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外はいつの間にか暗くなっていて。
でも、部屋の中に満ちているLCLの匂いは一向に薄まる気配がない。
アスカは、ここにいる。
僕はゆっくりと起きあがる。
目の前にあったらしい鏡が粉々に砕け、片づけられた跡が残っている。
ガラス片はどこかに落ちていないか、探してしまう僕。
何の意味があるのか、わからないまま、
それでもソファーの下に落ちていた破片を見つけ、
それを手にして僕はアスカのもとへ近づく。

枕元に腰掛け、アスカの頬を撫でてから、手を握る。
また光が飛び散るかな?と思って、その瞬間は目を閉じていたけれど、
何も起こらなかった。
ゆっくりと目を開ける。おそるおそるアスカの方を見る。
アスカは、先ほどと変わらず、眠っている。
頬を触れた手に残ったのは冷たい感触だけ。
僕は泣きたくなるのをこらえて、彼女にキスをした。

ふいに、鏡の破片が光る。
目をやると、そこにはアスカが写っていた。
それは小さな小さなアスカだったけれど、僕には十分な、完璧な彼女だ。
鏡の中にいたのは、眠っているアスカではなく、微笑んでいるアスカ。
振り返ってみても、そこには何もない。
でも、鏡の中ではアスカは微笑んでいる。口がゆっくりと動く。
最初は何を言っているのか分からない。
アスカは何度かそれを繰り返した後、苛々したような表情で、
僕の方に近づいてくる。
やがて鏡の中で、僕の背後にぴったりとくっついたアスカは、
僕の耳元に口を近づけて、囁いた。
「歌って」

実際に声が聞こえて、僕はびっくりして立ち上がる。
その拍子に鏡の破片はベッドの上から落下し、
高級そうなカーペットの中に埋もれる。
拾い上げた鏡の中では、アスカが僕の方を向いて、何かまた言っている。
「バ…カ…シ、ンジ?」
僕が口に出して言うと、アスカは笑い転げ、親指を立てた。
合ってるみたいだ。
そのままアスカは続けて
「大好きよ」
と言った後、また風景の中に溶けていった。

「あたしはずーっとシンジの傍にいるわ。」
アスカの声を思い出し、僕は泣いた。今度は声を上げて泣いた。
アスカは嘘をついていない。きっと僕の傍に居続ける。
おそらく、きっと、ここに眠っているアスカが目を覚ますことはないだろう。
僕は、永遠に彼女を失った。
でも同時に、彼女を永遠に自分だけのものにした。
アスカにとっても、それはきっと同じなんだ。
アスカは永遠に僕をアスカだけのものにした。
それでアスカは満足なんだろう。
「歌って」と言ったアスカ。
うん、わかったよ。僕は歌い続ける。
ここではただ1人になってしまったけれど、
アスカの分まで歌っていくよ。
僕たちは、いつでも一緒だし、僕たちは常に自由だ。
たとえ、生涯逃れられない檻の中に捉えられた小鳥でしかなくとも。
僕たちは、僕たちなりに、一生懸命歌って行こう。
それが、僕たちの未来に何をもたらすかはまだわからないけれど、
それでも、何があっても、僕たちは、自由だ。

僕はもう一度、アスカにキスをした。
再び、アスカの目から涙がこぼれ、
同時に僕にはアスカが少し微笑んだような気がした。


劇終
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