ひい様の昔し語り



ヤアヤアこっちさおいで。
どうしたが?眠れねが?
よしよし、爺ちゃんがお話してやっからな。
よう聞きんさい。


 昔々ナ、こんな雪の強い日じゃったとナ。
 山奥の村に、五作という男が住んでいたんじゃ。
 その年はな、夏の終わりからずうっと寒うてな。
 秋になっても作物がとれず、そのまま冬になってしもうたものじゃから、
 死んでしまう者も、それは大勢おったんじゃとな。

 ああ、こりゃあきっと神様が怒っていなさるんじゃと、皆噂したんじゃとな。
 村の田畑は、山を切り開いて作ったものじゃからな、
 こりゃあ山の神様が怒るのも仕方ないと、そんな話になったのじゃ。

 五作はな、女房をとうに亡くして男やもめじゃったとな。
 親もずいぶん昔に死んでしもうて、小さな息子と二人きりで暮らしていたとな。
 その小さな息子が、山の神様の生贄に選ばれたのじゃ。

 村の神主さんが、神様に聞いて選んだというがな、
 そりゃあ違うということは皆わかっておった。
 村で一番小さな子供なら、地主さまの家の娘じゃったし、
 五作は村一番の貧乏じゃった。
 しかし、自分の子供を取られたくねえもんだから、
 みな、五作の息子を差し出そうとしたんじゃ。

 五作もナ、子供をやりたくなかった。
 でもな、子供をやらなけりゃ、村の衆に田んぼを取り上げられてしまう。
 そうしたら、もう生活できなくなってしまう。
 五作は泣いて子供に謝ったとナ。

 「すまねえ、すまねえ、父ちゃんを許してけれ」

 そう言って泣いて謝ったとナ。

 昔々ナ、こんな雪の強い日じゃったとナ。
 五作の息子は、雪の原っぱに、一人で放り出されたとナ。

 そうしてその夜にナ、雪は止んで、雨になった。
 村の衆はそれは喜んだんじゃ。
 雨はな、その晩ずうっと降ってな、積った雪を全部溶かしてしもうた。
 山奥の村は、雪崩で滅んでしまったということじゃ。
 ――ドントハレ(おしまいおしまい)


……アレ。寝てしもうたか。


(少し間を空けて、ぽつりと)

……昔々ナ、こんな雪の強い日じゃった。

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最終更新:2010年10月20日 01:04