作者:Elika


雪……。
もう、雪なんて降るんだ。
そう、だよね。寒いもんね。
冬なんて大嫌い。
いつも、冬だから。こういう時は、いつも冬だから。

 「はぁ……来たのはいいけど……あのバカ、まだ帰ってないじゃん……」

誰に言うわけでもなく、ため息混じりに冷たい鉄のドアを睨む。
若い──っていっても、5つしか違わないけどさ。
とにかく、若いから元気がいいっていうか……いるわけがないとは、思ってたけど。

 「寒……」

私、なにしてんだろ。
付き合ってるわけでもないのにさ。
だいたい年下なんて、頼りにならないもんだし。

……ううん、あの子は違う。

 「早く……帰っといでよぉ……」

雨に濡れた窓ガラス越しにみる風景みたいに────。
世界が、滲んでるや。

それは、ふいに降ってきた。
色と輪郭を失いかけた私の世界に、温度と柔らかさを持った声。

 「あ……ふぇっ……おかえ、りぃっ……」

気が付いたら私は、その声の主に飛び込んでいた。
降り始めた雪に少し濡れたコートが、頬に気持ちいい。

温もりに包まれた瞬間に、今日起きた事が鮮明に浮かび始めた。
うまく、言葉にできないのに──耳元に、優しい音が響く。

 「わた……私……っ……!!」

寒空の下、温もりが私を包む。
もしかしたら、ちょっと好きになれるかもしれないな。
冬も……年下も。

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最終更新:2010年10月22日 06:32