男と魔神
作者:wikiの人◆SlKc0xXkyI
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その男はとても貧乏で、今日の食事にも困るほどだった。
若い頃から博打にのめり込み、四十近くなった今では借金ばかりが増えている。
男の家は息苦しいほどに狭いアパートの一室で、家具は一つもない。昔はタンスやソファーもあったが、どれも借金を返すために、あるいは博打のために売ってしまったのだ。
もう生きていくのも難しいほどだったが、しかし男にはこの日、転機が訪れた。珍しく賭場で大勝した彼は、とある不思議な道具を、金の代わりに受け取ったのだ。
それは古びた本で、開くと魔神が現れて、なんでも欲しい物を持って来てくれるという。
酒に酔っていた彼は、すっかりその話を信じ込んでしまい、さあ魔神よ出て来いと、胸を躍らせながらアパートの一室で本を開いた。
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魔神「お呼びでしょうか、旦那様」
男「おお、これは驚いた。まさか本当に魔神がいるとは」
魔神「私は旦那様が命じれば、なんでも持って来る魔神でございます。
何か欲しい物はおありでしょうか?」
男「うむ、そうだな。まずは酒だ、とびっきり旨い酒を出してくれ」
魔神「かしこまりました、旦那様」
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魔神が指を振ったかと思えば、そこにはパッと魔法のように酒が現れた。
綺麗な琥珀色の、一目で高いと分かるような酒だった。
男「こいつはすごい! どれどれ、味の方はどうだ……?
む、旨い! こんなに旨い酒は、生まれて初めてだ!」
魔神「旦那様、他に何かありますでしょうか」
男「そうだな、次は食い物だ。
この酒にぴったりの、素晴らしい料理を出してくれ」
魔神「かしこまりました、旦那様」
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また魔神は指を振り、また同じようにパッと豪勢な料理が現れる。
見たこともない料理の数々に、男は無我夢中でむしゃぶりついた。
男「美味い、なんて美味いんだこいつは!
これはいい、お前がいれば俺の人生は最高だ!」
魔神「ありがとうございます、旦那様。
他に何か、欲しい物はありますか?」
男「酒と食い物は充分だ。次はやはり、金だろうな。
一生かかっても使い切れないような大金を出してくれ!」
魔神「かしこまりました、旦那様」
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またまた魔神が指を振ると、またまた同じようにパッと札束が現れる。
一億や十億ではすまない、とても数え切れない額の大金だ。
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しかしその大金と一緒に、どこからかパトカーのサイレンが聞こえるのだった。
男「? おい、魔神。近所で何かあったのか?」
魔神「いえいえ、これだけ大金を盗んだのですから、警察が来るのは当然です」
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男「盗んだ!? まさかお前、今まで全部盗んでいたのか!」
魔神「当たり前です。何もない場所から物を作るのは、神様の仕事ですから。
私のような魔神にできるのは、持って来ることだけでございます」
男「ちくしょう、騙された! 妙に話が上手いと思ったんだ!
おい魔神、この金だけでもすぐに返して来い!」
魔神「いいえ旦那様、それはできません」
男「何故だ!? お前なら簡単だろう!」
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男の剣幕にもうろたえず、魔神はニヤニヤしながらこう言った。
魔神「魔神の世界に、クーリングオフはないのですよ」
最終更新:2010年10月19日 04:38