「散々手こずらせてくれましたが、まずは一人ですね」
悲鳴が大反響を起こす常闇の大空洞。その余韻が鳴り止まぬ中、一際甲高い声が俺の耳を劈いた。
極めてクールで、背筋をも凍りそうな程の殺気を持ったそいつは、恐らく男だろう。
恐らく、と言うのは他でもない。一般的男性より三オクターブ程高いその声が原因だ。加えて変な女言葉を使うせいでやたら気持ち
悪く感じる。
「何のためにここまで侵入したかは知りませんが、おいたはこの辺でお止しなさい。そうでないとあなたも彼女と同じく奈落の底に真
っ逆さまですよ。そう……」
ギシュ、と何かを握りしめるような音の後、ドンッ! と言う音が俺の直ぐ後ろで響き渡り、そして岩が転がり落ちていくのが分か
った。
「この魔力銃でね」
魔力銃……?
「そうよ、坊や。この素晴らしい破壊力。魔力銃がどの程度の力を持っているか、今ので分かったでしょ?」
「それで、足下を崩してあいつを……橘を落下させた、ってわけか」
「あらあら。ご名答よ。思ったより頭が良いのねぇ、ボクゥ。ほほほ」
「あいつはどうなったんだ、言え!」
「あらあら、せっかく誉めてあげたのに。やっぱり知能が低いのかしら。そんなこともわからないの?」
まるで……いや、まるっきり馬鹿にした口調で言い放つ。。
「いくら底に温泉が噴出しているとはいえ、この高さから落ちて五体満足でいられるとお思い?」
く……やっぱりそうなるのか……
「ふふふ、彼女のことは残念だったけど、あなた幸運だったわね。彼女が身を呈して庇ってくれなかったら、あなたが落ちてたのよ。
ちゃんと彼女の分まで長生きしなきゃ。そのためには、大人しく引き下がることを推奨するわ。それとも……」
カチャリ、と金属音が響いた。
「彼女と一緒に死出の旅に出るなんて……言わないわよね?」
「それはこっちのセリフだ」
あいつは少々方向音痴なんでな。お前に三途の川の水先案内人をしてもらうと思ってたところなんだ。よろしくお願いするぜ。
「ふふふふ……言うじゃない。でも悲しいかな、お子ちゃまねえ。この暗闇で、あたくしがどこにいるのかわかってるのかしら?」
俺は何も答えない。
「その様子じゃ分かってないみたいね。だからお子ちゃまなのよ」
ふざけるな。ならお前は分かるってのか?
「ええ、もちろん。…………そこよっ!」
「てっ!」
俺のコメカミに何かがヒットした。恐らく小石か何かを拾って俺に投げつけたのだろう。
「どう? もし今のが石じゃなくてこの銃だったら、あなたの首から上は綺麗さっぱりなくなっていたわよ。これでもまだあたくしを
倒そうなんて妄言吐けるかしら?」
…………。
「ふふふふ……感じる。感じるわ。絶望の淵に立たされて恐れおののくあなたの表情が……ああ、ゾクゾクしちゃう!」
何かものすごく偏ったフェティシズムをお持ちのようだ。できれば関わりたくないが……だが、それも無理な相談だ。
こいつに関する俺の対処は二つに一つ。倒すか、倒されるかだ。
もちろん逃げるとか降伏すると言う選択肢もあるにはあるが、他の敵ならともかくこいつに対してだけは選ぼうとは思わない。
何故なら――
極めてクールで、背筋をも凍りそうな程の殺気を持ったそいつは、恐らく男だろう。
恐らく、と言うのは他でもない。一般的男性より三オクターブ程高いその声が原因だ。加えて変な女言葉を使うせいでやたら気持ち
悪く感じる。
「何のためにここまで侵入したかは知りませんが、おいたはこの辺でお止しなさい。そうでないとあなたも彼女と同じく奈落の底に真
っ逆さまですよ。そう……」
ギシュ、と何かを握りしめるような音の後、ドンッ! と言う音が俺の直ぐ後ろで響き渡り、そして岩が転がり落ちていくのが分か
った。
「この魔力銃でね」
魔力銃……?
「そうよ、坊や。この素晴らしい破壊力。魔力銃がどの程度の力を持っているか、今ので分かったでしょ?」
「それで、足下を崩してあいつを……橘を落下させた、ってわけか」
「あらあら。ご名答よ。思ったより頭が良いのねぇ、ボクゥ。ほほほ」
「あいつはどうなったんだ、言え!」
「あらあら、せっかく誉めてあげたのに。やっぱり知能が低いのかしら。そんなこともわからないの?」
まるで……いや、まるっきり馬鹿にした口調で言い放つ。。
「いくら底に温泉が噴出しているとはいえ、この高さから落ちて五体満足でいられるとお思い?」
く……やっぱりそうなるのか……
「ふふふ、彼女のことは残念だったけど、あなた幸運だったわね。彼女が身を呈して庇ってくれなかったら、あなたが落ちてたのよ。
ちゃんと彼女の分まで長生きしなきゃ。そのためには、大人しく引き下がることを推奨するわ。それとも……」
カチャリ、と金属音が響いた。
「彼女と一緒に死出の旅に出るなんて……言わないわよね?」
「それはこっちのセリフだ」
あいつは少々方向音痴なんでな。お前に三途の川の水先案内人をしてもらうと思ってたところなんだ。よろしくお願いするぜ。
「ふふふふ……言うじゃない。でも悲しいかな、お子ちゃまねえ。この暗闇で、あたくしがどこにいるのかわかってるのかしら?」
俺は何も答えない。
「その様子じゃ分かってないみたいね。だからお子ちゃまなのよ」
ふざけるな。ならお前は分かるってのか?
「ええ、もちろん。…………そこよっ!」
「てっ!」
俺のコメカミに何かがヒットした。恐らく小石か何かを拾って俺に投げつけたのだろう。
「どう? もし今のが石じゃなくてこの銃だったら、あなたの首から上は綺麗さっぱりなくなっていたわよ。これでもまだあたくしを
倒そうなんて妄言吐けるかしら?」
…………。
「ふふふふ……感じる。感じるわ。絶望の淵に立たされて恐れおののくあなたの表情が……ああ、ゾクゾクしちゃう!」
何かものすごく偏ったフェティシズムをお持ちのようだ。できれば関わりたくないが……だが、それも無理な相談だ。
こいつに関する俺の対処は二つに一つ。倒すか、倒されるかだ。
もちろん逃げるとか降伏すると言う選択肢もあるにはあるが、他の敵ならともかくこいつに対してだけは選ぼうとは思わない。
何故なら――
「ふう……なかなかいい思いをさせてもらったわ。お礼と言っちゃ何だけど、今引き返すなら命は助けてあげる。死んだお仲間の敵を
取るために自分が返り討ちに遭うってのもナンセンスだと思わない。それに今時、敵討ちなんて流行らないわよ。ま、かわいそうだと
は思うけど、犬か猫にでも噛まれたと思って諦めて頂戴。そのほうがボクのためよ。おほほほほほ……」
「………………」
「ん? 何て言ったのかしら? もっとはっきりと大きな声で言ってちょうだい」
「うるせえ! 大きなお世話って言ったんだよこのオカマ野郎!」
「なっ……! オカ、オカオカ……オカマ野郎ですってぇ!」
「ったりめーだこの変態! さっきから黙って聞いてりゃバカみたいに甲高い声を上げやがって。それに口調がまるっきりカマじゃね
えか! カマカマ野郎!」
「カマって言うんじゃないざますよ!」
「なら『ざます』なんて使うなこの大カマ野郎!」
取るために自分が返り討ちに遭うってのもナンセンスだと思わない。それに今時、敵討ちなんて流行らないわよ。ま、かわいそうだと
は思うけど、犬か猫にでも噛まれたと思って諦めて頂戴。そのほうがボクのためよ。おほほほほほ……」
「………………」
「ん? 何て言ったのかしら? もっとはっきりと大きな声で言ってちょうだい」
「うるせえ! 大きなお世話って言ったんだよこのオカマ野郎!」
「なっ……! オカ、オカオカ……オカマ野郎ですってぇ!」
「ったりめーだこの変態! さっきから黙って聞いてりゃバカみたいに甲高い声を上げやがって。それに口調がまるっきりカマじゃね
えか! カマカマ野郎!」
「カマって言うんじゃないざますよ!」
「なら『ざます』なんて使うなこの大カマ野郎!」
「キィーッ! むかつくぅぅぅ!!!」
「仲間がやられたってのにのこのこ身を売るバカがどこにいるってんだ! 絶対ゆるさねえ。お前だけは絶対倒してやる!」
――普通、そう思うだろ?
だから、こいつの実力がどうであろうと、戦い抜くのみ。
そして――勝つ。勝って橘の敵を討ってやる!
「仲間がやられたってのにのこのこ身を売るバカがどこにいるってんだ! 絶対ゆるさねえ。お前だけは絶対倒してやる!」
――普通、そう思うだろ?
だから、こいつの実力がどうであろうと、戦い抜くのみ。
そして――勝つ。勝って橘の敵を討ってやる!
「舐めたことを言うんじゃないわよ! 人間、出来ることと出来ないことがあるってこと、思い知らせてあげる! 来なさい!」
それはこっちのセリフだ。その思い上がった性根を叩き直してやる。
いよいよ戦闘のゴングが鳴り響いた。俺は剣を抜き、先ほど衝撃音がした方を振り返り奴の行動に備えた。
この暗闇のせいで相手がどこにいるかわかったもんじゃないが、魔力銃とやらを撃った方向から推察するに俺の後ろに回ったのは想
像に難くない。
が、
「どこ見てるのよ! こっちよ!」
反響する声は、しかし俺の横手から聞こえてくるような印象を受けた。相変わらず声が反射するから位置が分かりにくい。加えて相
手は俺が見えるかの如く正確に動いている。
この勝負、明らかに俺のほうが部が悪い。長引けば長引くほど殊更だ。
ならば、短期決戦を試みるしかない!
「うおりゃあ!」
イチかバチか、声が聞こえた方に突進を仕掛ける。奴の首級目掛けて一直線。恐らくこの辺に――
「引っかかったわね!」
しかし、声は俺の予想を裏切る場所から発せられた。
――即ち、俺のすぐ横。
「なっ……」
何だと!?
声に反応して思わず振り返ると――見えた。何かを構えた、人影らしき黒い影が。
「死になさいっ!」
声と同時に影が蠢く。この至近距離では交わせない!?
だがっ!
「うぉぉぉぉぉおぉぉっ!!!」
それはこっちのセリフだ。その思い上がった性根を叩き直してやる。
いよいよ戦闘のゴングが鳴り響いた。俺は剣を抜き、先ほど衝撃音がした方を振り返り奴の行動に備えた。
この暗闇のせいで相手がどこにいるかわかったもんじゃないが、魔力銃とやらを撃った方向から推察するに俺の後ろに回ったのは想
像に難くない。
が、
「どこ見てるのよ! こっちよ!」
反響する声は、しかし俺の横手から聞こえてくるような印象を受けた。相変わらず声が反射するから位置が分かりにくい。加えて相
手は俺が見えるかの如く正確に動いている。
この勝負、明らかに俺のほうが部が悪い。長引けば長引くほど殊更だ。
ならば、短期決戦を試みるしかない!
「うおりゃあ!」
イチかバチか、声が聞こえた方に突進を仕掛ける。奴の首級目掛けて一直線。恐らくこの辺に――
「引っかかったわね!」
しかし、声は俺の予想を裏切る場所から発せられた。
――即ち、俺のすぐ横。
「なっ……」
何だと!?
声に反応して思わず振り返ると――見えた。何かを構えた、人影らしき黒い影が。
「死になさいっ!」
声と同時に影が蠢く。この至近距離では交わせない!?
だがっ!
「うぉぉぉぉぉおぉぉっ!!!」
――そして、銃声が響き割った。
「くっ!」
俺の脇腹あたりに、何かがかすめていくのがわかった。魔力銃とやらの攻撃だろうか。
間一髪で避けた……いや、正確には外してくれたと言った方がいいかもしれない。殆どゼロ距離からの銃撃だ。交わせと言われてそ
うそう交わせるもんじゃない。
それくらいのギリギリの軌道だったわけだ。奇跡といってもいい。まさしく驚愕ものだ。
「なっ……」
そして、俺以上に驚いているのが約一名。
「……避けた……なんて……」
もちろん勝利を確信して疑わなかった例のオカマ野郎だ。避けられるとは思っていなかったのだろう。掠れた声があからさまに動揺
の色を示していた。よし、チャンスは今しかない。
「どうした、それで終わりか?」
「な……」
「挑発に敢えて乗ってやったとも気付かず……哀れな奴だな」
「なっ…………」
「しょせん暗闇の中からこそこそ銃を撃つことしかできない小心者のオカマ野郎だからしかたないか」
「っ……この……言わせておけば……」
「事実だろうが。嫌なら白昼堂々拳と拳で勝負してみるか?」
「…………」
「なんだ、出来ないのか。力も度胸もないなら、やっぱり卑怯者じゃないか」
「……ぐ…………」
俺の脇腹あたりに、何かがかすめていくのがわかった。魔力銃とやらの攻撃だろうか。
間一髪で避けた……いや、正確には外してくれたと言った方がいいかもしれない。殆どゼロ距離からの銃撃だ。交わせと言われてそ
うそう交わせるもんじゃない。
それくらいのギリギリの軌道だったわけだ。奇跡といってもいい。まさしく驚愕ものだ。
「なっ……」
そして、俺以上に驚いているのが約一名。
「……避けた……なんて……」
もちろん勝利を確信して疑わなかった例のオカマ野郎だ。避けられるとは思っていなかったのだろう。掠れた声があからさまに動揺
の色を示していた。よし、チャンスは今しかない。
「どうした、それで終わりか?」
「な……」
「挑発に敢えて乗ってやったとも気付かず……哀れな奴だな」
「なっ…………」
「しょせん暗闇の中からこそこそ銃を撃つことしかできない小心者のオカマ野郎だからしかたないか」
「っ……この……言わせておけば……」
「事実だろうが。嫌なら白昼堂々拳と拳で勝負してみるか?」
「…………」
「なんだ、出来ないのか。力も度胸もないなら、やっぱり卑怯者じゃないか」
「……ぐ…………」
暗闇の中、微かに響く舌打と歯軋りを聞き、俺は心の中でほくそ笑んだ。
既にお分かりかもしれないが、俺は『挑発』を試みたのだ。
わざと怒らせるような発言をして相手に冷静な判断をさせなくするこの方法は、基本的に頭に血が上りやすい猪突猛進タイプの人間
に有効な戦法である。
既にお分かりかもしれないが、俺は『挑発』を試みたのだ。
わざと怒らせるような発言をして相手に冷静な判断をさせなくするこの方法は、基本的に頭に血が上りやすい猪突猛進タイプの人間
に有効な戦法である。
逆に言うと冷静に物事を判断できる軍師タイプの人間には有効な方法ではないし、また頭に血が上りやすいタイプでも逆上して手当
たり次第攻撃されては困るので、相手を選ぶ戦法であるのもまた事実だ。
さて、見たところ、このオカマ野郎は猪突猛進タイプとは思えないし、口車に乗るほど頭が悪いとは思えない。むしろ暗闇に紛れて
相手の弱点をつくなど、狡猾ではあるが妥当な戦法を取るあたり『挑発』が有効な人物とは思えない。
しかし、である。
俺はこいつに『挑発』という戦法は有効であると感じとった。何故か。
その理由は、人並み以上に高いこいつの自尊心にあった。
先ほどの発言から、俺を子供扱いし、自分の優位性を自慢気に語るなど、こいつの自我自賛ぶりは目に余るものがあった。
侵入者を退治する時に前口上やら自分の武器の説明をする奴なんてまずいない。そんなことをしていればその間に逃げられるし、武
器の特性を見破られて無にされたのでは元も子もない。
余程場数を踏んだ奴か、敵の注意をひきつけるため、はたまた時間稼ぎくらいにしかそんなことはしないだろう。
だが、こいつの場合はそのどちらとも違う。単に自分は凄いんだぞと自慢したかっただけだ。
自分は絶対に負けるはずがないと想像……いや、妄想しているからこそできる発言だ。
それを一番強く感じたのは奴が俺に小石をぶつけた時だ。さっさと俺に狙いをつけて魔力銃を放てばいいのに、それをしなかった理
由は、『自分は夜目が利くんだ』、『ここでは俺の方が強いんだ』と言うちっぽけなプライドを保つために及んだ行為だったのだ。
つまり。
端的に言うと、こいつは『プライドだけは一人前のマイルール野郎』なのだ。
やたらと自慢してくるわりには中身が伴わなず、そのくせ指摘すると『お前に俺の高尚な意図がわかるはずも無い』みたいなことを
言ってキレる奴。まさしくそう言ったタイプの人間なのだ。
そして、こう言う野郎には『挑発』と言う戦法は大いに有効なのだ。頭でっかち且つ自尊心が人並み以上に高い輩は、そのプライド
が傷つけられると途端に冷静さを失い、子供でもわかるような下手な策略に引っかかることがままある。
エリート官僚や会社役員が不祥事を起こした際に行われる謝罪会見等で、正論で攻めてきた記者達に逆上して余計に社会的地位を失
うなんてこともままあるが、今回それを狙ったってわけだ。
自分の理解し得ない現象を相手が理解している。たったそれだけのことが自分のプライドを傷つけ、逆上して冷静な判断をできなく
させるのだ。
たり次第攻撃されては困るので、相手を選ぶ戦法であるのもまた事実だ。
さて、見たところ、このオカマ野郎は猪突猛進タイプとは思えないし、口車に乗るほど頭が悪いとは思えない。むしろ暗闇に紛れて
相手の弱点をつくなど、狡猾ではあるが妥当な戦法を取るあたり『挑発』が有効な人物とは思えない。
しかし、である。
俺はこいつに『挑発』という戦法は有効であると感じとった。何故か。
その理由は、人並み以上に高いこいつの自尊心にあった。
先ほどの発言から、俺を子供扱いし、自分の優位性を自慢気に語るなど、こいつの自我自賛ぶりは目に余るものがあった。
侵入者を退治する時に前口上やら自分の武器の説明をする奴なんてまずいない。そんなことをしていればその間に逃げられるし、武
器の特性を見破られて無にされたのでは元も子もない。
余程場数を踏んだ奴か、敵の注意をひきつけるため、はたまた時間稼ぎくらいにしかそんなことはしないだろう。
だが、こいつの場合はそのどちらとも違う。単に自分は凄いんだぞと自慢したかっただけだ。
自分は絶対に負けるはずがないと想像……いや、妄想しているからこそできる発言だ。
それを一番強く感じたのは奴が俺に小石をぶつけた時だ。さっさと俺に狙いをつけて魔力銃を放てばいいのに、それをしなかった理
由は、『自分は夜目が利くんだ』、『ここでは俺の方が強いんだ』と言うちっぽけなプライドを保つために及んだ行為だったのだ。
つまり。
端的に言うと、こいつは『プライドだけは一人前のマイルール野郎』なのだ。
やたらと自慢してくるわりには中身が伴わなず、そのくせ指摘すると『お前に俺の高尚な意図がわかるはずも無い』みたいなことを
言ってキレる奴。まさしくそう言ったタイプの人間なのだ。
そして、こう言う野郎には『挑発』と言う戦法は大いに有効なのだ。頭でっかち且つ自尊心が人並み以上に高い輩は、そのプライド
が傷つけられると途端に冷静さを失い、子供でもわかるような下手な策略に引っかかることがままある。
エリート官僚や会社役員が不祥事を起こした際に行われる謝罪会見等で、正論で攻めてきた記者達に逆上して余計に社会的地位を失
うなんてこともままあるが、今回それを狙ったってわけだ。
自分の理解し得ない現象を相手が理解している。たったそれだけのことが自分のプライドを傷つけ、逆上して冷静な判断をできなく
させるのだ。
……まあ、それっぽいことを長々語ったわけだが、実のところさっきからかわれた事に対する仕返しってのが本音なんだが、その辺
は俺の心理を汲み取っていただければ幸いである。
ともかく、俺の思い通りの展開になってくれればそれで問題はないのである。
しかし――
は俺の心理を汲み取っていただければ幸いである。
ともかく、俺の思い通りの展開になってくれればそれで問題はないのである。
しかし――
「くく…………くほほほほ…………くほほほほほほほほほほ…………」
突然、奇妙な笑い声が静寂の洞穴に木霊した。
この声の発生源は、もちろんこのオカマ野郎。
「……確かにあなたの言う通り、あたくしは戦闘に対する能力はないわ…………くくくく…………」
ぶつぶつと喋りだすその様は、場所が場所だけに決して喜ばしいものではなかった。俺の野次が心底効いたのか、或いは何かの作戦
か……用心に越したことはない。
剣を構えたまま、声のする方を向いてそのまま臨戦体制をとった。
「剣だって満足に扱えないし、魔法もからっきし。そう、おちこぼれだったのよ…………ふふふふ…………」
笑い声と共に、俺はゾクリとする何かを感じ取った。
何か……と言われてもそれが何だかわからない。わからないから適当に言うが、恐らく雰囲気と言うかオーラと言うか……ともかく
先ほどまでとは違った空気が、辺りにはびこんでいることだけは分かった。
その空気を発しているのは、間違いなく奴。一体何を考えてやがる……?
「でもね」
訝しげな俺の表情をどう捉えたのか、オカマ野郎は凛々しい声で「あの方にお遭してからは、違った」
あの方?
「素晴らしい御仁だった。何の取柄もないあたくしを拾ってくれた。そして『これを使うのに一番相応しい』と、与えてくれたのよ」
カチャンと、再びシリンダーを引く音が聞こえた。
突然、奇妙な笑い声が静寂の洞穴に木霊した。
この声の発生源は、もちろんこのオカマ野郎。
「……確かにあなたの言う通り、あたくしは戦闘に対する能力はないわ…………くくくく…………」
ぶつぶつと喋りだすその様は、場所が場所だけに決して喜ばしいものではなかった。俺の野次が心底効いたのか、或いは何かの作戦
か……用心に越したことはない。
剣を構えたまま、声のする方を向いてそのまま臨戦体制をとった。
「剣だって満足に扱えないし、魔法もからっきし。そう、おちこぼれだったのよ…………ふふふふ…………」
笑い声と共に、俺はゾクリとする何かを感じ取った。
何か……と言われてもそれが何だかわからない。わからないから適当に言うが、恐らく雰囲気と言うかオーラと言うか……ともかく
先ほどまでとは違った空気が、辺りにはびこんでいることだけは分かった。
その空気を発しているのは、間違いなく奴。一体何を考えてやがる……?
「でもね」
訝しげな俺の表情をどう捉えたのか、オカマ野郎は凛々しい声で「あの方にお遭してからは、違った」
あの方?
「素晴らしい御仁だった。何の取柄もないあたくしを拾ってくれた。そして『これを使うのに一番相応しい』と、与えてくれたのよ」
カチャンと、再びシリンダーを引く音が聞こえた。
「この魔力銃……普通の銃と違って、色々なメリットがあるの。先ずは弾。自分の精神力が弾になるから、弾切れがないのよ。自分が
死ぬか、戦意喪失するまでね。それに万一相手に取られても、弾を発射することはできない。あたくしの精神に同調するように作られ
ているから、そもそも他人が使うことができない。そして、普通の銃と違って火薬を使うわけじゃないから、火花が飛ぶ事もない。つ
まり、こう言った闇討ちには最適な道具なのよ」
「……何が、言いたい?」
俺がそう言うと、くくくくという笑い声と共に再びオカマ野郎のトーンが上がり始めた。
「あなたは、これを見切ることができない…………できる訳ないのよっ!」
――狂喜の声と共に、ためらいも何も無く引き金を引く姿が脳裏に浮かんだ。
死ぬか、戦意喪失するまでね。それに万一相手に取られても、弾を発射することはできない。あたくしの精神に同調するように作られ
ているから、そもそも他人が使うことができない。そして、普通の銃と違って火薬を使うわけじゃないから、火花が飛ぶ事もない。つ
まり、こう言った闇討ちには最適な道具なのよ」
「……何が、言いたい?」
俺がそう言うと、くくくくという笑い声と共に再びオカマ野郎のトーンが上がり始めた。
「あなたは、これを見切ることができない…………できる訳ないのよっ!」
――狂喜の声と共に、ためらいも何も無く引き金を引く姿が脳裏に浮かんだ。
「なっ…………」
この驚愕の声は俺のものではなく、今まさに銃を放ったオカマ野郎のものである。
本日二度目となった驚愕の声は、しかし今回ばかりは俺も軽口を叩ける状態ではなかった。
――次の瞬間に起きた、奇蹟とも言える一瞬のせいで。
この驚愕の声は俺のものではなく、今まさに銃を放ったオカマ野郎のものである。
本日二度目となった驚愕の声は、しかし今回ばかりは俺も軽口を叩ける状態ではなかった。
――次の瞬間に起きた、奇蹟とも言える一瞬のせいで。
奴の銃の軌道。それは間違いなく俺の真正面目掛けて放たれた。
弾は三発放たれた。俺の真正面に来たものの他に、ワンテンポ遅れて二発。最初の一発からそれぞれ体一つ分ずらした位置を正確に
飛んできた。運良く最初の一発を交わしても、後続の弾が俺の体を貫通するように。
全て計算ずくで仕組んだことだったのだろう。三発の弾が放たれたとき、勝利に歪む奴の顔が見えたような気がした。
しかし、そこから先は奴も……いや、俺でさえ予想だにしなかったことが起きた。
弾が放たれた瞬間、俺はとっさに剣を振りかぶり、飛んできた弾をそのまま叩き切ったのだ。
二つに分かたれた魔力の塊は、俺を避けるかのように後方へと飛んでいき、壁に当たってそのまま霧散し、後に続く二発の弾も、俺
の横をすり抜けて同様に破裂した。
『…………』
オカマ野郎はもちろん、俺もあまりのことに声すら上げられない。そりゃそうだ。やれと言われて出来ることじゃない。先ほど反射
的に弾を交わした時もそうだったが、この辺はまさしく運がよかったとしか言いようがない。
「な……なんで……なんで…………」
ワナワナと震える声は、傍から見ても明らかに動揺していた。
「なんで魔力の弾が切れるのよっ!」
「なんで、って言われても……何となく飛んできたのが見えたから、そのままズバッと……」
「見えた…………ですって!!」
オカマ野郎の声は、更に一オクターブ上昇した。
「魔力よっ! 純粋な魔力の塊よっ!! 見えるわけないじゃない!!!」
いや、そういわれても。俺だってはっきりくっきり分かったわけじゃない。ただそれっぽい空気の渦がこっちに伝わってきたから、
何となく……
「何となく、じゃないっ!」
怒られた。
「あたくしさっき言ったでしょ! 普通の人にはそんなもの見えないのよっ! 魔力が見えるのは神か魔族、あるいは……」
そこまで言って奴の口が止まった。
「……まさか…………まさか…………あなた…………まさか!」
何かを口にしようとした瞬間、しかし奴からそれ以上の言葉を口にすることは無かった。
弾は三発放たれた。俺の真正面に来たものの他に、ワンテンポ遅れて二発。最初の一発からそれぞれ体一つ分ずらした位置を正確に
飛んできた。運良く最初の一発を交わしても、後続の弾が俺の体を貫通するように。
全て計算ずくで仕組んだことだったのだろう。三発の弾が放たれたとき、勝利に歪む奴の顔が見えたような気がした。
しかし、そこから先は奴も……いや、俺でさえ予想だにしなかったことが起きた。
弾が放たれた瞬間、俺はとっさに剣を振りかぶり、飛んできた弾をそのまま叩き切ったのだ。
二つに分かたれた魔力の塊は、俺を避けるかのように後方へと飛んでいき、壁に当たってそのまま霧散し、後に続く二発の弾も、俺
の横をすり抜けて同様に破裂した。
『…………』
オカマ野郎はもちろん、俺もあまりのことに声すら上げられない。そりゃそうだ。やれと言われて出来ることじゃない。先ほど反射
的に弾を交わした時もそうだったが、この辺はまさしく運がよかったとしか言いようがない。
「な……なんで……なんで…………」
ワナワナと震える声は、傍から見ても明らかに動揺していた。
「なんで魔力の弾が切れるのよっ!」
「なんで、って言われても……何となく飛んできたのが見えたから、そのままズバッと……」
「見えた…………ですって!!」
オカマ野郎の声は、更に一オクターブ上昇した。
「魔力よっ! 純粋な魔力の塊よっ!! 見えるわけないじゃない!!!」
いや、そういわれても。俺だってはっきりくっきり分かったわけじゃない。ただそれっぽい空気の渦がこっちに伝わってきたから、
何となく……
「何となく、じゃないっ!」
怒られた。
「あたくしさっき言ったでしょ! 普通の人にはそんなもの見えないのよっ! 魔力が見えるのは神か魔族、あるいは……」
そこまで言って奴の口が止まった。
「……まさか…………まさか…………あなた…………まさか!」
何かを口にしようとした瞬間、しかし奴からそれ以上の言葉を口にすることは無かった。
――ズシャァァァァァァァァァァン――
突然。本当に突然である。
奴のいた場所目掛けて、凄まじい音と共に何かが飛んできたのだ。
『――――!!?』
言葉も無いまま――何か叫んだかもしれないが、轟音に掻き消されて何も聞こえなかった――奴の気配はそこからきれいさっぱりと
消え去ったのだ。
一体、何が起きている?
奴のいた場所目掛けて、凄まじい音と共に何かが飛んできたのだ。
『――――!!?』
言葉も無いまま――何か叫んだかもしれないが、轟音に掻き消されて何も聞こえなかった――奴の気配はそこからきれいさっぱりと
消え去ったのだ。
一体、何が起きている?
――ゴゴゴゴゴゴゴ――
間をおかず、今度は辺りが細かく振動し始めた。最初は地震かと思ったが、どうやら違う。遥か下方で何かが勢い良く飛び出してお
り、それが壁に当たって洞窟全体を揺るがしているようだ。
事実、再び俺の目の前にその何か――オカマ野郎を葬った何か――が通過し、
ピシャッ。
その一部が俺に降りかかった。
り、それが壁に当たって洞窟全体を揺るがしているようだ。
事実、再び俺の目の前にその何か――オカマ野郎を葬った何か――が通過し、
ピシャッ。
その一部が俺に降りかかった。
「これは……」
人肌程の暖かさを持ったその液体。それは。
「……温泉が噴出しているのか!?」
人肌程の暖かさを持ったその液体。それは。
「……温泉が噴出しているのか!?」
「おい! 大丈夫か!?」
余りのことにその場で呆けていると、突如上の方から男性の声が聞こえてきた。
「藤原? 藤原なのか!?」
「ここは危険だ! 一旦外に出るぞ!」
一体何が起きているんだ!? 何故温泉がこんなに噴出しているんだ!?
「わからん! だがこの振動は異常だ。海底火山の前触れかも知れんぞ!」
何だって!?
「それに湧き出る温泉が異常だ! この水圧では直撃すればひとたまりも無い!」
分かった、逃げよう……と言おうとして、思い出した。
「ダメだ! 橘がまだ下にいるんだ!」
「何だと?」
さっきの奴の攻撃を受けてこの下に落ちて行ったんだ! 何とかして助け出さないと!
「無理だ! この状況で下に行くなんて自殺行為だ! せめてコレが治まってからにしろ!」
「く……」
確かに、藤原の言うことは最もである。今俺がいる場所はそれほどでもないが、それでもたまに水しぶきがこみ上げてきている。下
に行けば行くほど激しさを増すだろうし、そんな状態で人探しなど出来るわけも無い。
だが……このままでは、あいつは……橘は……
「――危ないっ!」
バシャン!!
俺の目の前を、再び水柱が横切った。
「ほら見ろっ! この状態じゃ探しにいけるわけなかろう!」
――ここは撤退しか方法はないのか……
「それにこれだけ激しい状態なら、あいつはもう……」
「ふざけるなっ!!」
飛び交う轟音に負けないくらいの声で一喝した。
そんなことがあってたまるか。あいつは生きている。生きているに違いない。
悪運だけは異常に強い橘京子が、目的を達成することなくのたれ死ぬなんて……絶対にありえない。
絶対……絶対生きているはずだ。
余りのことにその場で呆けていると、突如上の方から男性の声が聞こえてきた。
「藤原? 藤原なのか!?」
「ここは危険だ! 一旦外に出るぞ!」
一体何が起きているんだ!? 何故温泉がこんなに噴出しているんだ!?
「わからん! だがこの振動は異常だ。海底火山の前触れかも知れんぞ!」
何だって!?
「それに湧き出る温泉が異常だ! この水圧では直撃すればひとたまりも無い!」
分かった、逃げよう……と言おうとして、思い出した。
「ダメだ! 橘がまだ下にいるんだ!」
「何だと?」
さっきの奴の攻撃を受けてこの下に落ちて行ったんだ! 何とかして助け出さないと!
「無理だ! この状況で下に行くなんて自殺行為だ! せめてコレが治まってからにしろ!」
「く……」
確かに、藤原の言うことは最もである。今俺がいる場所はそれほどでもないが、それでもたまに水しぶきがこみ上げてきている。下
に行けば行くほど激しさを増すだろうし、そんな状態で人探しなど出来るわけも無い。
だが……このままでは、あいつは……橘は……
「――危ないっ!」
バシャン!!
俺の目の前を、再び水柱が横切った。
「ほら見ろっ! この状態じゃ探しにいけるわけなかろう!」
――ここは撤退しか方法はないのか……
「それにこれだけ激しい状態なら、あいつはもう……」
「ふざけるなっ!!」
飛び交う轟音に負けないくらいの声で一喝した。
そんなことがあってたまるか。あいつは生きている。生きているに違いない。
悪運だけは異常に強い橘京子が、目的を達成することなくのたれ死ぬなんて……絶対にありえない。
絶対……絶対生きているはずだ。
――その時。
『――!!??』
今までとは比べものにならない位の揺れを感じた。立っていられないくらいの強い揺れだ。
あちこちから聞こえる水しぶきもその激しさを増し、心なしか徐々に上方に近づいてくる。
このままでは水柱に当たって息絶えるか、増水した温泉に飲み込まれるのが早いか……どちらにしろ、良い結末は待っていない。
ここから逃げようにも、揺れが激しくて一歩も前に進めない。
つまりこのまま死を迎えるしかないってことか……
『――!!??』
今までとは比べものにならない位の揺れを感じた。立っていられないくらいの強い揺れだ。
あちこちから聞こえる水しぶきもその激しさを増し、心なしか徐々に上方に近づいてくる。
このままでは水柱に当たって息絶えるか、増水した温泉に飲み込まれるのが早いか……どちらにしろ、良い結末は待っていない。
ここから逃げようにも、揺れが激しくて一歩も前に進めない。
つまりこのまま死を迎えるしかないってことか……
……ちくしょう、俺がバカだった。
藤原の言うことを素直に聞いて、少しでも上に逃げていれば助かったかもしれないのに……
藤原の言うことを素直に聞いて、少しでも上に逃げていれば助かったかもしれないのに……
「ちっくしょぉぉぉ!!!」
――俺の後悔の叫びは、次の瞬間襲い掛かってきた水柱の轟音に掻き消された――
………
……
…
……
…
――ん、ここはどこだ――
――やけに明るいな。天国か?――
――地獄がこんなに明るい訳ないよな――
――だとしたら、やっぱり天国か――
――どちらにせよ、俺は死んだのか――
――いや、俺が死んだことはどうでもいい――
――それよりも、アイツらに謝らないと――
――すまない、俺が不甲斐ないばかりに――
――藤原……お前もこっちにいるのか? だとしたら俺のせいだな――
――九曜……お前は超人的だから死ぬことは無いだろう。後は頼んだ――
――そして橘……せっかくお前に貰った命なのにフイにしてすまなかった――
――良く考えたら、結構助けられたのに――
――最初に遭ったゴブリンの時も、触手と戦った時も――
――それなのに、感謝の言葉もなかった――
――バチが、当たったんだな――
――すまん。橘――
――次に遭ったら、お前に――
『何言ってるんですか! まだ終わってないですよ!』
……え?
『こんなことでくたばってたまるもんですか! 海賊の親玉を懲らしめるまであたしは死にませんよ!』
何……だって……?
『さあ、早く目を開けるのです! 目を開けてからが本番なのですから――』
『早く!!』
瞬間、俺の脳が一気に覚醒した。
辺りを見渡せば、そこは建設中のリゾート施設。先ほど侵入していた三角屋根の洞窟は少し離れたところに存在していた。
先ほどまでの揺れが嘘みたいに納まっている。まるで夢であったかのように。
どうやら俺は、三途の川を渡り損ねたようだな……あいつのおかげで……
「おい、大丈夫か!?」
藤原……か。お前こそ大丈夫なのか?
「ああ。あいつが……あの宇宙人が間一髪のところで俺達をテレポートしてくれた」
そうだったのか。
「すまない、九曜」
先ほどまでの揺れが嘘みたいに納まっている。まるで夢であったかのように。
どうやら俺は、三途の川を渡り損ねたようだな……あいつのおかげで……
「おい、大丈夫か!?」
藤原……か。お前こそ大丈夫なのか?
「ああ。あいつが……あの宇宙人が間一髪のところで俺達をテレポートしてくれた」
そうだったのか。
「すまない、九曜」
「――――――」
彼女は何も答えなかった。元々沈黙が信条の宇宙人だからそれに関しては疑う予知は無いのだが、しかし様子がおかしかった。
下に顔を背け、小さく肩で息をしている。何が起ころうとも無表情のこいつにとって、それはとてつもなく奇異な行動に見えて仕方
ない。
「どうした九曜? 何があった!?」
すると彼女はいつも以上にスローなペースで、
「――――力を…………酷使――――し過ぎた…………――――身動きが………………取れない――――」
「……あっ」
小さく声を漏らした。そう言えば、ここは魔法の障壁とやらで力が弱まっているんだった。ここに侵入する際も、一人を浮遊させる
のがやっとだったはずだ。なのに俺達二人を無理矢理ワープさせたものだから、激しく魔力を消耗したのだろう。
……すまん、九曜。お前にも迷惑をかけたか。
「大丈夫…………――――休めば――――――回復する…………」
ならいいが……しかし、正直これはまずい展開だ。
九曜と言うスーパーパーフェクト戦士が動けないと言うのもそうだが、実は俺の体力も予想以上に消耗している。
怪我こそ無かったが、先ほどの戦闘の爪痕は決して小さいものではない。自分ひとりならともかく、倒れかけている仲間を庇ってま
で敵の攻撃を凌げるとは言い難い。
見た目五体満足なのは藤原だけだが、お荷物二人を抱えて行動するのはかなりの危険を伴う。
一旦どこかに隠れて、体力と魔力の回復を待つのが得策か……
「九曜、動けるか? ひとまずあそこの木陰まで移動するぞ」
彼女は何も答えなかった。元々沈黙が信条の宇宙人だからそれに関しては疑う予知は無いのだが、しかし様子がおかしかった。
下に顔を背け、小さく肩で息をしている。何が起ころうとも無表情のこいつにとって、それはとてつもなく奇異な行動に見えて仕方
ない。
「どうした九曜? 何があった!?」
すると彼女はいつも以上にスローなペースで、
「――――力を…………酷使――――し過ぎた…………――――身動きが………………取れない――――」
「……あっ」
小さく声を漏らした。そう言えば、ここは魔法の障壁とやらで力が弱まっているんだった。ここに侵入する際も、一人を浮遊させる
のがやっとだったはずだ。なのに俺達二人を無理矢理ワープさせたものだから、激しく魔力を消耗したのだろう。
……すまん、九曜。お前にも迷惑をかけたか。
「大丈夫…………――――休めば――――――回復する…………」
ならいいが……しかし、正直これはまずい展開だ。
九曜と言うスーパーパーフェクト戦士が動けないと言うのもそうだが、実は俺の体力も予想以上に消耗している。
怪我こそ無かったが、先ほどの戦闘の爪痕は決して小さいものではない。自分ひとりならともかく、倒れかけている仲間を庇ってま
で敵の攻撃を凌げるとは言い難い。
見た目五体満足なのは藤原だけだが、お荷物二人を抱えて行動するのはかなりの危険を伴う。
一旦どこかに隠れて、体力と魔力の回復を待つのが得策か……
「九曜、動けるか? ひとまずあそこの木陰まで移動するぞ」
「そう言えばあの洞窟で最初に襲ってきた奴ら、一体どこに行ったんだ?」
何とか歩き出した俺達一行は、特に敵に見つかる事も無く森の影へと侵入し、ほっと一息ついたところでふと疑問に思ったことを口
にした。
「アイツらなら僕とこの宇宙人で倒してやった。感謝するんだな」
皮肉にも自慢にも聞こえそうな口調で、侍風の戦士は語り始めた。
曰く、当初の手筈通り海賊の根城に侵入し、睡眠薬を仕込むのに成功した後その場を立ち去ろうとしたのだが、突如建物内が忙しく
騒ぎ出した。
隠れて様子を伺ったところ、侵入者が三角屋根の洞窟に現れたと言うではないか。心当たりのあった二人は自分達以外の侵入者――
つまり俺と橘だ――を助けるべく、海賊どもの跡をつけてあの三角屋根の洞窟に侵入したのだという。
「殆どの奴等は雑魚だったから、倒すのにはそんなに苦労はしなかった。ただあの魔力銃の使い手だけは少しやっかいだったものでな
距離を取って様子を伺っていたのだが……あんたが挑発をしてくれたおかげで奴に気取られること無く堂々と倒せた」
果たして、今のは誉め言葉なのだろうか? それともけなされているのだろうか?
「全ての海賊を倒し、あんた達の助けに入ろうとして……後は知ってのとおりだ。あんな風に温泉が湧き出るとは……こちらも予想外
だった」
一体なんであんなことになったんだ?
「全く以って分からん。湧水量が突然増えたとも考えられるが、それより外因的要素の方が大きそうだ」
外因的要素? まさか海賊どもが俺達を始末しようとして……?
「いや、それは無いだろう。もしそうだとしたら、僕達やあんたに狙いをつけるはずだ。しかし実際は洞窟のあちこちに飛んでいたし
そんなことをして洞窟を崩してしまってはせっかくの温泉が台無しになってしまう」
なら一体誰が……
「九曜、お前はわからないか?」
「――――――………………」
幾分落ち着きを取り戻したのか、既に平静を取り戻して静かに俺の瞳を見つめ、
「―――――彼女………………の――――――――身に…………宿った――――力――………………――――」
「……は?」
一体どういう意味だ――?
しかし、その言葉を口にすることは無かった。
何故なら――
何とか歩き出した俺達一行は、特に敵に見つかる事も無く森の影へと侵入し、ほっと一息ついたところでふと疑問に思ったことを口
にした。
「アイツらなら僕とこの宇宙人で倒してやった。感謝するんだな」
皮肉にも自慢にも聞こえそうな口調で、侍風の戦士は語り始めた。
曰く、当初の手筈通り海賊の根城に侵入し、睡眠薬を仕込むのに成功した後その場を立ち去ろうとしたのだが、突如建物内が忙しく
騒ぎ出した。
隠れて様子を伺ったところ、侵入者が三角屋根の洞窟に現れたと言うではないか。心当たりのあった二人は自分達以外の侵入者――
つまり俺と橘だ――を助けるべく、海賊どもの跡をつけてあの三角屋根の洞窟に侵入したのだという。
「殆どの奴等は雑魚だったから、倒すのにはそんなに苦労はしなかった。ただあの魔力銃の使い手だけは少しやっかいだったものでな
距離を取って様子を伺っていたのだが……あんたが挑発をしてくれたおかげで奴に気取られること無く堂々と倒せた」
果たして、今のは誉め言葉なのだろうか? それともけなされているのだろうか?
「全ての海賊を倒し、あんた達の助けに入ろうとして……後は知ってのとおりだ。あんな風に温泉が湧き出るとは……こちらも予想外
だった」
一体なんであんなことになったんだ?
「全く以って分からん。湧水量が突然増えたとも考えられるが、それより外因的要素の方が大きそうだ」
外因的要素? まさか海賊どもが俺達を始末しようとして……?
「いや、それは無いだろう。もしそうだとしたら、僕達やあんたに狙いをつけるはずだ。しかし実際は洞窟のあちこちに飛んでいたし
そんなことをして洞窟を崩してしまってはせっかくの温泉が台無しになってしまう」
なら一体誰が……
「九曜、お前はわからないか?」
「――――――………………」
幾分落ち着きを取り戻したのか、既に平静を取り戻して静かに俺の瞳を見つめ、
「―――――彼女………………の――――――――身に…………宿った――――力――………………――――」
「……は?」
一体どういう意味だ――?
しかし、その言葉を口にすることは無かった。
何故なら――
「やってくれたな、貴様達」
――言い様のない程の殺気が辺りを覆いつくしたからだ。
――言い様のない程の殺気が辺りを覆いつくしたからだ。