作者:Elika


私が私でいられたのは、あなたたち家族のおかげです。
私が私の幸せを感じられたのは、すべてあなたたち家族のおかげなのです。

朝、玄関で「いってらっしゃい」と見送るお母さん。
私も、あなたと同じ気持ちでした。
いってらっしゃい、気をつけて。
今日も一日元気に、楽しく過ごしてきてください。
そして、どうか無事に帰ってきてください。

見送られ、「いってきます」と出かけるお父さんと子供たち。
私は、あなたたちを大切に思っていました。
いってらっしゃい、気をつけて。
今日も一日元気に、楽しく過ごしてきてください。
そして、どうかどうか無事に帰ってきてください。

私を建て、私を選んでくれたお父さん、ありがとう。
あなたがいなければ、私はあなたたち家族に出会えなかったのです。

私をきれいに保ち、過ごしやすく整えてくれたお母さん、ありがとう。
あなたが私を、家族みんなの「帰る場所」にしてくれたのです。

私を「大好き!」と言ってくれた子供たち、ありがとう。
あなたたちがいたから、私は活気と温もりのある素晴らしい家になれたのです。

26年もの間、私と共に過ごしてくれて、本当に、本当にありがとう。
まだおなかの中にいた下の子も、今では立派な社会人ですね。
上のお兄ちゃんも、先月結婚しましたね。
子供二人が独立したあと、少し寂しそうな顔をしていたお母さん。
定年までもうひとふん張り、と一生懸命働くお父さん。
あなたたちは、私の大切な家族です。

今日、私は取り壊されます。

あなたたちとの思い出は、決して忘れません。
形を変えても、私はあなたたち家族のことをずっとずっと忘れません。
古くなってしまった私を、味のあるいい家だと言ってくれた優しさを忘れません。
薄汚れてしまった私を、あなたにはずいぶんお世話になったわねと、きれいに掃除してくれた優しさを忘れません。
取り壊すことになってしまった私を、最後にもう一度見たいと遠くから帰ってきてくれた子供たちの優しさを忘れません。

ありがとう。
あなたたち家族はとてもあたたかでした。
あなたたちに出会えて本当によかった。
あなたたち家族がいたから、私は「HOUSE」ではなく「HOME」になれたのです。

あなたたち家族の「帰る場所」に、なれてよかった。
ありがとう。
──さようなら。

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最終更新:2010年10月21日 14:26