オランダ語に翻訳された日本の推理小説/ミステリ

2012年5月12日

 オランダ語に翻訳された日本のミステリ小説の一覧。ミステリを中心として、周辺のエンターテインメント作品についても調べている。


調査方法

 最初はオランダのネット書店で、オランダ語に翻訳されていそうな(≒ほかの欧米の言語に翻訳されている)作家の名前を入力・検索して調べたのだが、その後、以下のサイトで「Japan」と入力して検索するだけでオランダ語に翻訳された日本のミステリ一覧が簡単に入手できることが分かった。


 このサイトには日本ミステリのオランダ語訳を調べている過程でたまたまたどり着いたのだが、『ミステリマガジン』2009年1月号(世界のミステリ雑誌特集号)で翻訳家の塩崎香織氏がこのサイトを紹介していることにあとから気が付いた。それによれば、オランダのニュース週刊誌『Vrij Nederland』(VN)は年に一度、一年間に出版されたミステリの目録と作品レビューを載せた『VN Detective & Thrillergids』(VN推理小説・スリラーガイド、以下、 VNDT )を付録につけている。上でリンクを貼ったサイトは、このVNDTのWebサイト版である。この付録がつきはじめたのは30年ほど前からだそうだが、Webサイト版にはそれ以前の出版情報も登録されているようである。

 VNDTで「Japan」と入力して検索してみると、江戸川乱歩、桐野夏生、高木彬光、戸川昌子、松本清張、宮部みゆきの作品がオランダ語に翻訳されていることが分かる。このうち高木彬光については、オランダのネット書店を検索した際には発見できなかったのでありがたい。なお、ネット書店で検索した際に、鈴木光司の作品がオランダ語に翻訳されていることが分かっていたが、VNDTには鈴木光司の書籍のデータは登録されていない。日本では鈴木光司の『リング』や『らせん』は『このミステリーがすごい!』や「週刊文春ミステリーベスト10」のランキングにも入っており、ミステリを中心とするエンターテインメントに含まれるとも考えられるが、オランダの「推理小説・スリラー」の枠には入ってこないようだ。また、今月(2012年5月)刊行予定の東野圭吾『容疑者Xの献身』のオランダ語版のデータも、当然ながらまだVNDTには登録されていない。

 なおVNDTのデータはオランダでの出版年、出版社などのデータが示されていないことも多い。以下の書誌データは、オランダ王立図書館WorldCat、およびオランダのオンライン書店bol.comのデータに基づくものである。

Index

著者名50音順

江戸川乱歩 (Edogawa Rampo)

Griezelverhalen uit Japan / (江戸川乱歩短編集)
  • 1961年刊 ディック・ブルーナデザインの表紙(VNDTより)
  • ISBN 9022904377、1981年刊 ※表紙は2008(2011?)年版と同じ
  • ISBN 9044930753、2008年(WorldCat)または2011年(ネット書店)刊 表紙

  • 収録作
    • De menselijke stoel (人間椅子)
    • De psychologische test (心理試験)
    • De rups (芋虫)
    • De rots (断崖)
    • De hel der spiegels (鏡地獄)
    • De tweelingen (双生児)
    • De rode kamer (赤い部屋)
    • Twee verminkte mannen (二癈人)
    • De reiziger met het bonte schilderij (押絵と旅する男)

 ブルーナ社より1961年刊行。その後、同出版社より何度か再刊されているようである。収録作は1956年出版の江戸川乱歩英訳短編集『Japanese Tales of Mystery & Imagination』と同じ。オランダ語版の表題は、Google翻訳で英語に訳すと"Horror Stories from Japan"となった。編訳者は「オランダ推理小説略史/日蘭ミステリ交流史」で紹介したオランダのミステリ作家のハファンク。おそらく、英訳版からの重訳だろう。

 なお、ヤンウィレム・ヴァン・デ・ウェテリンクが編んだアンソロジーにも乱歩の短編が収録されている。当リスト末尾の「アンソロジー」も参照のこと。
  • De hel van de spiegels / 鏡地獄 (『Een Oosterse huivering』に収録、ブルーナ社、1980年)
  • De rode kamer / 赤い部屋 (『Brief uit het dodenrijk』に収録、Loeb社、1983年)

桐野夏生 (Natsuo Kirino)

オランダ語版Wikipedia
De nachtploeg / 『OUT』(1997)
Grotesk / 『グロテスク』(2003)
Echte wereld / 『リアルワールド』(2003)

 この3作品は英訳も出ている。VNDTによれば『OUT』は英訳版からの重訳。ほかの2冊もおそらく同じだろう。辛口で知られるVNDTの五段階評価では『OUT』から順に四つ星、二つ星、三つ星の評価を受けている。

鈴木光司 (Koji Suzuki)

Ring / 『リング』(1991)
Spiraal / 『らせん』(1995)
Dark water / 『仄暗い水の底から』(1996)

 3冊とも英訳版からの重訳。『リング』『らせん』『ループ』は三部作だが、『ループ』のオランダ語訳は出ていないようだ。

高木彬光 (Akimitsu Takagi)

De zaak Segawa / 『密告者』(1965)
  • ISBN 9027436878 (Het Spectrum社 《Prisma-detective》269、1973年) 表紙(VNDTより)
Rouw voor de bruid / 『ゼロの蜜月』(1965)
  • ISBN 9027436908 (Het Spectrum社 《Prisma-detective》272、1974年) 表紙(VNDTより)

 この2作品は英訳も出ている。『密告者』は英訳版からの重訳。『ゼロの蜜月』もおそらく同じだろう。Het Spectrum社のミステリ叢書《Prisma-detective》の刊行作品一覧(全576巻?)はこちらで見られる。

戸川昌子 (Masako Togawa)

De ladykiller / 『猟人日記』(1963)
  • ISBN 9062912753 (BZZTôH、1987年) 表紙(VNDTより)

 英訳版からの重訳。その後何度か再刊されているようだが、詳細不明。VNDTで見られるこの表紙は1989年のHema社版(ISBN 9069761637)だろうか。なおどちらの表紙にも、下の方に「日本のパトリシア・ハイスミス」と書いてあるのが見える。

 なお、ヤンウィレム・ヴァン・デ・ウェテリンクが編んだアンソロジーにも戸川昌子の短編が収録されている。当リスト末尾の「アンソロジー」も参照のこと。
  • De vampier (『Een Oosterse huivering』に収録、ブルーナ社、1980年)

 おそらくは、1978年刊行の日本ミステリ英訳短編集『Ellery Queen's Japanese Golden Dozen』に収録の「黄色い吸血鬼」(The Vampire)をオランダ語に重訳したものだろう。

東野圭吾 (Keigo Higashino)

De fatale toewijding van verdachte X / 『容疑者Xの献身』(2005)

 『容疑者Xの献身』はいわずと知れた、本格ミステリ大賞と直木賞を受賞し、『このミステリーがすごい!』、『本格ミステリ・ベスト10』、「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位となり、アメリカ図書館協会により年間ベストミステリに選出され、アメリカのエドガー賞最優秀長編賞およびバリー賞最優秀新人賞にノミネートされた作品である(バリー賞の受賞作は2012年10月に確定)。2012年5月までに、韓国語、中国語、タイ語、ロシア語、ベトナム語、英語、カタルーニャ語、スペイン語、フランス語に翻訳されている(ほぼ出版順に並べた)。オランダ語版は2012年5月刊行予定。『容疑者Xの献身』の海外出版状況およびアジアと欧米での東野圭吾の受容については以前に「こちら」でまとめた。

松本清張 (Seicho Matsumoto)

De Amsterdamse koffermoord en andere verhalen / 中短編集『アムステルダム運河殺人事件(and other stories)』
  • ISBN 9029530464 (Arbeiderspers、1979年) 表紙(VNDTより)

  • 収録作
    • 中編「アムステルダム運河殺人事件」(De Amsterdamse koffermoord)
    • 短編「顔」(Het gezicht)
    • 短編「地方紙を買う女」(Het opgezegde abonnement)
    • 短編「巻頭句の女」(De haiku dichteres)
【収録作は、ブログ「浩寧の事件簿」のホーリンさん(twitter)に教えてもらいました。感謝。/2013年4月17日 記】

 「アムステルダム運河殺人事件」(1969)はオランダが舞台になっている作品。英訳はないので、日本語から直接訳したのだろう。訳者はM. Vos-Kobayashi。日本で刊行されている作品集『アムステルダム運河殺人事件』は「アムステルダム運河殺人事件」と「セント・アンドリュースの事件」の2編が収録されているが、オランダでは後者は翻訳されていないようだ。

 なお、ヤンウィレム・ヴァン・デ・ウェテリンクが編んだアンソロジーにも松本清張の短編が収録されている。当リスト末尾の「アンソロジー」も参照のこと。
  • De behulpzame verdachte (『Een Oosterse huivering』に収録、ブルーナ社、1980年)

 おそらくは、1978年刊行の日本ミステリ英訳短編集『Ellery Queen's Japanese Golden Dozen』に収録の「奇妙な被告」(The Cooperative Defendant)をオランダ語に重訳したものだろう。

宮部みゆき (Miyuki Miyabe)

Dubbelrol / 『火車』(1992)

 英訳版からの重訳。VNDTの五段階評価では四つ星の評価を受けた。

アンソロジー

 邦題は推定である。

Een Oosterse huivering (ヤンウィレム・ヴァン・デ・ウェテリンク編、ブルーナ社、1980年、表紙[VNDTより])
谷崎潤一郎 De tatoeeerder 「刺青」の抄訳か?
谷崎潤一郎 Verschrikking
魯迅 Dagboek van een gek 「狂人日記」の抄訳か?
戸川昌子 De vampier 「黄色い吸血鬼」
クシュワント・シン Daulat Ram sterft
松本清張 De behulpzame verdachte 「奇妙な被告」
馮夢竜 De kanari moorden
ロバート・ファン・ヒューリック Vier vingers
江戸川乱歩 De hel van de spiegels 「鏡地獄」
芥川龍之介 De folteringen van de hel 「地獄変」
蒲松齢 De herberg in Ts'ai-tiyen
ヤンウィレム・ヴァン・デ・ウェテリンク Spelevaren
ヤンウィレム・ヴァン・デ・ウェテリンク Een kleine vergissing

 表題は「東洋のホラー」(機械翻訳)。戸川昌子「黄色い吸血鬼」と松本清張「奇妙な被告」は1978年刊行の日本ミステリ英訳短編集『Ellery Queen's Japanese Golden Dozen』に収録されている。クシュワント・シン(Khushwant Singh)はクシワント・シンとも表記される。


Brief uit het dodenrijk(死者の便り) (ヤンウィレム・ヴァン・デ・ウェテリンク編、Loeb社、1983年、表紙[VNDTより])
上田秋成(Oeda Akinari) De raad van de kookketel
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン) Twee legenden
谷崎潤一郎(Junichiro Tanizaki) De dief
芥川龍之介(Ryonosuke Akutagawa) In het struikgewas 「藪の中」
江戸川乱歩(Edogawa Rampo) De rode kamer 「赤い部屋」
ロバート・ファン・ヒューリック Moord op oudejaarsavond
三島由紀夫(Yoekio Mishima) Dood in midzomer 「真夏の死」
西村京太郎(Kiotaro Nishimoera) De vriendelijke afzetter 「優しい脅迫者」
三好徹(Tohroe Miyoshi) Brief uit het dodenrijk 「死者の便り」
筒井康隆(Yasoetaka Tsoetsoei) Hele aardige dames 「如菩薩団」
草野唯雄(Tadao Sohno) Het herstelde hoofd 「復顔」
ヤンウィレム・ヴァン・デ・ウェテリンク Het flaporen dossier
ヤンウィレム・ヴァン・デ・ウェテリンク De nieuwe leerling

 三好徹の「死者の便り」が表題になっている。このアンソロジーでは日本人の名前の綴りが特殊なのでそれも示した。
 西村京太郎「優しい脅迫者」、三好徹「死者の便り」、筒井康隆「如菩薩団」、草野唯雄「復顔」は1978年刊行の日本ミステリ英訳短編集『Ellery Queen's Japanese Golden Dozen』に収録されている。