The scientist3

説得場面は、僕が夢で見た場面とおんなじだった。
もう僕にとって、それは驚きでもなんでもなく、
当たり前の事として、受け入れられた。

「アスカは最後まで嫌がったし、自分を責めてもいたわ。」
「うん、わかってる。アスカはそういう子だよ。」
一瞬、ヒカリの目が鋭くなり、僕をきっと睨む。
「そこまで分かってるなら、なんで…。」
言いかけて、止める。僕が後悔していることを彼女も知っているからだ。
「ごめんなさい。感情的になったわ。」
「ううん、悪いのは僕だから。もう戻れないけど。」

最後まで抵抗するアスカをミサトさんとヒカリで説得し、
以下の条件で僕との別離を承諾させたらしい。

1.とりあえず1年間の限定で別居すること。
2.アスカはドイツ支部へ転勤すること。
3.1年後にもう一度話し合いの場を設けること。
4.その際にはアスカの希望を最大限取り入れた形で僕と再会させること。
5.1年間、僕に恋人ができないよう全力をもって阻止すること。

当然、これらの条件は僕には秘密にされた。
「最後の2つなんかアスカらしいわよね。無茶苦茶緊迫していたのに、
その2つを聞いて私もミサトさんも笑っちゃったわよ。」
僕は苦笑するしかない。最後の2つはアスカに残された最後のプライド、
それがわかるだけに、なおさら切ない。


「碇君はアスカ一筋だもんねぇ。あんなに酷い目に遭わされたのに、
それでもまだあの子の事を愛しているなんて、アスカにはもったいないわよ。」
冗談か本気か、ヒカリは「委員長」の顔で僕に笑いかける。
「いや、僕もアスカに酷いこと色々したからさ…。」
そう言って、アイスコーヒーを一口飲む。
氷は既に全部溶けていて、生温くなりつつあるその茶色い液体は、
半ばコーヒーであることを放棄したような味で、僕をちょっとげんなりさせる。

僕のところへトウジが急に押し掛けてきたのが、その作戦の最初。
アスカが1年前の時点で既に大筋の計画を立てていて、
実行はミサトさんの指揮で行われたとのこと。

最初は、トウジの話を聞いて僕がすぐにでも休暇を申請して
アスカ探しの旅に出るものだと思っていたらしい。
それが、僕がぐずぐずとしているものだから、
第2新東京市、つまり鈴原夫妻という「鍵」がある場所へ
出張名目で僕を半ば強引に導いた、と。
「じゃあ、あの会は…」
「あれは全部ネルフ関係者よ。つまり、サクラってわけ。」
よくやるよ。怒る気にもなれず、僕はコーヒーをもう一口啜る。
このコーヒーがやたら不味いことを、飲み込んでから思い出す。
「じゃあ、家が留守だったのは…」
「あれはネルフに籠もってあの馬鹿がやらかした後始末と、
次なる作戦を計画していたわけ」

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最終更新:2007年08月12日 01:08
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