銀車輪の上


「へいお待ち!」その一言にも様々な個性がある。
「ヘーイ、お待ちー」と居酒屋店員のような、アルバイト店員だけが口づてで受け継がれるというフレッシュな口調か。
はたまた「へい、お待ち……」と、おっと、余計なことは語らねえぜ? 食ってから判断してくれな、と、背中で語るような貫禄を見せるのか。
いや、「はい、お待ちどうさま」と一瞬 店に来たのも忘れてしまうような母なる優しさが現れるか。

寿司といえば、食材が大事というものもいるだろう。光モノのプリプリとした食感。赤味のじゅわりと染みる味わい。白身のさらりと澄んだまろやかさ。巻き物の濃厚でいて後をひくパンチ。そして、何者をも受け止めるつやつやとしたシャリ。
食材がほとんどの要素を決める、それが寿司だと。そう思うことは間違っていないだろう。
しかし、それが誰の手によって食材から寿司という芸術から芸術への昇華になるか。それは店主の、オヤジさんの力だ。
店主の「ヘイお待ち!」――その一言には、和の、日本の心が、店主それぞれの事細かな歴史が見えると、そう信じている。

さあ、そろそろ握りあがる頃だ、このすし屋は一体どんなフェイスで和の心を見せてくれるんだ?
そして、待望の瞬間。店主は言った。
「HEY、お待ちーアル!」……日本人ですらなかった。

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最終更新:2011年03月01日 00:05