「んもうっ!」
喫茶店からの帰り道、長い信号待ちであたしは思わず地団駄を踏みました。
なかなか青に変わらない信号に腹を立てたんじゃなくて、じっと立っている内にすっきりしないイライラみたいなものが溜まっていって、とうとうそれが軽く爆発しちゃったような感じ。
でも、かかとを盲人用の黄色い点字ブロックにぶつけた後で、すぐに軽率な行動だったとちょっと後悔しました。
周りの人に変な娘だと思われちゃったかな。
何やってるんだろうって、ますます自己嫌悪にハマってしまいます。
少しこのまま佇んでいたい気分だったけど、空気を読んでくれない信号機が変わったので厭々歩みを進めます。
まるで自慢の青色発光ダイオードを見せびらかすように明々と灯っている『進め』のランプがとことん可愛くない。よくよくみるとツブツブがいっぱいで気持ち悪いのです
まったく、気の利かない。
そうっ、なんて気の利かない人が多いことでしょう。
あたしがこれだけ世界の在るべき姿の重要性を説いているというのに、どこ吹く風とばっかりに非協力的な人ばかり。
今日の会合だって人を集めるのにどれだけ苦労したか分かります?
腰の重い人達ばかりを説得してみんなの都合を調整してようやく一同に会することができたのです。
念願だったキョンさんを交えた貴重な会合、もっともっと有意義な話をするはずだったのに……。
なかなか青に変わらない信号に腹を立てたんじゃなくて、じっと立っている内にすっきりしないイライラみたいなものが溜まっていって、とうとうそれが軽く爆発しちゃったような感じ。
でも、かかとを盲人用の黄色い点字ブロックにぶつけた後で、すぐに軽率な行動だったとちょっと後悔しました。
周りの人に変な娘だと思われちゃったかな。
何やってるんだろうって、ますます自己嫌悪にハマってしまいます。
少しこのまま佇んでいたい気分だったけど、空気を読んでくれない信号機が変わったので厭々歩みを進めます。
まるで自慢の青色発光ダイオードを見せびらかすように明々と灯っている『進め』のランプがとことん可愛くない。よくよくみるとツブツブがいっぱいで気持ち悪いのです
まったく、気の利かない。
そうっ、なんて気の利かない人が多いことでしょう。
あたしがこれだけ世界の在るべき姿の重要性を説いているというのに、どこ吹く風とばっかりに非協力的な人ばかり。
今日の会合だって人を集めるのにどれだけ苦労したか分かります?
腰の重い人達ばかりを説得してみんなの都合を調整してようやく一同に会することができたのです。
念願だったキョンさんを交えた貴重な会合、もっともっと有意義な話をするはずだったのに……。
キョンさんは朝比奈さんの件であたしを完全に悪役だと誤解しちゃってるし、
佐々木さんは自分の存在の重大さがイマイチ分かってなくて非協力的だし、
自称『藤原』さんは非協力的以前に会話すらも噛み合わせてくれないし、
九曜さんは会話する以前に存在感そのものが希薄でつかみ所がないし、
佐々木さんは自分の存在の重大さがイマイチ分かってなくて非協力的だし、
自称『藤原』さんは非協力的以前に会話すらも噛み合わせてくれないし、
九曜さんは会話する以前に存在感そのものが希薄でつかみ所がないし、
兎にも角にもうまくいかないことだらけでした。
たった一つの収穫といえば、あたしの能力でキョンさんに佐々木さんの内面世界を見せることができたことくらいかな。
そう思うとやっぱり頼れるのは自分だけなのかなと思っちゃいます。
本当は対抗組織としての団結力を高めてチームワークで臨むのが理想なんでしょうけど、この状況じゃそんなこと夢物語ね。
諦めるわけじゃないけど方針の転換は必要みたい。
じゃあ具体的にどうするのっていう疑問の答えですけど、実はおぼろげながらもすでにあたしの頭の中に用意があったりします。
やはりキーパーソンとなるのはキョンさん。
佐々木さんは今は渋ってるけど彼さえその気になればどうとでも転ぶわ。それこそコロっとね。間違いないです。
哲学的な論調で平静を装って努めて理性的であろうとする彼女の姿は滑稽ですらあります。それに気づかない鈍感で朴念仁な彼もだけど。
二人が素直にくっついてくれればそれは願ったり叶ったりだけど、お二人の態度を見てる限りじゃ10年待っても良いお友達のフリしてよろしくやってそうね。
とてもじゃないけど、そんなに待ってられません。
もちろん涼宮さんにいつまでも世界改変の能力を預けてられないってのもあるけれど、煮え切らないような態度の佐々木さんの方針も良く分からないのです。
そうなの、花の命は儚くて短いのよ。
どこかで読んだ本には、夫がいつまでも妻に愛着を持ち続ける一つの条件は、十代後半から二十代前半にかけて一番女性として綺麗な時期の妻を知ってることって書いてありました。
プリプリのお肌の生足で大胆に勝負できるのはまさに今だけなのです。
意中の男の子に一番可愛い自分を見せずにむざむざやり過ごすなんてありえない!
気づけばあたしは立ち止まってお気に入りの○ェンディの傘の柄を痛いくらいに握り締めてました。
突然スイッチが入ったみたいに爪が食い込んでうっ血している掌の悲鳴を聞いて、慌てて我に返ります。
たった一つの収穫といえば、あたしの能力でキョンさんに佐々木さんの内面世界を見せることができたことくらいかな。
そう思うとやっぱり頼れるのは自分だけなのかなと思っちゃいます。
本当は対抗組織としての団結力を高めてチームワークで臨むのが理想なんでしょうけど、この状況じゃそんなこと夢物語ね。
諦めるわけじゃないけど方針の転換は必要みたい。
じゃあ具体的にどうするのっていう疑問の答えですけど、実はおぼろげながらもすでにあたしの頭の中に用意があったりします。
やはりキーパーソンとなるのはキョンさん。
佐々木さんは今は渋ってるけど彼さえその気になればどうとでも転ぶわ。それこそコロっとね。間違いないです。
哲学的な論調で平静を装って努めて理性的であろうとする彼女の姿は滑稽ですらあります。それに気づかない鈍感で朴念仁な彼もだけど。
二人が素直にくっついてくれればそれは願ったり叶ったりだけど、お二人の態度を見てる限りじゃ10年待っても良いお友達のフリしてよろしくやってそうね。
とてもじゃないけど、そんなに待ってられません。
もちろん涼宮さんにいつまでも世界改変の能力を預けてられないってのもあるけれど、煮え切らないような態度の佐々木さんの方針も良く分からないのです。
そうなの、花の命は儚くて短いのよ。
どこかで読んだ本には、夫がいつまでも妻に愛着を持ち続ける一つの条件は、十代後半から二十代前半にかけて一番女性として綺麗な時期の妻を知ってることって書いてありました。
プリプリのお肌の生足で大胆に勝負できるのはまさに今だけなのです。
意中の男の子に一番可愛い自分を見せずにむざむざやり過ごすなんてありえない!
気づけばあたしは立ち止まってお気に入りの○ェンディの傘の柄を痛いくらいに握り締めてました。
突然スイッチが入ったみたいに爪が食い込んでうっ血している掌の悲鳴を聞いて、慌てて我に返ります。
あたしってば何を力説してるんでしょ。意味もなく当たり散らすなんてらしくありません。どうも今日は調子がヘンです。どうしてかな……。
今日何度目か分からない自己嫌悪に自嘲しながら深呼吸を一つ吐きます。
湿気たっぷりの不快指数の高い空気のおかげですぐに頭は冷えました。
……さて、だいぶ話が横道に逸れてしまったようだけど、どこまで思考を進めてたかな。
そう、キョンさんのことでした。
要するに将を射んとすればまずは馬からなんて暢気なことやってる余裕はないのです。
つまり、あたし自ら動くしかないってこと。
で、思いついた秘策とは――――、
今日何度目か分からない自己嫌悪に自嘲しながら深呼吸を一つ吐きます。
湿気たっぷりの不快指数の高い空気のおかげですぐに頭は冷えました。
……さて、だいぶ話が横道に逸れてしまったようだけど、どこまで思考を進めてたかな。
そう、キョンさんのことでした。
要するに将を射んとすればまずは馬からなんて暢気なことやってる余裕はないのです。
つまり、あたし自ら動くしかないってこと。
で、思いついた秘策とは――――、
ズバリ、キョンさんをあたしの色香で惑わせて虜にする。名づけて『傾国の美女作戦』!
なんてったって女性を巡って男性が動くのは歴史が雄弁に語ってるもの。
クレオパトラと楊貴妃がその絶世の美貌で歴史を作ったのはあまりにも有名なのです。
だいたい男の子なんて女の子の色目には弱いもの。免疫の無さそうなキョンさんなんてそれこそイチコロよ。
キョンさんと佐々木さんが簡単にくっつかないのなら、あたしにくっつけちゃえば良いのです。堂々とくっついちゃうと問題があるので、あくまでも裏で。裏から操っちゃうなんていかにも悪女めいていて燃えるのです。うふっ。
キョンさんの周りにはどういうわけか女のあたしから見ても可愛い女の子達がたくさんひしめき合ってるけど、どの娘も揃いも揃ってお子ちゃまなのが絶好のつけ入る隙。
誤解がないように説明すると、容姿やスタイルでも引けをとってるつもりなんかちっともないです。
機関のお仕事があるので特別に気合入れてないだけで、あたしだってまんざらじゃないのよ。
コクられたことだって何度もあるし、ラブレターだって貰ったことあるのです。
その気になればあの中でも真っ向から十分勝負できる見込みはあるもの。なーんて言うとちょっと自惚れかな。
まぁ、それはそうとして……。
クレオパトラと楊貴妃がその絶世の美貌で歴史を作ったのはあまりにも有名なのです。
だいたい男の子なんて女の子の色目には弱いもの。免疫の無さそうなキョンさんなんてそれこそイチコロよ。
キョンさんと佐々木さんが簡単にくっつかないのなら、あたしにくっつけちゃえば良いのです。堂々とくっついちゃうと問題があるので、あくまでも裏で。裏から操っちゃうなんていかにも悪女めいていて燃えるのです。うふっ。
キョンさんの周りにはどういうわけか女のあたしから見ても可愛い女の子達がたくさんひしめき合ってるけど、どの娘も揃いも揃ってお子ちゃまなのが絶好のつけ入る隙。
誤解がないように説明すると、容姿やスタイルでも引けをとってるつもりなんかちっともないです。
機関のお仕事があるので特別に気合入れてないだけで、あたしだってまんざらじゃないのよ。
コクられたことだって何度もあるし、ラブレターだって貰ったことあるのです。
その気になればあの中でも真っ向から十分勝負できる見込みはあるもの。なーんて言うとちょっと自惚れかな。
まぁ、それはそうとして……。
ふふっ、おままごとはもう終わりの時間なのです。
キョンさんの思いのほか大きくて暖かい手の感触を思い起こすと、じん、と掌にうずきが灯りました。
あの手で優しく髪の毛を撫でてもらえたら、
アノ手で強く胸を揉みシダかれたら、
アノテデアタシノ……ヲハゲシク、ハゲシク――――、
アノ手で強く胸を揉みシダかれたら、
アノテデアタシノ……ヲハゲシク、ハゲシク――――、
「はぁ……」
あらぬ所へと妄想が飛んで、身体が熱く火照ってきました。
やだ、あたしったらはしたない。
でも、あの無愛想なキョンさんがあたしにメロメロのデレデレになってる図を想像すると口の端が吊り上ってニヤケるのを止められません。
こんな感覚って初めて。ドキドキが全然治まらない。こんな願望があるなんて自分でもびっくりです。
あたしって小悪魔的な気質があるのかも……。
薄く笑んで空を見上げると曇天の切れ間から一筋の光明が差し込んできました。
いつの間にか雨が止んでいることに気づくとあたしは傘をたたんで、一転意気揚々と駅の切符売り場へ向かいます。
このままおとなしく家に帰るつもりだったけど急用ができました。
やるならトコトン、準備は万全に。
特急の窓に写りこむのは使命感を瞳に滾らせたあたし。そのもう一人の自分と挑戦的に向き合ってあたしは終点を目指します。
やだ、あたしったらはしたない。
でも、あの無愛想なキョンさんがあたしにメロメロのデレデレになってる図を想像すると口の端が吊り上ってニヤケるのを止められません。
こんな感覚って初めて。ドキドキが全然治まらない。こんな願望があるなんて自分でもびっくりです。
あたしって小悪魔的な気質があるのかも……。
薄く笑んで空を見上げると曇天の切れ間から一筋の光明が差し込んできました。
いつの間にか雨が止んでいることに気づくとあたしは傘をたたんで、一転意気揚々と駅の切符売り場へ向かいます。
このままおとなしく家に帰るつもりだったけど急用ができました。
やるならトコトン、準備は万全に。
特急の窓に写りこむのは使命感を瞳に滾らせたあたし。そのもう一人の自分と挑戦的に向き合ってあたしは終点を目指します。
「悪いが何度誘われようが俺の気持ちは変わらん。お前と改めて話すことなど何一つない」
ピッ、ツー、ツー、ツー――――。
一方的に切られて耳に押し当てたケータイの受話器から聞こえる空しい発信音を聞きながら、あたしは呆然となりました。
水でもぶっかけられたように、高揚していた気分が覚めていきます。
あの雨の日のセレンディピティから作戦を練りに練って、必要なモノを全て揃えて、お肌の調子も整えて、さぁ後は実行するだけというところまでは比較的順調に来れたんです。
でも、いざ始めようとしていきなり大きな壁にぶち当たることになりました。
肝心なことが抜けてたのです。
そう、うかつにもキョンさんのアポイントを取り付けること自体が難関だってことをすっかり忘れてしまっていたの。
舞い上がってたせいで勝手に楽観視してたってのもあるのかな。
ダメダメ、こんな甘いことじゃダメです。到底オトコを惑わす悪女になることなんて無理。
あたしが目指すのは、こう……、一見無垢でか弱い儚さと冴え渡る打算を兼ね備えた悪い女。まさに北条政子、日野富子、淀殿の系譜なのです。
この痛い経験を心に刻んで気を引き締め直したあたしは、心意気も新たに手を変え品を変え猛烈にアプローチをかけました。
ケータイに電話すること18回、メールを打つこと52回、待ち伏せすること5回。
数々の失敗と挫折を見えないトコに図太い鉄心を仕込んだ乙女心で乗り越えて、ついにっ、ついにキョンさんとの約束を取り付けることに成功したんです。
まぁ、最後の手段とばかりに自宅前で待ち伏せてるところを親御さんに発見されて夕飯をご馳走になったのがキッカケなので、実はラッキーの他何でもありませんけど。
さすがに家族同席の場であからさまに女の子を冷たくあしらうこともできなかったらしく、半ばストーカーに怯えるキョンさんを今週の土曜日に誘い出すことに成功したのでした。ふふふ。
水でもぶっかけられたように、高揚していた気分が覚めていきます。
あの雨の日のセレンディピティから作戦を練りに練って、必要なモノを全て揃えて、お肌の調子も整えて、さぁ後は実行するだけというところまでは比較的順調に来れたんです。
でも、いざ始めようとしていきなり大きな壁にぶち当たることになりました。
肝心なことが抜けてたのです。
そう、うかつにもキョンさんのアポイントを取り付けること自体が難関だってことをすっかり忘れてしまっていたの。
舞い上がってたせいで勝手に楽観視してたってのもあるのかな。
ダメダメ、こんな甘いことじゃダメです。到底オトコを惑わす悪女になることなんて無理。
あたしが目指すのは、こう……、一見無垢でか弱い儚さと冴え渡る打算を兼ね備えた悪い女。まさに北条政子、日野富子、淀殿の系譜なのです。
この痛い経験を心に刻んで気を引き締め直したあたしは、心意気も新たに手を変え品を変え猛烈にアプローチをかけました。
ケータイに電話すること18回、メールを打つこと52回、待ち伏せすること5回。
数々の失敗と挫折を見えないトコに図太い鉄心を仕込んだ乙女心で乗り越えて、ついにっ、ついにキョンさんとの約束を取り付けることに成功したんです。
まぁ、最後の手段とばかりに自宅前で待ち伏せてるところを親御さんに発見されて夕飯をご馳走になったのがキッカケなので、実はラッキーの他何でもありませんけど。
さすがに家族同席の場であからさまに女の子を冷たくあしらうこともできなかったらしく、半ばストーカーに怯えるキョンさんを今週の土曜日に誘い出すことに成功したのでした。ふふふ。
待ちに待った土曜日の昼下がり。
あたしは30分前行動で待ち合わせ場所に待機してキョンさんを待ちます。
繁華街にある誰でも知ってる某ファッションビルの入り口で待ち合わせ。
ガラス張りのショーケースに写った自分の姿は、いつもとはガラリとイメチェンをして狙い通りにキュートなオネエに変身を遂げたあたし。
あたしは30分前行動で待ち合わせ場所に待機してキョンさんを待ちます。
繁華街にある誰でも知ってる某ファッションビルの入り口で待ち合わせ。
ガラス張りのショーケースに写った自分の姿は、いつもとはガラリとイメチェンをして狙い通りにキュートなオネエに変身を遂げたあたし。
貯金を散財したのは切ないですけど、投資の効果はヒシヒシと感じるのです。
自惚れでもなんでもなく、これで落とせない男なんてそうそういないはず。
せっかくだから今日のあたしのファッションをチェックしちゃいましょう。
トップスは大きなレース付シフォンの襟がラブリーなパフニット。白のシフォンと黒のパフニットのコントラストが格調高くてオトナな雰囲気を演出してくれちゃいます。
パフニットは袖口を絞った半袖になってて腕を大胆に出して気品あるフェミニンさもアピールなのです。
一方ボトムはサテン切り替えでウェストを絞った純白のタックフレアスカート。裾には灰色のラインが入ってるところがワンポイント。ベルトの大きなリボンで可愛らしさをこれ以上ないくらいに引き出しちゃってます。
この絶妙の上下白黒コーデにプラスして注目すべきはなんといってもバストのボリューム。
今まで本気で選んだことなんてなかったから知らなかったけど、最近の補正下着はすごいのよ。見栄張ってギリギリCカップだったあたしの胸に立派な谷間がでーんと……、でーんと……、って本当にすごい。
家を出た瞬間からやたらと男の人の視線を感じっぱなしなので正直恥ずかしいですけど、キョンさんが巨乳好きというデータがある以上これを外すことはできません。
ああ、でも、も、もしブラを外すような事態になったとしたら……、やだ、あたしったら何を昼間っから妄想してるんでしょ。
自惚れでもなんでもなく、これで落とせない男なんてそうそういないはず。
せっかくだから今日のあたしのファッションをチェックしちゃいましょう。
トップスは大きなレース付シフォンの襟がラブリーなパフニット。白のシフォンと黒のパフニットのコントラストが格調高くてオトナな雰囲気を演出してくれちゃいます。
パフニットは袖口を絞った半袖になってて腕を大胆に出して気品あるフェミニンさもアピールなのです。
一方ボトムはサテン切り替えでウェストを絞った純白のタックフレアスカート。裾には灰色のラインが入ってるところがワンポイント。ベルトの大きなリボンで可愛らしさをこれ以上ないくらいに引き出しちゃってます。
この絶妙の上下白黒コーデにプラスして注目すべきはなんといってもバストのボリューム。
今まで本気で選んだことなんてなかったから知らなかったけど、最近の補正下着はすごいのよ。見栄張ってギリギリCカップだったあたしの胸に立派な谷間がでーんと……、でーんと……、って本当にすごい。
家を出た瞬間からやたらと男の人の視線を感じっぱなしなので正直恥ずかしいですけど、キョンさんが巨乳好きというデータがある以上これを外すことはできません。
ああ、でも、も、もしブラを外すような事態になったとしたら……、やだ、あたしったら何を昼間っから妄想してるんでしょ。
「おい」
でも、100パーセントないとも言いきれないし、そうなったら困るなぁ……。嫌じゃないんだけど、うん、困る……、どうしよう?
「おいって」
「え? あっ、ハイ!」
一人芝居に耽っていたところでいきなり肩を叩かれて慌てて振り向くと、そこには待ち人が訝しげに佇んでいました。
「キョ、キョンさん!?」
「呼び出しといてその驚きようはなんだ?」
なんたる不覚。ホテルの前でどうやって言い訳したら良いか順調に考え込んでるうちに、キョンさんの接近に気づかないなんて。
なんだコイツ、と言わんばかりの疑惑の視線がそこはかとなく痛いです。
なんだコイツ、と言わんばかりの疑惑の視線がそこはかとなく痛いです。
「いえ、あの……、昨日の夜あんまり眠れなくて上の空だった、のです」
自分でも苦しいと思う出来損ないの言い訳に思わず目も少し泳いでしまいましたが、なんとか納得してもらえたみたいです。これ以上ツッコむのも億劫ってのが真相臭いですけど。
「で? ストーカーまがいのことまでして休日の俺を引っ張り出す用件はなんだ?」
出会い頭の先制パンチが飛んできました。
うう、そんないかにもつっけんどんな態度を取らないで欲しいなぁ。
でも、これは想定の範囲内。こんなとこでいちいち挫けてられません。
うう、そんないかにもつっけんどんな態度を取らないで欲しいなぁ。
でも、これは想定の範囲内。こんなとこでいちいち挫けてられません。
「用件って、予め伝えていた通り今日は堅苦しい話をするつもりはありません。純粋にキョンさんとお話がしたかっただけなのです」
「何度も言うが誘拐犯と話す話題の持ち合わせなんぞないんだが」
んもうっ。何度も言うのはこっちの台詞なのです。
あれはポーズみたいなものだったってさんざん説明してるのにどうして分かってくれないのかな。
どうやらターゲットに朝比奈さんを選んだことが相当に根を持たせてる原因みたいです。
……それって、なんだか気に入らないなぁ。
そんな心中を機微を心の奥底に押しやって、とにかく話を進めます。
あれはポーズみたいなものだったってさんざん説明してるのにどうして分かってくれないのかな。
どうやらターゲットに朝比奈さんを選んだことが相当に根を持たせてる原因みたいです。
……それって、なんだか気に入らないなぁ。
そんな心中を機微を心の奥底に押しやって、とにかく話を進めます。
「だからこれはそのお詫びのつもりなのです。仲互いする意図なんてこれっぽっちもないんだから。親睦会よ、親・睦・会」
「侘びだと? 相手が違うんじゃないか。謝るんなら俺じゃなくて朝比奈さんだろう」
「それは重々承知しているのです。だけど彼女の性格からしていきなりあたしが会いに行っても怖がらせるだけでしょう? だからまずはキョンさんに間に入ってもらいたいの」
「…………」
思惑は上々、キョンさんは少し考え込むように黙ってしまいました。少し眉間にしわを寄せて口元に手をやる仕草が何気にあたし的にツボかもしれません。
ここはチャンスとばかりに一気に切り崩しにかかります。
ここはチャンスとばかりに一気に切り崩しにかかります。
「彼女にはいずれ謝罪に行くつもりなのです。でもそれには順番を踏まないと、ね。まずはその第一段階としてキョンさんのあたしに対する誤解を解きたいなって。だから今日はもてなしをさせて欲しいのです」
ぎゅっと握った両手を胸の前にもってきてちょっと上目遣いで10センチくらい上にある彼を見上げると、キョンさんはあからさまに困った顔をしてました。
良い表情と言うには程遠いけど、5分前の嫌悪感と猜疑心を顔全体に貼り付けた不快指数100%の彼はもう在りません。あと一押し!
良い表情と言うには程遠いけど、5分前の嫌悪感と猜疑心を顔全体に貼り付けた不快指数100%の彼はもう在りません。あと一押し!
「今日は全部奢ります。あ、お金の心配なら無用です。機関の交際費で落としちゃいますから」
「……いやそれは別にどうでもいいんだが」
あたしに付き合ってもいいけど、なんかひっかかる……、そんな感じかな。
年分不相応に落ち着いてるだけあって、さすがに思慮深いです。それでもこうやって普通な感じで女の子に頼みごとをされると無碍にできないのがやっぱり男の子。
キョンさんは「あー」とか「うー」とか一人で唸り続けています。
でも、迷ってるってことは少し強引でもオーケーなはずよね。ここは一つ強攻策でいくとしましょう。
年分不相応に落ち着いてるだけあって、さすがに思慮深いです。それでもこうやって普通な感じで女の子に頼みごとをされると無碍にできないのがやっぱり男の子。
キョンさんは「あー」とか「うー」とか一人で唸り続けています。
でも、迷ってるってことは少し強引でもオーケーなはずよね。ここは一つ強攻策でいくとしましょう。
「もうっ、要するに今日は楽しんで欲しいってことなのっ。……えいっ!」
「あ、おいっ!」
ひたすら渋るキョンさんに焦れたようにしてあたしは彼の腕を取って歩き出しました。
本気で抵抗すれば簡単に振りほどけるはずだけど、そうはせずに引っ張られる身体に脚が無理やりついてくるといった感じで進みます。
本気で抵抗すれば簡単に振りほどけるはずだけど、そうはせずに引っ張られる身体に脚が無理やりついてくるといった感じで進みます。
「そんなに深く考えないで。女友達と遊ぶ、そんな感覚でいいのです。なんならデート気分なんてどう? あたし的には全然問題なしです」
無邪気に振舞ってキョンさんの腕を深く引き寄せて身体全体で抱え込んでみました。
増量されたムネの谷間に丁度挟み込むような体勢にすると、彼は覿面に面食らったような顔をして、慌てて引き離そうとしたけどもちろん簡単には離してあげません。
すごく緊張してるせいか、キョンさんの高い体温が生々しく伝わってきます。
や、やだ……、あんまり暴れたら腕が……、変なトコに擦れちゃいます。
増量されたムネの谷間に丁度挟み込むような体勢にすると、彼は覿面に面食らったような顔をして、慌てて引き離そうとしたけどもちろん簡単には離してあげません。
すごく緊張してるせいか、キョンさんの高い体温が生々しく伝わってきます。
や、やだ……、あんまり暴れたら腕が……、変なトコに擦れちゃいます。
「ちょっ、コラ! そんなにくっつくなって」
「い、いいからいいから。話があるなら店にでも入ってゆっくりしましょ」
雑念を振り払うように小走りになると、ようやく観念したのか抵抗する力が随分弱まりました。
この後どうなってしまうのか、計画は綿密に練ってきたにも関わらず、あたしは新鮮なキョンさんのリアクションに高鳴る鼓動を抑えられないまま、地についてないような足取りでお気に入りのカフェを目指しました。
この後どうなってしまうのか、計画は綿密に練ってきたにも関わらず、あたしは新鮮なキョンさんのリアクションに高鳴る鼓動を抑えられないまま、地についてないような足取りでお気に入りのカフェを目指しました。
「キョンさんはお気に入りの店とかないんですか?」
「……ないね。あいにくちょくちょく外食できるほど金を持ってるわけじゃないんでね」
「そ、そうですか……」
瀟洒なカフェの窓際の席で春のうららかな日差しを浴びながら優雅にランチタイムという予定だったんだけど、現実に在る目の前の光景はそんな空想からは遠くかけ離れたもの。
正面に座っているキョンさんはあまり視線も会話も合わせてくれず、食後に注文したアイスコーヒーも一口飲んだだけで、仏頂面のままそっぽを向いてしまっています。
あたしはそれに愛想笑いを浮かべるだけ。
ああ、もうっ、早くも用意してきた会話のネタ(日常編)が底を尽きました。
ただの世間話には興味がない、ということね。それならば、こっちにだってやり方があるのです。こんなに早く使うとは思ってなかったけど、ここは絡め手で責めるしかありません。
正面に座っているキョンさんはあまり視線も会話も合わせてくれず、食後に注文したアイスコーヒーも一口飲んだだけで、仏頂面のままそっぽを向いてしまっています。
あたしはそれに愛想笑いを浮かべるだけ。
ああ、もうっ、早くも用意してきた会話のネタ(日常編)が底を尽きました。
ただの世間話には興味がない、ということね。それならば、こっちにだってやり方があるのです。こんなに早く使うとは思ってなかったけど、ここは絡め手で責めるしかありません。
「キョンさんって、好きな女の子は居るんですか?」
ピクリという擬音そのままに、キョンさんの背筋が少し伸びました。してやったり、これは今までに無かった反応です。
「涼宮さんもそうだけど、キョンさんの周りには可愛い女の子がいっぱいいるじゃないですか。あ、佐々木さんもその中に入るのかな」
「何を藪から棒に。そんなことを訊いてどうするんだ? お前の所属する機関はティーンズ対象の街頭アンケートでもやってるのか?」
「あはは、面白いことを言いますね。でもケムに巻こうたってそうはいかないのです。誰が一番気になる? タイプの女の子ってどんなの?」
キョンさんは古泉さんがよくやるように掌を天井に向けて、『やれやれ』と軽く首を振ってみせましたけどそんなことで誤魔化されるほどあたしも甘くはないのです。
つつけば面白い言葉が出てきそうな雰囲気がプンプン漂ってるんだもの。これは攻める他ないです。
つつけば面白い言葉が出てきそうな雰囲気がプンプン漂ってるんだもの。これは攻める他ないです。
「ふーん。でも少なくともこないだのあたしの申し出を断ったあたり、少なくとも佐々木さんよりは涼宮さんが良いってことよね」
「お前ね。そりゃいくらなんでも短絡的過ぎだ。前にも言ったが、愛着ってもんがあるんだよ。あんな存在意義不明の集まりにもな。だから個人的にどうこうという問題じゃない」
斜め向いていたキョンさんの身体が久々にあたしの方に向き直りました。会話の内容はどうであれ、真剣に取り合ってる証拠です。良い傾向ね。
あたしは急に悲しげな表情を作って、ここぞとばかりにでっちあげます。
あたしは急に悲しげな表情を作って、ここぞとばかりにでっちあげます。
「でも佐々木さんはそうは思ってなかったみたい。『キョンはきっと涼宮さんのことが好きみたい』って、『一年間、想いを胸に押し留めている間に随分水をあけられちゃったなぁ』って。その表情といったら切なげで見てるあたしも中てられちゃうくらいだったなぁ……」
人差し指を顎に当てて存在しない記憶を思い出すフリをしながら、キョンさんの様子を窺います。
途端にキョンさんの瞳に揺らぎが感じられました。今までの虚勢で塗り固めた余裕は完全に崩れて、動揺していることが手に取るように分かります。
途端にキョンさんの瞳に揺らぎが感じられました。今までの虚勢で塗り固めた余裕は完全に崩れて、動揺していることが手に取るように分かります。
「嘘だろ? 佐々木自身、自分を中心とした集まりを作ることに乗り気じゃななかったじゃないか」
必死に弁解するキョンさんを少し嘲るかのように眇めて見て、
「えー? キョンさん本当に女の子の気持ち分かってないんですねぇ。鈍感ー」
などと煽ってあげると、わざとらしくも中々有効だったらしく、キョンさんは少し思いつめたように真顔になりました。
「……どういうことだ?」
「さぁ、それはあたしが説明するには何か違うような気がするので答えられませんけど」
お互いの腹を探るかのように真正面からじっと見詰め合うこと数秒。
先に目を逸らしたら負けだとばかりに、あたしが我慢大会のように照れる気持ちをひたすら押さえつけてると、キョンさんは深く息を吐いて年代を感じさせる艶やかな木椅子にもたれ掛かりました。
視線は外さずにその口が開くと、予想外の言葉が飛び出てきました。
先に目を逸らしたら負けだとばかりに、あたしが我慢大会のように照れる気持ちをひたすら押さえつけてると、キョンさんは深く息を吐いて年代を感じさせる艶やかな木椅子にもたれ掛かりました。
視線は外さずにその口が開くと、予想外の言葉が飛び出てきました。
「お前はどうなんだ?」
「えっ?」
急に水を向けられて、思わず気の抜けた声が漏れてしましました。唖然と開いた口元に慌てて手をやりましたけど時すでに遅し。
うう……、きっと間抜けな顔を見せてしまったに違いありません。
うう……、きっと間抜けな顔を見せてしまったに違いありません。
「お前に浮いた話はないのかって訊いてるんだよ。古泉もそうだがお前らのように特殊なアルバイトに腐心しながら学生としてのプライベートをどう両立させてるのか興味がないこともないからな」
「あ、あたしですか?」
馬鹿正直にお答えすると、機関のお仕事にかまけてて恋愛とか部活とかが二の次になってしまってるのが現状です。
初めの方でも言ったけど告白されたことが何回かあって、お付き合いをしたこともあるけれどどれも長く続きませんでした。現在進行中の恋愛も特にないのです。
ただ、こんなことをなんのひねりもなくつまびらかにしても面白くもなんともありません。会話を打ち切るようなもの。
そう即座に判断したあたしは、
初めの方でも言ったけど告白されたことが何回かあって、お付き合いをしたこともあるけれどどれも長く続きませんでした。現在進行中の恋愛も特にないのです。
ただ、こんなことをなんのひねりもなくつまびらかにしても面白くもなんともありません。会話を打ち切るようなもの。
そう即座に判断したあたしは、
「……気になる人はいるのです」
と半ば無意識の内にブラフを打ってました。
「ほぉ」
少し意外といった感じでキョンさんは相槌を返します。
含みのある表情を作って意味深さを演出してみてみたものの内心は大混乱。だって、何の設定も考えてないんだもの。ツッコまれたら即終了なのです。
気になる人と言えば、きになるひとといえば、キニナルヒトトイエバ……、まじかるバナナの要領でこじつけられないかとを思考をものすごい勢いでかき混ぜてると、足掻いてみるもので一本の回線が繋がったかのように閃いてしまいました。
含みのある表情を作って意味深さを演出してみてみたものの内心は大混乱。だって、何の設定も考えてないんだもの。ツッコまれたら即終了なのです。
気になる人と言えば、きになるひとといえば、キニナルヒトトイエバ……、まじかるバナナの要領でこじつけられないかとを思考をものすごい勢いでかき混ぜてると、足掻いてみるもので一本の回線が繋がったかのように閃いてしまいました。
「で、その相手はどういうヤツなのか、訊いていいか?」
当然のごとくキョンさんは必要以上に待ってくれません。
正直躊躇われるところがあるんだけど、他に思いつかない以上このアイデアでいくしかありません。ここが天王山。参謀役としての真価が問われる瞬間なのです。頑張れ、あたし。
正直躊躇われるところがあるんだけど、他に思いつかない以上このアイデアでいくしかありません。ここが天王山。参謀役としての真価が問われる瞬間なのです。頑張れ、あたし。
「あたしの目の前に座ってる人」
ここでどもってはすべてぶち壊し。淀むことなくあくまでもシレっと言ってのけると、キョンさんは目を丸くして瞬きを何回を繰り返しました。
キョンさんってこんな顔して驚くんだ……、なんだか新鮮なのです。
キョンさんってこんな顔して驚くんだ……、なんだか新鮮なのです。
「俺?」
「そ、あなた」
自分を指差すキョンさんに倣って、あたしも人差し指を差し向けて確認を上書きしてあげます。
十秒間ほどたっぷりと空白の時間を過ごしたかな。
その間キョンさんは視線を漂わせて色々と考えを巡らしているような感じだったけど、最終的に落ち着いたのは手元が狂ってお茶っ葉を入れ過ぎたような渋い顔。
十秒間ほどたっぷりと空白の時間を過ごしたかな。
その間キョンさんは視線を漂わせて色々と考えを巡らしているような感じだったけど、最終的に落ち着いたのは手元が狂ってお茶っ葉を入れ過ぎたような渋い顔。
「悪いがはっきり言って面白くないジョークだな」
「ジョークなんて心外なのです。会ってから間もないのにとか言うのはナシね。ヒトメボレって言葉があるでしょ?」
「……それは認める。去年の暮れにその強烈な典型例を目の当たりにしたばかりだ」
あたしの知らないエピソードね。キョンさんはそう言いながら苦笑を垣間見せました。しかし、一転表情を引き締めて続けます。
「だが、主格がお前で対象が俺では無理がある。俺はお前に対して一貫して警戒と嫌悪の態度をとり続けてきたからな。惹かれる要素なんぞどこにある? もしあるとするなら相当のマゾヒストだぜ」
う……、確かに的を射た指摘ですけど、そんなことは口が裂けても言えません。
その……、実は、そ、そういう気があるかもしれないことを含めればなおさらなのです……。
ああ、もうっ! こんなどうでもいいことを考えて一人で盛り上がってしまうのは悪い癖。
その……、実は、そ、そういう気があるかもしれないことを含めればなおさらなのです……。
ああ、もうっ! こんなどうでもいいことを考えて一人で盛り上がってしまうのは悪い癖。
もっと置かれてる状況を自覚しないとっ。ピンチなのよ? あたし。
えーっと、こういうピンチのときの定番は――――、発想の逆転!
えーっと、こういうピンチのときの定番は――――、発想の逆転!
「逆ですよ逆」
とりあえず分かってないなぁ、っぷりに大げさに溜息を落としてみました。
言ってはみたものの相変わらず何も考えてないのが困ったもの。さて、どうしたものかなぁ。
でもこうすると相手のリアクションの分だけ間が稼げることを学習しちゃいました。
思惑通りにキョンさんは訝んであたしの言葉を待ってくれます。
しかしよく考えるとハッタリを編み上げる必要はないことに気づきました。
だって、あたしの目にキョンさんがときどき魅力的に写っていることは嘘じゃないんだもの。要するにこの気持ちを素直に言えば良いのです。
言ってはみたものの相変わらず何も考えてないのが困ったもの。さて、どうしたものかなぁ。
でもこうすると相手のリアクションの分だけ間が稼げることを学習しちゃいました。
思惑通りにキョンさんは訝んであたしの言葉を待ってくれます。
しかしよく考えるとハッタリを編み上げる必要はないことに気づきました。
だって、あたしの目にキョンさんがときどき魅力的に写っていることは嘘じゃないんだもの。要するにこの気持ちを素直に言えば良いのです。
「キョンさんってずうっとあたしにキツつ当たってたでしょ? だから逆にふとしたときに見せる表情や仕草がすごく新鮮に写るんです」
ここで一拍置くと、キョンさんは思いのほか真摯に聞き入ってくれているみたいで黙ったまま続きを促します。
「確かに初めの頃はにべもない態度であしらわれていたけど、それに挫けずに約束をとりつけて、それなりに日常の会話もしてきました。そうした中であたしの知らないキョンさんを少しずつ発見していったの。ああ、この人はこういう一面も持ってるんだなぁっ、て」
キョンさんはアイスコーヒーから滴り落ちた水滴で湿ったコースターを爪で弾きながら、あたしの目を真っ直ぐに見て問いかけてきます。
「……俺のどの一面がお前の心を捕らえたって言うんだ?」
すぐに結論を求めるのが男性特有の考え方だって言うけど、キョンさんはその代表格ね。
思わず噴出しそうになるけど、それはあまりに失礼なので微苦笑でごまかして説明をします。
思わず噴出しそうになるけど、それはあまりに失礼なので微苦笑でごまかして説明をします。
「それは分かりません。分かってたら『気になる』なんて曖昧なこと言わないもの。そう思いません?」
「開き直って言うことでもないと思うけどな。だが、一理あるのは認めてやる」
破顔一笑。どこか滑稽なやりとりにお互いの表情が崩れました。こんなに場が和んだことなんて未だかつてなかったかもしれません。
キョンさんの穏やかな笑みを受けてあたしの心は共鳴するかのように響きます。
ひょっとしたらここが仕掛けるタイミングなのかもしれません。
キョンさんの穏やかな笑みを受けてあたしの心は共鳴するかのように響きます。
ひょっとしたらここが仕掛けるタイミングなのかもしれません。
本当はこの後エッチなシーンがある流行のアクション映画を観て、
ゲームセンターのクレーンゲームで人形をねだってみたりして、
カラオケボックスでデュエットで盛り上がっちゃったりして、
頃合をみて猛練習してきた洋楽ラヴソングを熱唱披露して、
34秒間たっぷりの間奏を使ってマイクで想いを伝える――――。
ゲームセンターのクレーンゲームで人形をねだってみたりして、
カラオケボックスでデュエットで盛り上がっちゃったりして、
頃合をみて猛練習してきた洋楽ラヴソングを熱唱披露して、
34秒間たっぷりの間奏を使ってマイクで想いを伝える――――。
という算段だったけど、今冷静に考えると歌の合間に告白以前にカラオケまで辿り付ける確率がすでに奇跡レベルのような気がしないでもありません。
誰よ? こんな台本書いたの? 昨日の自分が信じられません。
でも、今の会話の流れなら比較的自然な感じで切り出せそう。
そう決断したあたしは予定を大幅に切り上げて、ここで勝負をかけることにしました。
誰よ? こんな台本書いたの? 昨日の自分が信じられません。
でも、今の会話の流れなら比較的自然な感じで切り出せそう。
そう決断したあたしは予定を大幅に切り上げて、ここで勝負をかけることにしました。
「ついさっき今日会って初めて笑ってくれたとき、胸が高鳴りっぱなしだったのです。顔には出さないようにしてたけどね。こんな風にあたしをドキドキさせてくれて、もっと知りたいという気持ちにさせてくれるのがキョンさん、あなたなの」
あなたなの、のところで訴えかけるようにトーンアップ。
ダメかな? 的に顎を少し引いて小首を傾げた格好でキョンさんの顔を窺うと、キョンさんはゴクリと一度喉を鳴らして気圧されたような表情を見せました。
ふふ、これぞ小悪魔娘の悩殺ポージングその1。効いてる! 効いてるのです。
ここで一転、身を乗り出して頬杖をついて薄く笑みます。頬杖の間にボリュームアップさせてたわわに実った胸をテーブルの上にでーんと載せました。悩殺ポージングその2。
恥ずかしいのをおした甲斐あって場の空気が蠱惑的で怪しげな雰囲気に変わります。
ダメかな? 的に顎を少し引いて小首を傾げた格好でキョンさんの顔を窺うと、キョンさんはゴクリと一度喉を鳴らして気圧されたような表情を見せました。
ふふ、これぞ小悪魔娘の悩殺ポージングその1。効いてる! 効いてるのです。
ここで一転、身を乗り出して頬杖をついて薄く笑みます。頬杖の間にボリュームアップさせてたわわに実った胸をテーブルの上にでーんと載せました。悩殺ポージングその2。
恥ずかしいのをおした甲斐あって場の空気が蠱惑的で怪しげな雰囲気に変わります。
「キョンさんから見てあたしはどう写ってますか?」
「どうって、そりゃあ外面だけ見りゃ……、それなりに、器量は良いんじゃないか?」
どことなくしどろもどろになりながらキョンさんはあたしに視線を忙しなく彷徨わせます。
ああ……、キョンさんに見られちゃってる。そう思うだけで芯から身体が熱くなってきました。
注意深くキョンさんの目を追うと、チラチラと胸のあたりを見てるのが丸分かり。ふふ、女冥利に尽きるのです。今更気づいた風なのは遺憾ですけど。
ああ……、キョンさんに見られちゃってる。そう思うだけで芯から身体が熱くなってきました。
注意深くキョンさんの目を追うと、チラチラと胸のあたりを見てるのが丸分かり。ふふ、女冥利に尽きるのです。今更気づいた風なのは遺憾ですけど。
「キョンさんとあたし、意外に結構相性良いと思うんだけどなぁ……。あたしなら不当な我侭で困らせたりしないし、照れ隠しに遠回りなキャラを作って焦らしたりしないのです。あなたの理想の女の子になろうと実直に努力するもの」
今日何度目か分からない沈黙が訪れました。
聞こえてくるのはCDで流している小鳥の囀りのBGMとキッチンから聞こえてくる水音と微かに食器がぶつかる音だけ。
キョンさんは思いつめたように眉間に手をやって沈思黙考してます。
後一押しってところかな。ここはもう健全な男子の持て余した身体を煽るしかないのです。
『その……、あたしだったら、キョンさんさえ望めば……何だってしてあげます』
悩殺ポージングその3、口許に手をやって伏目がちにこの台詞を言えればあたしの勝ち。
そう確信して、頬杖を解こうとしたその時でした。
聞こえてくるのはCDで流している小鳥の囀りのBGMとキッチンから聞こえてくる水音と微かに食器がぶつかる音だけ。
キョンさんは思いつめたように眉間に手をやって沈思黙考してます。
後一押しってところかな。ここはもう健全な男子の持て余した身体を煽るしかないのです。
『その……、あたしだったら、キョンさんさえ望めば……何だってしてあげます』
悩殺ポージングその3、口許に手をやって伏目がちにこの台詞を言えればあたしの勝ち。
そう確信して、頬杖を解こうとしたその時でした。
「ぷっ……、くくっっ……」
突然キョンさんは肩を震わせて身体を曲げて噴き出し始めたんです。
「キョンさん?」
「くくくっ……、あははっ、はっ、あははははははっ、いや、すまん。くくくくっ……」
大ウケの大爆笑という見当違いのリアクションにあたしは完全に置いてけぼり。
どうして? なんで、なんで? 笑うところなんてどこにもなかったはずなのです。
キョンさんは周囲を気遣ってできるだけ押し込めたままひとしきり笑うと、ようやくといった感じで姿勢を正しました。
どうして? なんで、なんで? 笑うところなんてどこにもなかったはずなのです。
キョンさんは周囲を気遣ってできるだけ押し込めたままひとしきり笑うと、ようやくといった感じで姿勢を正しました。
「た、橘っ、今のは面白かったぞ。お前っ、演技派だなぁ――――、はははっ、っくくっ」
息も絶え絶えのままトンデモな感想を言うと、性懲りもなくまた笑い始めてしまいました。目の端に涙さえ浮かべて。
あたしは我慢ならずに問い詰めようとすると、
あたしは我慢ならずに問い詰めようとすると、
ブブブブッ、ブブブブッ――――。
テーブルの上に置いてあったキョンさんのケータイが着信して震えました。もうっ、なんて間が悪い。
キョンさんは崩れた顔を治せないまま画面を確認すると、すまんとばかりに軽く手を挙げて席を立ってエントランスへ向かいました。
店の外で通話中のキョンさんをガラス越しに見ながら、あたしは考え込みます。
一体どういうこと?
演技派ってそんなに芝居臭くてわざとらしかったってこと?
つまり、あたしは完全になりきってると思ってたのに、キョンさんには三文芝居のように写ってたってこと?
そう内省すると、顔から火がでそうなくらいに気恥ずかしい思いがこみ上げてきました。きっと首筋から耳まで真っ赤に染まっちゃってるに違いありません。
なんたる大失態……、穴があったら入りたい。
ベソをかくのに夢中になっていると、いつの間にじゃキョンさんが戻ってきていました。
とてもキョンさんの顔をまともに見れそうになくて俯いていると、椅子に掛けてあったジャケットが視線から消えます。
まさかと思ったけど、予感は的中してキョンさんはすっかり帰り支度モード。
キョンさんは崩れた顔を治せないまま画面を確認すると、すまんとばかりに軽く手を挙げて席を立ってエントランスへ向かいました。
店の外で通話中のキョンさんをガラス越しに見ながら、あたしは考え込みます。
一体どういうこと?
演技派ってそんなに芝居臭くてわざとらしかったってこと?
つまり、あたしは完全になりきってると思ってたのに、キョンさんには三文芝居のように写ってたってこと?
そう内省すると、顔から火がでそうなくらいに気恥ずかしい思いがこみ上げてきました。きっと首筋から耳まで真っ赤に染まっちゃってるに違いありません。
なんたる大失態……、穴があったら入りたい。
ベソをかくのに夢中になっていると、いつの間にじゃキョンさんが戻ってきていました。
とてもキョンさんの顔をまともに見れそうになくて俯いていると、椅子に掛けてあったジャケットが視線から消えます。
まさかと思ったけど、予感は的中してキョンさんはすっかり帰り支度モード。
「悪いな。ちょっと野暮用が入ったんだ」
「えっ、ええ~~~? そんなぁ。どうしても行かないとダメですか?」
内心無駄だとは思ってたけど一応引き止めます。だって、こんな幕切れなんてあんまりにもあんまりなんですもの。
演技もへったくれもない素の泣きべそをかいて、自分でも十分に情けないと思える声を惜しまず甘えてみたものの、
演技もへったくれもない素の泣きべそをかいて、自分でも十分に情けないと思える声を惜しまず甘えてみたものの、
「すまん。けど、今日の会合の目論見は達成されたんだから、俺はいいんじゃないかと思うけどな。今日でお前の見方が少し変わったよ。立場上馴れ合うことはできないけどな。じゃあな」
口を挟む余地もなく、一方的にキョンさんはそう言い残して颯爽と去っていきました。
ぽつねんと取り残されたあたしは、しばらく燃え尽きたようになにも出来ないで飲みかけのアップルティーを見つめていたけど、そうしている内に心の奥底から湧き上がってくる何かを感じました。
『やっぱりこんなの納得できない』
その感情があたしに渇を入れて奮い立たせます。
意を決したようにキョンさんの後を尾けることにしたのでした。
ぽつねんと取り残されたあたしは、しばらく燃え尽きたようになにも出来ないで飲みかけのアップルティーを見つめていたけど、そうしている内に心の奥底から湧き上がってくる何かを感じました。
『やっぱりこんなの納得できない』
その感情があたしに渇を入れて奮い立たせます。
意を決したようにキョンさんの後を尾けることにしたのでした。
商店街の人の波を掻き分けるようにしてあたしはキョンさんを追います。
店を出る前にレジを済まそうとすると、知らない間にキョンさんが自分の分の支払いを終えてたみたいで最後まで格好がつきませんでした。
なおさら納得できないと足を速めます。
……奢りのはずなのに人知れず自分の分を出すという姿勢ははカッコいいんだけど、ってダメダメ、そんなことでこの憤りは誤魔化されないのです。
確か向かったのは駅とは逆方向。人ごみのアーケードの下、キョンさんの後ろ姿を懸命に捜します。
買いたての靴が走りにくくて何度もつまずきそうになったけど、必死の追跡の甲斐あってアーケードを抜けたところで信号待ちの人だかりの中に見覚えのあるジャケットを見つけました。
はぁっ、疲れた……。歩いて一体どこまで行くのかな。
男子と女子とじゃ歩ける距離の感覚が違うので、ひょっとしたらとんでもなく長い距離を追わなければならないことを一瞬覚悟したあたしですけど、意外にもゴールは見えるところにありました。
店を出る前にレジを済まそうとすると、知らない間にキョンさんが自分の分の支払いを終えてたみたいで最後まで格好がつきませんでした。
なおさら納得できないと足を速めます。
……奢りのはずなのに人知れず自分の分を出すという姿勢ははカッコいいんだけど、ってダメダメ、そんなことでこの憤りは誤魔化されないのです。
確か向かったのは駅とは逆方向。人ごみのアーケードの下、キョンさんの後ろ姿を懸命に捜します。
買いたての靴が走りにくくて何度もつまずきそうになったけど、必死の追跡の甲斐あってアーケードを抜けたところで信号待ちの人だかりの中に見覚えのあるジャケットを見つけました。
はぁっ、疲れた……。歩いて一体どこまで行くのかな。
男子と女子とじゃ歩ける距離の感覚が違うので、ひょっとしたらとんでもなく長い距離を追わなければならないことを一瞬覚悟したあたしですけど、意外にもゴールは見えるところにありました。
駅から少し離れたところに建っている大手百貨店にキョンさんは何のためらいもなく入っていったのです。
百貨店で一体何を……、まさかデパ地下で買い物とか……ないよね?
目的の見当がさっぱりつかめないまま玄関を抜けようとすると、玄関口にあるフランスの某有名ファッションブランドの店先で待ち合わせているキョンさんを目の当たりにして慌てて物陰に隠れました。
その行動は不審者そのもので通り過ぎていく家族連れが眉を顰めて一瞥していきますが、そんなことはこの際二の次。
キョンさんを呼び出したのは一体誰?
半身の体勢で覗き込むと、そこに居たのは高校生とは思えないくらいにブランド物のポロシャツ落ちついて着こなして、薫風然とした様子で爽やかに談笑する――――、古泉さん。
予想外の展開に思考もろとも身体もフリーズしちゃいそうだったけど、その前になんとか身を物陰に戻すことだけは済ますことができました。
背中を壁に押し付けたまま状況の整理しようとするけど、混乱してうまくいきません。
どうして古泉さんが……、涼宮さんを中心にしてあの二人が一緒に居る機会は多いけれど、こうして休日に二人で遊ぶ仲だとは聞いてないのです。
しかも高校生男子の二人組みが百貨店に何の用があるっていうの?
てんで理解が追いつかないけど、合流した二人がフロアの奥の方に進んでいくので追う他ありません。
エスカレーターに乗った二人を10段くらい下方から見上げます。幸いにも休日だけあって店内の人口密度は高く、女の子一人が紛れる余裕は十分にありました。
横に並んで喋る二人の表情は、何の裏表もない完全に打ち解けたもの。
未だあたしには見せてくれたことのない自然な表情を見せ付けられているように感じて胸の奥がチクリと痛みました。
何回も折り返して辿り着いたのは八階の催し物会場。フロア全体を借り切って大きなイベントが開催されていました。これは盲点だったのです。
会場の入り口には大きなノボリがはためいていて、そこには――――、
百貨店で一体何を……、まさかデパ地下で買い物とか……ないよね?
目的の見当がさっぱりつかめないまま玄関を抜けようとすると、玄関口にあるフランスの某有名ファッションブランドの店先で待ち合わせているキョンさんを目の当たりにして慌てて物陰に隠れました。
その行動は不審者そのもので通り過ぎていく家族連れが眉を顰めて一瞥していきますが、そんなことはこの際二の次。
キョンさんを呼び出したのは一体誰?
半身の体勢で覗き込むと、そこに居たのは高校生とは思えないくらいにブランド物のポロシャツ落ちついて着こなして、薫風然とした様子で爽やかに談笑する――――、古泉さん。
予想外の展開に思考もろとも身体もフリーズしちゃいそうだったけど、その前になんとか身を物陰に戻すことだけは済ますことができました。
背中を壁に押し付けたまま状況の整理しようとするけど、混乱してうまくいきません。
どうして古泉さんが……、涼宮さんを中心にしてあの二人が一緒に居る機会は多いけれど、こうして休日に二人で遊ぶ仲だとは聞いてないのです。
しかも高校生男子の二人組みが百貨店に何の用があるっていうの?
てんで理解が追いつかないけど、合流した二人がフロアの奥の方に進んでいくので追う他ありません。
エスカレーターに乗った二人を10段くらい下方から見上げます。幸いにも休日だけあって店内の人口密度は高く、女の子一人が紛れる余裕は十分にありました。
横に並んで喋る二人の表情は、何の裏表もない完全に打ち解けたもの。
未だあたしには見せてくれたことのない自然な表情を見せ付けられているように感じて胸の奥がチクリと痛みました。
何回も折り返して辿り着いたのは八階の催し物会場。フロア全体を借り切って大きなイベントが開催されていました。これは盲点だったのです。
会場の入り口には大きなノボリがはためいていて、そこには――――、
『古今東西を完全網羅! 全世界テーブルゲーム博物展』
と在りました。
――――テーブルゲーム?
テーブルゲームってアレ? トランプとかオセロとか人○ゲームとか、カードとか駒とかサイコロを使ってみんなで囲んでやるアレ?
あたし的にはお盆やお正月に家族や親戚で集まったときに、付き合いで仕方なく参加するくらいしか縁のないアレ?
……いえ、個人の趣味を否定するわけではないのです。
でも、コレは同年代の女の子の甘い誘いをほっぽいて優先することなの?
それってなんか……、なんか健全な高校生男子として間違ってるのですよっ。キョンさんっ。
涼宮さんとか佐々木さんとか、他の女の子の呼び出しに応じたならまだ納得がいくのです。いけ好かないけど。
でも現実は何よこれっ。あたしにはこんな二次元アナログ遊戯以下の興味しかないってこと?
それとも、ま、まさか古泉さんが裏本命とかないよね? ね? やですよ? 対立関係がオトコにまで及ぶのはっ。
思わずスカートを掴む手に力が入ります。
和やかムードに包まれたフロアの片隅で、やるかたのない憤懣を滲ませて佇むあたしはさぞかし浮いていることでしょう。
でも遠目から子供のような無邪気な表情で展示品を物珍しそうに見るキョンさんを眺めていると、その怒りも程なくして霧散してしまいました。
締めとばかりに、はぁ、と途方もなく溜息を吐くと、ようやく諦めがつきました。
でもそれはあくまでも今日に限っての話なのです。
障害が高ければ燃える、それはやはり然りでキョンさんを睨みつけると、
――――テーブルゲーム?
テーブルゲームってアレ? トランプとかオセロとか人○ゲームとか、カードとか駒とかサイコロを使ってみんなで囲んでやるアレ?
あたし的にはお盆やお正月に家族や親戚で集まったときに、付き合いで仕方なく参加するくらいしか縁のないアレ?
……いえ、個人の趣味を否定するわけではないのです。
でも、コレは同年代の女の子の甘い誘いをほっぽいて優先することなの?
それってなんか……、なんか健全な高校生男子として間違ってるのですよっ。キョンさんっ。
涼宮さんとか佐々木さんとか、他の女の子の呼び出しに応じたならまだ納得がいくのです。いけ好かないけど。
でも現実は何よこれっ。あたしにはこんな二次元アナログ遊戯以下の興味しかないってこと?
それとも、ま、まさか古泉さんが裏本命とかないよね? ね? やですよ? 対立関係がオトコにまで及ぶのはっ。
思わずスカートを掴む手に力が入ります。
和やかムードに包まれたフロアの片隅で、やるかたのない憤懣を滲ませて佇むあたしはさぞかし浮いていることでしょう。
でも遠目から子供のような無邪気な表情で展示品を物珍しそうに見るキョンさんを眺めていると、その怒りも程なくして霧散してしまいました。
締めとばかりに、はぁ、と途方もなく溜息を吐くと、ようやく諦めがつきました。
でもそれはあくまでも今日に限っての話なのです。
障害が高ければ燃える、それはやはり然りでキョンさんを睨みつけると、
『今日はあたしの負けで良いけど、いつかは恋の虜にしてみせるのです』
と、ぐっと胸の前で拳を握って改めて心中声高々に宣言してみせたのでした。
よしっ、気合の入ったところで退散なのです。
踵を返そうとすると、ポンッとあくまでも優しく肩に手を置かれました。
振り向けば菩薩のような柔和な知人の顔。突然の登場と気まずさの相乗効果であたしの心臓は飛び跳ねました。
よしっ、気合の入ったところで退散なのです。
踵を返そうとすると、ポンッとあくまでも優しく肩に手を置かれました。
振り向けば菩薩のような柔和な知人の顔。突然の登場と気まずさの相乗効果であたしの心臓は飛び跳ねました。
「さっ、佐々木さん?」
今日最も会ってはいけない人物との遭遇に思わず裏返った大声を出しそうになったけど、咄嗟になんとか音量を押し留めることができたのはたった一つの救いなのです。
一目見た佐々木さんの表情はいつもの奥ゆかしくもたおやかなもので、まるで街で偶然出くわしたような自然な雰囲気に一瞬安堵しかけたけど――――、
よくよく見るとその瞳の奥で言いようのない何かが蠢いていることに勘づいてあたしは戦慄を覚えました。
一目見た佐々木さんの表情はいつもの奥ゆかしくもたおやかなもので、まるで街で偶然出くわしたような自然な雰囲気に一瞬安堵しかけたけど――――、
よくよく見るとその瞳の奥で言いようのない何かが蠢いていることに勘づいてあたしは戦慄を覚えました。
「奇遇ね。こんなところで会うなんて。こういうのに興味があるんだ?」
「いえ……、適当にブラブラしてる内に着いちゃったような、そんな感じ、です」
外面はあくまでも敵意や害意などとは無縁の微笑み。だけど、その裏では黒い炎のような無定形のモノがユラユラと熾っているのがありありと感じ取れるのです。
バレている、絶対にバレている。そう思い込んだがもう負けでした。。
しっぽを下げてしまった犬のようにあたしは何かに慄いたまま、語尾も立ち消えそうになってしまいました。
しかしそんなあたしに構うことなく佐々木さんはいつもの調子で続けます。
バレている、絶対にバレている。そう思い込んだがもう負けでした。。
しっぽを下げてしまった犬のようにあたしは何かに慄いたまま、語尾も立ち消えそうになってしまいました。
しかしそんなあたしに構うことなく佐々木さんはいつもの調子で続けます。
「それはまた奇遇だね。私もそんな感じかな」
さっきからやたらと『奇遇』にアクセントが掛かってるように感じるのは気のせいではないような気がします。本能的に受け入れられない怖さを肌で感じて、あたしは蛇に睨まれた蛙のように足が竦んで動けなくなってしまいました。
か、身体が勝手にカタカタとふ、震えて、さ、さぶいぼまで出ちゃってます……うぅ……。
か、身体が勝手にカタカタとふ、震えて、さ、さぶいぼまで出ちゃってます……うぅ……。
「ところで、今日の橘さんは随分とオシャレに気合が入っているね。どのアイテムも見たことのないものばかりかな」
第三者から見れば他愛のないごく普通のやり取りに見えるかもしれないけど、あたしにとってはキラーワードの他なんでもありません。
身体を硬直させたまま、引きつった愛想笑いで返すのが精一杯。
身体を硬直させたまま、引きつった愛想笑いで返すのが精一杯。
「もし時間があるなら、少し話さない? もしかしたらついさっき喫茶店に入ったばかりかもしれないけど、どうやら橘さんとの付き合い方を考え直さないといけないみたいだから」
「……い、いやぁ、あの、あたしこの後機関のお仕事が……」
「時間は取らせないよ、ね、行こう?」
「ひっ」
そう言って佐々木さんはあたしの手を取りました。マーガレットのような清楚で可憐な笑みを浮かべて、にこやかにあたしを誘うように。
しかし、いざ握られた手は鍵でもかかったように逃がさないの意思表示。
佐々木さんに曳かれて厭でも歩みは進みます。
この泣きっ面に蜂を地でいく不幸っぷりは一体なに? 厄日なの?
せめて理不尽な不運を心の中で叫んでみたものの、何を呪おうと繋がれた手は解ける気配が一向にありません。むしろなんか段々握る力が強くなってるんですけど……。
……い、痛いです。佐々木さぁんっ。
百貨店から連れ出された時点でいよいよ諦めの気持ちも大きくなってきて、これが因果応報ってものなのかなぁ、なんて一瞬観念しようとしたけれど、この後の怖過ぎて謎過ぎる展開を想うとやっぱり泣き出したくなりました。
しかし、いざ握られた手は鍵でもかかったように逃がさないの意思表示。
佐々木さんに曳かれて厭でも歩みは進みます。
この泣きっ面に蜂を地でいく不幸っぷりは一体なに? 厄日なの?
せめて理不尽な不運を心の中で叫んでみたものの、何を呪おうと繋がれた手は解ける気配が一向にありません。むしろなんか段々握る力が強くなってるんですけど……。
……い、痛いです。佐々木さぁんっ。
百貨店から連れ出された時点でいよいよ諦めの気持ちも大きくなってきて、これが因果応報ってものなのかなぁ、なんて一瞬観念しようとしたけれど、この後の怖過ぎて謎過ぎる展開を想うとやっぱり泣き出したくなりました。
「ほ、本当に行き先は喫茶店なんですかぁ?」
「たぶん、ね」
意味深に笑む佐々木さんの横顔は……、なんか目が据わってるぅ~~~。
えーん。なんでこんなことにぃ――――――!
天を仰いでそんな泣き言を心の中でリフレインさせながら、問答無用でズルズルと引きずられていきます。
不本意、ほっっっんとに不本意ではあるけれどっ、あたしの女の勝負を掛けた四月某日はこうやってかなり悲惨風味に過ぎ去っていったのでした。くすん。
えーん。なんでこんなことにぃ――――――!
天を仰いでそんな泣き言を心の中でリフレインさせながら、問答無用でズルズルと引きずられていきます。
不本意、ほっっっんとに不本意ではあるけれどっ、あたしの女の勝負を掛けた四月某日はこうやってかなり悲惨風味に過ぎ去っていったのでした。くすん。