2011年5月2日
日本の推理小説のイタリア語訳本のリスト。
ついさっきまで知らなかったのだが、イタリア語版Wikipediaをさまよっていたら、イタリアには1946年に刊行を開始したミステリ叢書「ジャッロ・モンダドーリ」(Il Giallo Mondadori)(
英語版Wikipedia)というのがあるのを知った。なんでもその前身は1929年に刊行を開始していて1946年に現在の名前になったそうだが、1946年から現在までですでに3000冊を超えていると聞くと、イタリアはあまり推理小説が盛んなイメージではなかったのでちょっと驚いてしまう。日本でいえば、1953年から早川書房が刊行している「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」に相当しそうだが、「ジャッロ・モンダドーリ」も翻訳作品中心であるものの、イタリアの国内作品もそれなりに収録しているというところがポケミスとは異なっている。
イタリア語版Wikipediaには、この叢書のNo.3026(2011年3月刊行)までの全リスト(
イタリア語版Wikipedia)があったので、まずそこから日本の推理作家の作品を探した。以下に引用する。Wikipediaのリストは100冊ごとに1ページになっており、全31ページにわたる。左端のNo.をクリックすることで、該当のページが開くようにした。
イタリアのミステリ叢書「ジャッロ・モンダドーリ」(Il Giallo Mondadori)で刊行された日本の作品一覧
No. |
イタリア語タイトル |
著者 |
原題 |
刊行日 |
321 |
Vita da cani |
Milton K. Ozaki |
(A Fiend In Need) |
1955年3月26日 |
887 |
Tre per la forca |
Milton K. Ozaki |
(Case Of The Cop's Wife) |
1966年1月30日 |
1049 |
Appuntamento per un massacro |
Milton K. Ozaki |
(Wake Up And Scream) |
1969年3月9日 |
1065 |
Carcere nero |
Milton K. Ozaki |
(Inquest) |
1969年6月29日 |
1149 |
La morte è in orario |
Seicho Matsumoto (松本清張) |
(Ten To Sen) 『点と線』 |
1971年2月7日 |
1170 |
Mai gettare la spugna |
Milton K. Ozaki |
(Never Say Die) |
1971年7月4日 |
1334 |
Settimana di morte |
Robert O. Saber |
(Time For Murder) |
1974年8月25日 |
1969 |
L'ascia, il koto e il crisantemo |
Seishi Yokomizo (横溝正史) |
(Unugamike no Ichizoku) 『犬神家の一族』 |
1986年10月26日 |
2008 |
Di amore si muore |
Masako Togawa (戸川昌子) |
(The Lady Killer) 『猟人日記』 |
1987年7月26日 |
2051 |
Tempesta d'autunno |
Shizuko Natsuki (夏樹静子) |
(The Third Lady) 『第三の女』 |
1988年5月22日 |
2112 |
Come sabbia tra le dita |
Seichō Matsumoto (松本清張) |
(Suna so utsuwa) 『砂の器』 |
1989年7月23日 |
2332 |
Un bacio di fuoco |
Masako Togawa (戸川昌子) |
(A Kiss of Fire) 『火の接吻』 |
1993年10月10日 |
2519 |
L'abbandono |
Natsuki Shizuko (夏樹静子) |
(Tenshi ga kiete iku) 『天使が消えていく』 |
1997年5月11日 |
2570 |
Il palazzo dei matrimoni |
Seicho Matsumoto (松本清張) |
(Kuroi Sora) 『黒い空』 |
1998年5月3日 |
2598 |
Il treno del mistero |
Kyotaro Nishimura (西村京太郎) |
(Misuteri Ressha Ga Kieta) 『ミステリー列車が消えた』 |
1998年11月15日 |
2672 |
Filastrocca per l'assassino |
Keigo Higashino (東野圭吾) |
(Hakuba sanso satsujin jiken) 『白馬山荘殺人事件』 |
2000年4月16日 |
(『犬神家の一族』の原題の綴りが間違っているが、Wikipediaの執筆者の誤りなのか、それとも奥付けでそもそも誤っているのかが分からないので、とりあえずWikipediaに書かれたまま引用する)
No.1から順に見ていって、「Ozaki…、日本人見つけた!」と思ったら違っていたのが、ミルトン・K・オザキである(そもそも、尾崎姓の推理作家は尾崎諒馬ぐらいしか思い当たらないが、まさか翻訳されていないだろう)。ミルトン・K・オザキはここで見掛けるまでその存在を知らなかったのだが、日本人を父に持つ日系アメリカ人推理作家で、執筆に使用したのは英語だそうだ(英語版Wikipediaの「
Milton K. Ozaki」など参照)。なお、上の表に入れたRobert O. Saberは、オザキのペンネームである。(2011年5月6日追記:探偵作家クラブ(現・日本推理作家協会)会報第1号(1947年6月)に、「シカゴ探偵作家クラブ 日本人会長」と題するニュースが載っており、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)シカゴ支部の支部長に「Milton Ozakiといふ日本姓の人」が選出されたと伝えている。美容院主であり探偵作家である、アメリカの著名出版社の小説賞を受賞している、などと簡単に紹介している。ただし、作品を読んだことがある人はいなかったようで、「その作品も作家の人となりも今の所不明である」としている。)
日本語で書かれた作品で最初にこの叢書から刊行されたのは、松本清張『点と線』。これが1971年に刊行されているが、日本の作品が次に出るまではなんと15年の歳月を待つ必要があった。1986年に横溝正史『犬神家の一族』が出ると、その後90年代の終わりまでに犬神家を含め日本の作品が8作品刊行される。しかし2000年代に入ると、2000年に東野圭吾『白馬山荘殺人事件』が刊行されただけで、その後11年間日本の作品の刊行はない。なんとも残念ではあるが、とはいえ、次にこの叢書に収録される日本の作品はなんなのか、楽しみにしていたいと思う。
なお、この叢書ではほかのアジア諸国の作品は刊行されていないようだが、ほかの出版社まで見ると、中国のミステリ作家・何家弘(か かこう/ホー ジアホン)の『瘋女』(のちに『血之罪』に改題)のイタリア語訳『
La donna pazza』(英訳すると"The crazy woman")が2007年に刊行されている。この作品は、イギリスの新聞『ガーディアン』で
アジア10大推理小説の1つに選ばれ、中国の作家莫言も絶賛している作品で、ほかにフランス語訳も出ている。イタリアは、欧米諸国の中ではいち早く台湾の
島田荘司推理小説賞に協賛しており、2011年夏に決定する第2回受賞作は台湾や中国、日本のみならず、イタリアでの刊行が決定している。イタリアは欧米諸国の中でも、比較的、アジアのミステリ界へ視線を向けている国だと言っていいだろう。
(イタリアではほかに、中国ミステリの創始者・程小青(てい しょうせい/チョン シャオチン)の作品集『
Sherlock a Shangai』(2009年)も刊行されている)
2011年5月2日追記
イタリアではジャンルとしてのミステリのことを「ジャッロ」(黄色)と呼ぶというのは以前にどこかで聞いたことがあったが、その由来になったのが上で紹介したモンダドーリ社の叢書だそうだ(マリネッラ・ヴァーネ・デトレフス「現代のイタリア・ミステリー事情」(光文社『ジャーロ』第3号[2001年春号]、翻訳:山中なつみ)参照)。特徴的な黄色い表紙を使ったこの叢書(
英語版Wikipediaに写真あり)は、1929年に「リブリ・ジャッリ」(I libri gialli、=黄色い本)というシリーズ名で刊行が開始され、1946年に現在の「ジャッロ・モンダドーリ」という名称になった。
このページのリストについて
このページの以下のリストは、イタリアのネット書店「
Libreria Universitaria online」でイタリア語に翻訳されていそうなミステリ作家(英訳やフランス語訳、ドイツ語訳がすでに出ている作家など)の名を検索して作成しているもので、イタリア語訳が出ている日本のミステリ作家の完全なリストではない。また、短編のイタリア語訳に関しては、基本的にフォローできていない。ネット書店「Libreria Universitaria online」のデータには上述の「ジャッロ・モンダドーリ」のデータはなぜか登録されていないようなので、「ジャッロ・モンダドーリ」での刊行作品については、イタリア語版Wikipediaでの記述を参考にしていることをお断りしておく。
また、まず作家で選んで、それぞれの作家について翻訳状況を書いているので、なかにはミステリではない作品も含まれる。
※ミステリを含む広義のエンターテインメント作家の作品について調べています
Index
以下、ISBNをクリックするとネット書店「Libreria Universitaria online」の該当ページが開くようになっている。
あ行
有栖川有栖 (Alice Arisugawa)
『赤い月、廃駅の上に』に収録されている短編「海原にて」のイタリア語訳が、2011年2月にイタリアで刊行された雑誌『ALIA storie』に掲載された。(
翻訳者のマッシモ・スマレ氏のサイト(イタリア語・日本語・英語)参照)。
(マッシモ・スマレ氏は、かなりの数の日本の短編小説をイタリア語に翻訳している。以下では作家ごとに逐一挙げることはせず、一番下の「アンソロジー」のところで扱う。)
石田衣良 (Ira Ishida)
江戸川乱歩 (Edogawa Ranpo)
岡本綺堂 (Kido Okamoto)
収録作は分からない。1巻の方に「奥女中」を訳した「La dama di compagnia」が収録されているようではある。
か行
北方謙三 (Kenzo Kitakata)
この作品は2006年9月に英訳が出ている。
桐野夏生 (Natsuo Kirino)
栗本薫 (Kaoru Kurimoto)
ほかに、漫画版『グイン・サーガ』や漫画版『パロスの剣』も刊行されている。
さ行
島田荘司 (Soji Shimada)
講談社BOXから刊行中の『Classical Fantasy Within』(現在8巻まで刊行、全12巻予定)のイタリアでの刊行が予定されている。(『本格ミステリー・ワールド2011』(南雲堂、2010年12月)より)
デビュー作の『占星術殺人事件』は欧米では英語版やフランス語版が刊行されているが、イタリア語版は刊行されていない。
鈴木光司 (Koji Suzuki)
ほかに、『リング』の漫画版なども刊行されている。
た行
高見広春 (Koushun Takami)
「ジャッロ・モンダドーリ」ではないが、同じモンダドーリ社から刊行。
戸川昌子 (Masako Togawa)
3作とも、欧米のさまざまな言語に翻訳されている人気作。特に『猟人日記』は、ノルウェー語、スウェーデン語、デンマーク語など北欧諸言語にも翻訳されている。
な行
夏樹静子 (Shizuko Natsuki)
Tempesta d'autunno (1988年 ◆ジャッロ・モンダドーリ)/ 『第三の女』
L'abbandono (1997年 ◆ジャッロ・モンダドーリ)/ 『天使が消えていく』
『第三の女』は、フランス語訳『
La promesse de l'ombre』(暗闇の中の約束)がフランス犯罪小説大賞を受賞しているので、その余波を受けてイタリアでも刊行されたのだろうか……と思ったら、フランスでの刊行は1989年で、実はイタリアの方が先に刊行されているのだった。イタリア語のタイトルは「秋の嵐」。なお、1987年に出た英訳版『
The Third Lady』が、この作品の欧米諸言語への最初の翻訳である。
『天使が消えていく』は、英語を含め、欧米の他の言語には翻訳されていないと思われる。
西尾維新 (Nisio Isin)
筆名の表記は「Nisio Isin」。戯言シリーズは『クビキリサイクル』と『クビシメロマンチスト』の英訳が出ているが、イタリア語訳は刊行されていない。
西村京太郎 (Kyotaro Nishimura)
は行
東野圭吾 (Keigo Higashino)
東野圭吾作品の欧米諸言語への翻訳は、2004年8月に刊行された『
Naoko』(『秘密』の英訳)が最初かと思っていたが、「ジャッロ・モンダドーリ」にすでにその4年も前に『白馬山荘殺人事件』が収録されていたようだ。『Naoko』以前には他にも、ドイツ語版『レイクサイド』(
Mord am See、2003年7月)が刊行されている。このイタリア語版『白馬山荘殺人事件』が、おそらく欧米諸言語に翻訳された最初の東野圭吾作品である。上でも書いたが、イタリアはミステリがあまり盛んではないという認識はやはり見直す必要があるようだ。
ま行
松本清張 (Seicho Matsumoto)
(
イタリア語版Wikipedia)
La morte è in orario (1971年 ◆ジャッロ・モンダドーリ)/ 『点と線』
Come sabbia tra le dita (1989年 ◆ジャッロ・モンダドーリ)/ 『砂の器』
Il palazzo dei matrimoni (1998年 ◆ジャッロ・モンダドーリ)/ 『黒い空』
1971年に「ジャッロ・モンダドーリ」で刊行された松本清張『点と線』が、おそらく初めてイタリア語になった日本の長編ミステリだと思われる。
湊かなえ (Kanae Minato)
宮部みゆき (Miyuki Miyabe)
や行
横溝正史 (Seishi Yokomizo)
L'ascia, il koto e il crisantemo (1986年 ◆ジャッロ・モンダドーリ)/ 『犬神家の一族』
松本清張の『点と線』以来、実に15年ぶりに「ジャッロ・モンダドーリ」から刊行された日本の作品。横溝正史作品のイタリア語訳はこの1作のみ。なお、英訳が出ているのも『犬神家の一族』のみである。隣国のフランスでは、『犬神家の一族』のほか、『悪魔の手毬唄』、『八つ墓村』 が刊行されている。
アンソロジー
小説家であり翻訳家でもあるマッシモ・スマレ氏が、主にアンソロジー『ALIA』(既刊10巻、
公式サイト、
公式サイトの一部の日本語訳)で、数多くの日本の短編をイタリア語に翻訳している。スマレ氏のサイトから、主なもののみ挙げる。より詳細な情報は、マッシモ・スマレ氏のサイト(
News、
Publications)(イタリア語・日本語・英語)をご覧ください。
リンク
更新履歴
- 2012年9月24日 - 2011年刊行の湊かなえ『告白』、桐野夏生『残虐記』、2012年刊行の東野圭吾『容疑者Xの献身』を追加。
- 2013年12月9日 - 東野圭吾『聖女の救済』を追加。
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最終更新:2011年05月02日 15:44