【子女リベット】

 私とあの方の間には、何もなかったのでございます
 ただあるとすれば 交わされる視線だけが そこにございました


 あの方が戦の地から帰ってくると、都(と)は喜びに沸き、
 城の正門が開け放たれ、大勢の市民たちが彼の人を目に焼き付けようと押し寄せます

 そして、門をくぐる前 彼は、城の上を…空中庭園を見上げるのです。
 そこには、見下ろす私がいるのです。
 ほんの一瞬、それだけの邂逅なのです。

 彼の英雄に女人が口を聞くことなど恐ろしい事でありました
 私達は何も、言葉すらも交わさなかったのです

 さもあれど、従属する小国の王の子女として、人質として、
 都に置かれておりました私にとって
 故郷を想い、都になじめずにいた私にとって
 それは枯れかけた地に甘露をさされたような
 それは庭が突然、四季全ての花を咲かせたような
 美しい時でありました


私の懺悔はこれで終わりでございます
あなたがお疑りになるようなことは決してないことを固くお誓いいたします
私のあの方をみる目は、当時の宮(きゅう)の子女たちが抱いた憧れの視線と
何も変わりない他愛のないものです。

娘の婚儀も明日と迫りました
私は私の夫に生涯忠誠を誓い、尽くす事を誓っております。
どうぞ心配なさらぬよう、重ねてお伝えいたします。


それではさようなら。
我が花の国の民とともに、無事に戦地よりお戻りくださるよう願っているとお伝え下さい。

賢帝バジリウスが妻 ヒルア様へ
あなたの親愛なる従姉妹、リベット・リリアス2世


追伸
 陛下がお持ちになっていたという姿絵ですが、
 もしご入用のないようなら、お返事とともに、こちらにお送りくださいませんか?
 若い頃の姿を見るというのは、なかなかに嬉しいものです。

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最終更新:2010年10月26日 10:38