田邊由紀(たなべ ゆき 由紀) 姉
田邊順(たなべ じゅん 順) 弟 お姉ちゃん愛してる(肉欲的な意味で)
猪田桂太(いのだ けいた) 順のクラスメイト 頭の少し弱い子
佐藤隆一(さとう りゅういち) 順の友人 奇人
佐々木良子(ささき りょうこ) 隆一の彼女 奇人?


シーン1 弟とは、姉の奴隷となるべき存在であるのだ……

由紀01「うわー! もうこんな時間! うわっととととと……ぎゃあ!」
 (うわっとの前に二階でかけまわっているような音。ぎゃあ、の後にがっしゃーんていうSE)
順01「……お姉、大丈夫?」
由紀02「大丈夫じゃない! あと、どーして起こしてくれなかったのよぅ」
順02「どうしてって……いや、起こしたけど起きなかったんじゃん」
由紀03「えー、起こされた記憶がないー」
順03「そりゃ、ぐっすりだったからね。朝ご飯食べる?」
由紀04「え? あ、うん。……あー、でも、時間ギリギリかも。今から準備すると四十分ぐらい掛かるし」
順04「だから、もう少し早く起きられるようにしな、っていつも言ってるのに」
由紀05「うるさいなー! とりあえず、ジュンはご飯準備して!」
順05「はいはい。ご飯? パン?」
由紀06「パンー」(ばたばたと走っていく音)

順06「全く……変わらないなぁ」

順07「変わらないのは、僕らの関係もだ。ずっと、変わるはずのない関係。姉弟という、血に縛られた関係。――嗚呼、どうして僕らは姉弟に産まれたんだろう」

順08「目玉焼きを作りながら、そんなことを思う。最近ずっと考えていることだ。コレは抱いてはいけない感情なのだと誰かが言う。けれど、僕は、彼女を、姉である彼女を欲してしまう」

順09「できたよー!」
由紀07「んー! 置いといてー」

順10「家族愛とは明らかに違う。彼女を手に入れたい、僕だけのモノにしたいという熱。でも、其れを口にすることはない。抑えられない欲ではないし、何より……姉弟(兄妹)という、無条件に近くに居られるこの関係を、僕は手放したくないから」

順11「じゃあ、僕先に行くよー」
由紀08「えー!? 待ってよぉ! すぐご飯食べるから、一緒に行こうよー」
順12「お姉、学校別じゃん……」
由紀09「いや、ほら。ジュン、チャリ通だから途中まで乗せて貰おうかなーと」
順13「……はいはい。わかったよ。待ってるから早くしてね」
由紀10「はーい」

順14「それでも、熱は日々強くなる。今日だって、朝起こしたというのは嘘だ。あの寝顔を見た瞬間、理性を失いそうになって、僕は逃げた」
順15「どうすれば良いのだろう。代替を求めるにしても、彼女と同じ存在なんて居るはずがない。似たようなモノで発散しているつもりではあるけど……もしかしたら、其れが熱を増やしているのかも知れない」

由紀11「ごひほふはまへひは! ひほう!(ごちそうさまでした。いこう」
順16「ちゃんと飲み込んでよ……戻さないでよ?」
由紀12「らいじょーぶ」

(SE:自転車のベル)

順17「だーっくそぉ! 重い!」
由紀13「ぇえー!? うっそぉ! 太ったかな?」
順18「そんなに太ってない、けど……僕、もやし、だし! そもそも! 上り坂で! 二ケツは、キツイ!」
由紀14「がんばれ、男の子!」
順19「歩いた方が早い!」
由紀15「この先下りだからこっちの方が早いもーん」
順20「一旦降りるっていう選択肢はないの!?」
由紀16「絶対にNO!」

順21「降りろ降りろと口では言うけど、背に感じる彼女の体温は心地良くて。僕の要求通り、彼女が降りてしまえば寂しく感じるのだ」

順22「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」
由紀17「ほらほら、後少し後少し。来たー!」
順23「ぁー……朝から疲れる」
由紀18「お疲れお疲れ」
順24「なんか凄く棒読み臭いよー」
由紀19「気のせいよぉ……あ、此処で良いよ」
順25「ん」

(SE:自転車の止まる音 ブレーキ音?)

由紀20「それじゃ、また放課後ねー」
順26「迎えに来させる気か!」
由紀21「勿論! じゃあねー。 あ、ヨッシーおはよー!」
順27「はいはいわかりました……」

順28「お姉を見送り、僕は学校へと向かう。いつもの慣れた路なのに、ペダルが重く感じる……彼女が乗っていたとき以上に」



シーン2 休み時間の一コマ


順29「はぁ……どうしようかな」
桂太01「おっす、順。どした? なーに悩んでるんだよ。お前が悩んでるとキモイ」
順30「ああ、桂太か……ちょっとね。というか、キモイとか言うな脱糞野郎」
桂太02「やめて! その黒歴史引っ張ってこないで!」

桂太03「説明しよう。俺、猪田桂太は、一年生の文化祭の時、クラスでやった劇の主役を務めさせて頂いた訳だが……舞台上で緊張し過ぎて脱糞したのだ! って、なんで俺が説明するんだよ! 作者死ね!」

順31「お前がキモイ言うのが悪い……」
桂太04「悪かった。悪かったからもう言うのやめてよもう一年も其れで虐めるじゃない」
順32「気持ち悪い声出さないでよ!」
桂太05「ぐすん……」
順33「…………」
桂太06「わ、わかった。やめるから睨むな。お前の睨んだときの目つきは人殺せそうで恐い……で、何悩んでたんだ」
順34「ああ、うん。ちょっとね」
桂太07「だから、そのちょっとの内容を教えろと言ってるんだ」
順35「お前には言えない」
桂太08「何でさ?」
順36「口が軽いから」

桂太09「説明しよう。俺は脱糞事件の後、ちょっとした秘密を先輩から教えて貰ったんだが、その秘密は一週間後には全校生徒が知っていた……俺は勿論袋にされたけどな。……だから、どうして俺が説明するの!?」

桂太10「ぐっ……わかった。わかったよ! 俺じゃ力になれないって事か!」
順37「流石にお前に相談するのはねー……ばれたら色々と危うい悩みだから」
桂太11「ん~、そうか。わかった。それじゃ、俺は聞かない。聞いた奴に訊く」
順38「死ね」
桂太12「ひでぇ! まぁ、そういう重い悩みは、アレだ。隆一に相談しろよ」
順39「うん。初めからそのつもり」
桂太13「ですよねー……くっそぉ、俺もいつか頼られる男になってやる!」
順40「はいはい。まずはその口の軽さを何とかしようなー」
桂太14「なぁ! どうしたら口ってえっと……重く?で良いのか? 重くなるんだ?」
順41「硬い、ね。僕に訊かれても知らないよ。隆一に訊けば?」
桂太15「アイツなら確かに知ってそうだ。俺ちょっと訊いてくる!」
順42「行ってらっしゃい」


シーン3 妖しげな友達


順43「いつものように、隆一が居るはずの図書室の扉を開ける。いつでも同じ色の室内には活気がない。当然といえば当然。三年生以外の生徒が図書室なんかに来るはずがないのだ」
順44「扉を閉めれば、廊下の喧騒とは隔離された、静寂に満ちた異世界に変化する。その異世界の一角、窓際の机に隆一は居た」

順45「佐藤隆一。校内一の奇人と呼ばれる、僕の友人の一人。どうやら今日は佐々木さんと一緒ではないらしい。いつもべったりなのに珍しい事もあるものだ」

順46「隆一、今時間有る?」
隆一01「ああ、順か。無いと言えば無い。が、せっかく友人が来たんだ、話ぐらいは出来る。声のトーンは低めでな。といっても、私達しか居ないから声の大きさなど関係ないが」
順47「あれ、今日は先輩達居ないんだ」
隆一02「ああ。今日は登校日ではないからな……それで、何を相談したいのかな」
順48「うん。んっと……僕、恋をしてるんだ」
隆一03「ふむ。善い事ではないか。何か問題でも?」
順49「うん……その、引かないで欲しいんだけど、その相手が」
隆一04「ああ、その先は言わなくて善い。大体察しはついた。禁忌の恋、と言う訳か。以前から常々君達の関係は少し危ういと思っていたが、やはりか」
順50「察しが良くて助かるよ……僕は、どうすればいいかな?」
隆一05「ふむ。私個人としては告白して玉砕なり、一夜の思い出にして檻の中なり好きにすれば善いと思うのだが、其れでは相談にならないな……」
順51「フられること前提なんだ……」
隆一06「君だって、叶うとは思ってはおるまい? まぁ、彼方も君のことを好いていれば話は別だが。其れは有り得ないと言っても良いくらい低い可能性だろう」
順52「うん。わかってる。だから、どうしようかなって」
隆一07「其れを決めるのは君だよ。私に出来るのは選択肢を増やすこと。或いは減らすことだけだ」
順53「うん」
隆一08「君はどうしたい? "弟"として傍らに在りたいか、一人の男として結ばれたいか。前者なら、君は欲を抑え、何か他のモノで発散しながらこの先生きることになる。後者なら、色々と苦労するな。まぁそれも善いだろう」
順54「僕は……」

順55「僕は、本当はどうしたい? ただの一過性のモノでないと本当に言えるか?」

隆一09「悩んで悩んで、出た答えが、君の選択だ。焦らず、存分に悩むと善い」
順56「……うん」
隆一10「答えが出たら、また来ると善い。その時は、選択肢を用意しよう」
順57「ありがとう」
隆一11「礼を言われるほどの事はしていないよ。さて、そろそろ時間だ。気がつけば、長いこと話していたね。教室に戻ると善い。小五月蠅い教師に叱られる前にね。君の担任は説教が長すぎる」
順58「わかった。それじゃあ、答えが出たら、また」
隆一12「待っているよ。では、またな」

隆一13「さて……少し話過ぎかな? どう思う、良子」
良子01「別にあれぐらいでもいいんじゃない。たまには」
隆一14「そうか……」
良子02「ただ、私達のことは話さない方が良いかも。無駄な希望を与えてもね」
隆一15「そうだな。目先の幸福すら掴めなくなってしまう」
良子03「うん」

(SE:古びた扉の閉まる音)


シーン4 下校 決断


順59「僕は……どうしたいんだろう……?」
由紀22「ジューン! 遅いよー!」
順60「あ、ごめん……ちょっと考え事してて」
由紀23「考え事? まあ、別にいいけど。ほら、乗せて乗せて」
順61「う、うん」
由紀24「妙に聞き分けが善くて気持ち悪いなぁ……」
順62「乗っておいて酷いな。もう乗せてあげないよ?」
由紀25「えー! それは困るよ! ギリギリまで寝られない」
順63「自分で起きれらるようになってよ……」
由紀26「独り立ちしたらねー」
順64「絶対嘘だ……」

順65「こうやって、下らない話をするのが堪らなく好きで……でも、そうやって話している最中も熱は蠢く。欲しい、欲しいと……暴れ出そうとする」

由紀27「うーん、風が気持ち良い……」
順66「そうだね……」
由紀28「お、ほら、上り坂だよ」
順67「だから一旦降りてよ!」
由紀29「絶対にNO!……と言いたいところだけど、降りたげる」

順68「背に伝わる熱が離れていった。予想外のことに、僕は長いこと沈黙してしまう」

由紀30「何?」
順69「いや……お姉が降りるなんて珍しいなって。天変地異の前触れかな」
由紀31「明日は槍でも振る……わけないでしょ!」
順70「だってまず降りないじゃん! 今朝とか!」
由紀32「それは……ほら、今日一日色々あったのよ」
順71「そか。まぁ楽でいいんだけど」
由紀33「ほら、このアタシが歩くんだから急いで急いで」
順72「はいはい」


シーン5 告白

順73「家に帰ってから、精一杯考えた。僕の本当の気持ちを」

順74「そもそも、この熱は――想いはいつ芽生えたのだろう?」

由紀34「もう、馬鹿なんだから……ほら、起きれる?」

順75「忘れていた、遠い昔の記憶が甦る。それは、僕がまだ五歳の時。公園で遊んでいる最中、転んで膝を怪我したときの事」
順76「あの時感じたお姉の……由紀の手の温もりが、とても暖かくて……僕は、それを手放したくないって、誰にも渡したくないって思ったんだ」

順77「そうか……あの時からだったんだ」

順78「始まりはほんの些細な独占欲。兄妹に親を渡したくないと思う程度の物。いずれ消えてしまうはずだったもの。でも、その想いは僕の中で日々大きくなっていった」
順79「そして、其れは、今。恋心という形で成熟した……」

順80「やっぱり……僕は、お姉が好きだ」

順81「口にして、何故か安心する。暴れ出そうとする熱は、何処かに消えていた」

(SE:電話の音)

順82「あ、もしもし佐藤さんのお宅でしょうか? 夜分遅くにすいません」
良子04「あ、田邊君」
順83「あれ……佐々木さん? 電話間違えたかな……」
良子05「ううん、間違えてないよ。隆一に用?」
順84「ああ、うん、そうだけど……」
良子06「わかった」

(SE:保留音 適当に3和音の曲で)

隆一16「はい、もしもし」
順85「その……どうして佐々木さんが出たか、訊いても大丈夫?」
隆一17「今日は金曜日だろう? だから彼女が家に泊まりに来てもなんら不思議ではない、だろう?」

順86「なんとなく、その先は訊いてはいけない気がした」

順87「そっか……えっと、こんな時間に御免ね」
隆一18「何、構わないよ。それで、君はどうしたいんだい?」
順88「僕は……僕は、お姉に……由紀に一人の男として見て貰いたい」
隆一19「そうか。茨の道を行くのだね」
順89「うん。それでも、僕は由紀が好きだから」
隆一20「わかった。では、選択肢を掲示しよう。この中から選ぶのも、自分で選択肢を作るのも君の自由だ」
順90「うん。協力してくれて有り難う」
隆一21「どういたしまして。まず――」

(SE:場面転換)

隆一22「では、健闘を祈るよ。玉砕したら、パーティをしよう。盛大な奴をな」
順91「そのパーティが不要になるよう、がんばるよ」
隆一23「ああ。ではな」
順92「うん」

順93「心は決まった。後は、想いを伝えるだけだ。幸いまだ父も母も帰ってきていない。伝えるなら、今しかない」

順94「……行こう」


(SE:階段を下りる音 扉を開く音)

順95「お姉。大事な話があるんだ……」
由紀35「ん? 何ー?」
順96「その真剣に聞いて欲しいんだ」
由紀36「え……な、なに……。私のサイフからお金盗ったとか?」
順97「ううん。それだったら、どんなによかったか」
由紀37「なん……なの?」
順98「その……僕、ずっと前からお姉の事が……ううん、由紀さんの事が好きでした。姉弟ではなく、一人の男として。――付き合ってください」

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最終更新:2010年10月17日 10:22