子連れ狼×2

狼A:薬売り。武家出身。父の仇討ちの免状を持つがやる気は無しに行脚中
狼B:浪人侍。不況により失職した元藩士、主君を求め行脚中。乳母車担当
坊 :神社の拾われ子。母をたずねて行脚中。坊じゃない、もう大人だ!!的少年
役人:お主も悪よのう系悪代官
父 :宿屋の主人
娘 :宿屋の看板娘
話し手:時代劇調天の声(ナレーター)


【一、登場】
話し手01「御代(みだい)様のご威光華やかなりし、花のお江戸のその都。
     詳しき時は存ぜずとも、ここに一匹の獣がいた。
     腕には手押しの乳母車、乳飲み子の母よいずこと花のお江戸をぐるり旅。
     回ってみれば、あれ、花も散り実も腐り、悪逆非道のまかり通りの有様よ。
     腰に二本の刀をさして、許せるべきかこの悪行。
     並居る悪代(あくだい)、悪地主。斬っては斬って、また旅へ。いつの間にやら有名に。
     孤高の狼ひとり侍、人呼んで、子連れ狼――!」
A01「なァ、子連れ狼って俺達がかァ?」
B01「さあ。少なくとも、【ひとり】ではないな」
話し手02「コホン……孤高の子連れ、男ふたり。人呼んで、夫婦(めおと)狼――!」
A02「Darling!!」(ダーリン)
B02「はねえ!」(ハニー)
(しっかと抱き合う二人)
話し手03「――無論、そんな訳はなかった」
(ずざー)
A03「ペッ、当たり前ェだ」
B03「ところで、はね……とは何の事だ?」
A04「意味もわからず言ってたのかよ学無し。Honeyってのはな、イギリス語で蜂蜜だ」
B04「蜂蜜か。……なぜ蜂蜜が出てくるのだ?」
A05「馬ァ鹿。蜂蜜を塗ったような、甘くとろける関係だという意味さ」
B05「なるほど、そういう意味があるのか。
   異境の文化はわからんな。蜂蜜なんぞ塗りたくったら気持ち悪かろう」
A06「アンタは興ってモンも何も無いねェ、野暮天」
B06「粋とぬかしてふらふらしているのよりましだ、エセ・インテリジェンスめ」
A07「無粋が過ぎて、お殿様にふられ続きなのは、どこのどなたさんでしたかねェ」
B07「ぐ。……それを言われるとちと辛い。しかし某、これしきの事では挫けぬ。
   この世のどこかには某のありのままを受け止めてくれる主君がきっといるはず。
   その出会いに感動する為の試練であり鍛錬の場と思えば、なんのこれしき!」
A08「アア、あとはも少し現実の見える目を持ちゃ完璧だ」
坊01「おーい、あんたたちーー!!」
A09「ん?」
坊02「門入りの順番が来たんだよ、さっさと列の前まで来なよ!」
A10「オウご苦労、坊。早ェな」
坊03「そりゃあ早いだろうね、俺に朝早くから並ばせてさ」
A11「拗ねるなよ。なんだァ、寂しかったのか?」
坊04「寂しかねぇよ!大の益荒男二人で、人をこき使ってっていう話をしてんのさ」
B08「そうは言うが……」
A12「【居候】だもんなァ……?」
坊05「な!」
A13「何年もタダ飯たかった借りはでかいぜェ?坊」
坊06「赤子の頃までで換算してよ、守銭奴商人。
   両足で立てるようになった途端、さんざこき使ってやがるくせにさ」
A14「へェへェ。せめてものお慈悲に、こき使うのは子供の時分だけにしてやるよ」
坊07「もう子供じゃねぇや」
A15「子供だろうさ。まァだ尻にお毛々も生えてねェくせに」
坊08「ねー、この人が品の無い事言うよー」
B09「なに、気にするな次郎坊(じろぼう)。……某も生えたのは大分遅かったでな」
坊09「あんたら下品だ!」
A16「ひゃっひゃっひゃ」
話し手04「とにもかくにも、花のお江戸を行く道小道曲がり道
     でこぼこ漫才二人組、坊主の手を引き参ります。
     珍道中記のはじまり、はじまり」


【二、門前】
役01「ウム。行ってよし、次の者――」
坊10「やった、ちょうどに間に合った。あ、おじちゃん番ありがとうね。ね、お礼銭」
A17「ヘイヘイ……うちの糞餓鬼がどうもね、お兄さん」
坊11「餓鬼って言うな、糞商人」
役02「ウォッホン!……次の者、素性を述べよ」
A18「おっと……へえ、手前ども、こういった……」
(紙を渡す)
役03「ム、これは……仇討ち免除か」
A19「へえ、手前の父の仇を追っております」
役04「格好がどうも商人のようだが……」
A20「敵もしたたかなる者でございますゆえに。もちろん、見せだけでございます」
役05「ウム、薬商売は厳禁であるぞ。では貴様が、この訴状の……つ…ち…?」
A21「土御門屋敷方三郎(つちみかどやしきがたさぶろう)でございます」
役06「これをそう読ませるのか?」
A22「へえ。なにぶん当て字というヤツでございまして」
役07「フム。貴様の素性はわかった。そちらの連れはなんだ?」
A23「それは手前が雇いました、浪人でございまして。用心棒でございます」
役08「なるほど。その子供はなんだ?」
A24「へえ。これも手前どもに縁のある子供でございまして、
   同じく仇を討つため、旅に同行させておるのでございます」
役09「フム。で、その赤子はなんだ?」
A25「赤子……?」
役10「その浪人が引いている乳母車の中身だ!」
A26「え……え、ええ、はぁ。実はその……おい、中」
B10「はっ。この通り……」
A27「荷車代わりでございまして」
役11「フン……たしかに、荷物だけのようだな。紛らわしいことだ」
A28「申し訳のうごぜえます」
役12「免除はこちらの役所に必ず預けうること。
   そして仇討ちの他、私闘はご法度、よいな」
A29「へえ、お許し、ありがたく、ありがたく」
役13「行ってよし。次の者――」
坊12「何さ、あれ。いばりやがって」
A30「静かにしてろよ糞餓鬼、ただでさえ俺ら目立つんだから」
坊13「わかってるよモグリ商人。……乳母車が、でしょ」
A31「なァ。そろそろ捨てないか、それ」
B11「タマが聞いている、やめろ」
A32「気に入ってるならとめねェ、だがな、猫みたいな名をつけてんじゃねェよ」
B12「畜生と一緒にするのはよせ、玉の輿だ」
A33「玉の輿ってな……」
B13「坊とてこのタマが育てたのだぞ。
   運搬の素晴らしき良さ。このありがたみを知っては、もう両手持ちには戻れん」
A34「堪え性のねェ侍だね」
B14「なんとでも言え」
坊14「言っても無駄だよ。このことだけは、お勝(かつ)さんどうしたって譲らないんだから。
   それより宿!早く行こうよ、俺疲れたから休みてぇや」


【三、旅籠】
坊15「ふわぁ~……あれ」
娘01「あら。坊や、遅いお起きねえ。着いた早々グースカ寝ちゃってさ」
坊16「今……夕方?」
娘02「灯り、ここに置いておくからね。火には気をつけておくんなよ、坊や」
坊17「坊やじゃねえよ……」
娘03「あははっ、あたしから見たら下じゃないさ」
坊18「年増と一緒にすんなよ。あてっ」
娘04「口の減らない坊主ねえ。あんたのお父さんとはえらい違いだわ」
坊19「お父さんって……侍のほう?」
娘05「そう、老けてるほう。違った?ご兄弟?」
坊20「アカの他人。神社で拾われたんだ、俺」
娘06「へえ、いい人らに拾われたのねえ」
坊21「で、お勝……あの人、なんてったの?」
娘07「コホン……【お美しいお嬢さん、某の生涯の伴侶になり申しませぬか…】
   なーんて、お連れさん口うまいのねえ!」
坊22「……本気にしちゃ、だめだよ」
娘08「あらやだ、あんた妬いてんの」
坊23「バカ、ねーちゃんのためだよ。あの人いつだって本気なんだから」
娘09「やだ、そんなわけないでしょ。いくつ年が離れてると思ってんの。
   あたしだって、あんたくらいの子がいそうな亭主なんてやーよ」
坊24「で、その人、どこ行ったの?」
娘10「出てく前に、飲み屋の場所を聞かれたから、お酒じゃないの?」
坊25「ああ……もう一人は?」
娘11「どっちもよ。二人で連れ立ってったわ」
坊26「……二人とも?」


【四、飲み処】
B15「――御免」
A35「お、開いてた開いてた。姉ちゃん、二人ね。何にするかな……」
B16「娘さん……貴殿の美しい涙色の角(かく)……」
A34「アアお姉ちゃん、気にしなくていいから。とりあえず酒。地酒ある?いいねェ、じゃ一人前。
   それと梅昆布。あとウナギの焼いたの」
B17「おい、なぜ某の出会いの目を摘む。人生一期一会、会うは一生、系藩(ケーバン)聞くは一時の」(※系藩:出身・家筋)
A35「真面目な話をしに呼んだからだ」
B18「そうなのか?」
A36「じゃなけりゃ誰が酒なんざ奢るか」
B19「ふむ……たしかに貴様は成人した折も、一滴も飲まぬな。少しは嗜め、酒は良いぞ」
A37「近くに嫌な見本がいりゃ遠慮したくもならァ。マアそりゃいい、話したいのは坊のことだよ」
B20「あれがどうした?……おっ」
(酒が置かれる)
A38「アア、どうも。ほら、杯よこせ」
B21「なぜ親父が運んでくる……」
A39「親心だ、察しな。……とっとっと」
B22「ふん、残念ながら某、子を持ったことは一度もない」
A40「持ったようなもんだろ、あんなになつかれて」
B23「なつかれているわけではない。貴様はからかいがすぎるからあれに嫌がられるんだ」
A41「はいはいはい……で、あいつもそろそろ、学をさせるような歳なんだが」
B24「ああ……もうそんなになるのか」
A42「ああ、早いもんだ」
B25「そんなに……某が暇を出されて、そんな……あああ……」
A43「それはあとで話し合おう。で……どこかに預けるか?」
B26「……預ける?」
A44「だから、寺とか……金がありゃどこか弟子入りでもさせてやれるんだが」
B27「なぜそうなる?文字だろうと算学だろうと、貴様が覚えさせればいいだろう」
A45「そりゃ……人間誰しも、箔ってもんが必要なんだよ。
   アンタだって、藩校通いしたから、藩士やれたんだろうが」
B28「まあ劣等生だったが」
A46「想像はつく」
B29「そうか……貴様はあれの将来をそういう風に考えていたのか」
A47「まあ……生まれてずっと、男二人と旅暮らしってのもあれだ」
B30「たしかに、多感な時期に同性と長らくをともにすると、異性への憧れがひずみを起こしてしまうからな。
   やれ、おなごに夢を抱く男とは情けないものよ」
A48「アァそりゃわかる。どこかの誰かさんも、男だらけの兄弟だったそうだ」
B31「そうか……なぜ俺には嫁が来ぬ」
A49「あ?」
B32「嫁じゃ、嫁!二十を過ぎたこんな良い男をだ、一人にさせておいていいのか?どうなんだ!」
A50「あ。アンタ人の分まで、飲みやがったな」
B33「プハァ、へっ、飲めない男相手じゃ酒も可哀想だ。
   世間のおなごの冷たきこと。
   みなし児を連れた好男子だぞ、その悲哀に惚れぬおなごもいておかしくなかろう!
   あれを拾った時など一時はそんな妄想が駆け巡ったわ!」
A51「そんなこと考えてたのか」
B34「お主とてお主だ!本気で仇敵を捜す気があるのか!何が土御門屋敷だ、主はどこのまじない師か!
   役人に名前を誤魔化してどうするか!アア!?」
A52「イヤ……あの関所通るのも四度目なんで、流石に外聞がさァ。
   まだ見つけてないの?っていう目がさァ」
B35「なんだと、俺だって同じだ!」
A53「マア……そうだろうけど」
B36「なのに一度たりとも、
  【お主と門前で合間見えた時から気になっておった。
   それがまた遭えるとは、そして主もいないとあらば、ぜひ我が城にて…】
   なんて展開になったことはない!」
A54「わかった、わかったから黙りなさんな。ほら、店の姉ちゃんも仰天顔してる」
B37「ヘッ、酒の席の喧嘩は江戸の華よ、なにが珍しいか。ほれ、ほれ、見よ、見ればいい」
A55「アア、そりゃ珍しくない。だがな、皆様の目が面倒くさいのが来た感丸出しになってっから、な?
   正直、引いていなさるから。あれだ、こう……痴話げんかを見てるような」
B38「馬鹿かぁ、なぁにが、痴話げんかだ!飲み屋で愛なんか語れるか!
   誘って居酒屋に来るおなごなんざ商売女くれぇ……」
娘12「誰か!助けてください!!」
B39「……江戸も広いな」
A56「ああ、広いねェ。こりゃ、宿屋のお嬢ちゃんじゃねェか」
娘13「あ……お客さん!」
A57「どうしたんだい、お店の人がえれェ驚いてるぜ」
娘14「お客さん、良かった!お連れの坊ちゃんが……」
B40「奴が何か?」
娘15「坊ちゃんが、急に外に飛び出していかれて。あたし、あとを追いかけて、ようやっとここまで……」
A58「なにィ?」
娘16「坊ちゃん、最初はお二人の様子を見てくるって出てったんです。
   なんですけど、すぐに血相を変えて戻ってきて、お客さん達の荷をひっつかんで、出てっちまったんです」
A59「まさか……」
B41「聞かれたな」
A60「お嬢ちゃん、暗いとこありがとうな。アンタは誰かに家まで送ってもらんな。
   なに、すぐ首根っこ捕まえてくるさ」
娘17「あの、そうじゃなくて……宿代、払ってもらいたいんですけど」
A61「えっ?」


【五、裏通り】
坊27「ハァ、ハァ、ハァ……ったく、重いんだよ、これ……ん?
   うわっ、まずっ!いつものクセで……ああ、こりゃ返さないと殺されるよ。
   ……馬鹿でぇ。飛び出したって、なんにも変わらないじゃねえか。
   あの人たちが毎度こき使うからだよ、だからいつもみたく、荷物、全部持ってさ……」
父01「そんな、お話が違いまする!」
坊28「……?」
役14「何が違うか?壽屋(ことぶきや)」
坊29「宿屋のおっちゃんじゃないか。それにこの声……あのいばり役人!」
役15「拙者は上納金の未払いを指摘しているだけである。この市で商いをするもの、全て国に赦しをえて…」
父02「た、たしかにそうではございますが……年稼ぎの三割など、暴利ではございませぬか。
   鳥取様は、そのような……」
役16「鳥取?ほう、壽屋。今の防人(さきもり)が誰か分かっていない様子」
父03「そ、それは貴方様でございます」
役17「そう、この敦盛(あつもり)だ。ならば、従うてもらおう」
父04「ですが、市にも慣習というものがござります。我々もこの不況の折、苦労しておるのでございますゆえ、
   なにとぞ、なにとぞ、お慈悲を……」
役18「なるほど。主が町民の代表というわけか、壽屋。これは、上告か」
父05「い、いえ……しかし、もしお考えいただけぬのならば……それも辞さない覚悟で参り申しました。
   なにとぞ、お考え下さいませ!」
役19「フム。なるほど、よくわかったぞ、壽屋」
父06「な、ならば……」
役20「お主には口をつぐんでもらう……一生な!」
父07「ひ、ひぃぃっ!」
坊30「そーれぃっ!!」
(水バシャッ!)
役21「わっぷ!ゴホッ、ゲホッ、ゲホッ……!」
坊31「おっちゃん!」
父08「お前、客さんの坊主……」
坊32「いいから逃げんぞ!」
役22「ゴホッ……おい、待て!!」

坊33「ほらおっちゃん、早く、早く!!」
父09「ま、待っとくれ、こっちは……」
坊34「だらしねえな!……あり?あり、行き止まり!?」
父10「だ、だから……止まれって言ったんだ……」
坊35「聞こえねえよ!」
役23「お前ら、鼠どもは袋小路だ、静かにやれよ」
父11「ひぃっ」
坊36「あいつ、仲間集めてきやがった……」
父12「ナ、ナンマンダブ、ナンマンダブ、ナンマンダブ……」
坊37「おっちゃん、あきらめんなよ!あいつらくらい……俺がなんとか……」
父13「坊や、無茶なことはするな、あいつらだって、話せば、きっと……」
坊38「馬鹿、さっきだって死に掛けたんじゃないか!」
父14「じゃあどうしろっていうんだい!あいつら相手に、こっちは子供だけだぞ!かなうわけがないだろうに!
   ああナンマンダブ、ナンマンダブ……」
坊39「……畜生」
役24「なっ、何をする!!」
坊40「?」
A62「何してんのかねェ。奴の切っ先は早すぎて目に留まらねェや」
坊41「えっ……あ!!」


【六、参上】
A63「どうも頂けねェんじゃないかねェ、私闘ってヤツは。ねェ、お代官様?」
役25「貴様ら、何者か!」
B42「あいにく、名乗る名は持ち合わせておらぬ」
役26「ハッ、貴様は関所で遭った乳母車侍!?」
B43「……なぜだ」
A64「そりゃ……引いてるからねェ、乳母車」
役27「フン、主は土御門だったか?朝から怪しい一味と思っていたが。
   覆面の上、名乗りもせず……貴様、それでも侍か!」
A65「悪いが侍は廃業中でね」
B44「求職中だ!」
役28「ええい、お前ら、斬れぃ!……え?」
B45「……勿体無い。よい筋肉がついておるのに、近ごろは贅肉もついてしまっているな」
役29「あ?あ……あああああああああああ!!!腕、腕が、腕がああああ!!」
B46「剣術にもまこと励んだのだろうに……ああ、よき上腕二等筋」
A66「じろじろ見てないで返してやれよ」
B47「ああ……良い医者にかかれよ」
役30「あ……あああ、おま、おまえら、斬れぃ!斬れえええぃぃぃ……っ」(ガクッ)
A67「馬っ鹿なァ、失血してるのに騒ぐから。アンタら、さっさと医者連れてってやんな」
B48「ム……?」
A68「おい、なんだァ、侍に敵わないとなりゃ、商人が標的かよ、あーあ、やだねったら」

(銃声)

A69「やだねえ。……なんでェ、驚いた顔して、そりゃ侍じゃないんで刀は持たねぇがね。こいつで結構。なあ、ハニー?」

(銃声)

B49「ぐっ……おい、音が高いぞ!わっ!」

(銃声)

A70「たーまやー……あーあ、ひでえ声でなきやがって。唐物(からもの)掴まされたかねェ。
   でもほれ、残りも蜘蛛の子散らしてったぜ」
B50「耳が痺れる。武士ならば」
A71「武士?」
B51「男なら刀の一字!」
父15「は……はは……た、助かった……おい坊や、助かったぞ!」
坊42「……坊やじゃねえ」
父16「はは、はは!お連れさん強いなあ、ははは!」
坊43「……ハア」
A72「おいそこの糞餓鬼、これに懲りたら……」
娘18「きゃああああ!!人殺しぃぃ!!!」
父17「おっ、おトメ!」
娘19「おとっちゃん、おとっちゃん、大丈夫!?」
父18「おトメ、違うんだ、この人達は……」
娘20「その人達、宿代踏み倒したんだよ!あたしを振り切ってったんだ!」
父19「なんだって!?」
B52「まずいな」
A73「坊が荷ィ持ってンだろ」
B53「違う……今のと、さっきの銃だ」

(警戒音)

坊44「ごっ、御用役人!?」
A74「うひゃあ」
B54「にやつくな。誰のせいだ」
A75「はいはいはい。ほれ、立てよ糞餓鬼、逃げンぞ」
坊45「おっ、俺は、だって……」
A76「ヘッ、なんだ、腰抜かしたかァ?それともチビったのかァ?」
坊46「チビるか!餓鬼でもねえ!」
B55「親子喧嘩はそのへんにしろ」
A77「誰が親子だ!」
坊47「誰が親子だ!」(合わせて)
B56「……似ているじゃないか」
A78「うるせえ、こんなこまっしゃくれの親父なんて御免だ」
坊48「うるせえ、こっちこそこんな嫌味ったらしい親父なんて御免だ!お勝さんならともかく!」
B57「坊……コブ付きではおなごがよりつかん」
坊49「くっ……」
A79「ひゃっひゃっひゃっ」
父20「お役人様、こちらです!!」
B58「おい、まずいぞ、走れ!!」


【七、境内】
A80「ふぁ~ぁ……あいてて、雑魚寝は背骨が軋まァ……」
坊50「セイッ!セイッ!!たぁっ!!」
A81「……なんだ?」
B59「ああ、起きたか」
A82「ああ……朝っぱらからなに張り切ってんだ?」
B60「素振りだ。……今で、三十と一だな」
A83「なんだ、剣術やらせンか?」
B61「あれから申し出てきた。……昨夜のことが、少し応えたらしい」
A84「それはそれは、朝からご苦労なことで……ふぁ~ぁ」
B62「おい、寝直すな。起きたなら交代してくれ」
A85「アァ?なにを?」
B63「武術指南だ」
A86「アンタがやりゃ済むだろうが」
B64「いや某、武芸の型(かた)は、その……なにせ幾年も放浪の士であった故な!ははは!」
A87「野暮に加えて、鳥頭たァ救われねェ」
B65「型は体に叩き込むものであるからして頭は……まあいい、頭でっかちの貴様なら覚えておろうが」
A88「ったくよ……武芸十八般なんてガキの頃っきりだぞ……」
B66「とりあえず、素振りだけ五千やるよう申し付けたが」
A89「ご、五千!?」
B67「少ないか?」
A90「多すぎだタコ!あいついくつだと思ってんだ!」
B68「何を言うか、某の頃は倒れるまでと申し付けられた」
A91「倒れられたら日取りが合わねェ、今日中に街道抜けンだぞ」
B69「貴様は、そうやって子を猫かわいがりすぎるところが感心せん」
A92「なんだよそりゃ、だから俺ァ日取りを……」
B70「昨夜とて、あそこでガツンと一発かと思いきや……
   そもそもあの騒動にしろ、貴様が立場を決めかね腑抜けているから起こった事態だろうが。
   何が寺だ、武家の男をなんとする気だ」
A93「だってさ……アンタだって、無関係じゃないか、なのに……」
B71「無関係も糞もあるか。親に習わなかったのか、拾った犬は最後まで面倒を見ろと。
   某も武人、己に半端は許さん」
A94「俺ァ……アイツにゃ余計なことさせたくねェんだよ」
B72「腐っても嫡男だろう」
A95「帰る家もなきゃ、ねェも同じだ」
B73「そういうことをな、貴様も素直にあれと差し向かって話すべきだ。あれも貴様と同等の責がある。
   子のない某が言えた話ではないが、たとえ一発あてただけだとしてもだ、その一発は重い。
   その偶発さえも、人の、いや一夜の女体の神秘であって」
A96「ああもう、うるせぇ!!」
坊51「あんたらどっちもうるせえよ!!」
A97「あっ」
B74「あっ」
坊52「なんだよ、人に汗かかせといて楽しそうに……なに?二人して間抜け面して」
A98「あ……いや、その、な、何話してたっけねェ、お勝(かつ)さん?」
B75「いや、その……そうだ、女体の神秘だ!」
A99「そ、そうだそうだ、女体の神秘、女体の神秘!」
坊53「バッ……馬鹿じゃねーの、朝から何の話してんだよ!」
B76「馬鹿とは何事だ!次郎坊、貴様はまだ幼い故わからぬかもしれんが、男というものは、むしろ朝こそ」
坊54「やめてよ、汚い」
B77「汚……!? おい坊が反抗期だぞ、おいなんとか申せ、おい!」
A100「はいはいはい……」
坊55「ったく……だから、こんな大人達にゃ任せちゃいられねーんだよ。
   俺、すぐ強くなって、お勝さんみたいに用心棒もできるようにするからね。
   借金返しても釣りがくるくらい稼ぐからさ」
A101「……ケッ、尻の青いひよっこが偉そうに」
坊56「うるせーよ!」
B78「坊、お前、そんなことを……」
坊57「お勝さん……」
B79「よくぞ言ってくれた。今も……青いんだな?しかしだな、それは皮膚の病ではなく……」
A102「くっ…ひゃっひゃっひゃっ!!そ、そりゃあ困ったなァ、坊!!」
B80「おい、笑い事ではないぞ!尻はな……」
A103「ひゃっひゃっひゃっ」
坊58「……こういうふざけたところが嫌なんだよ。見てろ、すぐあんたらから自立してやるからな!!」


【八、退散】
話し手05「さて、朝日を背にそそくさと、立つ跡(あと)濁(にご)して揺れる影。
     あぜ道横道いばら道、母を訪ねて幾千里と、坊主の手を引くそのふたり。
     女(おなご)を追いかけ十三里、女(おなご)に捨てられ十六里。
     それが男よ獣よと、かくも縁なく参ります。噂ばかりを膨らませ、お天道様様もお呆れだ。
     御代(みだい)様のご威光華やかなりし、花のお江戸のその都。
     詳しき時は存ぜずとも、ここに三匹の獣がいた。
     腕には手押しの乳母車、孤高の狼三侍(みつざむらい)、人呼んで、子連れ狼――!」
坊59「誰が子だ!」
A104「……いいかげん乳母車捨てねェか」
B81「断る」
話し手06「――To Be Continued」(トゥー・ビー・コンティニュード)



(【零、蛇足】)
(神社、雨、赤ん坊の泣き声)
B「おい……子供か?」
A「アァ……子供、だな」
B「捨てたのか……今日は神社は休みではないか?」
A「閉じてるから、そうだろうな」
B「やはりそうか。出世祈願を願いたかったのだが。ん……ほれ、食うか?食え食え、食わぬか」
A「揚げ饅頭は食わねえだろ」
B「食わず嫌いめ。じゃあ貴様でも食っておけ」
A「アァ、どうも……なんでそうなる?」

A「(租借)……旨いね、これ」
B「……おい、寒いぞ、死ぬぞ」
A「赤ん坊はしゃべらねえよ」
B「おい、乗るか?」
A「……連れてく気か?」
B「流石に寒いからな」
A「アンタ、育てるンか」
B「赤子など、放っておいても育つんだろう?」
A「いやいやいや待て待て待て……」
B「ほれ、泣くな!男なら泣くな!……男か?…………男だな」
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最終更新:2011年01月07日 19:55