【賢君マティアス】

 丘を砂塵が吹き上げる
 目をそむけ、まぶたを瞑る

 氷の宮(きゅう)は広がりすぎた
 我らが軍神、我らの英雄の手には余ってしまった

”彼は戦でこそ神だったが、政の場には凡庸な男だった……”

 宮ではそんな噂も聞き漏れるという
 そのような臣下が野放しにされているという
 市井にまでその噂が伝わる日も遠くはない

 ”刃を向けよ”

 私は逆賊ではないのだ
 英雄の汚名を雪ぐ為
 この名と体に泥を塗るのだ

 後の人間は私を非難するだろう
 とんだ逆臣が、逆賊がと
 けれど私は逆賊ではないのだ

 幾らでも風を受けよう
 私が愛し、皆が愛した英雄は
 永遠に残される

 丘を砂塵が吹き上げる
 私は咆哮する、遥か宮殿を目指し
 砂を噛み潰し、雄たけびをあげる

 ”我らが英雄を、討て!”

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最終更新:2010年10月26日 10:31