甘い短編2

小泉の人◆FLUci82hb氏の作品です。

 

 

夏である。
地球温暖化がどうのこうの、といった話が毎日のようにTVで取りざたされる昨今。
暑さから逃れるためにプールに行こうと思わない人がいるだろうか?いや、いない。居てたまるか。
幸いなことに我々のような真面目な学生は補習を受けることもなく、夏休みを謳歌している。
妹のプールに連れて行けという立案を却下し。
ハルヒによる謎探しという不快指数をあげるだけの行動を退け。
馬鹿(これで谷口と読む)の意味のないナンパを拒否し。
鶴屋さんwith朝比奈さんの超魅力的な高原へのお誘いを非常にもったいないのだが断り。
泉の言う超巨大なお祭りの準備とやらから逃げ。
かがみとつかさの勉強会すらまた今度、と言って。
みゆきさんの胸……ではなく歯医者への同行の願いも断ち切り。
俺は今、プールに来た。
そう、プールに来たのだ!!
大事なことだから二回言った。
テンションが高いのはきっと夏のせいだから。
なので気にしないでもらうとありがたい。 

 

 

 

「……年、だな」
あんなに意気込んでいたものの、たった一時間で疲れ果てた。
クロールやバタフライなどで約一キロほど泳いだ為とも思われるが、それとは別だ。
ぷかぷかと流れるプールの水面で、顔と胸の上部を晒しながらただ流れに身を任せている。
ゴーグルをサングラスの代わりに太陽を見てみるがあまりのまぶしさに目を閉じる。
流される感覚と、水に浸かる体の感覚がただ心地よい。
体は成長して、体力もついた。
背も伸びたし筋肉も昔とは比べ物にならない。
だが、こうやってがむしゃらに遊んでいられたのはやはり昔の方だっただろう。
そんな事を考えながらチャプチャプという水の音を聞き、そのまま流れていく。
塩素の匂いと体の疲れが子供のころを思い出させる…
このまま眠ってしまってもよさそうな心地よさ。
夏の匂いとでも言えるような、毎年覚えるのに秋には忘れてしまうこの匂い。
肺いっぱいに吸い込ん

「あ!?」

何かを顔に受け、その衝撃で俺の体は水中に没した。
突然の事態に俺の体は反応して、力が入った体は水中でもがく。
ガバガボゴボ、と口と鼻から気泡を出して視界を白く染めながら水上へと顔を出す。
「ブハッ!ゴホッ!!!ゴホ!!」
どうやら水か気管に入ったようで異常なまでにむせる。
「ガハッ……ゴフッ!」
鼻の粘膜を刺激する水によって、鋭い頭痛を感じながら周囲を見渡す。
いきなり溺れた(ように見えたであろう)俺に多少の注目が集まり、その横をビーチボールが流れに乗ってするすると通過していく。
おそらくこのビーチボールが俺を襲撃した犯人だろう。
しかし、それを投げた人物がいる筈だ。と考える一方でぶつかる直前に聞こえた声を思い出していた。
あれは注意を促していたのかもしれないし、ただ受け取るのに失敗して叫んだのかもしれない。
とりあえずこのボールを持ち主に渡すときにその犯人がわかるだろう。
…に、してもだ。
あの声にずいぶんと聞き覚えがあるような気がするのだが。
「あの、すいません…」
流れゆくボールを掴み、それを少し回転させて遊んでいると背中から声がかかった。
やはり聞き覚えのある声だ。
夏休みをはさんでいるので顔とか名前と声を直結させることもできないが、さすがに顔を見れば思い出すだろう。
そしてゴーグルを取って振り返る。
果たして、そこにいたのは。
「「キョン先輩…?」」
「ゆたかちゃん、…と岩崎?」 

「今日は疲れました…」
「俺もだ…」
帰りの電車の中。
俺とゆたかちゃんと岩崎は並んで座っていた。
この様子だけを見れば中の良い兄妹たちにもみえるだろうか。
その体に見合った程度の体力しかなかったのだろうか、ゆたかちゃんは数駅しかないというのに眠ってしまっていた。
水泳というのは見た目よりもはるかに体力を使う競技なので当然、俺にも睡魔は襲ってきている。
だが寝過ごすのが怖いので俺は眠りたくは無い。
なにより、知りあいがこんな様子を見たら何を言われるかもわからんのでそこに気を配ってもいるのだ。
変な噂が広がる前に、
「先輩?」
「お、おお…?」
下から覗きこむように岩崎が俺の顔を窺っていた。
自分では起きていたように思っていたのだが眠っていたのか?
いくらなんでも全く気付かないのはおかしいだろう…
「あの、降りる駅になったら起こしますので…」
寝ても大丈夫です、ってか……
「スマン…」
無理だ無理。
こんな眠気に耐えられる奴は校長とかの演説を一時間聞いていても飽きない奴だ…
そういえば子供のころもプールの後は眠かったな…
意識を保つことを諦め、背もたれに体重を預ける。
おやすみなさい、と岩崎の声が聞こえたような気がしたが夢か現実かなんてもう区別はつかなかったさ。










後日。
岩崎の肩に頭を乗せ、岩崎はその頭に頬を寄せながら寝ている画像を俺に突き付ける奴の姿があった。
奴、と言っても男ではないし一人でもない。
彼女らは口々に罵声を浴びせるようなことは(一人を除いて)しなかったが、辛辣な目線を投げかけてきた。
鶴屋さんまでそこにいたのはベクトルの違う恐怖を覚えたね。
岩崎はあの後、ちゃんと起こしてくれたのだがそれまでの記憶が無いのでそれまで起きていたかは知らない。
そして、この写真が撮られた日に。
撮ることができて。
なおかつ俺に誘いを持ちかけた人物たちにこの写メールを見せることができたのは…


…まさか、な?
だいたいそんな事をしてあの子に何かメリットがあるかと言えば無いだろうし。
それに岩崎と
「ちょっと!キョン!!聞いてるの!?」
「へいへい…」
ああもう謎だらけだ。
大体プールに誰と行こうが俺の勝手じゃないのだろうか……?






全員との色々な約束でどうにか解散。
そしてきっと俺の夏は拘束されて終わるだろう、と半ば確信したのだった。

 

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最終更新:2008年06月09日 21:02
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