2014年に韓国で出版された『京城の日本語探偵作品集』

2014年9月29日

Index

 2014年7月、韓国で非常に興味深い本が出版された。1920~30年代に朝鮮半島の日本語雑誌に掲載された日本語探偵小説を集めた 『京城の日本語探偵作品集』 である。京城(けいじょう)というのは今のソウル。解説等は韓国語だが、当時の誌面をそのままスキャンして収録した本なので本文は日本語である。
 収録作の中には、韓国人が書いた最初の日本語探偵小説とされる金三圭(キム・サムギュ)「杭に立ったメス」(1929-30)もあるが、ほとんどは当時の在朝日本人の作品である。京城探偵趣味の会のリレー探偵小説「女スパイの死」(1931)、「三つの玉の秘密」(1934)なども収録されている。

 収録作は雑誌『朝鮮公論』から採られたものが多い。創作だけでなく翻訳物も何編かある。たとえば、シャーロック・ホームズ物の短編「まだらの紐」を倉持高雄という人が訳した「謎の死」(初出:『朝鮮公論』1925年9~12月号)など。
 『京城の日本語探偵作品集』に収録されている作家はほとんどが日本では無名だが、1つ、有名な探偵作家の作品が収録されている。森下雨村の佐川春風名義の短編「宝石を覘(ねら)う男」。初出は『朝鮮地方行政』1928年3月号だそうだが、日本の森下雨村ファンの間では知られているんだろうか。

 ちなみに同じ趣旨の本の台湾版は12年前に日本で出ている。1910~40年代に台湾で日本語で発表された短編探偵小説・探偵実話を集めた 『台湾探偵小説集』 (緑蔭書房、2002年11月)である。台湾の日本語探偵小説については、下記のTogetterでお薦め作品などをまとめましたのでどうぞご覧ください。


書誌データ

日本資料叢書 第10巻
植民地日本語文学・文化シリーズ 第20巻
『경성의 일본어 탐정 작품집』(京城の日本語探偵作品集)
初版印刷:2014年3月20日
初版発行:2014年3月31日 ※実際は印刷が遅れ、本が完成したのは2014年7月だと関係者から聞いている
イ・ヒョンジン(李賢珍)、金津日出美 共編
出版社:学古房(ハッコバン)
ISBN 978-89-6071-370-3
出版社サイト内の書籍紹介ページ

 「日本資料叢書」の第10巻であり、「植民地日本語文学・文化シリーズ」の第20巻であると同時に、裏表紙見返しによれば「植民地期日本語大衆文学シリーズ」の第8巻でもある。

 日本国内では、韓国の書籍を専門に扱う東京の高麗書林で購入可能です。(高麗書林『京城の日本語探偵作品集』

『京城の日本語探偵作品集』収録作および初出の一覧

 この本は作品自体は日本語で読めるが、初出データなどは韓国語でしか示されていない。そのため、ここで初出データを示しておく。

# ページ 作者 角書き タイトル 初出
1 3-34 金三圭 探偵小説 「杭に立ったメス」 『朝鮮地方行政』1929年11月号~1930年1月号(全3回)
2 37-75 京城探偵趣味の会同人
山崎黎門人、阜久生、吉井信夫、大世渡貢
連作探偵小説 「女スパイの死」 『朝鮮公論』1931年1~5月号(全5回)
3 79-110 京城探偵趣味の会
山岡操、太田恒彌、山崎黎門人
連作連載探偵小説 「三つの玉の秘密」 『朝鮮公論』1934年2~4月号(全3回)
4 113-169 コナン・ドイル作、芳野青泉訳 「名馬の行方」 近代世界快著叢書 第四編『名馬の行方』(1918)より
5 173-203 コナン・ドイル作、倉持高雄訳 探偵小説 「謎の死」 『朝鮮公論』1925年9~12月号(全4回)
6 207-241 秋良春夫 探偵小説 「捕物秘話」 『朝鮮公論』1934年2~3月号(全2回)
7 245-257 青山倭文二 「水兵服の贋札少女」 『朝鮮公論』1936年9月号
8 261-269 青山倭文 探偵小説 「犯罪実験者」 『朝鮮公論』1937年4月号
9 273-301 総督府 野田生 小説 「青衣の賊」 『警務彙報』1920年10月号~1921年5月号(全8回)
10 305-332 京城帝国大学予科 末田晃 探偵小説 「猟死病患者」 『警務彙報』1929年7月号、11月号、1930年4月号(3回掲載/未完結)
11 335-343 森二郎 実話 「共産党事件とある女優」 『朝鮮公論』1930年8月号
12 347-350 Y・黎門人 探偵実話 「彼をやっつける」 『朝鮮公論』1933年11月号
13 353-356 白扇生 探偵奇談 「闇に浮いた美人の姿」 『朝鮮公論』1934年9月号
14 359-362 倉白扇 探偵奇談 「暗夜に狂う日本刀 脳天唐竹割りの血吹雪」 『朝鮮公論』1934年10月号
15 365-371 ヒアルトフ・アルクナア作、伊東鋭太郎訳 翻訳探偵小説 「夜行列車奇談」 『朝鮮公論』1936年9月号
16 375-378 佐川春風(=森下雨村) 短篇探偵小説 「宝石を覘う男(ほうせきをねらうおとこ)」 『朝鮮地方行政』1928年3月号
17 381-382 木内為棲 探偵小説 「深山の暮色」 『朝鮮地方行政』1928年4月号
18 385-387 探偵趣味の会同人 山崎黎門人 探偵コント 「意地わる刑事」 『朝鮮公論』1928年6月号
19 391-393 京城探偵趣味の会 山崎黎門人 掌篇 「蓮池事件」 『朝鮮公論』1928年10月号
20 397-402 京城探偵趣味の会同人 吉井信夫 「癲狂囚第十一号の告白」 『朝鮮公論』1931年1月号
21 405-408 京城探偵趣味の会同人 古世渡貢 「空気の差」 『朝鮮公論』1931年1月号
22 411-415 江戸川乱歩 「探偵趣味」 『朝鮮及満洲』1927年1月号
  • 作者名につけた肩書、タイトルの角書きはどれも初出で付されているもの。
  • 2「女スパイの死」の執筆者 … 第1回 山崎黎門人、第2回 阜久生、第3回 吉井信夫、第4回 大世渡貢、第5回 大世渡貢
  • 3「三つの玉の秘密」の執筆者 … 第1回 山岡操、第2回 太田恒彌、第3回 山崎黎門人
  • 8の著者名「青山倭文」は「青山倭文二」の脱字だと思われる。青山倭文二は『変態遊里史』(文芸資料研究会、1927年)という著書があるほか、『ぷろふいる』1935年9月号に「幸運」が載っている。戦後は茜書房『猟奇』3号(1947年1月)に「ランドリュー事件」など。
  • 11は末尾に「以下次号」とあるが、これはこの作家の実話物の連載が続くということであって、「共産党事件とある女優」はこの号で完結している。
  • 14の著者名は「倉白扇」となっているが、解説によればほかに「藤倉白扇」という筆名も使用したそうで、ここで「倉白扇」となっているのは脱字によるものかもしれない。
  • 15の原著者の原綴りは解説では「Hiartoff Arkner」と推定されている。脱字などが多いことを考えると、「ヒアルトフ・アルクナア」ではなくて「リヒャルト・ファルクナア」だったりという可能性もあるかもしれない。訳者の伊東鋭太郎はシムノンをドイツ語から重訳したり、ドイツのミステリを『探偵倶楽部』などの雑誌で多数訳したことで有名。
  • p.387に「探偵趣味の会宣言」がある。

 以上の収録作のうち、1~5および22を韓国語に翻訳して収録したアンソロジーが2012年3月に韓国で出版されている。日本ミステリ叢書第2巻『탐정 취미』(探偵趣味)(韓国のネット書店)である。ユ・ジェジン准教授ほかの編訳。ちなみに日本ミステリ叢書第1巻は伊藤秀雄『近代の探偵小説』の韓国語訳『일본의 탐정소설』(日本の探偵小説)(韓国のネット書店)である。2011年2月発売。そして日本ミステリ叢書第3巻が、先ほどのTogetterでも紹介している『日本推理小説事典』である。

京城探偵趣味の会について

 1928年ごろ、京城(けいじょう、現ソウル)で「京城探偵趣味の会」が結成されている。メンバーの一覧などは残されていないが、在朝日本人が結成した会だと見ていいだろう。日本では江戸川乱歩らが1925年に「探偵趣味の会」を結成しているので、それに倣ったものだと思われる。『朝鮮公論』1928年6月号に松本輝華による「探偵趣味の会宣言」が掲載されている。

探偵趣味の会宣言(1928)

探偵趣味の会宣言(『朝鮮公論』1928年6月号/『京城の日本語探偵作品集』ではp.387)
京城探偵趣味の会は発会式などはヌキにして(そんなしち面倒くさいことはいやだからである)事実上既に京城のどこかに存在している。そして同人丈けはいろいろな顔ぶれが揃っていることも事実である。先ず新聞記者も居れば画家も居る。刑事さんも居れば警部も居るのである。未だ此の会は影のような幽霊のような(妖怪味すらそなえた)存在である。だが吾等の探偵趣味の会はそんなとこに面白味があるのかも知れない。由来探偵趣味畑には妖怪味は附きものだからである。さて此の影の存在がハッキリと姿を顕わして来るようになれば幸いである。そして朝鮮からも朝鮮の小酒井不木や江戸川乱歩が出ればいよいよ世の中は面白くなる。次ぎに紹介する一篇は第一回の推せん作である。先ずこんなところからボツボツ出発して来て軈ては本格モノにまで進めば吾等の喜びは大きくなる。(松本輝華)

 引用中で「第一回の推せん作」とされているのは、同号に掲載されている山崎黎門人の「探偵コント 意地わる刑事」のことである。宣言文執筆者の松本輝華は『朝鮮公論』で文芸時評や映画評などを書いていた人物だが、この人物自身が書いた探偵小説は『朝鮮公論』には載っていない。

山崎黎門人

 京城探偵趣味の会の「第一回の推せん作」として『朝鮮公論』に掲載されたのは 山崎黎門人 の「探偵コント 意地わる刑事」(1928年6月号)だった。その後も山崎黎門人は『朝鮮公論』にしばしば作品を寄稿しているが、掌編や探偵実話が多く、本格的な創作短編は確認できない。

 以下は2012年末に国会図書館で調査した山崎黎門人の作品一覧。
1 探偵趣味の会同人 山崎黎門人 探偵コント「意地わる刑事」 『朝鮮公論』1928年6月号(183号、16巻6号) 97-99
2 京城探偵趣味の会 山崎黎門人 掌篇「蓮池事件」 『朝鮮公論』1928年10月号(187号、16巻10号) 94-96
3 京城探偵趣味の会同人 山崎黎門人 連作探偵小説 「女スパイの死」第1回 『朝鮮公論』1931年1月号(214号、19巻1号) 105-112
4 京城探偵趣味の会 Y・黎門人 「棄子と彼氏」 『朝鮮公論』1931年6月号(219号、19巻6号) 57-58
5 Y・黎門人 「巷説・生首事件」 『朝鮮公論』1933年6月号(243号、21巻6号) 140-146
6 Y・黎門人 巷説「続生首事件 ―行商婦殺し等々―」 『朝鮮公論』1933年7月号(244号、21巻7号) 126-137
7 Y・黎門人 探偵実話「彼をやっつける ―奥様方読む不可―」 『朝鮮公論』1933年11月号(248号、21巻11号) 80-83
8 京城探偵趣味の会 山崎黎門人 連作連載探偵小説 「三つの玉の秘密」第3回 『朝鮮公論』1934年4月号(253号、22巻4号) 131-144

 『朝鮮公論』1931年1月号では京城探偵趣味の会によるリレー探偵小説「女スパイの死」が始まったほか、同会の 吉井信夫 の「癲狂囚第十一号の告白」、古世渡貢( 大世渡貢 と同一人物?)の「空気の差」も載っており、さながら京城探偵趣味の会の特集号のようになっている。
 京城探偵趣味の会によるリレー探偵小説は「女スパイの死」(1931)と「三つの玉の秘密」(1934)の2つが確認されているが、その両方に参加しているのは山崎黎門人だけである。山崎黎門人は会の中心人物だったと推定していいかもしれない。

 ひょっとしたら「朝鮮の小酒井不木や江戸川乱歩」になっていたかもしれないこの山崎黎門人とは何者なのだろう。調べてみると『朝鮮行政』という別の雑誌の1938年11月号(2巻11号)に同名で「放送夜話 ――日頃の夢想など――」という随筆を寄稿しており、その肩書は 朝鮮放送協会放送部 となっている。また、京城雑筆社『京城雑筆』1941年2月号には「農村民への宣伝」(現物未見)という記事を寄稿しており、ここでの肩書は「国民総力聯盟宣伝部」となっている。
 また、リレー小説「三つの玉の秘密」(1934)で山崎黎門人は第3回(最終回)を担当しているが、第2回の末尾に、「第三回は同人山崎金三郎君の分担である」と記されている。この 山崎金三郎 というのが恐らく本名だろう。『朝鮮』という雑誌の1940年6月号には、朝鮮放送協会中央放送局の山崎金三郎という人物が「「放送」覚え書」というのを寄稿している。これも、山崎黎門人の本名が山崎金三郎だという説を補強する。当時の所属と本名が分かったので、この人物に関しては本気で探ろうとすればその生涯を明らかにすることも可能かもしれない。
 また、「こちらの資料」に出てくる山崎金三郎が同一人物だとすると、山崎黎門人(金三郎)は鉄道学校を卒業し、旋盤工を経て1930年には『朝鮮新聞』(?)の記者になっていたことになる。1928年の「探偵趣味の会宣言」には、同人には「新聞記者も居れば画家も居る」云々と書かれていたが、この新聞記者というのは山崎黎門人のことを指していたのかもしれない。

京城探偵趣味の会のその他の同人

 京城探偵趣味の会の同人で 山崎黎門人 以外に名前が分かる人物には、 阜久生吉井信夫大世渡貢 (以上、リレー小説「女スパイの死」執筆者)、 山岡操太田恒彌 (以上、リレー小説「三つの玉の秘密」執筆者)、 平春日 がいる。

阜久生

 不詳。リレー探偵小説 「女スパイの死」 (『朝鮮公論』1931年1~5月号、全5回)の第2回を担当したのみ。

吉井信夫

 リレー探偵小説 「女スパイの死」 (『朝鮮公論』1931年1~5月号、全5回)の第3回を担当。ほかに創作は 「癲狂囚第十一号の告白」 (『朝鮮公論』1931年1月号)。『朝鮮公論』ではほかにも「日本性的見世物志」(1931年3~5月号)などのよみものを何度か寄稿している。
 ネット上で検索してみると、愛媛県出身の詩人、山辺珉太郎(1905-1947)の年表(1954年刊の『山辺珉太郎詩集』に基づくものとのこと)に「吉井信夫」という名前が出てくる。山辺珉太郎は1920年代半ばから1945年まで京城で暮らした。こちらの年表「山辺珉太郎関連年表 ver.2」には「1927(昭和2)4月20日、京城市内・吉井信夫宅で『詩祭』同人の集まり。参加者、吉井信夫、山辺珉太郎、古屋武、水島良策、藤岡靖子。岡田弘、珉太郎と初めて会う。」とある。後述するが、この年表には京城探偵趣味の会の大世渡貢の名前も出てくる。「吉井信夫」という名前は珍しいものではないが、京城探偵趣味の会同人の吉井信夫と『詩祭』同人の吉井信夫は同一人物だとみてよいだろう。

大世渡貢

 『京城の日本語探偵作品集』では名前の読み方が「ダイセ・ワタク」となっているが、「おおせと みつぐ」または「おおせど みつぐ」と読むのが妥当だろう。
 リレー探偵小説 「女スパイの死」 (『朝鮮公論』1931年1~5月号、全5回)の第4回と第5回(最終回)を担当。『朝鮮公論』ではほかに「大世渡貢」の名前は見当たらないが、『朝鮮公論』1931年1月号には京城探偵趣味の会同人「古世渡貢」の掌編 「空気の差」 が掲載されている。大世渡貢と古世渡貢は恐らくは同一人物だろう。
 先ほども言及したが、愛媛県出身の詩人、山辺珉太郎の年表「山辺珉太郎関連年表 ver.2」には「大世渡貢」という名が出てくる。比較的珍しい名前なので、同一人物だと考えるのが妥当だろう。同年表によれば、大世渡貢は竜山機関区に勤める鉄道関係者だったようだ。「1927(昭和2)6月5日、山辺珉太郎、合田佳辰(朝鮮鉄道永登浦駅で切符を売っていた)、岡田弘(竜山駅の貨物係)、大世渡貢(竜山機関区)、加藤八十一(京城中学の教員・東牧人)の五人で同人雑誌『機関車』第一号を発刊。アナキズムの傾向。」。また、1953年の時点で広島在住だったとのことである。なおほかの資料では、朝鮮総督府鉄道局運転課所属とされている。
 こちらのページ「東京アナキズム文献探索記 (掲示板2003年後半)」にも大世渡貢の名が出てくる。情報源として参照されているのは同じく1954年刊の『山辺珉太郎詩集』である。なお、この本は国会図書館には所蔵されていない。
 本名は「大世渡貢」だと思われるが、「古世渡貢」というのが単なる誤植だったのか意図的なペンネームだったのかは分からない。

山岡操

 リレー探偵小説 「三つの玉の秘密」 (『朝鮮公論』1934年2~4月号、全3回)の第1回を担当。また、その前月号には 「血だらけの拳闘」 が載っている。最初のリレー小説「女スパイの死」に参加していた阜久生の名前が「おか・ひさお」と読むものだとすると、この「やまおか・みさお」と似ていなくもないが、なんとも言えない。

太田恒彌(太田恒弥)

 『朝鮮公論』では、リレー探偵小説 「三つの玉の秘密」 (『朝鮮公論』1934年2~4月号、全3回)の第2回を担当したのみ。
 国会図書館には、太田恒弥『赤道従軍 ボルネオからフィリピンへ』(富士書店、東京、1943年)という蔵書があるが、同一人物であるかは不明。またほかに、ルポルタージュ『戦ふ輸送船』(東京出版、1944年12月)という本もあるようだが、これも同一人物かは不明。

平春日

 『朝鮮公論』1931年11月号(224号、19巻11号)pp.65-69に探偵コント 「シャイロック、ホルムズの小切手」 が載っている。著者名のところには「京城探偵趣味の会 平春日訳」とある。また、作品末尾に(Kウエスト作)とあるが、不詳。

『京城の日本語探偵作品集』に収録されたコナン・ドイルの2作品

  • コナン・ドイル作、芳野青泉訳「名馬の行方」(近代世界快著叢書 第四編『名馬の行方』より) … 「銀星号事件」の 翻案 (ホームズは堀見、ワトソンは友野)
  • コナン・ドイル作、倉持高雄訳「謎の死」(『朝鮮公論』1925年9~12月号、全4回) … 「まだらの紐」の 翻訳 (ホームズ、ワトソンの名はそのまま)

 『京城の日本語探偵作品集』には収録されていないが、 倉持高雄 は『朝鮮公論』でほかに「銀星号事件」の翻訳もしている。タイトルは「名馬の行方」で、1928年7月号(184号、16巻7号)から連載されたが、翌月号に第2回が載り、そこで中断してしまった。

  芳野青泉 翻案の「名馬の行方」は近代世界快著叢書第四編『名馬の行方』(白水社、東京、1918年)から収録されたものだが、なぜ『京城の日本語探偵作品集』に東京の出版物から作品が採られたのか、やや不可解である。解説を読んでみると、これは朝鮮総督府図書館に所蔵されていた『名馬の行方』から採ったものだと書かれているが、それだけでこれを「京城の日本語探偵作品」扱いしてよいものだろうか。(朝鮮総督府図書館の蔵書印は『京城の日本語探偵作品集』のp.113で確認できる)

江戸川乱歩の「探偵趣味」(『朝鮮及満洲』1927年1月号)について

 韓国で『探偵趣味』(2012年3月)というアンソロジーが出版され、そこに江戸川乱歩の謎の(?)随筆「探偵趣味」(初出:『朝鮮及満洲』)が翻訳掲載されているということを知ったのは2012年12月のことである。即座に国会図書館にいってコピーしてきた。これは日本では知られていなかったものである。
 コピーは入手したが一体どういう性質のものか分からなかったため、同月中に『江戸川乱歩執筆年譜』の編者の中相作氏にうかがったところ、『ラヂオ講演集 第十輯』(日本ラヂオ協会・博文館、1926年11月)(近代デジタルライブラリー)に収録された江戸川乱歩の「探偵趣味」と内容がほぼ一致するとの返答をいただいた(文章には異同がある)。元のラジオ講演はその前年、1925年の11月9日に放送された。ラジオ公演を別の人物が文字起こししたものということだろうか。


関連ページ