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存在する、存在しない神



作者:浅葱


【存在する、存在しない神】

注:一人称・二人称は自由に変えてください。



 ようこそ。どこからこんなところに迷い込んできたのかしらないけれど、心から歓迎します。
ここは僕以外は誰一人いない聖域。そして僕は、神です。そう、この世界……いえ、この世全てを司ると
いう、神なのです。

 おや? ごく普通の人間にしか見えない、と? ……そうですよ。僕は、ただの人間です。あなたと
同じ、ね。ただし、ただの人間には御(ぎょ)しきれない、大いなる力を持たされてはいるのですが。

 ただの人間が神で、驚いたって? ふふ、僕も最初は驚きましたよ。これまでずっと祈りを捧げてきた、
偉大なる神が一人の人間に過ぎなかったなんて。あなたもきっと、あのときの僕と同じ気持ちでしょう。

 えっ、何もかも自分の思うがままの世界を創るのは楽しいだろう、だって? とんでもない。
さっきも言ったとおり、僕は大きな力を得ただけの、ただの人間ですよ。たった一人でこの世界の全てを
操るなんて、できるわけないんです。
——最初はね、僕もしようと思いました。世に蔓延(まんえん)する悪人を正し、救われない人々に手を
差し伸べ幸せにしてやろうとね。でも、さっきも言ったように、神たる僕はたった一人です。僕一人で
正せる悪人、救える人々の数には限りがあるのです。つまり、僕が下手に手を出そうとすると、僕の力が
及ぶ人と及ばざる人ができてしまって、不平等になるわけです。
神たる者、全ての人々に平等でなくてはいけません。しかし、この世の人々全てに働きかけるのは、僕一人
ではできっこありません。

……もう、わかりましたね。今の僕の仕事は、何人(なんぴと)にも手を出さず、毎日ただただ人々を
見守ることです。
つらいですよ。大きな力を持たされているのに、ただ見続けることしかできないというのは。
だってね、とんでもない悪人がいても天罰を下してもやれないし、僕に助けを求めてひたすら祈り続ける
人がいても助けてやれないんです。

そうです。悪人に罰があたらない、真面目な人が不幸のどん底にいる、なんで神様は見てくれないんだ、
なんて思うでしょう? あれはね、こういう訳だったんです。神は、いるのにいないんですよ。
驚きました? そうでしょうね、だって、これは神しか知りえないことですから。
そんなことを自分が知っていいのか、って? いやいや、あなたは知らなければならないのですよ。
……もっとも、僕が教えなくてもじきに知ることになるでしょうけれど。もう何千年もの間誰かと話が
できなかったせいで、長いことおしゃべりをしてしまいました。

 そろそろ帰りたいけれど、どうやって帰ったらいいかわからない? ごめんなさい。帰り道はあり
ません。僕も、できることならあなたを帰してあげたいんです。こんな思い、本当は誰にもさせたくない
ですから。だって僕、神だけど、心を持った一人の人間なんです。これから先、何百年か何千年、下手を
すれば何万年もこんな思いをしなければならない人がいると思うと、気の毒でなりませんから。

 もう、さすがに気付きましたよね。そうです。あなたが、次の神です。
ああ、そんな絶望に満ちた顔をしないでください。あなた一人をこの聖域に残して寿命を終えるのは、
僕だって心苦しいです。ですが、正直ほっとしています。ようやく、形だけの神として生きながらえること
をおしまいにできるのですから。

 さて、もう時間が来たようですね。ほら、僕の体、透け始めたでしょう? あなたの手助けをすること
も、話し相手になることもできないんですよ。残念ながら、ね。

では、この世界を頼みましたよ。新しい、神様。