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誘蛾の翅


男:蛾。
女:夜の蝶。


男01「彼女は夜の蝶。
   太陽とは無縁の街で、ネオンの光を浴びて輝く女。
   欲望の渦巻く街を、その身一つで生き抜いていた。
   そんな彼女が、俺にとっての太陽だった。
   彼女と一緒にいられたなら、他に何もいらないと思っていた。
   だから、俺は。
   しがないボーイの俺は、店の決まりを破って彼女に声をかけた。
   やがて俺達は付き合う事になり、将来を誓い合った。
   ――許される筈がないと、分かっていながら。
   だから俺達は、この関係が発覚する前に逃げようとした。
   逃げ切る事さえできれば幸せになれると、目の前の現実からも逃げ出した。
   なのに――ああ、なのに。
   現実から逃げ出したのは、俺だけだったのかもしれない。
   小さなアパートの中。手を掴む俺を、彼女は拒んでいた」

女01「逃げるなんて無理よ……! すぐに捕まる!
   私ならともかく、貴方は殺されるかもしれないのに!」
男02「だからって逃げずにはいられないだろう!?
   店の奴らに知られたら、結局おしまいだ!
   逃げないと俺達に未来はないんだよ!」
女02「貴方と一緒にしないで! 私には借金があるのよ……?
   それを返さないと、一生追いかけられる。
   自由も未来も、私には最初からないのよ!」
男03「だから逃げようと言って――」
女03「現実を見てよ!? どうやって逃げるつもりなの?
   お金もないのに、追われてる女をどうやって隠すの?
   夢見がちな事ばかり言わないで、私の事も考えてよ!」

男04「ああ――ああ、どうして彼女は俺を拒むのだろう。
   俺はただ、一緒に幸せになりたいと思っただけなのに。
   彼女もそれを望んでくれていると、信じていたのに。
   まるで、裏切られた気分。
   こんなにも愛しいのに、こんなにも憎い。
   もう後戻りはできないというのに――どうして、俺を拒むんだ。
   俺のものにならないというのなら……せめて、誰のものにもならないようにしよう。
   そして何よりも。二度と俺を、裏切る事のないように」

女04「な、何……? 何する気よ!?
   ひっ……! や、やめっ……ぁ、ぐぅ……!!」

男05「彼女は夜の蝶。その翅をもげば、もう輝きはしない。
   そして俺は蝶ではなく、蝶に憧れた一匹の蛾だ。
   その翅は、最初から輝いてなどいなかった。
   蝶の輝きに惹かれて、我を忘れてしまった愚かな男にすぎない。
   ……ああ、こんな事を考えている場合じゃなかった。
   早く、早く逃げなければ。
   追いかけて来る、何かが追いかけて来る。
   ソレに捕まったが最後、俺の翅までもがれてしまう。
   でも、どこへ? 逃げる場所なんてないのに?
   一緒に逃げようと思った彼女は、もういないのに?
   逃げて、意味があるのか?
   意味がないのなら――せめて最期は、自分の翅で。
   太陽とは無縁で、欲望の渦巻く街を飛ぼう。
   どうせ生きる意味もないのだから……。
   ――ネオンの星空へ、羽ばたこう」


終わり