ハルヒと親父 @ wiki

銀行強盗

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haruhioyaji

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 「なあ、キョン。あいつら殴って来ていいか?」
「お、落ち着いてください、親父さん。他にも人質が居るし、犯人たちは全員武装してます」
「ちっ。だがどうする。このままでは埒が明かんぞ。……時間に間に合わんと事だ」
「た、確かに」
「あいつら、楽しみにしてたからな」
 夕方には、ハルヒの母さんのバースディ・パーティが予定されていた。それ用に注文されていたケーキと七面鳥の丸焼きを取りに、親父さんと俺は派遣された訳だが、軍資金を降ろそうと立ち寄った都市銀行支店で、何の因果か捕われの身になっていた。

 犯人は4人組。武装は全員、本物っぽく見えるサブ・マシンガン。うち一人は、名乗りを上げ威嚇するために、先ほど実際に乱射して見せた。
 全員の携帯電話は没収され、待ち合いスペースの真ん中にまとめて置かれている。
 男性の行員及び客は、みな後ろ手に縛られている。女性たちが窓際の椅子に集められているが、拘束は受けていない。

 やめとーけとー、言うべきかー、どうせ、徒労だろー♪

「おい、あの気の抜けそうな着うたは、おまえのか?」
「あ、ええ」
ハルヒからだ。
「電波が弱い振りして時間を稼げ」
 親父さんが俺の耳にささやいた。
 俺はしぶしぶといった表情を作って声を上げる。
「俺の携帯です」
犯人の一人が俺を立たせ、携帯電話の集会所に連れて行く。
「どれだ?」
「その黒とグリーンのやつです」
犯人の一人がそれを取り上げ、通話ボタンを押して俺の耳に押し当てる。
「もしもし?」
「ちょっとキョン! 銀行強盗ってどういうこと!? あんたが着いてて、なんで親父を止めないの!」
スピーカー・オンにする必要のないハルヒの大音声。そしてものすごい誤解があるようだ。嫌な顔して、少し携帯から耳を離しながら、こちらも叫ぶ。
「俺も親父さんも人質だ! 銃を突きつけられてて動けない。ああ、銃さえなんとかなんたらなあ」
「こいつ、何言ってやがる?」
犯人その一が俺の首根っこをつかむ。
「五分間でいい。銃さえ使えなくなったらいいなあ」
「キョン、さすがに5分は厳しいぞ。10分くれ」
「こいつら!」
激昂した犯人その一は、銃で俺の後頭部を殴りつけた。前に倒れてダメージは避けたつもりだが、やっぱり割れるように痛いぞ! 
「ああ、くそ。縄、解いてる暇がねえじゃないか!」
怒鳴る親父さんの声が、やけに遠くに響く。ヤバくないか、俺。

 カウンターすれすれを飛び越えて、ロビーに転がる親父さん。犯人の何人かが引き金を引くが、カチカチ言うばかりで弾が出ない。
 親父さんはロビーに倒れたまま、蹴りを一番近くに居た犯人のすねに入れる。
 痛がる間に、振り上げた足の反動で起き上がり、そのまま体当たりをかました。男の人質たちの方へそいつを転がす。
「全員で乗しかかれ!捕獲しろ」
その声に気付き、励まされた人質たちは、腕が利かないながらも、何人もが犯人の上に倒れ込み、動きを止める。

 親父さんは次の敵へ。相手は撃つのをあきらめ、銃をこん棒に見立てて振り下ろすが、軽く体を90度回してそれを避けた親父さんの膝をもらって、倒れ込む。

 残りの犯人2人が女性の人質の方へ向かう。間に合うか。二人のうち、手前の方の奴に、俺も渾身の体当たりを喰らわす。よろけて、もう一人の邪魔になれば大金星だが、そう甘くはなかった。最後の一人はそれを避けて、最悪なことに、腰のフォルダーからナイフを出す。
 何かが目の前を走ったような気がした。嫌な音がして、倒れ込む最後の犯人。
「くそ、痛い。革靴なんかで来るんじゃなかったぞ」
「親父さん、いまのは?」
「その重そうな拳銃を両足で引っ掛けて浮かせてから、インステップで蹴った。キョン、誰かに縄ほどいてもらえ。それから肩貸せ。今夜は右足がぱんぱんに腫れそうだ。くそ」


 「ったく、せっかくの準備が台無しよ!」
「すまん」 これでも精一杯だったんだが。
「親父は足痛めてくるし、キョンを松葉杖かわりにするし」
「ちぇ、わかったよ。返せばいいんだろ」
「キョンもキョンよ。あんたを着けた意味がないじゃないの。ちゃんと止めなさい!」
いや、親父さんは、最近息が合って来たからいいが、見ず知らずの銀行強盗までは手に負えんぞ。
「ハル、もうそれくらいにしてあげたら? 銀行強盗はやっつけたし、ちゃんと時間までに戻って来たんだもの」
「母さんは甘いの!……もう、心配したんだからね」

「ツンデレだな」
「ツンデレね」
「親父と母さんは黙ってて!」










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