作者:Elika
おや珍しい。こんな時間にお客さんかい?
ようこそ、名も無き店へ。
──いやいや、本当ですよ。見たでしょう?表の看板。
なにも書いてないのに、なぜかお客さんのような物好きが迷い込んでくるんですよ。
ここはね、見てのとおりアンティークショップなんです。
ただし、普通のアンティークショップじゃあないんですよ。
たとえばほら、このオルゴール。
持ち主に、大切にされていたんでしょうね──とても、いいものです。
ずっとずっと昔の話です。
さる貴族の娘さんが、身分違いの恋に落ちたんです。
庭師の息子さんとね。当然許される恋じゃない。
それでも、二人の思いは変わらず、ある日とうとう駆け落ちをした。
娘さんの父上はもちろん、血眼になって二人を探したそうですよ。
二人の間を引き裂くためにね。
若い二人がいつまでも逃げきれるわけもなく、ある日とうとう見つかってしまった。
そのとき、このオルゴールがひとりでに鳴り出したんだそうです。
優しい音色でしょう?とても。
それを聞いた父上は、愛し合う二人を引き裂くとはなんてばかげたことだ、と考えを変えて、二人の仲を認めてくれたんです。
このオルゴールは、人の気持ちを優しくしてくれる力がある──のかもしれませんね。
ここにあるものはすべて、そういった『記憶』を持っているものたちばかりです。
あのお人形も、あそこのティーカップも、すべてそういった不思議なものばかりですよ。
さぁ、どれでも好きなものを、お手にとってご覧ください。
私はここにおりますから、どうぞ、ごゆっくり。
最終更新:2010年10月21日 17:24