妹の見る夢


それは夢の中でした。
わたくしは白い小さな教会の前に立っておりました。
黒い落ち着いたワンピースを来て、手には白いひなげしの花が可愛く鎮座しております。
誰かの結婚式にでも来たのだったか、しかしとんと思い出せず、わたくしは首をかしげました。
教会の門をギィと開けますと、その広い中はがらんとしていて、その中心にはわたくしの姉が楽しげにペンを持ち、なにやら紙に記入しているところでございました。
まあ不思議な光景でございますが、なにぶん夢でございましたから、そんなものなのでございましょう。
姉は書けたと笑い、わたくしにその紙をみせびらかしました。

婚印届でございました。
その相手の名前には、わたくしの想い人の名が記してありまして、わたくしは驚愕しました。
姉にも、その方にもお伝えしなかったその名が、こうしていとも簡単に晒されているのでございます。
わたくしは頭に血が上る思いがいたしました。
恥ずかしさであったり、憤りであったりがないまぜになり、言葉を発することもできませぬ。
最後には悔しくて悲しい想いが募りました。
姉が楽しげに笑っていることがたまらなく悔しく、わたくしは姉につめより、もみくちゃになり、気付いた時には姉を絞め殺しておりました。
わたくしは喜び勇みました、これで障害は何もなくなったのです。
わたくしは急ぎ婚姻届の名前の欄をわたくしのそれに書き換え、姉の身につけておりました衣装にきかえようとしました。
真っ白い美しい花嫁衣装。
わたくしの黒い姿はさながら死神で、姉の白い姿は天に上る殉教者のようでした。
わたくしはやっと、高じた、狂人の心が収まることを感じたのです。
人間に戻ってゆくわたくしの心は、胃を伝い食道を伝い、喉仏を伝って、口から高く絶叫しました。

夢はそこで終わったのでございます。
わたくしは急ぎ、姉の姿を探しました。
姉は目をちょっと右にうごかしただけですぐに見つかりました。
わたくしの挙動はそれはふしぎだったらしく、姉はきょとんとわたくしを眺めておりました。
わたくしは無事な姿の姉に取りすがり泣きました。
ぼろぼろと涙をこぼすわたくしに、姉はあきれかえて笑っていましたが、わたくしはいまだ、あの時なぜ涙をこぼしたのか 姉には話せないのです。

そよ風の吹く春の季節のことです、緑の森の中のことです。
昔々、遠い昔のことです。


お題:残念な結果 夢オチ 消しゴム

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最終更新:2010年10月25日 20:48