ある英雄の話


作者:wikiの人◆SlKc0xXkyI

 一人殺せば犯罪者で。
 百人殺せば殺人鬼で。
 千人殺せば英雄様だ。

 よく言われるこの言葉。
 私自身、実際はそんなものだろうと思っていた。
 別に英雄になりたいと思ったわけではない。
 ただ、家族ぐらいはせめてこの手で、守ろうとしただけだった。
 だから殺した。殺し続けた。
 寝食を忘れて、息をするように殺した。
 大切なものを守るためだけに、その何倍もの人々を殺してみせた。

 最初は英雄と言われた。
 次は殺人鬼と言われた。
 最後には、怪物としか言われなくなった。

 実際は、そんなものでしかなかったのだ。
 英雄という幻想はどこにもなくて。
 殺し過ぎた私は、誰もが恐れ、誰もが蔑む怪物に成り果てた。
 けれど、それでも構わなかった。
 守りたいものを守り続けられる限り、私は何であろうとよかった。

 だが。
 やがて家族さえも、私を恐れて近寄らなくなった。
 守りたかったものに、二度と触れる事は叶わず。
 私の手は、もう殺す事しかできなくなっていた。

 いつか私も息絶える。
 だがその後で、歴史は私をどう呼ぶのだろうか。

 ――もしも歴史が、私を英雄と呼ぶのであれば。
 全ての英雄は、私と同じ孤独の果てに死んだのだろうか。
 ……だとすれば、せめて。素直に怪物と呼ばれた方がいい。

 何も知らない者に、軽々しく英雄などと呼ばれたくはない。

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最終更新:2010年10月17日 13:09