国副官
- 竜にも、司令官どのにも、傷がないとは……あやつは!?
- 西の国兵士
- このひびの先にいます。剣を持っていますが、武装もせずに……
- 西の国司令官
- 何者だ!?
- キョン
- ああ、よかった。聞いてもらえないと、話し出すタイミングがとれなくて。……すみません! 今のは俺がやりました!!……いまいち、信じてもらってないみたいだな。あのー、もう一回やります!
- 西の国兵士
- 司令官どの、今度は塔のうしろの者たちが!!
- 西の国司令官
- あの者が斬ったのか? 刃(やいば)が塔をすりぬけて?
- キョン
- すいませーん! こんどは横に斬ります。少し下がっててください!
- 西の国兵士
- うわあ。また大地にひびが!!
- 西の国司令官
- ぜ、全軍さがれ!
- 西の国副官
- し、しかし、塔の警護が!
- 西の国司令官
- 無意味じゃ! あやつの刃(やいば)は、わしらをすり抜ける!!
- 西の国副官
- しかし塔を斬られでもしたら!!
- 西の国司令官
- すり抜ける刃に、わしらが何ができる!?
- オヤジ
- 野心ね。そいつは厄介だ。満たしてやっても、それ以上に腹を空かせるだだっ子だ。おまけに権力者の生活習慣病だ。あるいは存在理由といってもいい。野心を捨てて施政者が勤まるのか?
- 東の巫女
- だが、際限のない野心は、その身はおろか、国を、世界までも、道連れにする。
- オヤジ
- でかいドンパチの予定でもあるのか? だが相手が要るだろ?
- 東の巫女
- 西の国の王も、同じく「取りこまれた」。そちらも、いまは王女が引き継いでおるが。
- オヤジ
- ふーん。で、こっちの国と、西の国とじゃ、どっちが強いんだ?
- 東の巫女
- 西の国じゃ。向こうは竜がおる。
- オヤジ
- ああ、そうだったな。おれは飛ぶ奴で連れてこられたが、他にもいるのか?
- 東の巫女
- 飛竜は、繁殖が困難故、数体がいるのみじゃ。数が多いのは地竜。人が乗り部隊となる。竜一騎に人では数人がかりでも勝てん。
- オヤジ
- 騎兵まで豪勢だな。だったら、なんで今まで攻め込んで来なかった?
- 東の巫女
- ……。
- オヤジ
- 答無しか。そこが、この世界のへその尾か? まあ、いいさ。東の巫女、皇太子とやらには、外の世界から天才軍師を呼んだとでも触れこんどいてくれ。
- 東の巫女
- ! 戦をやる気か?
- オヤジ
- やりたくないが、逃げられんのだろ? 負けず殺さず殺されずで時を稼ぐさ。多分、皇太子を縛りつけたら、その「野心」とやらは、こんどは代わりの奴にとりつくんだろ?
- 東の巫女
- おぬし、言ってることがわかっておるのか?
- オヤジ
- もちろん。だから、さっさとおれを軍のナンバー2につけろ。じじい、おまえにも仕事をやるから、覚悟しとけ。あと、万一おれまで「取りこまれた」ら、……キョンに伝えてくれ、迷わず俺ごと斬れってな。