ブレイクタイム


俺は美人が好きだ。物憂げな美人がいい。
いかにもつまらなそうに冷めた横顔を見せる、そんな美人がいい。
この世の全てを憎んでいるような、そんな美人がいい。
明るく可愛い美人ももちろんいい。グラビアページでお目にかかるなら、迷わずそっちが
いい。
胸が柔らかなまろみを帯びていればなおいい。乳はいい。実にいい。
……話がずれた。ともかく、そんな美人もいいが、今は冷たい美人を見ていたい。
ストレートの長髪を面倒そうに耳にかけている、ダッフルコートの似合う美人がいい。

こうも発想が直接的なのは、もちろんモデルがいるからだ。
朝夕、高校の制服を着た彼女はバスの座席に座っている。
二人掛けの椅子に、つまらなそうに。隣りの席には通学バッグを乗せて。
全くの乗車態度だったが、彼女のにらみつけているような視線はある意味、いかにも不良
然とした女よりも迫力があり、そんな彼女に「隣り、空いてる?」などと聞く猛者は、滅
多にいなかった。

俺は狭い車内で、彼女が見える席をとる。
彼女はじっと窓の外を見ている。ように見えるが、雪の日の曇ったガラスでも、彼女は同
じように振舞っていた。
ある暗い雨の日、そんな風にしている彼女と、目があった。
少し曇った暗いガラスごしに、彼女は俺をにらみつけていた。あわてて顔を逸らしたが、
彼女はなんの動作も見せなかった。
目があった気がしただけだった。彼女がにらんでいたのは、彼女自身の顔だった。

ビリビリと古いゴムタイヤから流れる振動が響く。もうすぐ目的地につくはずだ。
俺が立ち上がった後ろで、「隣り、空いてる?」と、聞こえた。
運転席の正面のガラスに、あの美人に声をかける男の姿が見えた。
彼女は嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑って、通学バッグをよけた。
彼女の微笑は、明るく可愛い美人そのものだった。

リア充滅べ

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最終更新:2010年10月20日 01:01