『目薬とカミソリ』

A:弟。高校3年生。せーちゃん。妙に達観したような言動が目立つ。
B:姉。社会人。早くに両親を失い、女手ひとつで家庭を支えてきた。「全然違う」が口癖。


A01「姉ちゃん、俺、一人暮らししようと思う」
B01「……え?今、何て言ったの?」
A02「俺、大学受かったら、来年から一人暮らし始めるよ」
B02「ごめんなさい。お姉ちゃんよく聞こえなかった。せーちゃん、もう一回言ってくれる?」
A03「だから、大学受かったらアパート借りて一人暮らしするんだってば。バイト先の店長の口
  利きで、向こうで割のいいバイト斡旋してもらえそうなんだ。今まで貯めた金もあるし、奨
  学金を借りたら何とかやっていけると思う。そうしたら」
B03「何で!?どうしてそんなこと言うの?大学って、この前話してくれたトコでしょ?少し遠
  いけど、でも、家(うち)からでも十分通えるじゃない。いいじゃない。このまま2人で暮ら
  せばいいじゃない」
A04「俺も最初はそう思ったけどさ。やっぱり片道1時間半って結構しんどいし、帰りも遅くなる
  から姉ちゃんに迷惑かけるしさ。向こうで生活できるならそっちの方がいいかなって」
B04「迷惑?お姉ちゃん、いつ迷惑だなんて言った?全然違う。せーちゃん勘違いしてる。お姉
  ちゃん、せーちゃんのためなら何だってできるのよ。だって、お姉ちゃん、お母さんにせー
  ちゃんのこと頼まれたんだもの」
A05「俺だってもう18だよ。自分のことくらい自分で」
B05「いいえ、できないわ。自分の下着も買ったことがないくせに。せーちゃん、お姉ちゃんは
  ね、せーちゃんのことならせーちゃんよりもよく知ってるの。せーちゃんは自分のスリーサ
  イズ知ってる?好きなお味噌汁の作り方は?ご飯の炊き加減は?好きなお風呂のお湯加減
  は?」
A06「知ってる。全部勉強した。ひとりでもやっていけるように。姉ちゃんにばかり負担をかけ
  ないように。姉ちゃんほど上手くはないけど、俺はもうひとりでも生きていける」
B06「違う。違うわ。全然違う!」
A07「姉ちゃん。……母さんが死んでから、俺、姉ちゃんにずっと守られてきた。毎日必死に
  なって働いて、疲れてるのに家のことも全部やってくれて、それでも辛い顔一つ見せないで
  いつも笑っていて。俺さ、姉ちゃんにはすごく感謝しているんだ。姉ちゃんを世界の誰より
  も尊敬してるんだ。……でもさ、姉ちゃんはそれでいいの?自分のしたいこと全部犠牲にし
  て、それで本当に幸せなの?俺、姉ちゃんのこと好きだから、だから、幸せになってほしい
  んだ。俺のことは、もういいからさ」
B07「お姉ちゃんね、今までせーちゃんのことだけ考えて生きてきた。せーちゃんのことだけで
  胸がいっぱいになるくらい」
A08「今まで本当にありがとう。感謝してる」
B08「だからね、私、せーちゃんのことしか考えられないの。もしせーちゃんがいなくなったり
  したら、私……」
A09「これからいっぱい楽しいことを見つけるといいよ。姉ちゃんなら、絶対」
B09「私にはせーちゃんしかないの。せーちゃんだけで十分幸せなの。もしせーちゃんがいなく
  なっりしたら、そんなことがあったら、私、空っぽになっちゃう」

(※SE:BがAを押し倒す音。わっふるわっふる)
B10「せーちゃん。私、せーちゃんのことが好きよ。せーちゃんのこと、恋しちゃうほど愛して
  る。たったひとりだけ。他のどんな人よりも。……これは、知らなかったでしょ?」
A10「……ごめん」
B11「ううん、全然違う。全部お姉ちゃんが悪いの。だから、だからね、これから起こることは
  全部、お姉ちゃんが責任をとるから」
A11「……違うんだ。俺、全部知ってた。姉ちゃんのこと」
B12「……え?今、何て言ったの?」
A12「知ってたよ。知らないわけないだろ!毎日同じ屋根の下で暮らして、毎日枕を並べて寝
  て!気づかないわけがないじゃないか!」
B13「ごめんなさい。お姉ちゃんよくわからないな、そういうの」
(※B、Aの首に手をかけて力を込める)
A13「姉ちゃん、俺を殺すの?」
B14「そうね。殺すわ」
A14「無理だよ。姉ちゃんには無理だ。俺は姉ちゃんのことを姉ちゃんよりもよく知ってる」
B15「知らなかったのね、私がこういう女なんだって」
A15「違うよ。全然違う。姉ちゃんにはそんなことできない」
B16「愛してるわ、せーちゃん」
A16「……俺もだよ、姉ちゃん。世界の誰よりも」
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最終更新:2011年03月09日 22:59