東野圭吾『容疑者Xの献身』がエドガー賞以外に狙える賞は?

2012年3月19日

『容疑者Xの献身』に次ぐガリレオシリーズの第二長編『聖女の救済』の英訳出版も決まった模様。訳者・出版社は英訳版『容疑者Xの献身』と同じ。(2012/04/04記)

『容疑者Xの献身』海外での受賞・候補歴

2012年3月19日
  • 2012年4月27日更新

(1)アメリカ図書館協会(ALA)最高推薦図書

  • アメリカ図書館協会(ALA)最高推薦図書 2012年ミステリ(Mystery)部門
    • 『The Devotion of Suspect X(容疑者Xの献身)』 東野圭吾(Keigo Higashino)
  • 候補作
    • 『探偵は壊れた街で』(原題 Claire DeWitt and the City of the Dead) サラ・グラン(Sara Gran)
    • 『Killed at the Whim of a Hat』 コリン・コッタリル(Colin Cotterill)
    • 『A Trick of the Light』 ルイーズ・ペニー(Louise Penny)
    • 『スノーマン』(英題 The Snowman) ジョー・ネスボ(Jo Nesbø) ※ノルウェー語からの翻訳作品

 アメリカ図書館協会(American Library Association、略称 ALA)は毎年、ミステリやSF、ファンタジー、ホラーなどいくつかの部門を設定してそれぞれのジャンルの最高推薦図書を選定している。2012年ミステリ部門では候補作5作品の中から東野圭吾『容疑者Xの献身』がその栄誉を勝ち取った。『容疑者Xの献身』がアメリカ図書館協会の最高推薦図書に選出されたということは2012年2月16日の朝日新聞朝刊に載っていたガリレオシリーズの広告で知ったのだが、発表がいつだったのかは分からない。


(2)エドガー賞

  • エドガー賞 最優秀長編賞(Best Novel)
    • 受賞
      • 『喪失』(原題 Gone) モー・ヘイダー(Mo Hayder、女性、イギリス)
    • 候補作
      • 『容疑者Xの献身』(英題 The Devotion of Suspect X) 東野圭吾(Keigo Higashino、1958年生、男性、日本)
      • 『帰郷』(原題 The Ranger) エース・アトキンズ(Ace Atkins、1970年生、男性、アメリカ合衆国)
      • 『Field Gray』 フィリップ・カー(Philip Kerr、1956年生、男性、イギリス)
      • 『ホテル1222』(原題/英題 1222) アンネ・ホルト(Anne Holt、1958年生、女性、ノルウェー) ※ノルウェー語からの翻訳作品

 日本時間の2012年4月27日午前11時ごろ、モー・ヘイダー(Mo Hayder)『喪失』(原題 Gone)の受賞が決定した。モー・ヘイダーは東京で接客業に就いていたこともあるというイギリスの女性作家。邦訳は『死を啼く鳥』(ハルキ文庫、2002年)と『悪鬼(トロール)の檻』(ハルキ文庫、2003年)の2作品がある。毎日新聞の報道(リンク)によれば、東野圭吾は渡米はせずに日本で連絡を待ち、『容疑者Xの献身』の英訳者のアレクサンダー・O・スミス氏がエドガー賞晩餐会に出席したとのこと。

(3)バリー賞

  • バリー賞 最優秀新人賞(Best First Novel) (受賞作の発表は2012年10月4日[現地]のミステリ大会・バウチャーコンにて)
  • 受賞
    • 『インフォメーショニスト』(原題 The Informationist) テイラー・スティーヴンス(Taylor Stevens)
  • 候補作
    • 『容疑者Xの献身』(英題 The Devotion of Suspect X) 東野圭吾(Keigo Higashino)
    • 『Learning to Swim』 Sara J. Henry
    • 『忘却の声』(原題 Turn of Mind) アリス・ラプラント(Alice LaPlante)
    • 『わたしが眠りにつく前に』(原題 Before I Go to Sleep) SJ・ワトソン(S.J. Watson)
    • 『スーツケースの中の少年』(英題 The Boy in the Suitcase) レナ・コバブール&アニタ・フリース(Lene Kaaberbøl & Agnette Friis) ※デンマーク語からの翻訳作品(ただし、作者の一人Lene Kaaberbøl本人による英訳)

 バリー賞はアメリカのミステリ雑誌『デッドリー・プレジャー』(Deadly Pleasures)が主催する賞。1997年開始。最優秀新人賞は非英語圏作家では2005年にカルロス・ルイス・サフォン(スペイン)が『風の影』で受賞している。『容疑者Xの献身』が最優秀「新人」賞(Best First Novel)の候補になったことについて、選考委員のもとには多くの疑問の声が寄せられたそうだ。候補作発表の5日後の2012年2月15日に、『デッドリー・プレジャー』のサイトにこのことについて以下のようなコメントが掲載された。

【拙訳】
 『容疑者Xの献身』をバリー賞の最優秀新人賞(Best First Novel)にノミネートしたことについて選考委員のもとに多くの疑問の声が寄せられた。まず最初に、我々がそれぞれの部門について柔軟に考えているということを言っておきたい。東野圭吾が日本ですでに多数の作品を発表している作家だということは承知していた。『容疑者Xの献身』以前に『秘密』(英題:Naoko)が米国で英訳出版されているということに気付いたのは選考の終盤になってからだったが、『秘密』はミステリー(mystery)というよりは超常現象を扱ったファンタジー(paranormal fantasy)であるように思われた。我々は『容疑者Xの献身』が東野圭吾のミステリー小説の米国での最初の紹介だと考え、これを最優秀新人賞(Best First Novel)のノミネート作とした。(以下省略)

【原文】
I've gotten a lot of questions regarding the inclusion of THE DEVOTION OF SUSPECT X by Keigo Higashino in the Best First Novel category of the Barry Award Nominations. First of all, let me state that we (the Barry Award nominating committees) are quite flexible when it comes to the various categories. I was aware that Keigo Higashino has a body of work published in Japanese. I became aware rather late in the nominating process that he had a novel (NAOKO) that was previously published in the U.S., but it was described to me as more paranormal fantasy than mystery. In our minds, THE DEVOTION OF SUSPECT X was a first introduction to American readers of a Higashino mystery, so we included it in the category of Best First Novel (以下省略)


『容疑者Xの献身』がエドガー賞以外に狙える賞は?

2012年1月22日

 「狙える」という書き方はちょっと強気すぎるかもしれないが、『容疑者Xの献身』が授賞対象になりうる世界のミステリ賞について見ていく。『容疑者Xの献身』が授賞対象になりうるということはもちろん、今後翻訳される日本のミステリはすべて授賞対象になりうるということである。

イギリス

 英語圏でアメリカ探偵作家クラブ(MWA)のエドガー賞と並ぶ大きな賞としては、英国推理作家協会(Crime Writers' Association、略称CWA)のダガー賞がある。ダガー賞も以前はエドガー賞と同じく英語作品と翻訳作品を分けずに選考していたが、2006年以降、英語作品を対象とするゴールド・ダガー賞と、翻訳作品を対象とするインターナショナル・ダガー賞に部門を分けている。最近の受賞作には、2011年のアンデシュ・ルースルンド & ベリエ・ヘルストレム『三秒間の死角』(邦訳2013年10月)、2010年のヨハン・テオリン(スウェーデン)『冬の灯台が語るとき』(邦訳2012年2月)、2009年のフレッド・ヴァルガス(フランス)『青チョークの男』(邦訳2006年、創元推理文庫 ※英訳より日本語訳の方が早かった)などがある。インターナショナル・ダガー賞ができて以降、受賞したのはフランスとスウェーデンのミステリ作家のみである。
 昨年は5月に候補作7作品が発表され、7月に受賞作が決定した。『容疑者Xの献身』はイギリスでは2011年7月刊行だったようなので、次回の対象ということになる。エドガー賞の候補になったことで英語圏での注目度は高まっているだろうし、あるいはエドガー賞ノミネートに続いてインターナショナル・ダガー賞にもノミネートなんてことも起こりうるかもしれない。

【2012年5月26日追記】残念ながらノミネートならず。

フランス

 フランス語版『容疑者Xの献身』は《マスク叢書》からの刊行ではないのでフランス冒険小説大賞の対象にはならないが、フランス推理小説大賞の選考対象にはなる。この賞は1948年に始まった歴史の長い賞で、フランス語作品部門と翻訳作品部門とがある。翻訳作品部門はやはり英語圏の作家の受賞が多い。今までに受賞した非英語圏作家は、イタリアのジョルジョ・シェルバネンコ(1968年)、ギリシャのアンドニス・サマラキス(1970年)、デンマークのアーナス・ボーデルセン(1971年)、ポーランドのスタニスワフ・レム(1979年)、スペインのマヌエル・バスケス・モンタルバン(1981年)、スペインのアルトゥーロ・ペレス=レベルテ(1993年)、アフリカーンス語で執筆する南アフリカ共和国のデオン・マイヤー(2003年)、アイスランドのアーナルデュル・インドリダソン(2007年)、スウェーデンのカミラ・レックバリ(2008年)、ヘブライ語で執筆するイスラエルのイシャイ・サリッド(Yishai Sarid)(2011年)。去年は6月に候補作11作品が発表され、9月に受賞作が決定したようだ。『容疑者Xの献身』のフランス語版は2011年11月刊行なので、次回の対象ということになる。最終候補の枠が11作品もあるのなら、そこそこ珍しい日本の作品をノミネートしてくれてもいいんじゃないかなと思ったり……。

 フランスにはほかに、1972年に始まったミステリ批評家賞というミステリ賞もあり、これもフランス語作品部門と翻訳作品部門とがある。二十数名のミステリ評論家や作家が1年間に出たミステリからベスト10を選出し、その第1位の作品が受賞作となる。翻訳作品部門の受賞作家のうち非英語圏の作家は、ドイツのホルスト・ボゼツキー(1988年)、スペインのフランシスコ・ゴンサレス=レデスマ(1993年、2007年)、イタリアのアンドレア・カミッレーリ(1999年)、スウェーデンのヘニング・マンケル(2000年)、ロシアのボリス・アクーニン(2002年)、アフリカーンス語で執筆する南アフリカ共和国のデオン・マイヤー(2004年)、アイスランドのアーナルデュル・インドリダソン(2006年)。去年は4月に受賞作が決定したようだ。フランス語版『容疑者Xの献身』はやはり次回の対象ということになる。
 【2012年4月14日、ミステリ批評家賞の結果についてまとめました→ 【エドガー賞の前に】東野圭吾『容疑者Xの献身』のフランスでの評価やいかに


ドイツ・北欧

 『容疑者Xの献身』はドイツ語にはまだ翻訳されていないので気が早いが、ドイツのミステリ賞について見てみよう。ドイツでは1985年に始まったドイツ・ミステリ大賞にドイツ語作品部門と翻訳作品部門がある。毎年1月に、前年に刊行された作品からそれぞれベスト3までを選出する(福本義憲「ドイツ・ミステリー賞事情」『ミステリマガジン』1998年4月号 参照)。
 スウェーデン推理作家アカデミーが主催するスウェーデン推理作家アカデミー賞にはスウェーデン語作品部門と翻訳作品部門がある。翻訳作品部門は2009年まではマルティン・ベック賞と呼ばれていたが、現在はそういう呼び方はしていないようだ。


アジア

 中国には前述の通り、北京偵探(ていたん)推理文芸協会賞がある。『容疑者Xの献身』は中国では2008年に刊行されたので2011年夏に発表された第5回の選考対象だったはずだが、第5回翻訳作品賞は該当作なしだった。中国では日本のミステリ小説が多く翻訳されているので、第6回(2014年?)以降でまた日本のミステリ小説が受賞作に選ばれることもあるかもしれない。

 台湾、韓国には翻訳作品を対象とするミステリ賞はない。韓国では大手ミステリ情報サイト「ハウミステリ」および「日本ミステリを楽しむ」でミステリファンによるランキングが毎年発表されているが、この2つのランキングは『容疑者Xの献身』韓国版が刊行された2006年にはまだ実施されていなかった。



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最終更新:2012年03月19日 21:53