ペヤングだばあ
さよならペヤング、視点変更)


――その日は、朝から雨が降っていた。そんな天気だから余計にシケった気分になる。
店の主人もぶすっとした顔をして、新聞を読みふけっていた。そうでなくても、彼はいつも機嫌が悪い。
ちょうど機嫌が悪い時にあたって、くっきりと靴跡がつくまで踏みつけられた子もいた。
あれじゃ使い物にならなくなる。……その子はどうしたんだったか。
最近は、あまり記憶がはっきりしなかった。毎日が雲の色、重い灰色、錆びの色。
ざあざあ、ざぶざぶ、雨の音が遠い。寒くて、全身が固まる。

誰かが入ってきた。コートからぼたぼたと水滴が落ちる、濡れ鼠。
主人はいやな顔をして、その客はすまなそうに店の中を見て、少し戸惑っていた。
この店は、外から見れば、小さな本屋か何かに見えたのだろう。客は、雨宿りのつもりでかけこんだろう、ご愁傷様。
主人の視線に耐えられず、その客は店の中を、手早く物色して、そして、選んだ……私を。
客はさっさと主人に紙幣をだし、馬鹿にされたような高い傘も買い上げた。
客は濡れないようにと私を抱きあげ、傘を差し、猛然と駆けだした。
ちょっと、私は賞味期限切れですよ、売れ残りですよ。全く、ちゃんと選ばないから。
いつもならそんな悪態をついてやるのに。ああ、空が高い、地が広い。馬鹿みたいに胸が温かい。
あの時の思い出があれば、殺されたって文句は言わない、そう思ってた。今だって……

暗い水の中を、私はご機嫌で流れていく。あの時の貴方の顔ったらなかったね、って。


お題:ペヤングだばぁする台本(無理でした)

タグ:

朗読
+ タグ編集
  • タグ:
  • 朗読

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年10月20日 00:58