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『薄暮の幻霊』

A:女性。噂に囁かれる天使様。
B:男性。通りすがりの旅人。
C:男性。天使様を探す一人。
D:男性。天使様を連れてきた人。
E:女性。天使様として連れてこられたただの人。
F:男性。天使様の研究をしている学者。
*:天使様を探す群衆。


A01『さようなら。さようなら。さようなら。お願い。私を探さないでください。私を思い出さないでください。私を、そっとしておいてください。……見えないけれど、わたしはここにいるから。聞こえないけれど、わたしは笑っているから。触れられないけど、わたしは幸せだから。だから。だから。さようなら。さようなら。さようなら』

(*はモブ。モブなので賑やか且つ主張しすぎないこと。モブなので一人何役でも可)
*01「ああ、天使様、どうか我々の前に姿をお見せください」
*02「いったいどこにいらっしゃるんだ」
*03「南の方はもう探しつくしたんだって?」
*04「ああ。だが昨日も天使様を見つけることはできなかったらしい」
*05「天使様、どうかこの子をお救いください」
*06「そもそも我々に見つけられるのか?天使様の姿は人間には見えないっていうじゃないか」
*07「ただの噂だよ。それならなぜここに天使様の絵があるんだ?」
*08「天使様の歌声を聞くと不老不死になれるらしい」
*09「天使様の懸賞金がまた値上がりしたな」
*10「何でもさる国の皇太子が出資したとか」
*11「間抜けな皇太子様だ。いくら金を積んだところで天使様を手放す馬鹿がいるものか」

B01「あの、皆さん何をしているんですか?」
C01「うん?……俺たちはな、天使様を探しているんだ」
B02「というと?」
C02「なに、たいした話じゃないさ。ある日、どこかの誰かが一人の女の子に会ったと言った。別の誰かが自分も見たと言った。また別の誰かが自分は声を聞いたと言った。またまた別の誰かが自分も会いたいと言った。そのまた誰かが自分も探したいと言った。いつか誰かがその女の子のことを天使様と呼びだした。皆が真似をした」
B03「誰かって誰です?」
C03「俺たちが知っているのは天使様のことだけ、探しているのは天使様だけだよ」

*12「天使様は『見えないけれど、ここにいる』とおっしゃったそうだ」
*13「つまりまだこの近くにいるってか?ばーか、この辺はもう散々探したっての」
*14「だいたい、そのあと『さようなら』とも言っているじゃないか。どこか遠い外国にでも行ってしまったんだろうさ」
*15「こうも考えられるぞ。天使様は姿を変えて身を隠しているのかもしれない」
*16「馬鹿なこと言わないで。天使様がそんな性格の悪いまねするはずがないじゃない」
*17「地元の小麦がイナゴの群れにやられちまってなぁ」
*18「俺のところも年々土地が痩せていって……」
*19「こんな時、天使様がいてくだされば……」
*20「なあに、天使だかなんだか知らねえが、俺たちがあっという間に見つけてみせるぜ」
*21「へへへ、楽しみだなぁ。なんせ一生遊んで暮らせる金がもらえるってんだ」
*22「天使様の正体がただの人間だって?」
*23「しーっ、大きな声を出すな。聞く人が聞いたら俺たち殺されかねないぞ」
*24「そういえばさっき向こうの親父が似たようなことを喋ってたような」
*25「馬鹿を言え。天使様は300年は生きてるそうじゃないか」
*26「天使様に懸賞金がかけられたのはせいぜい10年前だと聞くぞ」
*27「そこだよ。俺は何か陰謀の臭いを感じるね」
*28「天使様の涙はルビーの輝きを放つという」
*29「お前、天使様を見つけたら何をお願いする?」
*30「そうだなぁ……。いっそ嫁さんにもらおうか。そうすれば願い事もかなえ放題だ」
*31「阿呆め。お前なんかに天使様がなびくかよ」
*32「天使様って、たしかとんでもない美人なんだろ」
*33「ああ。青々とした長い黒髪、潤んだ瞳、朱のさしたきめ細やかな頬にふっくらと赤い唇」
*34「天使様の外見的特長から鑑みるに、天使様は東方の生まれと考えていいだろう」
*35「では次に捜索隊を派遣するのは東ということに」
*36「待て。それはあくまで天使様が人間であるという前提での話だ。天使様の衣服はむしろ北方の部族の伝統的衣装に近い」
*37「祈られよ。さすれば必ずやお前たちの願いは天使様に届くだろう」
*38「天使様、どうかお父様を生き返らせて!」
*39「天使様」

D01「皆喜べ!天使様を見つけたぞ!俺の聞いたとおりの姿、聞いたとおりの声、聞いたとおりの人柄。間違いない、正真正銘、本物の天使様だ!」

*40「天使様?」
*41「馬鹿な」
*42「あれが天使様だって?」
*43「ただの人間じゃないか」
*44「しかし、確かに美しい娘だ」
*45「ではやはり天使様か?」
*46「ちっ先を越されたか」
*47「まだそう決まったわけでは」
*48「天使様ー、こちらに微笑んでくださいー!」

E01「あの、私、天使様なんかじゃありません。というか天使様って何ですか?私たまたま近くを通りかかっただけで、ただこの人に声をかけられただけで、その……」

*49「ほらみろ、天使様じゃないと自分で言っているじゃないか」
*50「天使様というのは我々人間が勝手につけた呼び名だろう?」
*51「天使様なら全てを見通せるはずだ」
*52「それにしても美しい……」
*53「朝露にぬれたような瞳、儚くも優しげな声」
*54「萌え~」
*55「彼女こそ俺の天使様だ!」
*56「天使様!」
*57「天使様、この子に祝福を」
*58「天使様、おらたちの畑に恵みの雨ば降らせてくんろ」
*59「天使様、どうか父を」
*60「異教徒どもに裁きの雷を」
*61「俺たちにもどうかお恵みを」
*62「じいちゃんが流行り病で死にそうなんだ」
*63「娘を返して」
*64「天使様、奇跡を」

E02「す、すみません、私そんなことできません。ごめんなさい。……ごめんなさい!」

*65「逃げた?」
*66「まさか。何かお考えがあるに違いない」
*67「ほれみろ、俺の思ったとおりだ」
*68「天使様が逃げるだなんて」
*69「俺、天使様をおどろかせちゃったのかな」
*70「もしかして僕の体の臭いが臭くて、天使様が」
*71「天使様はただの人間だったのか?」
*72「偽者だろ。どうせ俺らをだまして金を巻き上げようって魂胆だったんだろうさ」
*73「偽者?」
*74「天使様を疑うのか?」
*75「いや、しかし」

F01「皆、聞いてくれ!僕には全ての謎が解けた!少しの間僕の仮説を聞いてくれ」

*76「彼は何者だ?」
*77「ほら、国立大の」
*78「若造がなにを偉そうに」
*79「いったいなにが始まるのかしら」

F02「僕の予想では、先ほどの女性は天使様ではない、ごく普通の人間だ。しかし、彼女と天使様は全く無関係でもない。何故なら、彼女は噂で語られる天使様にあまりに良く似ているからだ。僕の予想が正しければ、おそらくはこうだ。かつて、ほんの数年前だが、どこかの誰かがこの街でひとつ噂を流したんだ。そう、まだ幼さの残る美しい少女の噂を。美しくもただの少女の噂はたちまち街中に広まり、やがて憶測や想像を取り込みつつ街の外へ、世界中へ。時には各国の神話や伝説を取り込んでいったのかもしれないね。とにかく、そうしてつくられたのが天使様という空想。そう、天使様はこの世のどこにも存在しない。ただモデルとなった少女が一人いただけさ」

*80「天使様はいない?」
*81「そんな。お父さん……っ」
*82「でたらめだ!あの男を異端審問に掛けろー!」
*83「でも確かにそう考えると納得できる部分もある」
*84「なんだ、つまらねえ話だな」
*85「あの女の人、可愛かったなー」
*86「天使様はいないんだってよ」
*87「参ったなぁ。おらの村はいったいどうすればいいんだ?」
*88「天使様がいないってことは懸賞金は?」
*89「ばーか、なしに決まってるだろ」

D02「なんだよ、そういうことかよ。でもま、モデルになった人に会えただけで良しとするか」

*90「帰らなきゃ。母さんを一人にしておけないわ」
*91「嘘だ。天使様はきっとどこかにいるんだ。あきらめるもんか」
*92「やれやれ、夢のない生活に逆戻りか」
*93「決めた。俺、さっきの人と結婚する。天使様じゃないなら俺でも嫁にできるはずだ」
*94「皇太子様に報告せねば」
*95「誰だよ、天使様だなんて言い出したやつ」
*96「これは陰謀に違いない。国はさっきの女性が天使様であることを隠そうとしている」
*97「おいおい、皆さっきの学士の言葉を信じるのかよ」
*98「もうどうだっていいよ、そんなもん」
*99「そんなことよりメシだメシ」

B04「皆さん、これからどうするんでしょう」
C04「さあて。天使様は初めからいなかったんだと信じる者、さっきの女を天使様だと信じる者、別の天使様を探す者、色々いるだろうさ。とりあえず俺は、もう疲れたよ。じゃあな」

A02『さようなら。さようなら。さようなら。お願い。私を探さないでください。私を思い出さないでください。私を、そっとしておいてください。……見えないけれど、わたしはここにいるから。聞こえないけれど、わたしは笑っているから。触れられないけど、わたしは幸せだから。だから。だから。さようなら。さようなら。さようなら』