ハルヒと親父 @ wiki

化粧

最終更新:

haruhioyaji

- view
管理者のみ編集可
「キョン、今のメイクは、目元ぱっちりが基本だ。くちびるも眉も薄い淡い色をつかって、マスカラは2つ高いのにしろ」
「いや、貴重な情報なんですが、役立てる術がなくて。だいたい、あいつはあんまり化粧とかしないし」
「だ・か・ら、おまえに言ってるんだ」
「いや、だったら、なおさら、おれなんかが言っても……。いつも不思議に思うんですが、どこでそういう情報を仕入れて来るんですか?」
「これはという美容部員を見つけたらお茶か食事に誘う。簡単だ。季節が変わる毎にやってるから、更新も怠りない」
「……谷口がナンパを習いに行ってると聞きましたが、本当でしたか」
「ああ、バカだが根性のある奴だ」
「……お母さんも、化粧っ気ないですよね?」
「母さんはいいんだ」
「親父さん」
「お、キョン、反論か? 受けて立つぞ」
「……うちにも妹がいるから分かりますが、基本的に女の子は母親の化粧品を悪戯するところから化粧を始めるんです」
「そうか、妹ちゃんもそういう年頃か?」
「いや……うちのは、その、まだですが」
「……今のは聞かなかったことにする。それで?」
「あと、化粧美人は、そのお母さんもほとんど必ずと言っていいほど化粧美人です。美貌は遺伝半分、残り半分は家庭内文化として伝承されるんです」
「大きく出たな」
「いや、単純に考えて、お母さんから言ってもらうのが一番いいんじゃないですか? ハルヒはお母さんのことを尊敬してますし」
「娘の彼氏に面と向かってそう言われると、父親として凹むぞ」
「いや、親父さんのことも一目置いてるというか、他山の石として己を磨いているというか……」
「その辺でやめとけ。墓穴を掘り過ぎて、おれの足下まで穴があきそうだ。……絵をやってたことがあるって話はしたか?」
「ええ」
「デッサンを習ったおっさんが、『骨から描け。おまえ達のは皮をはがしたら、みな同じに見えるぞ』とことあるごとに言っていた。あんまりうるさく言うんでむかついてたんだが、ある時、人類学教室でアルバイトがあってな、掘り出した頭蓋骨をきれいに洗って、そこに米粒を注いでいっぱいにして、どれだけ入ったかで脳みその容積を計算する仕事だ。毎日、頭蓋骨に、文字通り触れることができる。そうしてしっかり描き分けた頭蓋骨を100枚、おっさんの顔に叩き付けて、人に絵を習うことはやめにした」
「はあ」
「それ以来、人の顔を見ると、皮膚の下の頭蓋骨が見えるようになってな」
「つまり、容貌の美醜にこだわることはなくなった、ということですか?」
「何を聞いてた? その逆だ。美しい顔は骨から美しい。母さんを見て、わからないか?」
「いや、美しいと思いますが、骨までは見えないんで。……しかし、それだと化粧をする意味がないんじゃ?」
「世の中、おれみたいな変人ばかりじゃないだろ?」
「おれは変人ですか?」
「……違うのか?」
「……率直に聞きます」
「お、おう」
「親父さんには、ハルヒはどう見えるんですか?」
「はあ?」
「う・つ・く・し・い・んですか? う・つ・く・し・く・な・い・んですか? どっちなんですか!?」
「キョン、まだキレるところじゃないだろ、おい?」
「美人なんですか!? 美人じゃないんですか!? どっちなんですか?」
「あのな、自分の娘だぞ、それに……おい、おまえはどうなんだ、キョン?」
「美人でかわいいに決まってるじゃないですか!!」
「テーブルを叩くな! ヤクザか、おまえは?」
「う・つ・く・し・い・んですか? う・つ・く・し・く・な・い・んですか? どっちなんですか!?」
「だから、そのタンギングはやめろ。いいか、キョン……」
「あたしも聞きたいわねえ、その答え」
「「……は、ハルヒ?」」
「ねえ、母さん?」
「そうねえ。ぜひ聞きたいわ」
「「(お)母さん?」」

● ● ●

「プレゼントですか?」
「恋人になら、いい話だが、娘にだ。普段の不仲が災いして、お互い背伸びした義理の贈り合いになった。いや、意地の張り合いだな。あいつを参ったと言わせてみたいが、皆目見当が付かない。高校生なんだ。そうだ、写真がある」
「かわいらしいお嬢さんですね」
「人にはなあ。父親は、もう随分と怒った顔しかみてない。……協力してくれないか?」
「ええ。娘さんが、驚いて喜ぶ顔が見れるようなプレゼントですね」

● ● ●

「へえ。人の写真をネタにして、そうやってナンパしてるわけ?」
「ナンパ゚じゃない。純粋なビジネス・トークだ」
「あたし、親父に何か贈った覚えもなければ、もらった覚えもないけど」
「虚構と現実が混じりあうところに人生はあるんだ」
「見そこなったわ! あたしが知ってる親父は、バカでふてぶてしくて自分勝手で口の聞き方だってなっちゃいないけど、少なくとも、そんなみみっちい言い訳はしなかったわ!」

「おかあさん、止めなくていいんですか? 確かにみみっちい言い訳だったけど、このままだと一方的に……」
「まだ、大丈夫みたい。ああ、見えてあの二人、仲がいいのよ」
「それは、分かりますが……」
「妬かないで。いずれ、お父さんからは離れて、キョン君のところに行くんだし、今日のところは譲ってあげて」
「お、お母さん!」
「違うの?」
「いや、違わなくなくもないですが、いや、そういうことじゃなくて!」
「外野、うるさい!静かにしなさい!」
「はい……」
「お化粧もね、お式のときは、うっすらだけど完璧なメイクをしてあげるから。それを楽しみにしててね」
「……いや、それは……でも親父さん、なんで化粧のことなんて言いだしたんだろう?」
「……夢でお告げでも聞いたのかしら?」
「お告げって……何の?」
「んー、そうねえ?」

 その間にも、ハルヒと親父さんの闘いはヒート・アップしていた。
「そうじゃない、パーティ・ジョークだ!」
「デパートの化粧品売り場や貴金属店で、何相手にパーティ・ジョークかましてんの!?」
 といっても、攻守は入れ替わること無く、勝負の行方も一方的だったが。こういうのは珍しいと言える。
「キョン、言っとくけど、くれぐれも、こういう大人の真似しちゃダメよ!」
「しない。しない」
 絶対に無理。










記事メニュー
目安箱バナー