作者:Elika


人里を離れ、朽ちた森の、その奥深く。
ひっそりと建つ古い館の一室。
埃をかぶった本棚に、その一冊はおさまっている。
持ち主は当の昔にこの世を去り、今ではその名を知るものはいない。

「ヤドリギの書」──世界の、ありとあらゆる魔術とその英知を記した魔術書である。

著者のインストウッド・ベルラーには、予測できなかった。
書物が、意思を持つなどとは。

魔術には、とりわけ強大な魔物の力を借りる呪文には、その言葉自体に力があるのだ。
いくつもの魔法陣や召喚呪文を書き連ねられ、ベルラー本人の、執念にも似た意志の力を縦糸に織り上げられた魔術書の芸術、「ヤドリギの書」は──ある日、ベルラーを食い殺した。

その一冊は、今もなお身を潜め、獲物を待っている。
強い意志の力を持ち、魔術と共鳴することのできる魂を持った獲物を。

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最終更新:2010年10月22日 06:32