築山出張 @ ウィキ

25プレゼント

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tsukyama

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包装

中身

メッセージ
メリークリスマス!
ついこの間までこんなふうに瀬戸口さんにプレゼントを贈れるようになるなんて
全然考えていませんでした。とてもとても、嬉しいです。
プレゼント、どんなものがいいかわからなかったんですけど、革の手袋を選んできました。
サイズは多分大丈夫だと思うのですが。

             つきやままつり




~*~

「世に数多あるクリスマスプレゼント選びの1シーン」

 クリスマスを目前にしたある夕方、彼女は百貨店に足を運んだ。ヲチ藩国には首都に一軒だけある老舗百貨店である。
 店内の案内掲示をみて、普段は足を踏み入れない男性服飾用品のフロアにおそるおそるといった案配で歩を進める。
「クリスマスプレゼント…… 男の人に贈るものってどんなものがいいんだろう」
 贈りたい相手はお洒落に気を遣う人だ。いつも凝りすぎないがセンスを感じさせる感じのいい服装をしている。
「ハンカチ…じゃなんだか味気ないし、ネクタイっていうのははちょっと違う気がするし」と、彼女なりにいろいろ考えた結果、手袋がいいだろうという結論に達し品揃えのいい百貨店に探しにきた、とそういう場面である。こういう手袋をつけていたら格好いいだろうな、と単純に思ったという話もある。
 終始自信なげな足取りで手袋の棚の前にたどり着き色や素材、それともちろん値段を見比べて品定めを始めた彼女に近寄ってきた女性店員がにこやかに声をかけた。
「手袋をお探しですか?」
「は、はい」
「サイズ、奥にあるのもお出しできますから」
 と、言われ彼女の手が止まる。
「あ、サイズ…」
「SやLのあるのもございますね、ものにもよりますけど」
「ええと… あの、ちょっと選んでみます」
 気恥ずかしげな彼女の風情を読み取った(これも重要な接客スキルである)女性店員は微笑み、
「ではお決まりになったらお知らせください」と彼女を棚の前に残し遠くからさりげなく見守る位置に離れていった。
「サイズ…」彼女はつぶやきながら柔らかい牛革で仕立てられしっとりした手触りの手袋を自分の手首にあててみたり、自分の手にもってみたりし始める。本人に確かめてもらうわけにいかないので、自分の記憶と比べようというわけである。
 長い時間をかけて、気に入った色で、シンプルな装飾だがはめたときの形のよさそうなものを選び出し、サイズも(彼女にできる限りの)チェックをして、彼女は決然とさきほどの店員に声をかけた。
「こちらですね。ありがとうございます」離れたところからずっとこの様子を見ていた店員はサイズは大丈夫かとは聞かなかった。
 包装をしながら「贈り物ですか?」と尋ねる。
「はい…」と小さな声で答え、
「ではリボンをおつけしますね」という店員の言葉に大きくうなずいて、娘は上気した頬でできあがった小さな包みを受け取り、来たときとはまるで違う弾むような足取りでフロアを出て行った。

 数日後のお祭り騒ぎのさなかにおそろしい惨事が待っているなんてまるで思いもせずに。
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