喫茶 bivio

男:20代くらい。事故に遭った。
店:喫茶店の店員、と見せかけて死神さんっぽいなにか。男女どちらでもおk


(カラカラン 扉開)

男01「(呆然・困惑)……ここは……?」
店01「いらっしゃいませ、お一人様でしょうか」
男02「え?……あ、はい」
店02「こちらの席へどうぞ」

(扉閉)

店03「お水と……こちら、メニューです」
男03「……どうも。……ブレンド、で」
店04「畏まりました」

男04「……僕は、誰なんでしょう」
店05「……思い出せませんか」
男05「ええ。何もかも、ぼんやりとしていて」
(カップを置く音)
店06「お待たせいたしました、ブレンドコーヒーです」
男06「どうも……」
(一口飲む。ここから一口飲むごとに少しずつ意識がはっきりしていくイメージ)
店07「お仕事は何を?」
男07「……しがない営業ですよ、今日も客先回りで」
店08「そうでしたか、暑いのに大変ですね」
男08「仕事ですから。……この時期、普段ならアイスコーヒーなのに、
   なんか今は妙に涼しいです」
店09「空調が効きすぎているのでしょうか、すこし温度を上げますね」
男09「いえ、なんだか……からだの中から、冷たいような……」
店10「……風邪かも知れません、もう少しお飲みになるといい」
男10「ええ……」
(一口飲む 携帯鳴動※バイブでもよし)
店11「おや、携帯電話が鳴っていますよ」
男11「ああ、本当だ。……珍しいな、仕事中にメールだなんて」
店12「恋人ですか」
男12「ええ……(照れたように)結婚が決まってるんです」
店13「……見なくてもいいんですか」
男13「……急ぎだったら、電話でしょうし。まあ、後でゆっくり
   読んでみます」
店14「……そうですか」
(一口飲む)
店15「……今日は、どうしてこちらへ?」
男14「……客先回りをしていて、目に付いたから」
店16「普段は、そういうことはされませんね」
男15「え?……あれ、どうして俺……?」
店17「……無理に、思い出すことはありません。ゆっくりと、どうぞ」
男16「……はぁ……?」
店18「恋人は、どんな方ですか」
男17「ああ、いい子ですよ。優しくて、気配りのできる女性です」
店19「……それでしたら、今はさぞお幸せでしょうね」
男18「ええ!……でもどうしてだろう、なんだかひどく、申し訳ない
   ような気がします」
店20「……最後の一口を、お飲みになってください」
男19「……本当だ、もう無くなってしまうんですね」
店21「お飲みにならないのですか」
男20「……なんだか、怖くて」
店22「……もう、時間がありません。あなたは選ばなければならない」
男21「選ぶ……?」
店23「……いえ。さあ、飲んで」
(促されるまま、一口飲む)
男22「(何か重大なことを思い出したように)……え……?あ……おれは」
店24「(遮るように)あなたは選ぶことが出来ます。
   痛みも苦しみも何もなくただ快楽だけのある常世と、骨折れ
   肉ちぎれ苦しみばかりが待つうつし世と」
男23「……はは、あれだけの事故なら、後遺症は免れないでしょうね」
店25「選ぶのはあなた自身です」
男24「……メールを、見ても?」
店26「どうぞ」
(携帯を開く音)
男25「……そうですね、決めました」
店27「その答えを思い浮かべたまま、扉を通ってください。
   あなたの望む道に繋がるでしょう」

(カラカラン 扉開)

店28「ありがとうございました。
   願わくは、二度とお会いしませんことを」

(扉閉)

店29「当店は分かれ道。唐突で理不尽な死に見舞われたお客様を、
   お望みのまま導くのが務め。
   ……どうぞどなた様も、当店へはお出でになりませぬよう」
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最終更新:2012年07月25日 22:10