「口癖をやめる?」
「はい。『~のです』とか『んんっ、もう!』とか、口癖だけで識別されるキャラから抜け出したいの…と、思ったの…で」
「ほー、そりゃ奇特なことだな」
「奇特とか言わないで。私のキャラが立つようになるかどうかの正念場なのです」
「早速お手つき」
「はうっ!」
「まあ無理すんなよ」
それに既に立ちまくってるではないか。ひんにう、ボンビー、空回り、空気嫁。
「そ、それは思い込みです!何かの間違い、誰かの勘違い」
「…今のもどっかで聞いたフレーズd」
「忘れてください!今すぐあっさりくっきりきっぱり!」
わかったわかった。ま、無理だと思うけどな。
「無理じゃありません」
いいや無理だ。それに、そもそも意味がない。口癖を取ったら橘じゃなくなってしまう。ただのツインテール誘拐少女だ。
「そこまで言いますか!わかりました。じゃあ……」
「はい。『~のです』とか『んんっ、もう!』とか、口癖だけで識別されるキャラから抜け出したいの…と、思ったの…で」
「ほー、そりゃ奇特なことだな」
「奇特とか言わないで。私のキャラが立つようになるかどうかの正念場なのです」
「早速お手つき」
「はうっ!」
「まあ無理すんなよ」
それに既に立ちまくってるではないか。ひんにう、ボンビー、空回り、空気嫁。
「そ、それは思い込みです!何かの間違い、誰かの勘違い」
「…今のもどっかで聞いたフレーズd」
「忘れてください!今すぐあっさりくっきりきっぱり!」
わかったわかった。ま、無理だと思うけどな。
「無理じゃありません」
いいや無理だ。それに、そもそも意味がない。口癖を取ったら橘じゃなくなってしまう。ただのツインテール誘拐少女だ。
「そこまで言いますか!わかりました。じゃあ……」
橘は真剣な顔で賭けを提案してきた。
橘が1月間俺の前で口癖を言わなかったら、橘の勝ち。俺が橘の好きなものを何でも奢る。
ただし、橘が1度でも口癖を言ったら、この頭のネジが外れたような挑戦を直ちに終了し、髪型をポニテにする。
まあいいだろうと俺は頷いた。どうせ最初の何日かで終るに決まってる。
橘が1月間俺の前で口癖を言わなかったら、橘の勝ち。俺が橘の好きなものを何でも奢る。
ただし、橘が1度でも口癖を言ったら、この頭のネジが外れたような挑戦を直ちに終了し、髪型をポニテにする。
まあいいだろうと俺は頷いた。どうせ最初の何日かで終るに決まってる。
そういうわけで、2週ばかりが過ぎた。
橘とは毎週末に顔をあわせているが、橘は精一杯頑張っているようだった。
俺や佐々木から話を振られても、つっかかりつっかかり言葉を選び、どうにか『なのです』やら『んんっ、もう!』といった口癖を回避している。
ただ、いつも言葉を選んでいるせいか口数は極端に少なくなっていた。
一番喋り捲る女がそんな状態だから自然と俺たちの話題も途切れがちで、
週末のミーティング(…と称したお茶会なのだが)の雰囲気はあまり明るいとは言えなくなっていた。
橘とは毎週末に顔をあわせているが、橘は精一杯頑張っているようだった。
俺や佐々木から話を振られても、つっかかりつっかかり言葉を選び、どうにか『なのです』やら『んんっ、もう!』といった口癖を回避している。
ただ、いつも言葉を選んでいるせいか口数は極端に少なくなっていた。
一番喋り捲る女がそんな状態だから自然と俺たちの話題も途切れがちで、
週末のミーティング(…と称したお茶会なのだが)の雰囲気はあまり明るいとは言えなくなっていた。
さすがに3週目ともなれば橘の意思も挫けてるだろう、という俺の思惑は見事に外れた。
今週も橘は殆ど笑いもせず、何かを積極的に話すでもなく、自分の招集した面子を前に意地を通しぬいた。
佐々木がいつもより饒舌だったのは橘を気遣ったんだろうが、相手をするのが俺だけなので些か空回り気味だった。
これじゃ、最初にこいつらのミーティングに呼びつけられたときと変わらん。橘と佐々木が入れ替わっただけだ。
今週も橘は殆ど笑いもせず、何かを積極的に話すでもなく、自分の招集した面子を前に意地を通しぬいた。
佐々木がいつもより饒舌だったのは橘を気遣ったんだろうが、相手をするのが俺だけなので些か空回り気味だった。
これじゃ、最初にこいつらのミーティングに呼びつけられたときと変わらん。橘と佐々木が入れ替わっただけだ。
いずれにせよ佐々木のグループのミーティングの話である。
俺は言わば週末だけのお客であって、常日頃から入り浸っているわけではない。体が二つあるわけじゃないからな。SOS団だけで手一杯なのだ。
そんな立場の俺が心配すべき事柄ではないかもしれない、とは思ったが、解散した後で俺は橘に声を掛けた。
俺は言わば週末だけのお客であって、常日頃から入り浸っているわけではない。体が二つあるわけじゃないからな。SOS団だけで手一杯なのだ。
そんな立場の俺が心配すべき事柄ではないかもしれない、とは思ったが、解散した後で俺は橘に声を掛けた。
「なあ、いい加減やめたらどうだ?」
ハンバーガー屋の二階で向かい合ってそう切り出すと、橘は頑固に首を振った。
「まだまだです。約束したの…を破るわけには行きませんから」
「そうか」
「はい」
さすがに繋ぎ方が上手くなってきた。それは認めるのに吝かじゃないが、こう無口じゃ橘と喋ってる気がしない。
もっと無意味に元気いっぱいで、可愛げのある笑顔を出血大サービスで振りまいてるのが橘京子だ。
これじゃ、まるで長門か周防を相手にしてるようで違和感がありすぎる。
「私は、私です。橘京子です」
まあ、それは間違いない。
我が強いっていうか、頑固と言うのか、最初に見たときからそうだったもんな。お前は、お前だ。
「え…?」
「朝比奈さんの誘拐が失敗したときだ」
『わかっていることをそのままなぞるなんて嫌気が差す』と言った藤原に、
橘は『正しい結果に向かって道を外れないように歩くのも芸の一つ』と言い返したのだ。
負け惜しみといえばそこまでかも知れない。だが、あの状況下で薄い胸を昂然と反り返らすのは中々出来る芸当じゃない。
作戦に失敗したことを仲間のようなものから冷笑されたのだから。
「何気に酷いこと言ってません?」
「気にするな」
しかし……そうか。
ハンバーガー屋の二階で向かい合ってそう切り出すと、橘は頑固に首を振った。
「まだまだです。約束したの…を破るわけには行きませんから」
「そうか」
「はい」
さすがに繋ぎ方が上手くなってきた。それは認めるのに吝かじゃないが、こう無口じゃ橘と喋ってる気がしない。
もっと無意味に元気いっぱいで、可愛げのある笑顔を出血大サービスで振りまいてるのが橘京子だ。
これじゃ、まるで長門か周防を相手にしてるようで違和感がありすぎる。
「私は、私です。橘京子です」
まあ、それは間違いない。
我が強いっていうか、頑固と言うのか、最初に見たときからそうだったもんな。お前は、お前だ。
「え…?」
「朝比奈さんの誘拐が失敗したときだ」
『わかっていることをそのままなぞるなんて嫌気が差す』と言った藤原に、
橘は『正しい結果に向かって道を外れないように歩くのも芸の一つ』と言い返したのだ。
負け惜しみといえばそこまでかも知れない。だが、あの状況下で薄い胸を昂然と反り返らすのは中々出来る芸当じゃない。
作戦に失敗したことを仲間のようなものから冷笑されたのだから。
「何気に酷いこと言ってません?」
「気にするな」
しかし……そうか。
改めて気が付いた。
思い返してみれば橘京子が橘京子以外の何者でもないってことは、その最初の遭遇からずっと分かっていたのだ。
あまりにも俺の朝比奈さんを誘拐したというインパクトが強すぎて見えなくなっていただけで。
そう、口癖なんかあってもなくても、お前はお前だったんだな。
思い返してみれば橘京子が橘京子以外の何者でもないってことは、その最初の遭遇からずっと分かっていたのだ。
あまりにも俺の朝比奈さんを誘拐したというインパクトが強すぎて見えなくなっていただけで。
そう、口癖なんかあってもなくても、お前はお前だったんだな。
「…分かってくれて嬉しいです」
「ああ。口癖が無かったら誘拐少女なんて言って悪かった。あれは撤回する」
「ありがとう」
数週間ぶりに見るニコマークのような笑顔。
佐々木のくつくつ笑いにも、ハルヒの晴れやかな笑顔にも、朝比奈さんの天使のような微笑みにも似ていない。
久しぶりに見る可愛げの成分がたっぷり振りかけられたそれは、橘京子らしい笑顔で──。
不覚ながら、俺は少しそれに見惚れてしまった。
「ど、どうしたんですか?」
橘は瞬かせて笑顔を引っ込めた。口癖が出てしまったのかと狼狽しているようだ。
いま、必死で自分の言葉を反芻しているに違いない。そんなことも手に取るように分かる。
もっとも、それを指摘すれば必死になって否定するだろうが。
「ああ。口癖が無かったら誘拐少女なんて言って悪かった。あれは撤回する」
「ありがとう」
数週間ぶりに見るニコマークのような笑顔。
佐々木のくつくつ笑いにも、ハルヒの晴れやかな笑顔にも、朝比奈さんの天使のような微笑みにも似ていない。
久しぶりに見る可愛げの成分がたっぷり振りかけられたそれは、橘京子らしい笑顔で──。
不覚ながら、俺は少しそれに見惚れてしまった。
「ど、どうしたんですか?」
橘は瞬かせて笑顔を引っ込めた。口癖が出てしまったのかと狼狽しているようだ。
いま、必死で自分の言葉を反芻しているに違いない。そんなことも手に取るように分かる。
もっとも、それを指摘すれば必死になって否定するだろうが。
ある悪戯が閃いて、俺はわざと少し視線を泳がせた。
「どうもしない」
勿体ぶった態度は古泉の見よう見まねだが、効果はあったらしい。
視線を戻すと橘はまだ不安そうな顔をしていた。きっと、口癖が出てしまったのだ、と思っているに違いない。
「ちょっとな」
なんですか、と蒼い顔になった橘に、顔を寄せろと手まねきする。
「今思いついたんだが…解決法だ」
「なんの?」
狭いテーブル越しに身を乗り出して、至近距離にある橘の顔を両手で挟み、何かを言う暇を与えずに唇を重ねる。
「ん……んん!?……も、もうっ!なにするんですかぁ!」
橘の唇は、チーズバーガーとフライドポテトの味がした。
「どうもしない」
勿体ぶった態度は古泉の見よう見まねだが、効果はあったらしい。
視線を戻すと橘はまだ不安そうな顔をしていた。きっと、口癖が出てしまったのだ、と思っているに違いない。
「ちょっとな」
なんですか、と蒼い顔になった橘に、顔を寄せろと手まねきする。
「今思いついたんだが…解決法だ」
「なんの?」
狭いテーブル越しに身を乗り出して、至近距離にある橘の顔を両手で挟み、何かを言う暇を与えずに唇を重ねる。
「ん……んん!?……も、もうっ!なにするんですかぁ!」
橘の唇は、チーズバーガーとフライドポテトの味がした。
「何が解決法ですか!この色魔!えっち!女たらし!」
真っ赤になって両手を無意味に振り回す橘に、俺は指を突きつける。
「お手つき」
「!!」
時間を止められたように硬直する橘は、それはそれで可愛い。
だが、俺のスタンド能力の限界なのか、橘の思考回路が復旧するのが早いのか、ものの数秒でまた喚き出した。
「ひ、ひどいです!横暴なのです!」
「またお手つきだぞ」
「いいのです!もう負けちゃったから…うぅ」
はあ、と大きな溜息をついて、橘はテーブルにつっぷしてしまった。
「フェアじゃないです」
くぐもった声で言う。ツインテールが少しだけ揺れる。
「そうだな」
「責任……取って下さいね」
何やら物騒な言葉だが……まあいいか。それは望むところだ。
「……え?」
ツインテールの動きが止まった。
「佐々木は『恋愛なんて精神病の一種だ』と言ってた。ハルヒも殆ど同じだ。
どうやら神様二人の見解を借りると、俺は急性の精神病患者らしい。しかもいきなり重態だ」
「……」
「お前が似たような症状だったら、二人でこっそり入院しないか?
どうやら、この病気は一人だとどうしようもないが、特定の二人が揃ってるとどえらくハッピーらしいんだが」
真っ赤になって両手を無意味に振り回す橘に、俺は指を突きつける。
「お手つき」
「!!」
時間を止められたように硬直する橘は、それはそれで可愛い。
だが、俺のスタンド能力の限界なのか、橘の思考回路が復旧するのが早いのか、ものの数秒でまた喚き出した。
「ひ、ひどいです!横暴なのです!」
「またお手つきだぞ」
「いいのです!もう負けちゃったから…うぅ」
はあ、と大きな溜息をついて、橘はテーブルにつっぷしてしまった。
「フェアじゃないです」
くぐもった声で言う。ツインテールが少しだけ揺れる。
「そうだな」
「責任……取って下さいね」
何やら物騒な言葉だが……まあいいか。それは望むところだ。
「……え?」
ツインテールの動きが止まった。
「佐々木は『恋愛なんて精神病の一種だ』と言ってた。ハルヒも殆ど同じだ。
どうやら神様二人の見解を借りると、俺は急性の精神病患者らしい。しかもいきなり重態だ」
「……」
「お前が似たような症状だったら、二人でこっそり入院しないか?
どうやら、この病気は一人だとどうしようもないが、特定の二人が揃ってるとどえらくハッピーらしいんだが」
一息で言い切って、俺は顔が熱くなってることに気づいた。予測はしていたが。
視線を橘に遣ると、まだつっぷしたままの橘の肩は小さく震えているようだった。
平らなテーブルの上の頭は、どう動くかまるで分からない。
視線を橘に遣ると、まだつっぷしたままの橘の肩は小さく震えているようだった。
平らなテーブルの上の頭は、どう動くかまるで分からない。
さて、橘はどう返事をしてくれるんだろうかね?