「三枚目に憂鬱」

  • 吾作
  • 姫様
  • 家老


姫様01「お前、そんなところで何をしている。……泣いているのか?」
吾作01「ほっといてくれ!」
姫様02「どうして池を見て泣いているんだ?」
吾作02「見てみぃ。……水鏡に顔が映っとる。オラに嫁が来ねえのはこの顔のせいじゃ。
    兄ぃも、中の兄ぃも嫁が来た。オラはもう、家の中に立場がねぇ」
姫様03「顔は変えられぬのだぞ」
吾作03「わかっとるわい!」
姫様04「わかっていない。誰しも母上様から頂いたお顔じゃ。そんなことを申してはバチがあたるぞ」
吾作04「……お前ェ、見たことないおぼこだな。そんな綺麗なべべして、いいとこのお姫様なんだろう」
姫様05「わしは……」
吾作05「なあ、ならお姫さんはオラみでな男と結婚できるンか。できっか?ほら、どうだ。
    ……無理だろう、なあ。いいんじゃ、それが普通なんじゃ」
姫様06「……ならばわしは、普通でなくていい」
吾作06「へ?」

姫様07「……ということがあった」
家老01「なんでござりますかその軟弱な男は!!だめ、だめだめ!だめですぞ姫様!じいは認めません!!」
姫様08「しかし、約束した」
家老02「姫様。姫様は、中代(なかだい)の若君との婚姻も控えておるのでございますよ。
    その男だって本気にはしとりませんでしょうが……しかし、もしもということがござります!
    姫様の身に何かあっては、このじい、大殿様にも、今は亡き女御(にょご)様にも合わす顔がございませぬ」
姫様09「……しかし、約束を違えては地獄の閻魔に舌を抜かれてしまう」
家老03「……は?」
姫様10「地獄の閻魔にじゃ!じいもいつも言っておろうが。
    嘘をつくと針山地獄に落とされて、閻魔に舌を抜かれてしまうと!」
家老04「そ、それは……姫様、それはそれでございます」
姫様11「何がそれはそれだ、わしは舌を抜かれとうない!」
家老05「姫様。……よいですかな。地獄というものは、その……死んだ者が行く場でございますので。生者には見ることができず……つまり生者の夢想であるという学説もあるにはございまして」
姫様12「つまり……夢物語ということか?どういうことじゃ!寺の坊主が嘘をついているのか!」
家老06「姫様!嘘も方便という言葉がございます。まさしく、今の使いようにあっているのではと」
姫様13「うるさい!そう言って煙に巻くつもりじゃろ、へんくつじい!
    わしは絶対、あの男と結婚してやるからな!」
家老07「無茶を申されないでくださりませ!ああ大殿様に知られ申したらどうなることやら……」

吾作07「ああ、今日も疲れた。昨日少しさぼったってんで、余計に任された。
    背はきしむし腰は痛い。ああ嫌じゃ嫌じゃ。
    しかし、昨日の妙な子供はなんだったかのう?夢でも見とったか、池の精かなにかか」
姫様14「じい、じい、止めろ!!」
家老08「無茶です!後続があるのでございますよ!」
姫様15「ええい退け!」
家老09「なりませぬ!あああっ……」
吾作08「なんじゃ?騒がしいわいな。ああ……隣りのあぜ道に行列が通っとる。大名行列か。お輿入れか」
姫様16「おい!おい、そこの農民!」
家老10「そこらは大抵農民でござります!」
姫様17「おいそこの……ブ男!三枚目!昆布の干したような顔!」
吾作09「くくくっ……誰か知らんが、ひどい言われようじゃな」
姫様18「おい聞こえぬのかそこの青い手ぬぐいと豆絞りの二枚重ね!!!」
吾作10「青い手ぬぐ……オラかぁ!?」
姫様19「お前のほかに誰がいるか!」
吾作11「ああ!てめえは昨日のおぼっこ!てめえ俺になんのうらみがあるか!村の晒しものじゃなか!」
姫様20「うるさい!お前、名を名乗ってもいないじゃないか!!」
吾作12「オラかて、てめえの名も知らんわ!」
姫様21「……霞じゃ」
吾作13「へ?」
家老11「ひっ、姫様!なりませんぞ!」
姫様22「うるさい、わしは霞じゃ!名乗らせておいてお前は名乗らんのか、このブ男!!」
吾作14「うっせえ!オラは吾作じゃ!」
姫様23「ごさく。ごさくだな、覚えたぞ!!覚えておけ、ごさく!!」
吾作15「何がじゃ!こら、人をおちょくりおって!!!おい……」

家老12「……姫様。どうしてあのようなことをなさったのでございますか。
    姫様のような高貴な方にとって、名を語るというのは重要な意味のあること。
    悪意のある占い師の手にかかっては、
    その名前を呪いの拠り代として使われる危険すらあるのでございますよ。
    それゆえに女人は、その名を実母と婚姻する殿方にしか伝えぬのです」
姫様13「……言わせるな」
家老24「姫様」
姫様25「言わせるな、じい」
家老14「相手は農民でござります……姫様のお心遣いの意味すら、知りませんのに」
姫様26「……」
家老15「さあ、姫様、御髪(おぐし)をお整え下さいませ。
    もうすぐ、中代様のご領地に着かれます。もうしばらくの辛抱でございますから」


お題:三枚目ボイスのある台本
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最終更新:2010年10月21日 12:18