『麦茶の容れ物が欲しい』


 麦茶の容れ物が欲しい。
 ああ、理想的な容れ物が見つからない……!

 1リットルでは足りない。2リットルだと半端に余る。麦茶というものは無くなり次第補充とい
うわけにはいかないのだ。
 夜寝る前に仕込んで昼間に飲む。もしこのサイクルが崩れてしまったなら、次に麦茶が抽出さ
れるまでの4、5時間、我々はいったい何を飲めばいいというのだ?
暑がりな子どもたちは、きっとペットボトルのジュースを欲しがるだろう。1本98円。子どもたち
は安売りの定番商品を好まない。98円。50袋入り麦茶の2分の1から3分の1のお値段。それは、余
計な出費だ。
 従って、1.6リットル入り。これは譲れない。

 次に見るべきは奥行き。我が家の冷蔵庫のドアポケットは微妙に狭い。奥行き11cmは絶対条件
である。
 同時に取っ手の有り無し、そして取っ手の高さ。奥行きをクリアしても取っ手がドアポケット
にぶつかるようでは意味がない。しかしなるべくなら取っ手は欲しい。最大1.6キログラム、表面
に水滴の浮いた容れ物を子どもの握力で掴めるだろうか?いいや、あの子たちなら落とす。これ
もクリアするべき条件だ。

 そして素材。とりあえずガラスは論外だ。重い、固い、割れる。安全保障上看過できない問題
だ。
 ここはポリカーボネートかポリエチレンにするべきだろう。ポリカーボネートは透明で美しい
が、やや割れやすい。ポリエチレンは柔らかい素材だが、臭い、ダサい。まあガラス以外は致命
的な欠点とは言いがたいので、現物を見てからフレキシブルに判断することにしよう。

 あとはフタ。絶対に避けるべきはゴムパッキン入りの固い素材のものだ。ゴムパッキンはすぐ
に劣化する。あっという間に横からダダ漏れ床汚し器に早変わりだ。ゴムなんて台所から消え失
せてしまえばいいのに。
 フタは柔らかい素材に限る。それ自体が本体と密着してくれるものが良い。掃除の手間を考え
ると、それも広口で、フタを開ける仕組みがシンプルなものがベストだ。容れ物の内側にへばり
ついたティーバッグを誰が取り除くのか。誰がヌメリを擦り取るのか。だいたいダンナは家事に
無関心すぎる。自分は流しのタライに洗い物を突っ込めばそれで役割を果たしたとでも思ってい
るのか私が食洗機をねだっても素知らぬ顔で寝転がって家電芸人の最新デジカメレビューを物欲
しそうに見つめて私の手荒れあかぎれを気遣う様子もなくたまの休みはソファでゴロゴロダラダ
ラと……ええい、股間を掻くな!

 おっと、意識が明後日の方向に。さて、以上の条件で麦茶の容れ物を探すわけだが、これが案
外いいものに巡り会えない。100円ショップもスーパーもホームセンターも微妙に物足りない品物
ばかり。ああ、理想の容れ物が見つからない!
 ならば。明日はダンナの尻を蹴飛ばして、車で隣町の方まで行ってみようか。
 予算は525円。105円で買えるならなお良し。……ついでに、ランチ1000円くらいのレストラン
に入って家族みんなで楽しくお昼ご飯でも食べようかな。

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最終更新:2012年11月22日 15:04